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14-14


「こいつ……!?」


「いや、そんな」


恐らくそこにいる者全員が同じ考えに行きついていたと思う。それでも認めたくないのか口にはしない。


「キイヤアアアァァ!!」


「うっ!」


またいきなり甲高い雄たけびを上げるマザー。これが感情を表しているのか、意思の疎通のためなのか。はたまた何かの合図なのか……それすらもわかっていない。


その時、ゆずからの射撃がまた着弾した。マザー本体にではなく、刀のような物体にだ。


(今の弾丸は試薬Sのカプセル、預かってたの忘れてた。あとついでにその刀みたいなのの強度もどれくらいかと思って撃ってみた)


インカムでゆずがそう言ってきた。

本人も肋骨折れてるかひびが入ってるかしている状況で、ちょっと試してみたという行動はどうかと思うが、それだけの意味はあった。

試薬Sは喰代博士が作った抗生物質で、獅童の腕から抽出した感染物質を培養して作成されている。マザー本体からの物と比べると効果は弱いが、それでも感染・発症を約一日は抑えることができる。さらに副次的効果もあった。


空気中で感染物質に触れると熱も持ちながら取り込む性質がある。つまりどうなるのかというと……


弾丸が着弾した部分から煙のようなものが上がり、しゅうしゅうと音を発している。これはその場所、この場合刀は感染物質を含んでいる事を表している。

正直博士から聞かされた時はだからなに?と思った物だが……


「つまり……あの刀に斬られると……?」


完全に引いた表情で伊織が聞いてみた。


「ああ、感染する。」


「最悪じゃねえか……」


伊織に答えるカナタと、天を仰ぐスバル。状況は悪い方向に転がってとどまる所を知らない。


全員、まともに斬られてこそいないが、刀を避けるのに必死で地面を転がり周り、擦り傷と泥汚れに塗れている。酷使した肉体は激しく酸素を求めていて、いくら早く呼吸をしてもなかなか落ち着いてくれない。

この上にあの勢いで振り回す刀にかするだけで感染してしまうという事が分かった。いや、わかってしまった……


嫌が応にも士気は落ち込んできている。


カナタはそんな周りの仲間たちの姿を見て、さすがにまずいと歯噛みする。士気の低下は動きを悪くさせる。

おそらく一人倒れてしまえば一気に崩れてしまうだろう。そんな事を考えている時だった。さらに状況を悪くさせる物が飛び込んでくる。


(みんな逃げて!)


インカムからゆずの悲鳴に近い声が聞こえた。どうしたのかと聞き返す前に地面をたたくような地響きを感じたカナタは、声の限り叫んだ。


「みんな力一杯跳べぇ~!」


そう叫び、横にいた伊織の首根っこを掴んで思い切り跳んだ。それと同時にものすごい破壊音が響いて、地面に着く前に衝撃が襲って来て、空中にいたまま吹き飛ばされた。


幸い、落下した先が柔らかい田んぼだったのでダメージはないが、吹き飛ばされたせいか息をするのもきつい。投げ出された伊織は咳き込んでいる。


それまで立っていた場所を見ると、ものすごい土煙に包まれて立つマザーとその前に鼻息荒く地面を書いている四本足の化け物がいた。


「ぶふう、ぶふう……」


まるでイノシシのように顔の中央がつぶれてしまっているが、もとは人であったことをうかがわせる顔の造りをしている。両肩の筋肉が異常に肥大化しているのと、四本足で走っている事を除けばマザーよりは人間らしさを残しているといえる。その軽トラックに近い大きさを除けば……

ゆずが見たという、突撃する四本足の感染者が右手で地面を搔いていた。


「くそ……次から次と。」


愚痴りながら、何とか刀を杖にして立ち上がる。まだなんとか動ける。


「皆無事か!」


そして声を張り上げると、あちこちから声が返って来た。無事とは言い難い有様だったが……


そして、今も激しく咳き込んでいる伊織に手を貸して立ち上がらせる。つらいのは分かるがこうしていてもやられるだけなのは明白なのだ。


「ええい!」


気合の入った声が聞こえ、満身創痍ながらそれでも鋭い踏み込みでヒナタが斬りつける。踏み込みと同時に振りぬく桜花の黒い太刀筋がマザーに吸い込まれる。


「ギシャアアァァッ!」


キイィン!


斬った。そう確信できるほどの鋭い斬りこみだったが、マザーは手に持つ大小の刀を二本とも使ってその攻撃をはじいた。

甲高い音を立てて弾かれたヒナタの攻撃は、深く踏み込んでいたために弾かれて態勢を崩してしまっていた。しかし、マザーは追い打ちを仕掛けてくることはなかった、むしろわずかに間合いを空けたほどだ。


「よほど痛い思いをしたんですねぇ。腰が引けてますよぉ?」


その行動を隙と見て、同じくぼろぼろになりながらも一気に間合いを詰めた白蓮が両手に持った短刀で斬りつけた。

しかし、白蓮の攻撃は脅威と見ていないのかマザーは斬られながらも刀を振り回して、さすがの白蓮も攻め切ることができない。


「悔しいですが、効果が薄いですねぇ」


大振りに振り回すマザーの刀を避けるために後退を余儀なくされる。


その横で四つ足の感染者は、鼻息を荒くして突撃するそぶりを見せている。その視線の先には未だフラフラしている伊織がいる。


「くっ、伊織来るぞ!」


カナタがそう声をかけると、返事はするものの動きは鈍い。脳震盪でもおこしているのか膝に力が入らない様子だ。


「姉さん!」


そんな伊織を見て詩織が悲鳴をあげるが、伊織が立ち直るよりも早く四つ足が走り出した。


カナタがカバーに入ろうと動き出すが、四つ足の機動力は見た目とは違ってかなり高かった。走り出したと思ったらも伊織の目の前にいる。


「まずい……伊織、動け!」


カナタが叫ぶが届いてはいない。


「うおおりゃあ!」


しかしそんな伊織の前に立ちはだかった者がいた。伊織の前に立ったダイゴは雄たけびを上げて四つ足を殴りつけた。持っているカーボネイトの盾で。


ダイゴの渾身の一撃で横っ面を殴られた四つ足は、頭がぶれて見えるほどの勢いで進路もずれてそのまま進むと足をもつれさせて倒れてしまった。

お返しなのか、四つ足の感染者がふらつくほどの一撃を入れたカーボネイトの盾には大きなひびが入り、ダイゴが振りぬいた姿勢のまま割れてしまった。


四つ足の感染者はしばらく頭を振っていたが、ダメージを与えて来たダイゴを脅威と見たか、単に恨みを持ったか……定かではないがじっと見つめている。ダイゴの方もけん制しながら相対していると、スバルがそれを援護するべくダイゴの横に立ち、支給刀を抜いて構えている。


丁度四つ足とマザーとで挟まれた感じの十一番隊と、藤堂姉妹。控えめに見ても絶体絶命のピンチである。

マザーは未だふらついている伊織を獲物と定めたのか、持っている刀を振りかぶった。


「姉さん!」



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