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13-6

だんだんきつくなってきた休日更新だぁ!(笑)

病院を出るとヒナタはカナタと別れた。カナタは№1へ出向する打ち合わせに庁舎に行く事になっている。ヒナタは龍さんに預けた刀を受け取りに行くつもりだ。


龍の住居は工房が一緒になっており、もともと住んでいた人も鍛冶屋だったらしい。たまたまそんな物件があり、松柴が世話してくれたのだ。


工房を兼ねているためか、中心部から外れた位置にある。病院は庁舎の近く、ほぼ都市の中心にあるため少し歩くのだが、たまにはいいかと思ってヒナタはのんびりと歩いて向かっている。


ヒナタが都市に来た時は、中心から離れると閑散として空き家が目立っていたものだが、ずいぶんと復興が進んでいるのか大分生活をしている家が多くなっている。

都市外から来た人など住むところがない人は、庁舎と共に建てられた避難所で生活をしている。そういった人も都市で仕事をして自立できるようになれば申請して空いている家をもらえる。


今も両手に荷物を抱えてる親子が嬉しそうに一件の家に入っている。そんな親子を微笑ましそうに見ながら歩いていると、後ろから肩を叩かれた。


「先生の所におみえですか?ヒナタ様」


振り返るとどことなくメイドさんを連想させる服装の翠蓮さんが立っていた。片手に袋を下げているので買い物にでも行った帰りなのだろう。


「はい、今度№1に行く事になりまして……刀、できてますか?」


そう聞きながら二人並んで歩き出す。


「マザーとの事を聞いて先生も強く興味を持たれましたので。預かってすぐに手入れをしながらいろいろと調べられていたみたいですよ」


手入れをお願いする際に、桜花と梅雪だけがなぜかマザーに効果的だったことは伝えてある。あまり口外するなと言われているが、龍さんには伝える必要があるとカナタも判断したのだ。


「何かわかりましたか?」


「いえ、私は何も聞いておりません。先生もあまりお話しされる方ではありませんので」


一応聞いてみたが、翠蓮は何も聞いていないそうだ。本人たちが言うようにこの二人はほとんど会話がない。黙って作業に集中する龍さんと、その後ろで黙って控える翠蓮さん。基本的にこの形が出来上がっている。そこに白蓮さんが加われば何かと会話が増えるのだが、二人だけの時は本当に静かなものだ。


こうして並んで歩いている時でも、翠蓮から話しかけてくることはほとんどない。

実を言えば、その感じがヒナタは苦手だった。決して嫌いな人ではないのだが、黙って傍に立たれているのが気になってしまうのだ。丁寧すぎる話し方も落ち着かない要因なのだ。


「ね、翠蓮さん」


いい機会だと思い、黙って歩く翠蓮に話しかける。


「なんでしょうか、ヒナタ様」


初手でこれだ。ヒナタは思わず苦笑いになってしまった。


「……えっと私は翠蓮さんのご主人?なんかそんなやつじゃないですよね?」


「?。そうですね。私の主人と言うのであれば先生がそうなりますね。」


何をいまさら。というような雰囲気で翠蓮はそう言った。


「でしょ?ならそんなに丁寧に離さなくても……もっと砕けた話し方してくれないかなぁって。」


ヒナタが言うと、翠蓮は薄く笑って目を伏せた。


「別にことさら丁寧に話しているつもりはないのですが……ヒナタ様をご不快にさせてしまっていたら申し訳ありません」


翠蓮は丁寧に話しているつもりはないと言うが、ヒナタからすればなんともむず痒い話し方


「いやご不快ってわけじゃないんだけど……なんか他人行儀っていうか。」


言いにくそうに言うヒナタに翠蓮は優しい笑顔を向ける。ヒナタでも思わずドキッとするような笑顔だ。


「そのように感じさせてしまっていたのなら申し訳ないのですが……幼い頃より使用人と護衛を兼ねた奉公ができるようにとそれだけを教えられてきましたから……私はヒナタ様の事をとても親しく思っておりますし、決して他人行儀になるようなつもりで接してはおりません。私はこういう人間なのだと思ってくださいませ」


以前少し聞いたことがある。翠蓮と白蓮はそういう一族で育てられ、教育されてきたのだと。まるで漫画のような話だが、実際翠蓮は使用人としても龍さんの護衛としても一流の働きをしている。


「む~、わかりました。」


不承不承という感じでヒナタはそう言った。

決して納得をしたわけではないが、そこまで深く踏み込んで言える訳でもないのだ。


そうしていると、龍が住んでいる住居兼工房が見えてきた。川のそばに立っていて水車を動力にできる様になっている。


「それでは先生にお伝えしてきます。こちらで少し待っててくださいね?」


そう言って、家の奥に消えていく翠蓮を見送ったヒナタは翠蓮の言葉が若干ではあるが親しいものになっている事に気づく。

それに嬉しく思っていると、すぐに翠蓮は戻って来た。


「先生が中でお待ちです、どうぞ。先客がいらっしゃいますが気になさらないでくださいとのことです」


そう言うと翠蓮は先に立ち、ヒナタを案内し始める。


先客とは誰だろう。考えながら翠蓮についていき居間に通された。改装したのだろうか畳敷きの和風な空間になっている。

勧められるままに進むと、正面に龍さんが座っている。


「おお、ヒナタくんよく来たね。手入れは済んでいるよ。」


そう言うと龍は横に置いてあった包みをヒナタの方に差し出した。


「え?あの……」


しかし、龍が差し出した包みを見てヒナタは困惑していた。手入れをお願いしたのは桜花と梅雪の二振りの刀だ。しかし差し出された包みは三つある。


「ああ、ヒナタ君は知らないのかな。もう一本は最初にカナタ君が帯びていた物だよ。銘は入っていないが、私の師匠の作品でね。儂の方から手入れをさせてほしいと頼んでいてな。じっくりと手入れをさせてもらったよ。元の拵えが全体的に傷んでいたから儂の方であつらえておいたが、一応カナタ君に伝えてもらえるかな?」


確認するように言われ、包みから出してみると外側もきれいに磨いてくれている桜花と梅雪がある。もう一つのほうを取り出したヒナタは思わず感嘆の声を上げてしまった。


「きれい……これも持って帰っていいんですか?」


取り出した刀をよく見ると、新調された拵えはまるで新品のような印象を与えてくるし、半分ほど抜いてみると控えめな刃紋とヒナタの顔が磨き上げられた刀身に写っている。


「もちろんじゃ。もともと預からせてもらっておったのはこっちの方だからの。数少ない師匠の作品が三振りも一所(ひとところ)に集まるのはまさしく奇縁といえる。どうか役立ててほしい。」


ヒナタは龍の言葉にしっかりと頷いた。このもう一本の刀も、もしかしたらマザーに対しての切り札となるかもしれないのだ。


そして、何より……一目見てこの無銘の刀を気に入ってしまった。かつてのパン工場での戦いのとき、ヒナタは右手に桜花を持ち、左手に梅雪を持って戦った。

手数が必要と思いそうしたのだが、思っているよりずっと動きやすかったのだ。


しかし、桜花はカナタが持つだろう。都市から支給されている支給刀は使いたくない。

刀マニアでもあるヒナタにとって形こそ刀だが、けして刀と呼べる代物ではない。それがヒナタの評価だった。もはや刀と認めていない。


そんな時にこの刀を見て、一目で気に入ってしまった。長さは桜花よりほんの少し長いが、むしろ使いやすい。


「これはお兄ちゃんに頑張っておねだりしちゃお!」


刀を受け取って、嬉しそうに帰るヒナタの姿を見ていた翠蓮は思った。

この妹におねだりされて無下にできるお兄ちゃんはきっといないだろう、カナタ様、あっさり負けそうですね、と。

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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