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14-1 藤堂姉妹

「№3の守備隊第二番隊、隊長の藤堂詩織です。今回はよろしくお願いします。」


「同じく、藤堂伊織だよ。よろしく~」



ここは№4の庁舎前。出発の日になって集合すると見慣れない者が数人立っていた。№3から来た二番隊の者だ。カナタ達が近づくのに気づくと、さっと走り寄って深々とお辞儀をしてきた。

しかし、カナタはすぐに返事を返せなかった。目の前に立っていたのはカナタ達と同年代くらいの女の子で、しかも双子。

さらに、その格好が目を引いた。


まるで、かつてのアイドルのステージ衣装のような華やかでフリフリがたくさんついている服を着ていた。さらに容姿もアイドル並みとくればなおさらだ。カナタの周りの女性には美形が多いが、それらとはまた違う美しさだった。


これにはカナタやスバルが一瞬呆けても仕方ないのかもしれない。なにしろ道行く人も足を止め、遠巻きに人だかりができるくらいなのだから。


慣れているのか、そんな周りの様子を全く気にすることもなく立っている双子の女の子は、詩織と名乗ったほうが隊長らしい。腰まで届きそうな長い髪を後ろに流し、礼儀正しい所作をしている。現役のアイドルですと言っても十分通じる顔には傷一つなく、柔らかく微笑んでいるが、どことなく芯の強さを漂わせている。それらは派手な衣装にもまったく負けていない。


一方、隣に立つ伊織と名乗った方の子も、詩織とはジャンルが違う輝きを放っている。明るい茶色の髪の毛は短めに切ってあり、活動的な印象を受ける。おしとやかなイメージの詩織と比べこちらは活発で気が強そうな雰囲気を持っている。

立ち姿も芯が通ったようにまっすぐきれいな姿勢で立つ詩織と違い、両手を頭の後ろで組んでつまらなそうな顔をしている。

それでいて付近への警戒は気を抜いていない。


顔は瓜二つながら、どちらも強い個性を放っているのだが、極端に違う方向性が幸いしてぶつからずに棲み分けを可能にしているようだ。


想像のはるか上をいく者の登場に呆気にとられたカナタが言葉を返せないでいると、伊織が小さく舌打ちをして近寄ってくると、いきなりカナタの襟をつかんだ。


「なにジロジロ見てんだぁ?詩織が挨拶してんだろがコラ!」


「え、え?」


「もう姉さん!黙ってるって約束でしょ?ごめんなさい、姉は父方で育って、その……ああいう人ばっかりいる環境だったんでちょっとだけ乱暴な言葉使いと振る舞いをすることもあるかもしれませんが、根はやさしいんです」


かわいいと見とれていた女の子に、いきなり襟首掴まれて啖呵をきられたカナタがドギマギしていると、慌てて詩織が仲裁に入った。

伊織は舌打ちしてカナタを解放すると、少し離れたところから睨みつけている。もちろん地面につばを吐くのも忘れていない。


謝りながらカナタの洋服の乱れをなおして何度も頭を下げる詩織に、文句も言えずにただ愛想笑いをする事しかできなかったカナタだった。

伊織の勢いに押されたのもあるが、なにより伊織の後ろにいる数人のお兄さんが尋常ならざる雰囲気を放っていたからだ。


その目が詩織や伊織に何かしようものなら、ただではすまねえぞ。と語っていた……



なんとかその場が落ち着いて、詩織たちは松柴さん達と行程の最終確認などをしている。その少し離れた場所で集まっている十一番隊では、もう疲れが見えていた。



すでに、カナタが啖呵を切られた瞬間、即座にハンドガンを抜いたゆずを抑えるのにダイゴとスバルが一苦労していたし、その横で冷静に殺気を放ったヒナタの前には只者じゃない雰囲気の男が立ちふさがり、こちらは言葉はないが無言で殺気のぶつけ合いに発展していた。間に入った白蓮がうまくとりなしたようだが、出会って五分でこれだ。これから何日も一緒に行動するのに何事もなく済むはずがない。


今も、ゆずとヒナタはむっつりと黙り込んでいるし、ダイゴとスバルは疲れて座り込んでいる。その隣でカナタは頭を抱え込んでいた。


そうしている所に、近寄ってくる男がいた。今度は逆に白蓮がその男の前に立つ。


「何か御用でも?これ以上の揉め事はぁ、お互いのためにならないと思いますよ~?」


相変わらずのんびりした口調とにこやかな表情ながら、いつもより雰囲気が硬い。白蓮も思う所はあるようだ。


やって来たのは、先ほどヒナタの前に立ちふさがった壮年の男だった。


「もちろんです、ウチとしても揉めるつもりはないんですが、なにしろ伊織お嬢は誰にも止められないもんで……少しお話しても?」


その男は真城(マシロ)と名乗った。


「すでにお気づきとは思いますが、ウチも色んなモン抱え込んでまして……これから一緒に動く相手に何も言わないでいるってのも何かと失礼だし、トラブルになりますんで……」


真城はそう前置きして話し出した。


「細かい事は抜いてザックリと言います。今、山城建設……いや№3は乗っ取りをうけております。その相手は今ぬけぬけと代表を名乗っていやがる佐久間って奴です。オヤジ……山城建設の社長は昔堅気のところがありますが、付き合いを大切にしてこれまでやってきました。でも、世の中の流れといいますか、ウチみたいな時代遅れのやり方じゃ仕事も取れなくなってきて……特にオヤジは俺らみたいなクズを拾って、食っていけるくらいまで育ててくれていたんで……風当たりも強くて。」


男は悔しそうに語った。その事は資料にもあったので、カナタ達も把握している。山城建設の社長はそう言った人たちを受け入れてやる、いい意味での「親分」だったんだろう。ただ、世間的にそういう人たちへの対応は厳しい。暴対法などの整備もあってやり辛くなっていたんだろう。


「それでもオヤジは言ってました。それでもいいじゃねえか、昔からの付き合いで入ってくる仕事はある。数は減ってきているが、俺やお前たちが細々とやっていければいい。表に出るような奴らじゃねえんだ。ちょうどいいじゃねえか。って……。俺らもそんなオヤジについていければよかったんです。頂いた仕事を俺らが精いっぱい頑張れば、ほんの少しだがオヤジに贅沢をさせてやれる。それでよかったんですが……。あの佐久間って男は、もともとウチの末端の会社の代表でした。やり手である事は間違いありません。ただ、あいつはオヤジが体調を崩した時に手伝う振りをしてウチの仕事先を全部奪っていきやがった。その上で、ウチに対して合併の申し入れをしてきた。聞こえはましですが、実質は吸収です。世話になった恩を忘れて、ウチがもってる……オヤジが築いてきたものだけ奪うつもりで。」


いつの間にか、全員が無言で話を聞いていた。それほど感情をこめて話しているわけではない。むしろ淡々と事実を述べているといった話し方ですらある。それでも聞き入ってしまうのは、この真城という男が心から悔しいと思っているのがどこか伝わってくるからなのだろうか。


「もちろん俺たちは反対しました。俺たちを切ればまだまだやり直せる力はあったんです。むしろこれまでの恩を考えれば無給で働いても良かったんです。でもオヤジはそれをしなかった。しまいには勝手に出て行こうとした俺らをぶん殴って、言いました。社員達を満足させてやれねえ社長なんざクソの役にもたたねえんだよ!社員を満足させてやって初めてその社員は人様の満足できる仕事ができるんだ。それをやれねえんなら、おれぁ組をたたむ!と」

 

「結局、オヤジは佐久間の話を飲みました。名前に影響力がある山城建設の名前と俺ら社員は残りましたが、そのためにオヤジは全てを失いました。二年前のリゾート施設建設の仕事もオヤジの名前で請ける事が出来たようなもんです。ですが佐久間はまるで自分がやったかのように今も代表の座に座ってます。」


「……その佐久間さんに復讐をしたいという事ですかぁ?」


急所をえぐるような言葉を白蓮は表情を変えずに言った。あまりに直接的な言い方に、真城も聞いていたカナタ達もドキッとして顔を上げる。


「……いや、それは筋が違いますし、オヤジも望んでません。俺らが望むのは、贅沢はしなくてもいいから穏やかな暮らしをオヤジ達にさせてやりたいんです。オヤジは最近病に倒れた事もあって、名目上は佐久間にすべて譲って隠居したことになってます。オヤジもそのつもりでしたが、まだその名前に影響力があるうちは佐久間は使い倒す気なんです。あそこにいる二人の娘はオヤジの実の子ですが、母親はすでに亡くなっています。上の伊織お嬢はオヤジの元で育ちましたが、下の詩織お嬢は前妻が引き取って、離れた所で何も知らずに育っていたのを佐久間が見つけて連れてきました。ごっついオヤジからどう間違ったものか、あんなきれいなお嬢さんに育っちまって。その美しさに目をつけて、アイドルなんかやらせて稼がせるつもりなんです。詩織お嬢も実の父が病に倒れて、佐久間の手の中にあるんで断れなかったんです」


「ずいぶんおしゃべりじゃないか、真城」


話に聞き入ってしまい、いつの間にか近寄って来ていた事に誰も気づかなかった。

そこには、伊織が立っていて冷たい目で真城を見ていた。


「伊織お嬢!これは……」


「まあ、いいさ。別に嘘を言ってるわけじゃないしね。ただ言っとくよ!余計な手出しはすんな。何も知らない他人が余計な事に首を突っ込むんじゃないよ!オヤジはアタシが救い出す。そのために、こんなとこまで来たんだ……」


まるでこの世のすべてが憎いと言わんばかりの目で、辺りを睨みつけると伊織はそう言うと、さっさと踵を返して去って行った。

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