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14-2

休日投稿でございます!

「……すいません、オヤジが捕まっちまってからお嬢も荒れてるんです。無理もないんです。佐久間はオヤジの下でそれなりに信頼される立場でした。伊織お嬢も古い考えしかできねえオヤジを新しいやり方を取り入れて支えていた佐久間をかなり信頼していたみたいでしたから」


「捕まった?」


話の中に聞き逃せない言葉があった。穏やかではない言葉に聞き返したゆずは眉を寄せている。


「あ、これでお願いします」


真城が口の前に人差し指を立てたジェスチャーをしてから、幾分声を潜めて話を続けた。


「公にはできねえんで。オヤジは今佐久間に捕らわれてます。公には病気の療養のために佐久間が用意した別荘にいる事になってますが、実際は軟禁されてるんです。だからお嬢も表立って逆らった行動ができずに。荒れるばかりで……この話は№3でもわずかな人間しか知りません。傍目にはいい協力関係を築いているようにみせてますから」


№3がそんな事になっていたとは思ってもいなかったカナタ達は驚きすぎて声も出なくなっていた。少なくとも№4には問題なく運営できているような情報しか流れて来ていない。特に松柴さんも何も言っていなかった所を見ると、この話は掴んでいなかったんだろう。


「でも、それだけ徹底的に秘匿されているような情報をなぜここで俺たちに?」


できる事なら聞きたくなかったと思ってはいても言えなかった。しかしこのままでは間違いなくトラブルに巻き込まれるだろう。


「……お願いがあるんです。実は……」


さらに声を潜めた真城は、さらに厄介な事をカナタ達に話した。なぜ№3が動向を申し出たのか、なぜ藤堂姉妹の二番隊がやってきたのか。


断り切れる雰囲気ではなかったので、とりあえず真城の願いは了承した。しかし、何かやろうとするたびに何かしらのトラブルやハプニングに巻き込まれてきたカナタは、そろそろ本気でお払いに行かないといけないかもしれないと半ば本気で思うのだった。




「わあ、これいいですね!№3にも欲しいなぁ!」


ダイゴが引くリヤカーに乗って、楽しそうな声を上げているのは藤堂詩織だ。あれから都市を出発して、高速道路を西に向かって進んでいる。

ヒナタの案で作ったらしいが、最初は使い物にならなそうだったのを松柴さんが資材を提供してくれて使えるようになったとカナタは聞いている。


リヤカーを二つか三つ分くっつけてあるそうで、幅は3mくらいあり足回りも自動車の部品を流用しているみたいでがっしりしている。サスペンションも効いているらしく、段差にも強いし静粛性も高い。

最初はそれぞれの荷物を載せて引いていたのだが、ダイゴが何か細工をしていて実験したいというので、今は五人ほどリヤカーに乗っている。カナタ達男性組は徒歩でリヤカーの速度に合わせて歩いている。


男性組といったも、真城達№3から来た者達は藤堂姉妹を残して帰路に就いた。やる事がありすぎて人手が足りないのだそうだ。帰るまでに「お嬢さんをおねがいします!」と何度頭を下げられたかわからない。


「楽々引いてるけど、重くないのか?」


ダイゴと並んで歩いているスバルが、リヤカーとダイゴを見て聞いた。


「うん、ぜんぜん。むしろまだ乗ってもいいくらいだよ。大成功だったみたいだ。」


ダイゴはスバルにそう返し、荷台に乗って楽しそうな声を上げている女子たちを見て満足げに笑った。リヤカーの荷台にはみんなの荷物に加え、ヒナタとゆず、白蓮さんと藤堂姉妹が乗っている。乗っているのが女子ばかりとは言え、それなりに重さがあるはずだ。

しかしダイゴは自動車の部品を流用して、限られた力を増幅して伝えられるような仕組みを作ってしまっていた。

ダイゴ曰く、簡易的なCVTらしい。


「うおっ!ほんとに楽だ!なんだこれ、勢いついたら逆に押される。どうなってんだよ」


試しに交代して引いてみたスバルが驚いて、荷台の下なんかをのぞき込んでいる。


「すごいですね、彼こういう才能もあるんですね」


カナタと並んで歩いている喰代も感心したように見ている。昔からDIYなど物づくりが趣味とは知っていたが、ここまでとはカナタも思っていなかった。


表面上はいつものように和気あいあいと騒ぎながら、高速道路を進んでいく。時間が経つにつれて、パニック時にそのままにされた放置車両も錆びて朽ちていき、中にはもう原型を無くしてしまっている物もあるが、そういう放置車両は早い時期に中を調べ、使えそうな物を回収し端に寄せてある。

その中にはかつて欲しいと憧れていた高級車なんかもあり、それを見ていると物悲しい気持ちになるものだ。


「さて、どう出るかな?」


さっきまでダイゴとたわいもない事で騒いでいたスバルが、いつの間にかカナタの横に来ていた。その顔にはいくらか緊張が窺える。ダイゴも今は無言で歩きながらも、周囲に目を配り突発的な出来事に備えている。


まもなく以前美浜集落に行ったときに降りた美馬インターだ。ここを過ぎると美浜集落の方に行くにはかなり遠回りになってしまう。

おそらく、仕掛けるならこのあたりだろう。そう思いカナタは目で合図をするとダイゴとスバルは小さく頷いた。リヤカーの上も見ると、ヒナタが藤堂詩織と何か談笑しており、伊織はしきりに辺りを見回していた。

白蓮がさりげなくいい位置に座っていて、見ているカナタに気づくとにっこりとほほ笑んで見せた。


そのまま一行が進んで、インターまであと〇〇kmの看板が見えて来た頃に事態は動き出した。



「止まれ!おーし、全員そのままじゃ。変な事せんだったら殺しはせん」


端に寄せておいてある放置車両の影から複数の人影が躍り出て来た。全員が何かしらの銃器で武装していて、すでにこちらに照準を合わせている。その数は意外と多く、二十人ほどいるようだ。


「何者だ!」


カナタが一応聞いてみたが、襲撃者は答えるつもりはなさそうだ。薄ら笑いを浮かべたまま、まるで品定めをするような目でこっちを見ている。

リヤカーではいつの間にか詩織をかばうようにして伊織が立っていて、ゆずやヒナタは白蓮がカバーしている。

突然の襲撃にも関わらず、誰一人取り乱すことなく動けるのはこれまでにくぐった修羅場の数ゆえか。


「あん?話より数が多いっすね。男は面倒だから殺していいっすね。女どもは……なかなかいいみたいですよ。あいつらは生かして連れて帰らないといけないすけど、他の女はいい金になりそうっすよ」


止まれと言ってきた男の横で軽薄そうな小男が舌なめずりをしながらそう言った。どうやらこいつらの狙いは藤堂姉妹のようだ。

真城から聞いた話では、伊織が何か企んでいると聞いていたから警戒していたのだ。まさかこう来るとは思ってなかったが……


「て、手前ら!どこのモンだ!どうしてここに……」


突然立ち上がった伊織が、怒りに任せて叫んだ。それを見て襲撃者たちはニヤニヤとするばかりで、誰一人答えようとはしない。


「何とか言いやがれ!」


リヤカーのふちに足をかけて、今にも飛び掛かりそうな伊織を詩織が必死に引っ張っている。様子を見るに伊織の企みは目の前の襲撃者たちに邪魔をされたみたいだ。

ムキになって叫ぶ伊織を見て笑っていた襲撃者たちだったが、最初に声をかけて来た男が「おい、マツ」と言うとさっきの軽薄そうな男が返事をして車の影に姿を消し、すぐに戻ってきた。


「!?」


マツと呼ばれた男は傷だらけの男を引きずってくると、見えやすい所に転がし、わざわざその上に座った。


「てめえ!」


伊織はそれを見て飛び出そうとするが、詩織がなんとかそうさせないようにしている。


「いい時代になったもんだな、お嬢さんよ。まさか藤堂さんもこうなるとは思わなかっただろうなぁ。」


最初の男が煙草に火を点けながら言った。やはり№3の人間の様だ。


「……!、そうか、てめえ、見た事あるぞ。うちの子会社の一つの……」


男を見ていた伊織が何か思い出したようだ。すると、その男はそれを聞いて、にたぁ~っと笑う。生理的に嫌悪感を感じる笑みを浮かべた男はそのまま面白そうに話し出した。


「おや、覚えていてくれたんですかい。ああそうさ、アンタのオヤジのせいでちっとお勤めに行ってた喜田だよ。ウチみてえなちっぽけな組が生き残るのに必死にやってりゃ、アンタのオヤジはまっとうにやれだの、クスリに手を出すなだの……ずいぶんと締め付けられたもんだが、今となっちゃどうだ。かわいい娘は見せモンにされ、今度セリにかけられるそうじゃねえか。本人は明日も生きてるかどうかって話だぁ。義理だ人情だ、今時そんなもん何の役にも立たねえって事がようくわかったろうよ。気分は悪かねえが、今までのお返しにゃちと足らねえ。って事でよ。おとなしくさらわれろや。傷がついたら価値が下がるからなぁ。お嬢さんたちも痛い目は見たくねえだろ?お?」


喜田と名乗った男はそこまで語ると、手下に合図を出した。

それをみた手下たちがじりじりと迫ってくる。まずは伊織たちを捕まえるつもりのようだ。伊織は悔しさのためか歯を食いしばり顔を紅潮させて、隣で恐怖に震えている詩織の肩を抱いて近づく男たちを睨みつけている。


そんなやりとりを黙って見ていた、カナタの耳にある人物のが飛び込んできた。


読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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