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14-13

走っていくヒナタ達を見送ったカナタは、周りを見た。スバルとダイゴはじっとカナタを見ている。ゆずは黙ってライフルのスコープと時計を見ているし、藤堂姉妹はヒナタが走って行った方を心配げに見ていた。


「よし、ゆずはここで支援だ。だが無茶はするなよ?できるだけ撃たない方向でな。」


「ん。でもそれは相手次第。」


「そう言うと思ったよ」


想像していた答えにカナタはため息をつく。しかしけして譲ることはないだろう。


「……伊織たちはここで、ゆずの補助を……」


「私はもう少し接近してかく乱くらいはできます。というかそれくらいしかできることが無いので」


「ウチもそうや。この銃はチビの銃ほどの威力はない。弱いとこ狙う腕もない。ほんなら効果がある所まで近寄るだけや。それに……アンタらは自分らが因縁があるみたいにゆうけど、そもそもここに来ることになったのはウチらが原因や。そんなウチらが黙って見とく訳にはいかんのや。見とき!№3の二番隊の底力を」


こちらも言って聞く様子ではなさそうだ。それなら、この期に及んで言う事はない。危険だからとか言う段階はとっくに過ぎているのだ。


「よし、俺たちも前進するぞ。狙いはマザーのかく乱。隙を見つけたら全力で撤退だ!死中に活をみいだせ!」


「「おお!」」


カナタの激に答え、それぞれが崖を滑っていく。カナタは最後にゆずに手を上げて親指を立てるとその後に続いた。


気合は十分。以前よりはマザーに対しての情報も持ってる。いきなり遭遇戦となった前回とは違うはずだ。少なくともカナタはそう考えていた。

しかし、マザーの前にはそれすらも甘い考えだったと言わざるを得なかった。


目の前ではすでにヒナタと白蓮さんが激しく斬りかかっている。あれほど言ったのに約束の時間が過ぎた瞬間発砲しだしたゆずの射撃が、二人の斬撃の合間を縫ってマザーに突き刺さっている。


桜花と梅雪は変わらず効果があるようで、消えない傷を増やしていっている。白蓮さんの攻撃は傷こそすぐに修復されるが、どうも標的を自分の方に向けさせるのが目的の様だ。桜花や梅雪の攻撃を受け、意識がそちらに向こうとすると手を出して、的を絞らせないようにしている。さらにその合間にゆずに射撃が叩きこまれるのだ。


「これ……もしかしたらいけるんじゃね?」


ちらほらと集まりだした感染者達を捌きながらスバルが期待した声で言った。確かにそう思ってもいいのかもしれない。

しかしどうにも引っかかるのだ。今だ繋がったままの嚢腫格の触手となによりマザーの薄ら笑いが張り付いたままという事が。


「キイヤアアアァァ!」


次の瞬間マザーが大きく雄たけびを上げた。白蓮さんとヒナタも警戒して大きく下がっている。


マザーは周りを取り囲む俺たちをゆっくりと睥睨するとその表情をゆがめた。


「っ!こいつ……笑ってやがる」


さっきまでの貼り付けたような薄ら笑いとは違う、はっきりとした笑い。にやあっと口角を上げて……


そんなマザーの側頭部にゆずの銃弾が当たり、激しく頭を揺らす。その笑顔にイラついたのだろう。その様子が目に浮かぶようだ。


「!ヒナタさん、また大振りが来ますよ!」


黙って様子を見ていた白蓮の警告の声が飛んだ。マザーの攻撃方法はシンプルだ。鋭く硬い爪を有した腕を振り回す、掴もうとする、両手を大きく振り回す。だいたいこの三種類に分けられる。もっと接近すれば他の感染者のように噛みつきが加わるくらいだろう。


その中で白蓮から大振りが来ると警告があり、「ハイ!」と返事をすると同時に範囲から飛び退いたヒナタが次の瞬間には自分の目を疑う事になる。

白蓮の言う通り大振りの攻撃が来たまではよかった。そのあとにこれまでと違う行動に出た。片腕を嚢腫格の中に突っ込んだのだ。


体液を飛び散らせ、ブヨブヨと蠕動をしている嚢腫格。

そして油断なく真正面から見つめていたカナタだけが一瞬だけ早くそれを目にした。


「跳べぇっ!」


そう叫ぶのがやっとだった。マザーは嚢腫格から引き抜いた腕を、そのままの勢いで振り払った。自分を中心に円を描くように、これまでの大振りの攻撃と同じように。ただ、リーチは倍以上になっていたが……


なんとかカナタの叫びに反応できた事が幸いして、ぎりぎりだったが躱すことができた。その腕には、刀のようなものが握られていた……

それは素直に刀と呼ぶにはあまりに武骨な見た目をしている。おそらく骨でできていると思われる。ただし巨大だ。カナタ達より倍ぐらい大きいマザーが持っても、さらに大きく見えるくらいだ。


地面に転がりながら一瞬目を疑ったほどだ。


「今更武装とは、これまでは手を抜いていたということですか。やってくれますね」


そう言って歯噛みする白蓮に向かって、マザーはもっている刀を一振りした。


「くっ!」


その意外な早さに、白蓮は躱すのが遅れたのか短刀を交差して受け流そうとする。が、受け流しきれずに弾き飛ばされた。


「白蓮さん!」


叫んで近寄ろうとするヒナタに手を上げて止めた白蓮に斬られた様子はない。なんとか飛ばされただけで済んだようだ。


「んだよ……あのデカさで、あの速さ。俺はよけきれる自信はねえぞ……」


スバルがポツリとこぼした。微かに膝が震えているのがカナタからも分かる。無理もない、自分にも無理だ。単純な力による暴威。技も小細工もない。

それだけに恐ろしい。


何度目か、マザーがニタリと笑う。


「その憎たらしい笑い顔は見飽きたっちゅうねん!」


そう叫んで、伊織がライフルを連射する。10mと離れていない所からマガジン一つ分を撃ちきった。そして全弾を顔面に命中させた。しかし遠距離からたった一発、へカートの弾が当たった時ほどのけぞりもしない。


「くっそ、あかんか。」


悔しそうに伊織が呟くのと、着弾した場所の煙が晴れるのと同時にマザーの刀が恐るべき速さで突き出された。狙いは今攻撃してきた伊織だ。


「ちっ!」


その攻撃に何とか反応できたのは隣にいたカナタだけだった。弾くことはとても無理だ。逸らすしかない。瞬時にそう判断し、伊織を狙う刀に自分の刀を添えて逸らそうとする。


が、


「重っ!こん……のおっ!」


ほんの少し進路をずらそうとするのに、渾身の力を籠める必要があったが、なんとか反応できずに立ち尽くしている伊織の横を刀は通り抜けて地面を穿った。


「伊織、刀の範囲内から出るんだ。次はできるか分からない!」


「くそおお!」


叫びながらも後退する伊織を支援するかのように、ヒナタや白蓮はそれぞれの場所から斬りつけ、さらにゆずからの援護射撃も飛んでくる。


マザーはヒナタの攻撃は避けようとする。ゆずの射撃はノックバックを嫌い、白蓮の攻撃は鬱陶しそうにするだけだ。


「やっぱり、桜花と梅雪の比重が重すぎる。」


常に一歩後ろでマザーの動きを注意してみていたカナタはそう独り言ちた。

ヒナタの攻撃は受けないようにしているが、その分標的になる確率も高い。今もマザーの袈裟切りを何とか逸らし、ヒナタは後ろに飛び退いている。


白蓮などは常にマザーに寄り添うようにして攻撃を加えているが、マザーが白蓮を攻撃することはほとんどない。


理解している……どの攻撃が自分に対して脅威なのかを……

その証拠に、マザーは再度嚢腫格に手を突っ込む。そして引き抜いた時にその手には短い刀のようなものが握られていた。


そして構える。どことなく……ヒナタに似ていた。


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