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13-9

「ほんとにここ入って来てよかったの?そりゃ警報とかはならなかったけど、明らかに部外者禁止みたいなとこ通って……」


途中からはぐれないように花音と手を繋いで、明らかに通路とは呼べない煩雑な所を係員にぶつかりながら来たのだ、怒られなかったのが不思議なくらいだ。


中には露骨に迷惑そうな顔をする人もいたから、何度頭を下げたかわからない。


「ん、大丈夫。正面からここに来ようとしたら手続きが大変。このルートを通ってくれば一般のパスで来れる」


得意げにそう言うが、それは一般のパスでは本来来れない事を意味してないだろうか。急に不安になってきたヒナタをそのままにして、さっさとノックもしないでドアを開けると中に入ってしまった。


これ以上行ってもいいのだろうか?そう思って周りを見るが誰もいないかわりに殺風景な廊下が伸びている。明らかに外部の人が入る所ではない雰囲気だ。

ここにいて、誰かにどうしてここにいるのか聞かれても答えきれない。意を決してヒナタもドアの中に入って行った。


そこは先ほどまでの雰囲気とはガラリと変わって、作業員の部屋という感じをしていた。広い机に訳の分からない部品が転がり、机に取り付けてあるライトが照らしている。棚には色んな工具と資料が山のように詰め込まれていて今にも崩れそうだ。

辺りは油のような変なにおいが染みついていて、ヒナタは思わず顔をしかめた。花音も鼻をつまんでいる。


その先にある一つの机に座っている男の前でゆずは話していた。男は40代くらい油で汚れたつなぎを着ている。首からスタッフカードを下げているが、そこには唐司どちらかといえばだらしない印象をうけるが、机をみると使いやすいように整頓されている。見た目に無頓着なんだろう。


「ん?おいゆず。あいつらお前の連れか?」


恐る恐るヒナタ達が入って行くと、それに気が付いた男がゆずに尋ねた。ゆずが頷くと、男は深く項垂れてため息をついた。


「お前あの子たちを連れてあのルート通ってきたの?」


顔を上げた男は、困った顔を隠そうともせずにそう聞くと、ゆずは当たり前みたいな顔して頷いた。


「勘弁してくれよ……お前、いつも言ってるだろ?まず俺に取り次ぐように下で言えって。」


「前にそれをやったらここに来るまでに2時間かかった。そんな馬鹿らしい真似は御免」


ぴしゃりと言い返すゆずに男はまたため息をついた。やっぱり通ってはいけない所を通ってきたようだ。


「俺が怒られるんだからな?そりゃ最初に教えたのは俺だが……」


「あ、あの……ご迷惑かけてすみません。ゆずちゃんがズンズン進んでいくから止める暇もなくて……」


とりあえず慌ててヒナタが謝ると、男は目をぱちくりとさせてヒナタとゆずを何度も見比べる。


「……何か言いたいことが?」


その仕草に半目になったゆずが男にそう言うと、男も遠慮なく言った。


「この子達はしっかりしてるのになぁ……お前はなんなの?突然変異でもおきたの?」


「人を感染者みたいに言わないでほしい。それと人はそれぞれ、違っていて当たり前。」


「や、お前半分モンスターみたいに扱われてるからな?好みは5.56のNATO弾で、きっと貪り食ってるんだって」


「それ言った奴教えて欲しい。本当の銃弾の味を教えてやるから。」


「お前が弾を出せって暴れるからだろ。お前下で弾の入った箱見たか?見てないだろ。下ではお前の姿が見えたら弾を隠せってのが広まってるからな」


そう言うと唐司はおかしそうに笑った。そして教えたら下の階が半分以上いなくなるから教えられないとも……それはもう教えているのと同じではないだろうか。


そのやり取りを見ていただけでヒナタは頭痛を覚えた。ここに来るようになってからそう経っていないはずだ。この短期間でモンスター扱いされ、姿を見かけたら弾を隠され……そういえば下を通る時も、迷惑そうな顔はしていたが、誰一人止める事はなかった。いったい何をしたらここまでなるんだろうか……

見ると、花音も隣で頭に手をやって項垂れていた。とても親近感を覚えたヒナタは優しく花音をなでるのだった。


「もういい!で、私のライフルは?」


おかしそうに笑っている唐司に不貞腐れたゆずは乱暴に聞く。

それでもしばらく笑って、ようやく落ち着いた唐司は腹を抱えながら奥に歩いて行くと長い箱を抱えて来た。


「よっと!」


どさっと机におかれた箱の中にはゆずのM14が何個かのパーツに分かれて入れてあった。

すると、部屋に入った時にかいだ油のにおいが強くなったので銃の整備に使われるものなんだろう。


「あ~、結論から言うとだ。もうしばらくかかる」


「……重症だった?」


悲しそうな顔になったゆずがそう聞いた。唐司は難しい顔になって頷いた。


「部品さえあればすぐ直るんだが……ここで使ってるのは5.56の小口径ライフルばっかだから7.62の部品がないんだよ。ほら、ここだ。弾が噛んでるだろ?チャンバーの途中まで入って、溶けた鉛が中で広がってる。これは弾が取れてもこの部品はもう使えない。射撃に影響が出まくるだろ。」


ヒナタと花音には何のことだかさっぱり分からない会話だったが、あまり芳しくないのだと言うのは分かる。


「部品を持ってくれば治る?」


さっきまでの勢いはどこへ行ったのか、しおらしく聞くゆずに唐司も言いにくそうだ。


「まあ、そうだな。部品があれば……な。同じM14か、M16か。でももし運よくどっちかが見つかったら、もうそれを使った方がいいぜ。お前が使ってたほうは多分、民間用に後から生産された物じゃなくて軍用品の払い下げだ。年代物だし、あちこち痛んでる。運よく見つけたら、そっちを使え。な?」


そうゆずに言って聞かせるように唐司は話しているが、口を一文字に結んだゆずは頷きもしない。あれは言う事を聞かない時の顔だ。

しばらく話していたが、お手上げのポーズをして唐司はゆずのそばを離れた。代わりにヒナタ達がゆずを挟んで慰めるが、ゆずの視線は分解され、いくつかのパーツになった愛銃に固定されている。

これは一番厄介な状態だ。こうなってしまうとびっくりするくらい頑固なのだ。


心配そうに見る唐司に、ヒナタは苦笑いのまま首を振った。それだけで伝わったのか、唐司は大きくためいきをついて項垂れた。

なんとかしてやりたいのはやまやまだ。唐司は、ほかの者達が言うほどゆずの事を嫌ってはいない。むしろ好感を持っていると言っていい。

それだけに普段憎たらしいほどふてぶてしいゆずが落ち込んでいると何とかしてやりたいとは思うのだが、いかんせん物資の不足している中で、№4では、なるべく共通して部品を使えるように扱う銃器は種類を絞っている。

そしてゆずの銃はそれから外れているのだ。予備の部品などない。


「あれ?ヒナタちゃん?」


全員で困っていると、意外な人物の声が聞こえヒナタが振り向くと、向こうも驚いた顔のまま止まっていた。


「ハルカちゃん?どうしたのこんなとこで」


言ってしまってから、自分こそが場違いなのに気づいてヒナタは思わず笑ってしまった。ハルカの登場で、場の雰囲気が少しだけ柔らかくなった。


「私は六番隊の手続きで色々と……ね。私ね、副隊長になったんだ。隊長は不在だから実質トップなんだよ。で、みんなは?」


そう聞かれ、ハルカにわかる限り経緯を話していると、唐司も一緒に説明してくれた。


「あー……そっかぁ。ねえ唐司さん、再起不能ってわけじゃないんでしょ?」


「ああ、チャンバー周りを替えればまだ使える。理想を言えばボルトも替えたほうがいいが……そこまでやるくらいなら別の銃を使った方がいいって言うんだが……」


ゆずはまだ落ち込んでいる。黙って自分の愛銃を見つめる姿は心にくるものがある。


「でも、愛着のあるものって手放しがたいもんだよ。よし、私も探すの手伝うよ。M14かM16だね、私はよくわからないけど、隊に詳しい人がいるから」


そう言ってハルカも探すのを手伝うと言ってくれた。心強い援軍の登場に解決に向かうかと思われたが……

ゆずの言葉にまた沈んでしまうのだった。

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