13-11
「ふ~ふふん、ふふ~ん」
鼻歌交じりにスキップでも踏みそうなゆずを呆れた顔でヒナタは見つめている。
ゆずは大事そうに銃の入ったケースを抱いている。全長で1m以上あるライフルだったが、少しだけ短く折りたためるので、ケースに入れてなんとかゆずが持てる長さになっている。
「ねえ、ゆずちゃん。そっち余裕そうだね。こっちも持ってよぉ」
足取り軽くとうとうステップを踏み出したゆずに、たまらなくなってヒナタは泣きついた。銃本体は13kgちょっとあるのだが、今のゆずには何てことない重さの様だし、ヒナタが持っているのはその銃用の弾丸なのだ。
直径約13mm、長さは約100mmあるデカい弾が銃と一緒に三箱預けてあった。ひと箱に24発入っているそうで重い事この上ないのだ。それと空のマガジンが5個。これが屋敷というハルカの先輩が預けていた全部だった。
最後まで抵抗がありそうな顔でへカートⅡをゆずに渡した唐司は、なるべく急いでM14を修理して返せるようにすると言っていた。きっとそこにいる全員が早めにお願いしますと思った事だろう。
「あ、ごめんごめん」
機嫌よくそう言ったゆずは、ケースを開けるとヒナタの持つバッグを開けてひょいひょいと弾丸の箱を二つ、自分の荷物に何とか詰め込むとそれを持って歩き出した。あまりにもご機嫌だと重さも軽減されるらしい。
しかし、遠征などの作戦行動において重さは大事なポイントだ。以前と違い、自動車なども使えない今は移動するのは徒歩だし、荷物は自分で抱えて歩かなければならない。
水や食料などは余分目に持っていきたいところだが、他の道具や武器、弾薬の類もある。何をどれだけ持っていくかの話し合いはいつも紛糾する。
今日はこのまま管理部で食料や遠征に必要な備品を申請して、面会できれば松柴さんに会って、№3二番隊の情報を集める予定だ。
しかしヒナタはほとんど誰にも言っていないが、ある試みをしようとしていた。
庁舎の入り口にある時計を見たヒナタはちょっと慌てた声を出した。
「思ってたより遅くなっちゃったなぁ。帰ってないよね」
そう言ったヒナタの言葉を黙って付いてきている花音が拾った。珍しく付いていきたいと言い出した花音にどうするか悩んだが、気分転換にもなっていいかと思い同行を許している。おとなしいし、あらかじめダメだと言われた事などは絶対にしない。とても手のかからない、いい子なのだ。
「ね、ゆずちゃん、花音ちゃん。ちょっとだけ寄り道してもいいかなぁ。すぐ近くだから」
ヒナタがそう言うと、二人とも少し意外そうな顔をしたが了承してくれた。
「ヒナタが予定以外の事をするのは珍しい。どうした?」
やはり気になったのか、ヒナタの後に続きながらゆずがそう聞いてきた。普段はともかく、隊の行動時には一番きっちり動くのがヒナタだからだ。それは戦闘以外の補給とかの時も例外ではない。
「ふふ。ちょっとね?きっとゆずちゃんも気に入るとおもうんだぁ。」
前を行くヒナタはゆずの問いに、少しだけ振り返ると楽しそうにそう言った。花音と顔を見合わせて、お互いに首をかしげながらヒナタの後についていくのだった。
「こ、これは……」
目的地についてそれを見たゆずと花音は一瞬言葉を失った。おそらく少し前から準備をしていたのだろう。少しづつ寄せ集めた、そんな形跡があった。
「どうだい?二人とも。驚いただろう?僕もヒナタちゃんから相談を受けた時には驚いたよ。その手があったか!ってね」
驚いているゆずと花音を見て嬉しそうにそう言うのはダイゴだった。そして、ヒナタとダイゴが計画して作った物をヒナタが引っ張ってゆず達の前まで来た。
「どう?」
「どうって……すごい。なかなかいい」
「これ……誰が引くの?ああ、ダイゴさんか。見てゆずお姉ちゃん!椅子も付いてるバスみたい!」
ゆずは未だに呆然として眺めているのに対して、花音はすぐに受け入れて乗り込んだと思うと備え付けてある椅子に座って喜んでいる。
それを一歩引いた所に立ったダイゴがニコニコしながら眺めていた。
「ふふん、いいでしょ。名付けてヒナタ運輸バス。かっこ悪いか」
恐らく即興で考えたんだろう。自分でつけた名前にダメ出しをしているヒナタはそれでも嬉しそうにしている。
ヒナタに頼まれ、いいアイデアではあるが材料や物資が揃うか微妙だとダイゴは思ったが、ヒナタはなんと松柴に個人的に相談しに行って、廃棄予定の物から引っぺがして使える物を集める許可を取って来た。
見た目は幅の広い屋根のついたリヤカーだ。前には引っ張るための棒があり、もうダイゴと名札が貼ってある。幅が広いのは、壊れたリヤカーの使える部分だけ集めてくっつけたからだ。
ダイゴは親が電気屋として働いていて、よく手伝いに駆り出されていた。そこで色んな工具に触れる機会があり、興味を持ったダイゴはDIYで何か作る事を趣味としている。電気にも詳しいし、見た目に寄らず細かい作業も得意としている。
今回のリヤカーもベースはダイゴが組み立て、ヒナタが付属品を付けていった形だ。
「これ全部廃棄品?そのわりにはきれい。この椅子、ほんとにバスの椅子だ」
ゆずも乗り込んできて眺めている。リヤカーの後ろ側には椅子が向かい合わせに二列並んでいる。しかもリヤカーのほぼいっぱいに並んでいるので詰めれば十人は座れる。
「うん、その椅子は廃車になったバスで雨がかからなくて日陰にあって、かびてない物を選んで外してきた。その下は物入になってるんだよ。けっこうたくさん入るんだから」
そう言うとヒナタは椅子の下側のパネルを開けた。そこは床面より一段低くなっていて、意外に広いスペースが出来ている。
「ほんとだ、ここなら私のへカートも楽々入る。」
ゆずは実際にへカートを取り出して、中に入れて見たりしている。そしておもむろに周りを見て、前列の一番端の椅子に自分の荷物を置いた。
「ここ私の席。異論は認めない」
そう言うが早いか、椅子の下にさっさとへカートの弾を箱ごと入れている。
「あ!じゃ私その隣。その横がヒナタお姉ちゃんね。異論は認めません!」
ゆずを見て、あわてて自分の席を確保した花音がヒナタの席まで指定してきた。
「もう、ゆずちゃんの真似までして……でもよかったかな?女子は前列の席を勧めようと思ってたから。見ててね?」
ゆずと花音の行動を見て、笑っていたヒナタだったが、ここでさらなるギミックを披露し始めた。
「ここを引っ張ると……よっ!」
丁度ヒナタの席とされた椅子の後ろにある柱から紐を引っ張ると、白いカーテンが出てきて前列の席を囲ってしまった。天井に病室によくある曲がったカーテンレールが取り付けてある。
「外だと着替えとかも大変だからね。」
「おお、すごい。これなら外からも中からも見えない」
ゆずも花音もすっかり感心している。
「まだいろんなギミックがあるし、アイデアもあったんだけど、これからのお楽しみという事で。とりあえず遠征にこれを使えば、荷物はもたなくていいでしょ?それだけでもだいぶ楽になると思ってダイゴさん巻き込んで作ったの」
「ん、すごいアイデア。もう車もないからって諦めてた。さすがヒナタ」
手放しで喜ぶゆずは椅子につけたライフルや刀を入れておく用の筒に手に入れたばかりのライフルを収めている。
「ただね……一つだけ、その……欠点というか、あってね?」
ゆずも花音もそんなのあるか?と言いたげな顔をしているが、これを実際に運用するにあたって大きな問題があるのだ。
ヒナタが二人の顔を順番に見ると、重々しい口調で言った。
「これに乗って移動したら、めちゃくちゃ目立つよね?」
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