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一気に明るくなりかけた雰囲気がゆずの一言で、また沈んでしまった。


「次の任務には、間に合わない……」


「いや、さすがにそりゃ無理だって。例えばここに同じ銃があってその部品が使えたとしても、銃ごとに微妙に癖があるから、すり合わせをしなきゃなんないし、見つかるまで何とか支給品で我慢してな?」


そう言う唐司をチラリと見て、小さくだが頷いた。ゆずとてあまり無理を言ってみんなを困らせるのは本意ではない。ただ、自分の命を預ける相棒に妥協したくないだけなのだ。

それはヒナタやハルカも理解できる所である。この部分は戦いに出ない唐司には理解しにくい所だろう。


支給品は色んな人が使うために何とも言えない癖がついている。ヒナタが支給品を認めないのはそういう所もある。そしてハルカでさえそう感じるのだ、狙撃という精密さを要求するゆずにとっては致命的な事なのだ。


「大丈夫。割り切って弾をばらまく分には問題ない。ちょっと狙った所に当たらない、ただそれだけだから」


落ち込んだ様子のゆずは無理してそう言うが、狙った所に当たらないのは問題ではなかろうか……ヒナタがそれを言っていいか迷っていると、ハルカがそっとゆずの肩に手を添える。そして唐司に向かって言った。


「ねえ、唐司さん。屋敷さんのアレ、預けてたよね」


「ん?あ、ああ。でも、そんなもん……まさか……」


話しているうちに思い至ったのか、唐司の顔が青くなる。


「ハルカ、わかってるだろうが、あれは……」


「わかってる。でもこの子なら何とかするって思う。」


「いや、そうは言ってもなあ……」


そう言うと、唐司は机の上から煙草を取って火を点けた。そして考えているのか頭をガシガシとかきだす。


「唐司さん、責任は私がもつよ。分かってると思うけど、彼女たちには借りがあるの。」


そう言うハルカの顔はとても真剣だ。その顔を見た唐司は諦めたように両手をあげた。


「わかったよ。おれは預かってただけだからな。決める権利はハルカにある。でもほんとに知らないからな」


そう言うと唐司はゆずの方をチラリと見た。それを見たヒナタは嫌な予感に襲われてきた。どうも唐司さんはゆずちゃんにそれを渡すのを危惧している様子だ。もしかしたらとんでもない代物なのかもしれない。

ヒナタの脳裏に、でかいバズーカを二丁肩に担いだゆずが、どこかの町にそれを撃ち込んで高笑いしている姿が浮かんだ。


「ね、ハルカちゃん?それって……」


「ん?ああ。うちの部隊にいた私の先輩が手に入れたものなんだけど、あまり使い道がなくって整備に預けたままにしていた銃があるのよ。私の先輩、屋敷さんっていうんだけど。屋敷さんは狙撃が得意じゃないから……ゆずちゃんは狙撃がメインなんだよね?」


ハルカに問われ、頷いたゆずはいいの?と聞いたが、ハルカは薄く笑って首肯した。


「あなた達十一番隊と一緒にマザーとやりあった時に屋敷さんは亡くなっちゃったから……今の六番隊は立て直しに必死で使う人もいないし。使ってもらったほうが屋敷さんも喜ぶんじゃないかなぁって」


はるかがそこまで言うと、ようやくゆずの顔も晴れてきた。


「ありがとう、大切につかう。絶対に壊したりしないで返すから……」


ガシッとハルカの両手を掴んだゆずがそう言うと、ハルカも嬉しそうに、それでもどこか寂しそうに言った。


「ううん、よかったらゆずちゃんが使って?ほら、十一番隊の戦力が充実するという事はカナタやヒナタちゃんの生存率が上がるという事でしょ?私にもいい話だから。お願いね?ゆずちゃん」


逆に握り返されたゆずは、一瞬驚いたが決意を込めた眼差しでハルカを見返して強く頷いた。


なんかいい雰囲気ではあるが、一人だけ微妙な顔をしている者がいる。唐司は微妙な顔をしたまま、持ち主が言うのだから仕方ないと銃を取りに向かったがほんとうに渡していいんだろうか?と最後の最後まで自問自答していた事は誰も知らない……




ゴトッという重厚な音と共に置かれたライフルは一目見ただけで威力のほどが窺える雰囲気を醸し出していた。なにより横に置かれた銃弾があまりにもごつい。これは飾りじゃなくて本当にこれをとばすんだろうか?とヒナタが半信半疑になるくらいの大きさなのだ。


「…………バレットM82って聞いたことあるか?」


唐司の問いかけに反応したのはゆずだけだった。その目大きく見開かれて、キラキラと輝いている。


「え、まさか……」


「あ、いやこいつはM82じゃない」


唐司がそう言うとあからさまにがっかりしている。それに苦笑いしながら話を続けた。


「M82じゃないが、こいつはそれと同等といっていい銃だ。M82と同じ12.7×99mmの.50BMGって弾を使う、PGMへカートⅡってライフルだ。」


唐司がその銃をそっと撫でながら言うと、ゆずも聞いたことがあったのか、ポツリと呟く。


「へカート……ウルティマ・ラティオの?」


「ああ、そうだ。日本じゃあまり馴染みがない銃なんだがさすがに知ってるな。フランスの銃でウルティマ・ラティオシリーズでは一番デカい銃だな。M82との違いといえば……ゆず、わかるか?」


そう聞かれ、ゆずは仔細に眺める。真面目な顔で見ているのだが、すでによだれが垂れているのはなんとかならないのだろうか……社内のバカげた噂、ゆずが5.56の弾を欲しがる姿をよく見かけた所から広がった、5.56の弾を貪り食うというのはあながち間違いではないのかも……などと思い始めた頃ようやくゆずが答えた。


「たしかm82はセミオートマだったはず。これはボルトアクション。あとはマズルブレーキの形と木製ストック?」


周りで聞いているヒナタ達にはまるで暗号のような答えだったが、正解だったようで唐司は大きく頷いた。


「お前№4に来るまで銃なんて興味もなかったって言ってなかったっけ?あとはその知識をもう少し一般常識の方に振って……痛っ!こら、脛を蹴るな」


「唐司が余計な事を言い出すからいけない。話!」


脛をさすりながらゆずを睨んでいた唐司が咳払いして銃の説明に戻った。


「あー、ゆずが言ったようにこの銃は発射方式がボルトアクションだ。トリガーを引くだけで弾が出るセミオートマと違って、一射ごとにボルトハンドルを操作する必要がある。特徴的なマズルブレーキのおかげでかなり反動を抑えてあるから、M14を使ってたゆずなら撃てると思うが、サイズが心配だな。口径は12.7mm、銃弾は.50BMG弾だ。見てわかる通り都市でメインに使ってる5.56×45NATO弾はおろか、ゆずのM14の弾7.62×51NATOと比べても倍近くある。こんなバケモンみたいな弾を飛ばすんだ、威力は言うまでもないだろう。ハルカ、ほんとに渡してしまっていいんだな?」


再度確認されたハルカは即答ができなくなっていた。ここまでゴツい物だとは思っていなかったのだ。屋敷さんはもっと気軽な感じで、「いいライフルを手に入れたんだが、俺には合わないからなぁ、ハハハ」とか言ってた。だからもっとライトな感じの物と思っていたのだ。


ハルカが考えにふけっていると、泣きそうなゆずの視線とぶつかった。どうやらハルカが返事をしないので、ここまできてやっぱダメ。と言われると不安になっているのだろう。

確かにそう言いたい気持ちはある。ゆずとはあまり一緒に戦った事がないからよく知らないが、カナタから聞く限りなかなか破天荒な性格らしい。そこにこんな恐ろしいものを渡してもいいのだろうか、しかも責任は自分が持つとまで言っちゃったのだ。


「ね、ねえゆずちゃん?一つだけ約束して欲しいの。ほら、これすごい銃じゃない?その分危険も大きいだろうから、私や、カナタが使ったらだめって言ったら使わないって約束できる?できるなら渡してあげる。」


若干頬が引きつるのを自覚しながらハルカは精一杯の条件を付けた。ここまできて後には引けないし、すんなり渡すには責任が重すぎる気がするのだ。しかしハルカのそんな葛藤もなんのそのである。


「する!約束する。というか、カナタ君の言う事に背くなんて、したことも考えたこともない!」


目をキラキラさせながらそう言うゆずと、その後ろで、スッとヒナタは目を逸らした……


……やっちゃったかなぁ。そう考えながらもハルカは唐司に目で承諾を伝えるのだった。


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