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14-8

「分かりました。302ですね。向かいます」


カナタが短く返事するとすぐに移動の合図を出す。付近を確認しながら前進を再開したカナタ達に、インカムをしていない藤堂姉妹は状況も分からず着いていくしかない。


「ちょ、どうなってんの?狙われてんのやろ?あのおねーさんがどうにかしたの?一人で?」


歩きながら矢継ぎ早に質問してくる伊織に、ゆずが答える。


「白蓮はすごいから。」


「え、どーゆう事?」


伊織を見て、力を込めて言ったがいまいち説明にはなっていない。ゆずにまだ慣れていない伊織には、その言葉から前後の脈絡を読むと言う芸当ができるはずもなく、思わずそう聞き返してしまう。


しかし聞き返すとゆずは、あからさまに面倒そうな顔をするのだ。


「え、何?私が悪いの?」


自分を指さしながらぼやいているうちに目的のマンションに着いてしまった。


「三階の二号室だ。他の部屋にも誰かいる可能性がある、気をつけろよ」


そう言ってさっさと階段を昇り始めるカナタにゆずも後に続いていく。説明なしの放置に頬を膨らませながら伊織も階段を昇りはじめた。



「どうぞ~、あ、靴はそのままでいいのでぇ上がってください」


玄関を開けると、まるで自分の部屋に招いたかのように白蓮が出迎えた。中に入ると短めの廊下があり、トイレや洗面所、風呂が並んでいる。

廊下の突き当りにドアがあり、そこを開けるとロープでぐるぐるに縛られた小太りの男がガムテープで口をふさがれた状態で床に転がされていた。ベランダからはカナタ達が通っていた道がまっすぐに見えていて、そこにライフルが据えてあった。


「ドラグノフ!めずらしい」


すぐさまゆずが興味を持ってライフルの所に行って仔細に眺め出す。伊織と詩織もライフルに興味があるのか、一緒に行って三人並んで眺めている状態だ。少しは打ち解けたのかな?とそれをみてカナタは安堵するのだった。


「もう日も暮れますしぃ、今日はここで朝をまってもいいのかなぁと思いまして~。家主さんも快く承諾していただけましたし~」


にこやかに白蓮は言うが、その家主とやらはガチガチに拘束されて床に転がされている。快くは思っていないのは確かだ。


「まあ、白蓮さんの言う事には賛成だな。今後の話もあるからここを使わせてもらおうか。いろいろと物資も豊富なようだし。」


と、周りを見ながらカナタは言った。

これまでの戦利品だろうか、色んな種類のバッグやらリュックやらそこら中に置いてある。必要なものだけ取り出したのだろう、中身が入っているが口はあけたまま乱雑に放り出してある。


中身をのぞき込んでいると、モゴモゴ言いながら家主さんが何やら言いたげにしているが、白蓮が気にしなくていいと言うので気にしない事にした。

ざっと見た限り、食料は取り出して自分の周りに置いて、弾薬は無造作にライフルの横に積んである。弾の種類が多種あるのは、どれが使えるか分からずに回収だけしてきたのだろう。


とりあえず使わせてもらう礼を言って、家主さんにはベランダでゆっくりくつろいで頂くことに。激しく身をよじってモガモガ言っていたが、お構いなくとだけ言ってベランダのドアをぴしゃりと閉める。


台所には、どこかで回収してきたのか小ぶりのガスボンベまで置いてあり、ガスコンロが使えるのだ。しかも……


「おい、ここ水道がでるぞ!」


スバルが何気なくハンドルを上げると、水栓から水が出ている。少なくとも見た限りはきれいな水に見える。


「ああ、こういうマンションは屋上に貯水タンクがあって、一度そこに水を溜めて各部屋に行くようになってるんだよ。公共水道はもうだめだろうから、そのままでは飲める品質じゃないと思うけど煮沸すれば飲用もできるんじゃないかな」


カナタが水がでる仕組みを説明する。高校に入ってからの夏休みに、水道設備の会社にアルバイトに行った経験が生きていた。

ここの家主もわざわざガスボンベを調達していたところをみると同じことを考えていたのかもしれない。


とりあえず朝まではここで過ごすので、それぞれが思い思いの場所に座りゆっくりしだした。

ふと見ると、家主が使っていたライフルの所で、藤堂姉妹にゆずが何か教えている。それを見る限りもう大丈夫かなとカナタは思った。いくらよその部隊とは言え、一緒に行動する以上息が合わないというのは死活問題だ。会ったばかりの頃のゆずと伊織は強く反目しあっていた。


それではいざという時に協調できない。最悪足を引っ張り合って、両方命をおとすということだって十分に考えられるのだから……


安心して見ていると何かあったのか、ゆずと伊織がまた言い合いを始めた。しかしそれは会ったばかり程のとげは感じられなかった。



「なんだよ、それ。持っていくのか?」


言い合いをしながらもライフルと弾薬をまとめはじめたので、そう聞いてみた。


「ん。これは伊織が使う。このガサツな女に繊細な狙撃ができるかは疑問。でも本人がやると言ってる」


ゆずがそう言うとそれを睨みながら伊織が自分のバッグに弾薬などをしまっていく。多分狙撃についてゆずに教えてもらったのだろう、ゆずの言葉に言い返しはしなかった。


「私はこれといった得意な物がないからな。いろいろやってみるしかないねん」


そう言いながら、どこか思いつめた表情をしている。どこまで関わっていいか悩むが、貴重なゆずの友人をだと考えると、自然とカナタは伊織に話しかけていた。


「なあ、結局どうするつもりだったんだ?素直に一緒に№1まで同行するつもりはなかったんだろ?」


カナタがストレートに訊ねると、ハッとした顔になり、伊織も詩織も気まずそうに俯いた。


それをみていたゆずは黙ってカナタを見詰めている。だいたい言いたいことはわかるつもりだ。ゆずに微笑みかけると伊織たちの正面に座った。


「高速のインター付近で襲ってきたのは№3の奴らだろ?そしてお前たちもその辺りで俺たちに何か仕掛けようとしてたはずだ。違うか?」


あまり攻めるような口調にならないように気を付けながらそう聞いてみると、うつむいたまましばらく黙っていたがやがて小さくだが頷いた。


「……あんたらに恨みはないんやけど、こっちも必死やってん……今の№3は佐久間のやりたい放題になってる。オヤジが苦労してまとめた都市をぐちゃぐちゃにしてしまいよる。それでも佐久間にも功績があるから誰も強く言えへんねん。武器を生産しようと言い出して実行したのはあいつやからな。今も工場なんかはあいつが一手に握ってる。」


悔しそうな顔をして伊織は語った。確かに今の世の中、武器は重要だ。その武器を握っているのであれば№3どころか、他の都市でさえ強くは言えないだろう。


「それをいいことに、我が物顔で振舞い始めた佐久間がオヤジを追い落としてトップになっとる。その佐久間が今度目を付けたのが……」


「感染者か」


「なんや、知っとったん。最初は、ワクチンを作り出して№3どころか№都市を全部支配するつもりやったみたいや。でも途中から変わっていった。生きている人をわざと感染させたり、発症していない人を解剖したりめちゃめちゃやりだした。さすがに周りから反対されると、どこかほかの所から実験体として生存者を捕まえてくるようになった。この頃から、佐久間はどこからか凄腕の集団を連れてきてますます好き勝手やりだしたんや。もう佐久間をどうにかするには、ぐうの音もでんぐらい大きな功績をあげるしかない。」


「功績っていうと?」


無意識だろうか、こぶしを握りしめながら話した伊織にそう聞き返すと、ここまで話してもなお言いにくそうな様子をみせた。

それでも黙って待っていると、観念したのか視線を落として話した。


「マザー。今、どこの都市でも一番の価値がある。マザーを倒す。できなくてもアンタらみたいに一部でも持って帰れたら……って」

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