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恒例の休日投稿だぁ!
「ああ、それで間違いない。色々と問題の多い№3の部隊の中で唯一まともと言われてる部隊だそうだ。しかも二番隊だからな。一応長野の件で迷惑をかけたから埋め合わせに。という事らしい」
そう言うとカナタは同じように聞いた自分にされた説明をここで繰り返した。
№3を作ったのは、大型リゾート計画JVの一社で山城建設という会社だ。古くからある生粋の建築屋で、昔気質の気風があり主に造成や建築作業員の管理を行っていた。
昔ながらの建築屋によくある、どこの組の方ですか?ときかれそうな風貌をしている者が多く、その下請け連中も似たようなものが多い。
自然と周りからみればガラの悪そうな人が多く見えると言うわけだ。実際肩や背中にお絵描きしている人も多くいるようで、なぜだか分からないが銃器の扱いに精通している人もいて、3Dプリンターなどを駆使して武器の製造の流れを作ったところでもある。
そんな№3の中で、感染者に対抗するべく荒事に慣れた者が集まってできた守備隊だから、見た目が完全にやばい人たちなのである。
そんな守備隊の中で唯一一般人に近い雰囲気をもつのが二番隊で、住民に親しまれているし二番隊を背負うだけの実力もあるとの噂だ。
「どこの都市でもだいたい実力がある部隊が若い番号だからな。」
そう言って話を締めたカナタにゆずが不思議そうな顔で聞いた。
「その基準で言うと十一番隊は弱っちい部隊になる。なにしろ十一番目だから」
「そう言うと思ったよ。十一番隊はよその都市にはない特殊な部隊で数字は関係ないってさ」
実は会議で同じことを聞いたカナタが、言われた事を同じように言った。実際に他の都市の守備隊は十番隊までがメインで、あとは予備隊とか訓練生とかいう扱いをされている。
「長野が№3の誰かとつながって悪だくみをしていた事ははっきりしただろ?№3としても何かしらの形で詫びをする必要もあったんじゃないかって事だ。これを断ってしまうと、詫びを受け入れなかったって形になって面倒になるんだと。ほら、№3は任侠映画にでてきそうな人が多いから。詫びを受け入れないなら戦争しかないのう!って話にもなりかねないんだって」
先日の事件の調査で長野本人は逃がしたが、カナタが捕まっていた所は長野が都市外に作った隠れ家だったようで、そこに調査に入ったら色んな悪行の証拠がわんさかでてきたらしい。長野はそこがばれるとは思わなかったようで、重要な証拠になりえそうな物や書類なんかを隠れ家に隠していたが、そこにカナタを監禁したばっかりに、カナタを探していた翠蓮にあっさりと場所を見つけられてしまったという事だ。そしてそこにはっきりと№3の特定の人物とのやり取りの証拠がばっちり出て来たのだ。
№3からの返答は、その人物はもう都市にはいない。こちらでも罪を犯して逃げているとの返答だった。それでも№3の名前がでている以上そのままにはしておけず、早めに手を打ってきたのだと松柴さんは言っていた。
「ともかく、№3の良心とまで異名をとる、しかも都市二番隊が来るという事だ。みんな失礼のないようにな。特にゆず、お前最近よく話すようになったのはいい事だが、少し口が悪いぞ。頼むから揉めるなよ?嫌だぞ、責任取って小指詰めろとか迫られるのは」
さすがに今は本職の方でもそんな事はしないだろう。すこし古い考えのイメージでカナタは言っている。
「む……私は人にそんなこと言わない。私こそ十一番隊の良心と名乗ってもいいくらい」
ゆずは胸を張って臆面もなく言い放った。
それを聞いた花音はなぜか、ゆずが十一番隊の良心と書いた看板を持っているのが頭に浮かんできた。しかしみるみるうちに看板の文字は崩れ書き換わっていく。そこには「歯に衣は着せる必要なし!」と立派な書体で書いてあったのだ。そして、それを見た花音は納得し、人知れず頷くのだった。
「頼むぞ、ほんとに頼んだからな」
「しつこい。私は大丈夫。カナタ君こそ、マナーとかデリカシーとかいうのを学んでから発言したほうがいい!その同行する人は何人?男性?女性?」
何度も言うカナタに半ば切れ気味に答えていたゆずだったが、ふと思い出してその人の情報を聞いてみる。
「……聞いてない」
悔しそうに消え入りそうな声で言うカナタに、それ見た事かと言わんばかりのゆずが追撃にかかる。
十一番隊は本日も平常運転である。
戦いになるかもしれないのだから男性の確率が高いだろうと思うが、こんな世界になり、すでにたくさんの人が命を落としている。
その多くは力のない子供や女性だろうと思われがちだが、実は成人男性の死亡数が圧倒的に多い。これはパニック初期に食料がなくなって探しに行く、あるいは感染者に追い込まれてやむなく戦う。こうした時にまず動くのが成人男性だったからである。
初期の頃で情報が少なく、感染者がどういう物かわからない状態で動いて命を落としていった者があまりにも多かったのである。
今では男女の比率は3:1ほどまでなったと言われている。それゆえに女性が戦いの場に出る事もかなり多くなっているのだ。
庁舎への道をぷりぷりと怒りながら歩くゆずとそれをなだめる様に話しているヒナタがいた。その後ろには花音も付いてきている。
「カナタ君は私を何だと思ってるのか。私だって相手かまわず喧嘩売ったりしない」
「まあまあ、確かに言いすぎだと思うけど、他にそう言う事を言いそうな人がいないから代表して注意されちゃったんじゃない?多分、お兄ちゃんも同じような事を言われたんじゃないかな」
ゆずを宥めるために言った言葉なのだが、実は的を得ていた。
会議中、№3からの同行を認めざるを得なくなった時に、ジトっとした目でカナタを見た松柴のセリフだ。
「お前んとこは誰彼構わず喧嘩を売ったり、命のやり取りに抵抗がないのが多いからのう……頼むから他の都市ともめごとを起こさんでくれよ?それぞれ微妙な力関係で保っているんじゃ。こういう関係はどこかが強すぎても弱すぎても成り立たんもんじゃ。起爆剤はいらんからな?アタシは言ったからね。」
実に面倒そうな顔で松柴は言ったものだ。本当の所は今回もマザーの情報はともかく試薬の開発は嬉しい反面、強すぎる一手と松柴は思っている。
一時的にせよ、感染を止めたり発症させなかったりする薬。そんなものがあれば誰だって欲しがるに決まっている。下手をしたら暴動すら起きかねないほどの物なのである。
そして、意外と危険人物のハンコを押されそうになっているゆずは、庁舎に隣接して建っている建物の前にいた。ここは守備隊装備部である。明後日に迫った護衛任務はちゃんとした任務扱いなので、支給品を受けれる。
慣れた様子で建物に入るゆずのあとについていくヒナタと花音。装備部の入り口ではかつて駅にあった自動改札のような機械がある。
その機械にゆずがIDカードを入れるとゆずの来訪が記録され、建物を出るまでの仮パスが発行される。発行された仮パスはIDカードに記録されて仮パスで行ける範囲は建物内を移動できるようになる。というシステムになっている。
仮にこれをやらずに建物内に入った場合、ドアを一つくぐっただけで警報が鳴りその部屋のドアは全て締まりロックされる。
武器を扱う部署だけにセキュリティもしっかりしている。
ゆずから事前に聞いていた二人は同じようにIDを通し、無事に入室記録を終えた。なんとなく緊張して、終わった時には二人で小さくハイタッチしたくらいだ。
今日はここに護衛任務用の装備と弾丸の支給と預けていたゆずのライフルができていたら持って帰ろうと思ってやってきた。それに何となく興味をもった花音とヒナタがついてきた。
「十一番隊、任務。アサルトライフル一丁ととサブマシンガンを……二つと弾、これで支給できるだけ。よろしく」
まっすぐ進んだところにある部屋に入り、一番近いカウンターの所にいた係員に支給カードを出して手短に伝えたゆずは相手の返事を聞くこともなく、二人に手招きすると勝手知ったる様子で奥に入って行く。
「え、え、いいのかな。ちょっとゆずちゃん」
明らかに一般の立ち入りを禁止していそうな所を平気で入って行くゆずに、着いていくヒナタが不安になり声をかける。
何人かは、ずかずかと入って行くゆずを眉をしかめて見る者もいたが、止められることはなかったのでかわりにヒナタが頭を下げながら後を追うのだった。
「ここ」
二部屋くらい突っ切って反対側の通路から階段を上がり、一つのドアの前に立つとようやく振り返ったゆずが親指でドアを指して言った。
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