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13-1 マザーと感染者

カナタ達が休暇を貰って、一週間ほどが過ぎた。さすがに暇を持て余し始めていたが、カナタの体調も元に戻ってきた。

そんな時十一番隊の隊舎に来客があった。


玄関のチャイムが鳴り、近くにいた花音が玄関に向かうと伴って居間に入って来た。


「邪魔するよ。具合はどうだい?」


そう言って土産の箱をリビングのテーブルに置いて、ソファに腰掛けたのは、№4の代表である松柴小百合その人だった。さらに橘、喰代と続いて入ってくる。

応対するべくソファの体面に座ったカナタは少し苦笑しながら返事する。


「具合って言っても……別に病気していたわけじゃないですし。でもすっかり体力も戻ったと思います。なにか任務ですか?」


それ以外にわざわざこの面子で訊ねて来る事はないだろう。松柴も渋い顔をしながら頷いた。


「休暇を言い渡しておいて悪いんだがね。ちょっと厄介ごとさね」


松柴がそこまで言うと、その後を橘が受け取って説明していく。


「先日のカナタさん達の持ちかえったマザーの情報と体組織。そして直に見て来た喰代博士の研究の結果、色んな事が判明しました。また、限定的ではありますが、抗生物質の作成も成功しています」


これまで誰も持ち帰る事の出来なかったマザーの肉片。それから色んな事が分かっただけではなく、薬までできたと言う。これはすごい事なのではないだろうか。しかし松柴の表情を見るに喜ばしい結果だけではないようだ。


「細かく言いうと長くなりますので結果だけ言いますと、まず喰代博士の手によってマザーの体組織から二種類の薬品が作れました。あと、マザーや感染者についてもう少し踏み込んだ情報を得られました。それで、これらの事を他都市と共有したところ、№1にて説明会を開いてほしいと要望が来ました。」


なるほど面倒くさそうだ。


「その情報を知りたかったらそっちが来いとは言えない?」


そう乱暴な意見を言うのはゆずだ。それには松柴達も苦笑いを隠せない。


「そう言えたらいいんだけどねぇ。もともと情報を餌に物資の供給を無理やりねじ込んでしまった過去があるからねえ。開示を求められると応じないわけにはいかないのさ」


松柴がそう言うと、ふ~ん。と興味があるのか無いのか分からないような返事をして、ゆずは台所の方へ行ってしまった。お茶を用意しているヒナタ達の手伝いに行ったのかもしれない。

それを見送り、橘がまた松柴の話の後を継ぐ。


「これまでもマザーの情報は慎重に扱われていましたが、今回はとびっきりの物でして……まずは、喰代博士。お願いしていいですか?」


橘に話を振られ、喰代が咳ばらいをして話し出した。


「ええと……まずカナタさん達は実際見ているのでよくわかっていると思いますが、感染者に違いが出てきはじめていますよね?」


喰代博士にそう問われ、カナタは頷く。


「普通の奴がいて、まず走るのがでてきて。それからジャンプするのもいましたね」


カナタが指折り答えていくと、喰代が頷いて話を続ける。


「そうです。感染者達はゆっくりと移動することしかできませんでした。それゆえに何とか走って逃げれる可能性がありました。これを一類感染者とします。しかし走ってこられると持久力の事もあるので、普通の人はまず逃げられません」


喰代が言う話にカナタも同意する。感染者達は疲れるという事を知らない。その視界から逃れない限りどこまでも執拗に追いかけてくる。ゆっくりしか移動できないにも関わらず多くの犠牲がでたのはそれが大きい。

相手が歩いていてそれなのだ。走ってこられればたまったものではない。


「そしてジャンプする個体は、目標に向かって感染者が殺到した場合にそれを飛び越えてきます。多数の感染者と相対した場合、狭い所で迎え撃って一度に大勢と相手をしないようにするというのがこれまでの感染者相手のセオリーでしたが、それを覆す存在です。これらは目的に応じて進化していってると言っていいでしょう。これを二類感染者と分類します」


「進化ってこんな短期間にですか?」


「普通は考えられませんが……しかし実際起きている事です。そして私が同行して集めた素材を調査した結果、進化したと思われる個体からは同一の遺伝子が見つかっています。」


同一の遺伝子が何を意味するのか、カナタにはピンとこなかったが喰代が続けて話した事に驚愕することになる。


「ここからは、仮説になりますが……十一番隊が最初にマザーと接触した時に撮影してこられた映像と、現地でマザーを見てからの私なりの結論です。映像でマザーが通常の感染者の個体を捕食している所がありましたよね?」


喰代が言う事はすぐに思い当たった。当時何のためにそんな事をするのか大いに議論になったし、見た目にも強い印象を与えてくる行動だったからだ。


「何にために捕食するのか、ずっと謎でした。マザーを含めすべての感染者達は行動するのに必要なエネルギーを得るために食事をしたりはしません。噛みつくのは感染させるためであって食べたいからやっているわけではありませんから……そこで私が目をつけたのは、同行した時に現地で見た内臓のような個体です。私は嚢腫格と呼んでいますが、あの個体は私が観察している間には何の行動もしませんでした。他の個体が非感染者を認識して、そちらに殺到していてもマザーの隣から動くことはありませんでした。また、マザーがカナタさん達と交戦している時でさえ少し離れた場所でじっとしているだけでした。通常群れを形成する昆虫や動物のコロニーの中で、そう言った存在が果たす役割はだいたい決まってます。」


そこまで一気に話した所で、ヒナタとゆずがそれぞれお盆に飲み物を乗せて持ってきた。喰代は礼を言って受け取ると一口飲んで喉を潤す。持ってきた二人はお盆をもったままカナタの両脇に座ったので、話を聞くつもりなのだろう。


「生存競争の激しい世界でそう言う存在が果たす役割は生産です。子を産み、仲間を増やす。その重大な役割があるから何もしないで存在できるのです。つまり私はこう考えます。嚢腫格は常にマザーと寄り添うように傍にいます。他と比べても動きが鈍いにも関わらずです。嚢腫格はマザーの子宮のような役割をしているのではないかと考えます。」


「それは……マザーが捕食した個体が嚢腫格から進化した状態で生まれ変わってくると?」


言いながらカナタは顔が引きつっているのを自覚していた。それくらいの内容だ。


「はい。物理的にマザーとつながっているわけではありませんから、捕食した個体そのものではなく複製したものではないかと。お気づきですか?通常の個体は弱点をやられると普通の死体に戻りますが、進化した個体はやられると溶けてなくなってしまう事に」


喰代博士に言われて初めてハッとした。そういえば、倒した後に溶ける奴がいた。両隣を見るとゆずもヒナタも目からうろこが落ちたような顔をしている。


「つまり通常の一類感染者は感染を拡大させることを目的としますが、マザーは複製のための何らかの情報を得るために捕食して、そこから得た情報を嚢腫格に伝え複製する。複製したそれはもう元の人物とは違いますから倒すと溶けてしまう。という仕組みではないかと」


「そしたら、いくら感染者を倒しても無限に増える?」


話を聞いてゆずが怖い事を言い出す。否定したがったが、しようと思えばできるのでは?とカナタも思ってしまった。


「それはできない様です。調べた限りになってしまいますが、複製されたと思われる二類感染者はそれ一体しかいません。今のところは同時に何体も作る事はできないと判断します。」


しかしいつの間にそこまでの情報を集めていたのだろうか。確かに感染者と見るや突進する姿といつでも何かしらメモを取っている姿はよく思い出す。しかし同じ場所で同じものを見て来たのに……さすがは研究者といったところか。


感心していると、喰代はテーブルの上にカプセル状の薬の様な物を取り出して並べた。そのうち一つはカナタには見覚えがあるものだった。


「そしてまだ研究中ですが、これが抗生物質となりうる物です」



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