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14-5

「いつまでもこんなとこで何しとんの。4号の婆さんをどうにかすんのが目的やのに見失っとるやん」


心底呆れた顔をして夏芽と呼ばれた少女は喜田を見下ろす。


「藤堂の娘ら使って失敗しましたぁ。は通じんで」


「い、いやそんな事は……ぜったい婆さんと例の薬は手に入れてくる。そ、そう伝えて……」


緊張しているのか、噛みながら言う喜田をますます蔑んだ目で夏芽は見る。


「は、ダッサ」


そう言うと、興味を失ったように立ち上がり、チラリと後ろを見た。そしてもうどうでもよさそうに髪をいじりながら言った。


「いいけど、おっさんら急がんと。アレ、もうすぐそこまできとるで」


そう言って夏芽が差した先には感染者のうち二人ほど走ってきている。二類感染者が混じっていたようだ。


「あかん!おまえら、進め!感染者に生きたまま齧られたくなかったら進んであいつら捕まえろ!いくぞ」


走ってくる感染者の姿に恐怖しながら、手下にそう言うと自ら先に立って走り出した。

いつもと違う様子の喜田に戸惑い、顔を見合わせながら手下もそれを追いかけていく。中にはチラチラち夏芽の方を見る者もいるが、夏芽はもはやなんの興味もなさそうに手鏡を出して髪を整えている。


そこにいた喜田の手下たちが全員行ってしまってから、ゆっくりと夏芽は立ち上がった。そして喜田たちが進んでいった方を見ると、小さく鼻をならし乗っていた放置車両の上から飛び降りた。

少し先にはもう感染者が走り寄ってきているのだが、夏芽の興味は感染者達よりも錆びた放置車両に座っていたことで、汚れてしまった服の方にあるようで、しきりに汚れを払っている。


「おー、お疲れさん」


夏芽はそこまできた感染者をまったく気にすることなくそう言って歩いて行き、感染者の方も自分たちの方に歩いてくる夏芽を見ても、襲い掛かりもしない。

それどころか、まるで見えていないかのように夏芽の横を走り抜けてしまった。


二体の感染者が通り過ぎた後、その方を振り返った夏芽は一人呟いた。


「そうそう。何も考えんと噛みついたらいいねん。アンタらの方が喜田とかいうおっさんよかよっぽど使えるわ」


夏芽はまるで感染者に話しかけるような口ぶりで言った。もちろんそれに対して感染者が何か反応するわけではない。

夏芽のほうも別に求めているわけではないようで、そのまま歩き去って行った。


もしこの場に喰代博士がいたら大騒ぎしていた事だろう。感染者が、生きた人間がいるにもかかわらず襲い掛からないどころか興味も示さずに行ってしまったのだから……




「ど、どういうこっちゃ……はあはあ、あいつら、どこ、いったんや」


喜田にしてみれば被害覚悟で突っ込んだつもりだったが、予想に反して相手からのリアクションが無く、おかしいと思い始めた頃には、カナタ達がいた所まで来ていた。

しかしどこにもいないのだ。全員で放置車両の影なども探したがどこにもいない。


「どこにもいませんぜ。あいつら逃げたんじゃ」


「あほう、見てみい!どこに逃げんねん」


逃げたのではと言い出す手下に喜田は先の方の道路を指した。高速道路であっても、フェンスがあったりカーブが多かったりしたら見通しも悪くなるだろうが、ここはとても見通しが言い。

なんなら次のインターの降り口まで遠目に見えるくらいだ。一応双眼鏡なども使って見てみるが、ここから先見える範囲の道路上に動く物は見当たらない。


「なんやねん……あの夏芽といい、気味悪い奴らばっかや……」


「兄貴、さっきの女はナニモンで?べつにたいしたモンでもなさそうでしたが……」


 その場に立ち尽くした喜田が呟いていると、手下の一人がそんな事を聞いてきた。喜田は話すのも嫌そうだったが、一度夏芽がいるであろう方角を確認した後、声を潜めて話し出した。


「いいか、お前ら。あの女には関わるな、碌な事にならんで。ワシも詳しいことは知らんのや。ただあの女は感染者に襲われへん。なんでかは知らん。佐久間はんとこでワシが初めて見た時はあの女、近くにおった感染者捕まえてデコピンしながらケタケタ笑うとったわ。あんなんが他にもいるらしいねん。そら藤堂のオヤジから佐久間はんに寝返るわ。あんな気色悪い奴ら敵に回したくないわ」


喜田はそう言うと、さっきまで走った事で暑くて汗をかいていたのに、今は逆に身震いしている。


そんな喜田を見て、話を聞いても手下たちは半信半疑の様子だったが、喜田はそれでいいと思った。知らないほうがしあわせな世界もある。

佐久間は藤堂に替わり代表になってからずっと感染者に対しての研究を続けさせている。なかには喜田ですらおぞましく思うような物もあった。喜田も何回も感染者を捕まえてきたりしたが、時には生存者を捕まえて来いと言う命令もあった。わざと感染させて過程を研究するとかで……


「くそ、あそこで失敗しなかったらこんな事してねえのに……」


喜田はもともと佐久間から直接指示があって動くくらいの立場にいた。感染者を捕まえると気味悪い危険な指示もあったが、その分メリットも多かった。

ある時、喜田は生きた人間を感染させて過程を調べたいから、感染していないなるべく元気な奴を捕まえて来るよう指示を受けた。

できれば子供がいいと言う。


いつものようにあちこちにいる手下にそれを伝えた。数日後、捕まえたと連絡があり喜田がそこに向かうと、手下は全員殺され、捕まえた子供もいなかった。誰かが邪魔したうえに逃がしたか連れて行ったかしたのだろう。

結局その失敗がもとで、今はこうして現場を駆けずり回らないといけなくなってしまった。


何の因果か、その子供というのは花音であり、邪魔したのはさっきまで交戦していたカナタ達なのだが、そんな事を喜田が知る由はない。


「とにかく探すぞ。移動していれば見えるから、どこかに隠れているはずだ。」


そう言うと、喜田たちは放置車両を確認しながら高速道路を東に向かって進んでいった。


しかし、喜田もその手下も探しているのが人であったためか、見落としていた。放置車両に結んでロープが道路の外に垂らしてあるのを。

インターに近い事もあり、ここは高架道路である。下には普通の道路が伸びている。喜田たちは、高速道路上を移動するかどこかに隠れるか。この二つしか想像できなかったが、下に降りると言う手もあったのである。



時は少し戻る。


「はあ!?なんであたしがこのチビと!詩織とでいいやん!」


「こっちこそ願い下げ。息が合わないと落下の危険性もある。カナタ君再考を求める」


二人してカナタに詰め寄っていた。その周りでは全員がハーネスのついた装備を着用している。その十分ほど前……



「このまま逃げても高速道路の上じゃ遠くからでもしっかり見える。頑張ってあいつらを倒しても、後ろに感染者の集団。それならもう方法は一つしかない。」


そう言うとカナタは高速道路の端まで行き、下を指す。


「飛び降りるとか無理やん、何、死にたいなら一人で死んでくれる?」


にべもない伊織の言葉に苦笑いしながらカナタは話を続けた。


「誰が飛び降りるか!十一番隊は多芸なのが売りでな。ダイゴ、頼む。」


「わかった」


ダイゴはカナタの言いたいことを察したようで、リヤカーから荷物を引っ張り出してきた。


「全員これを着用。ここは高架道路で、ここの下には一般道路が通っている。うまい具合にちょうど足の所だからバンジーはしないで済む」


ダイゴが出してきたのはハーネスのついた装具とロープ、何種類かのカラビナだ。要するにラベリングして下の道に降りようということだ。

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