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13‐5

結局どう答えるのが正解だったのか、分からないまま話は別の話題に移っていった。そうなるようにヒナタが誘導したともいえる。


「結局、六番隊……獅童さんはどうなったの?」


しばらく雑談していると、査問会の事を聞いてきた。ハルカに結果までは伝わっていなかったようだ。


「獅童は今警備隊に捕らえらている。隊長職は解任、恐らく都市を追放されることになるだろうって松柴さんは言ってた」


都市において、追放というのは重い罰の方だ。何も持たされず都市の外に放り出されるのだ、頑張れば物資を探したりして生き延びられるだろうが、都市近辺はもう探し尽くしている。都市から離れれば、いまだ感染者が支配する領域だ、一人で、しかも武器もなしに生き延びられるとは思えない。実質の死刑宣告に近い。


「長野は協力者が乱入してきて逃げられた。まさか都市に潜入しているなんて思わなかったから驚いたよ。」


「そっか……」


長野の時はそこまでなかったが、獅童の事を聞いている時には少し辛そうな表情をしていた。あんな奴でも共に戦ってきた仲間ではあるのだ、思う所はあるのだろう。


「なあ、ハルカ。十一番隊に来ないか?こんなことがあって六番隊のなかではやりにくくなってないか?」


そこでカナタは、もう一つ思っていた事を思い切って切り出した。


「カナタのとこに?…………」


カナタはすぐに頷いてくれるものと思っていた。だいたい何事もなければハルカも始めから十一番隊の一員として共に行動していたはずなのだ。獅童もいなくなった今、それを邪魔する者もいないはずだ。

しかし予想に反して、ハルカは思い悩んでいる様子だ。


「誘ってくれてありがと。それでもいいかなって思うんだけど……今の六番隊を放って私だけカナタの所に行くのは違うと思うんだ。これまで世話になってきた人もいるし、世話している人もいるし……」


カナタにとっては意外な事に、ハルカは六番隊に残ると言い出した。


「でもそれはハルカちゃん気にする事じゃないと思うの。私はその時いなかったから知らないけど、なんか邪魔されて誤解があって別々になったんでしょ?これまで一緒に動いてきた六番隊が気になるのも分かるけど、もともと私たちと一緒にいたわけだし……」


ヒナタにとっても意外な答えだったのだろう。少し悲しそうな顔になってそう言った。


「うん、そうなんだけどね……でも関わっちゃったし。獅童さんや、同室だった絵麻さんには思う所もあるけど、それは六番隊の他の皆には関係ないもん。隊長が追放処分になっちゃって、六番隊はこれから大変だとおもうんだ。こんな時に私だけ知らない顔はできないよ。


眉を寄せ、困り顔でハルカは言った。


「でもそれこそハルカのせいじゃない、ハルカが背負う事じゃ……」


まさか断られるとは思っていなかったカナタが重ねていうが、ハルカは黙って首を振った。


「ごめんね?誘ってくれて嬉しかったんだよ?でもやっぱり私にはできないよ」


強い意志を感じさせる眼差しで見つめられ、カナタは言葉がでなくなった。ハルカとも長い付き合いだ。こうなると意外と頑固な事も知っている。


「はあ……わかったよ。何か困ったことがあったら何でも言ってくれ。隊は違っても俺たちは仲間だからな。」


深くため息をついたカナタは、ハルカを応援することを約束した。その上でもう一度言っておいた。


「その……もし、隊が落ち着いて、ハルカが大丈夫だなって思える時が来たら……その時はうちに来てくれるか?」


また昔みたいに一緒に入れたらいいな。そう言う気持ちで言ったのだが、言った後にまるで告白しているみたいな言い方であることに気づいて、思い切り赤面してしまう。

それがハルカにも伝わったのか、ハルカも頬を染めながら俯いてしまった。さらにその後ろではヒナタが親指を立てていた。

よくわからないが正解だったらしい。それはいいが、照れ臭くなり後の言葉が出てこない。そうしているうちに、ハルカがゆっくりと顔を上げた。


「……ありがと。うん、約束するよ。待っててね?」


そう言ったハルカの頬を一筋の涙が伝っていく。


殺風景な病室で飾り気もない入院着を着て、化粧をしているわけでもないし髪型だって寝て起きたままだ。

それなのに、この時のハルカをとても美しいと感じて、カナタは思わず見つめてしまう。


目を赤くして、少し恥じらうように笑うハルカの笑顔はカナタの心に強い印象となって焼き付いた。



「65点」


「なんだよいきなり」


ハルカの病室を出て、廊下を来た時と逆に歩いていると唐突にヒナタが点数を告げた。


「病室でのお兄ちゃんの対応。最後が良かったから点数があがったけど、あれがなかったら赤点だったね」


ヒナタが自分だけ納得したように頷きながら言った。


「いや、赤点て……」


久しぶりに聞いた嫌な言葉にカナタは何とも言えない顔になる。学生時代には何度も追い詰められた記憶がある。


「お兄ちゃん?ハルカちゃんって人気あるんだから、うかうかしてたら誰か知らない人にとられちゃうからね」


ヒナタがカナタの鼻先に指を突き付けながら言うので、カナタは思わずたじろぐ。


「いや、そういうんじゃ……」


「じゃあ誰かに取られてもいいの?


「…………」


カナタは答えに窮した。正直言って自分でもよく分からないのだ。好きか嫌いかと問われれば間違いなく好きの部類に入るのだが、特定の一人にしたいかどうかがピンとこない。


「あのねえ、私都市に来てから何度もハルカちゃんの事聞かれたんだよ?好きなタイプとか彼氏は居るかとか。六番隊にとられたのだって、そういう所もあるんじゃないかな。」


自分が特に意識していないだけに、ハルカの事を狙ってる男がそんなにいるという事に正直驚いた。カナタが何も言えないでいるとヒナタは小さくため息をついて話を続けた。


「明るくて優しくて、面倒見が良くてしかもかわいくて強い。こんな優良物件がほっとかれるわけがないじゃない」


ヒナタがハルカの良い所を指折り数えていく。そうやって聞けば確かにとは思う。


「ん~……ハルカの事は嫌いってわけじゃないし、どっちかって言えば好きだ。でもそれが恋愛として好きかって考えると分かんなくなるんだよな。」


そう言って考え込むカナタの頭を引っ叩きたくなる衝動をなんとかこらえた。


「違うよ、そんな頭で考えてどうかじゃなくて……もーわかんないかなぁ。……ねえお兄ちゃん。さっき最後にハルカちゃんに十一番隊に来いって言った時のハルカちゃんの顔覚えてる?」


そう聞かれ、思い出すまでもなくすぐに浮かぶ。心に焼き付いてしまったかのように。


「あの時のハルカちゃんを見て、どう思った?」


「……きれいだと思った」


それだけは間違いなく言えることだった。なんの飾り気もない素のままの笑顔が心からきれいだと思えた。


「あの顔を他の人に向けている所を考えて。それで心からおめでとうって言えるんなら、私からはもう何も言わない」


「…………」


「私はね?お兄ちゃんやハルカちゃんが後悔しているのを見たくないの。それでなくても、こんな世界になって二人とも危険な仕事やってるわけだし、いつ死んじゃうかわからないじゃない?」


ヒナタが言うような状況になって、自分はどういう態度をとるだろうか……


「ありがとうな、ヒナタ。心配してくれて。ちょっとゆっくり考えてみるよ。そうだな、後悔はしたくないもんな」


結局はっきりとした返事は返ってこなかったが、兄の性格をよくわかっている妹はそれ以上追及はしなかった。ただ小さく呟いた。


「55点くらいかな」

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