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14-3

喜田という男とのやりとりをこれまで黙って見ていたカナタの耳にある人物の声が飛び込んできた。いや、正確に言えばカナタだけではない。十一番隊のほぼ全員の耳にというべきだろう。


(そいつらはもともとウチの傘下だった奴らです。佐久間が叛意を明らかにした時、真っ先に寝返ったくそ野郎どもでさ。だいぶオヤジの世話になっておきながら言う事は聞かねえ奴らだったんで、こうなっても不思議はねえんですが……ここまで堂々とツラ出してくるたぁ……ふざけてやがる」


藤堂姉妹と別れ、№3に帰ったと思わせておいた真城たちはこっそりと着いてきていた。高速を進むカナタ達に合わせるように下道を通ってきた真城たちは、先回りして何かあるならここだとふんでいた美馬インター付近で隠れていたのだが、先に来ていた喜田たちが待ち伏せしているのに気づくと、カナタ達に伝えていたのだ。すでに後方まで調べてこれ以上の伏兵はいない事も調べて伝えてある。


真城の連絡を受けたカナタ達はすこし予定とは違ったが、まるで待ち構えたように武器を構える。

銃にしろ刀にしろ、携行している時は安全性を考えられている。銃ならセーフティをかけるし、どうかしたらマガジンを外していたりすることもある。刀も誤って抜けないように袋にいれたり、紐で結んだりする。


しかし今回は、完全な奇襲のはずなのに、いつでも戦える状態で武器を携行していたのですぐにも

応戦できる状態なのだ。


それを見た喜田の手下たちは思っていたのと違うのか、一瞬怯んだ様子を見せた。そこに轟音が鳴り響いた。


そこにいる全員が驚き耳を塞いだり、姿勢を低くしたりするなか、喜田の隣に立っていた男の上半身がなくなっていた。

一気に静まり返り、全員が見つめる先で腰から下だけで立っていた男がゆっくりと倒れた。


「ひいぃ!な、何だ!誰だ」


「なんやこれ、聞いてへんぞ!田代はチョッキも着とったやろが!」


突然の事に恐慌をきたしたように騒ぎ始める手下たち、いまだ呆然としてさっきまで隣に立っていた男だった物を見つめる喜田。


それを冷めた目で見ながら、カナタはリヤカーに歩み寄る。


「それ使うことないだろ。オーバーキルすぎるぞ。こんな距離で使うもんじゃねえな。」


予想以上の威力に呆れを見せながらゆずに話しかけている。ゆずは白蓮に隠れるようにしながら、銃身をリヤカーの縁に置き発砲していた。


「す、すごい威力だな……銃とはおもえねえ」


冷や汗を浮かべながらスバルも銃身の先から一筋の煙を上げているへカートを見る。よく見ると、本来地面に置くためのバイポットを畳んだままリヤカーの縁に引っ掛けている。


「これで反動を少なくしたのか。考えたな」


カナタがそう声をかけるが、ゆずは射撃姿勢のまま動かない。


「?。おい、どうしたゆず。どっか打ったか?」


そう言ってゆずの肩に手をかけると初めてゆずはカナタを見た。その目はこれまでにないほど輝いている。


「すごい……これはいい物。思っていたより反動も少ないし、大きさもなんとか問題ない。今度は長距離で狙撃をしてみたい!」


ゆずは襲撃をされている最中だと言うのに、まるでそんなものは眼中にないと言わんばかりの様子だ。余韻を楽しむように、ゆっくりとボルトハンドルを引くと、キンという澄んだ音と共に、バカげた大きさの薬きょうが飛び出した。


喜田とその手下、そして藤堂姉妹は呆然とした様子でそれを見ていた。


「ちょ……ちょっと何だよそれ、聞いてないぞ!あんたが使うのはM14のはず。んだよ、そのバカみたいなライフルは!」


一番最初に正気に戻った伊織はツバを飛ばしながらゆずに近寄ってきた。


「悪いけど、今の段階であなたは信用できる状態にない。近寄ると撃つ」


興奮して近寄ろうとする伊織に、素早く抜いたハンドガンを向けるゆず。それを見て我に返ったように、警戒して詩織の前に伊織は戻った。


「な、なんだよ。敵はあっちだろ!私が……何だって言うんだ!」


やや怯んだ様子を見せたが、虚勢を張って伊織はそう言った。


「勘違いしないで欲しい、敵だとは言っていない。ただあなたもここで何かやろうとしていたはず。違う?」


伊織は、あくまで冷静に言うゆずに言葉を返せない。ただ黙って見つめているが、その様子が肯定をあらわしている。


(伊織お嬢の手下は先にここで待ち伏せしてたみたいですが、喜田にやられちまったようです。向こうで身ぐるみ剥がされた死体が何体か転がってました。)


インカムから付近の様子を調べた真城の声が聞こえる。インカムをしていない藤堂姉妹には聞こえないはずだが、カナタ達の様子から何かを察したようだ。


「そうか……真城のやつ……」


そう言うと、歯を食いしばり黙ってしまった。


「あくまでアンタらの事を心配しての事だ。悪くとってやるなよ。まあ、それよりもだ」


そう言うとカナタは喜田たちの方に向き直る。さっきまで余裕すら見せていたのに、今ではすっかり二の足を踏んでしまっている。なにしろすぐそこにあるリヤカーからへカートが狙っているのだ。喜田の横にいた田代とかいう男はどうも防弾チョッキも着ていたようだが、それごと撃ち抜いただけにとどまらず体を真っ二つにしてしまったのだから。ある意味苦痛を感じる暇もなく死ねるので、感染者にやられるよりかはましかもしれない。


「おい、て、手前ら何ボヤっとしてやがる!そんなもん何発も撃てる分けねえだろうが、距離をつめればこっちのモンだ。行けっ!」


最初に再起動したのは喜田で、手下たちに進むように命令している。それに対し手下たちは足が重い。狙われないようにか無駄に横移動をしながら少しづつ距離を詰めてくるのだ。

それを見ると、喜田は顔を真っ赤にして何か怒鳴っている。


「う、うおおっ!」


そんな中、一人の手下が雄たけびを上げながら突進しだした。勇壮な……というよりも恐怖にかられてそうしたように見えるが、スバルが支給刀を抜き、ダイゴも盾を構える。


「おおっがっ!」


しかし辿り着くことなく、喉から矢を生やしてあおむけに倒れ込んでしまった。


射たのは……視線が集まった先にはアーチェリーの弓を持って詩織が立っていた。

その顔に迷いのようなものは見られない。敵対しているとはいえ、生きている人間の、しかも急所である喉を射抜いて顔色一つ変えない所を見ると、おとなしそうに見えても覚悟は済んでいるのかもしれない。


「そこのあなた。ゆずさんっていったっけ。それはもう使わないで。そんなバカでかい音を出していたら感染者が寄ってくる。サイレンサー?とかないの?」


そして次の矢をつがえて油断なく周りを見てからゆずにそう言ってきた。


「サプレッサーはない。先端の四角いマズルブレーキがあるから取付負荷。でも大丈夫もう使わない。弾がもったいないから」


あえて周りに聞こえるような声でゆずがそう言った瞬間、何人かの男が顔色を変えた。


それはそうだろう、お前らにこの銃を使うのはもったいないとそう言っているのだから。さすがに黙っていられななかったようだ。


「くそ、撃て撃て!ふざけやがって、撃ち殺して奪い取るぞ」


手下たちの誰かがそう言うと、我に返ったように一斉に撃ちだしてきた。カナタ達はもちろん、リヤカー組も飛び降りて近くにある放置車両の影に隠れる。


「そや、頭数はこっちが多いんや。撃って撃って動けんようにしてまえ!こんな近距離でスナイパーライフルなんぞ持ち出しよって……撃ちまくってあんなもん使わすなや」


何人かが撃ちだすと、思い出したように他の者も撃ち始め、喜田もそれをあおる。ゆずは車両の影でのんびりと汚れをふき取りながら丁寧にへカートをバッグにしまっている。


「おいチビ!そんなん後でやれや!今は応戦せんかい!」


数は向こうが多い。一斉に撃たれると身動きがとりづらい。そんな中で大事にライフルをしまっているゆずを見た伊織は苛立たし気に怒鳴っている。


「はん?おい、そこのガラの悪い女。チビとは私の事?こんな時に喧嘩を売ってくるなんていい度胸。でも非常識。恥を知れ」


「あ~ん?誰がガラの悪いって?悪かったな、生まれた時からこうなんでな!そんなんやっとるから言われんのやろが!非常識はどっちじゃ!」


「おまえら、弾丸の雨ん中喧嘩すんな!」


放置車両に当たる銃弾の音が響く中でも言い合うゆずと伊織に、カナタが半分あきれ顔で言うが、二人は睨みあったままだ。


「頼むよ。俺、最近健康診断でストレス性の胃炎だって言われてんだから。心安らかに過ごさせてくれよ」


銃弾の雨あられの中で言うセリフではないと思うが、そんなカナタの言葉など聞こえていないのか、今にも噛みつきそうな顔で睨みあっている。


「はあ……もういい。」


一旦放置を決め込んで、敵の方に集中する。全員うまい具合に放置車両を盾にして銃弾をしのいでいる。相手の方も冷静さを取り戻してきたのか、弾切れでマガジンを入れ替える時はお互いにカバーしあうくらいには慣れているようだ。


こうまで派手な撃ち合いになると刀を抜いて走っていくわけにもいかないので、カナタやヒナタはあまり役に立てない。十一番隊で唯一の射撃手であるゆずは絶賛睨みあいの真っ最中である。


こっちで応戦出来ているのはスバルとダイゴだけだ。二人ともほとんど使わないが、支給品でサイドアームとして所持はしていた。スバルはハンドガン、ダイゴはショットガンを撃ち返している。


「……少しづつ押されてるか?」


後方で全体を見ていたカナタが呟いた。

そもそも数が違う上に、向こうは車から車へ移動しながら少しづつ距離を縮めてきているが、こちらは後にも先にも動けず足止めされている状態だ。移動するどころか迂闊に頭を上げる事もできない。


それらを見て、カナタは呟いた。




「あれ?もしかして……これってまずくないか?」

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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