第32話その2
ついに、残りが1か月を切ろうとしている瞬間が訪れた。カレンダーは9月1日を示している。
ガーディアン渋谷支部はほぼ24時間で警戒を続け、何とかハロウィンを前に暴れようとしていた一部勢力に対応することに成功した。
しかし、ハロウィン前でこの状態のため、やはりというか『渋谷はハロウィン会場ではない』を周知徹底していくべきなのでは、とは思う。
ガーディアン以外では忍者構文の忍者がハロウィン前に出現し、炎上勢力等を一掃してくれる……と考えているようなつぶやきも散見されていた。
さすがにハロウィンにまで忍者構文の忍者が姿を見せたら……だが。
そんな中で、ガーディアンの定例会議は予想外の方向に行く。
『アバターシノビですが、若干の調整を行う方向になりました。今回のハロウィン前の深夜に現れた炎上勢力を踏まえ、もう少し微調整が必要かと』
新宿支部長であるシノビ仮面の発言は衝撃を持って迎えられた。まさかの展開、と言うのもあるのだが。
『調整? それは9月30日までに間に合うのか』
『9月30日はタイムリミットだ。9月上旬までに間に合わせなくてはいけないだろう』
『しかし、制作委員会は9月30日をタイムリミットと考えているかどうか……一部では分割2クールと言う話も』
『分割? まさか、10月は別物となり、来年の1月に……と言いたいのか?』
『それこそ、制作委員会しか知らないこと。スケジュールの遅延なども、ありえるでしょう』
他のガーディアンからも制作委員会の話が飛び出し、シノビ仮面もさすがに……と思う個所はある。
しかし、それよりもアバターシノビの投入時期が遅れる方が問題視されているといってもいい。
『さすがに忍者構文が2クールになるとしても、情報が足りなさすぎます。まずは、タイムリミットの9月30日……それまでに一連の決着が必要です』
シノビ仮面のいう事には一理あった。
名前の割に、忍者の忍装束を着るものと思っていただけに、いつものガーディアンの制服なのには周囲も驚くが。
『こういったニュースにはフライング情報やフェイクニュースを鵜呑みにして炎上するケースが多い。まずは、炎上勢力との決着が先でしょう』
『彼らが忍者構文を悪用し、便乗勢力として動いているのは明らかです』
『それが、渋谷支部の回収したと思われるAIからも……』
シノビ仮面の発言を聞き、秒の勢いで反応しようと考えた渋谷支部だったが、今のタイミングでは横やりを疑われるので、様子を見る。
『こちらから言えることは、ハロウィンに便乗した炎上勢力の掃討に使用した際、若干のノイズがあったことですね』
シノビ仮面の目線は、渋谷支部の支部長の方へ向けられている、つまり……。
「あのAIの能力が有用であれば、データも提供もするだろう。しかし、あのデータ……不確定要素が多すぎるのだ」
渋谷支部長は支部長室ではなく、別のサーバールームから会議に参加しており、そのサーバールームでは……AIの解析も進められている。
しかし、AIと言っても市販されているAIアバターと変わらない場所が多く、市販品とどこが違うのかも分からずじまいだ。
『不確定要素とは?』
「ここで言う不確定要素とは、運用方法についてだ。あのAIは色々な意味でも、何か違った運用を想定していた痕跡がある」
『さすがにサーバーをハッキング……ではないのだろう? では、どういう懸念をしている?』
「ブラックバッカラの事は知っているか? あのAIが最終的に何をしたのか」
『レインボーローズと月坂ハルカの二人に負けたのだろう? それ位は知っている』
「それだけでは満点ではありませんね。40点です」
『ブラックバッカラもAIのリミッターを解除し、それで挑んだ……違うか?』
「リミッターですか……それでも60点ですね」
『あの事件自体、他のプレイヤーがひそかに録画していたような違法性のある動画以外、ほぼ動画サイトにデータはないというものだぞ』
他の支部が言及しても、渋谷支部の発言は……かなり微妙な気配もする。
北千住支部長の言及もあるとおり、ブラックバッカラ事件のあの当日の動画に関しては正規ルートのものがない。
その当時参加していたプレイヤーのアップした動画の転載を繰り返したものしか存在しないといってもいいだろう。
「確かに北千住支部の言いたいことはわかります。我々ガーディアンが閲覧できる範囲の動画がない、と」
「でしたら、これをご覧ください」
渋谷支部長が指をパチンと鳴らすと、表示された動画にはブラックバッカラにノイズが走っているような画像が見える。
しかし、あまりにもノイズが多いため、ブラックバッカラの姿は一切表示されていないのだ。
逆に、レインボーローズとハルカの画像は鮮明に映し出されているのだが、どういう事だろうか?
周囲の景色を見る限りは、草加市のどこかと言うべきか。それを踏まえると、これは最終決戦の光景という事になる。
『映像が不鮮明では?』
『あれだけのことを言って、渋谷支部もフェイク動画を用意するとは……』
『動画が不鮮明? これは意図的に支部の方でノイズを作っているの間違いではないでしょうか』
『まさか、ネットガーディアンのサーバーから動画を違法に回収したとか?』
『我々を試しているというのか? 渋谷支部は』
他の支部も反論し放題だが、渋谷支部はあえてその反論に耳を傾けることはない。
明らかに周囲の様子を探っている、としか思えなかった。おそらく、彼は反応を見て……何かを狙っていたのである。
『他の支部の目は節穴か? レインボーローズとハルカの衣装はアニメ版のものだ。つまり……そういう事か』
この画像を出された段階で、シノビ仮面は何かを把握していたようにも思えた。
渋谷支部が出した映像、それはテレビアニメ版のPVだったのである。しかも、公式で配信されている30秒の予告映像だ。
「ご名答。さすがは新宿支部。我々が例の事件を確認できる映像は、残念ながらアニメ版以外はないのですよ。ただ一つの例外を、のぞいて」
渋谷支部は何か含みを残すような発言をする。これは何かを知っての発言だろう。
実際、渋谷支部長の言うとおり、ガーディアンや事件を知りえないような一般市民が目撃できる資料と言う意味では、あのテレビアニメ版しかない。
コミカライズのカラーイラストでも、漫画にするにあたっての脚色は行われるし、ノベライズでも細かい部分で違いはあるだろう。
仮のゲーム版なんて言ったら、結末だって異なってしまう可能性は絶大だ。
その上で、彼の言う例外とは……。
「北千住支部長、あなたならばお察しでしょう。足立支部の正体を知っているあなたならば、秋葉原本部が何故に彼らに対してだけ特権を与えているのかを」
あの映像を見てすでに何回か見たような反応を顔でしていた北千住支部長、彼ならば……と渋谷支部は大博打を仕掛けてみる。
『何か、アリバイや証拠をもって発言しているのであっても、それはあり得ない。確かに足立支部の正体を我々は把握している。場所的な要素で察したのかもしれないが、な』
北千住支部の方も別の意味で渋谷支部の狙いを探ろうとしている節はあった。
不在である草加支部、春日部支部は論外として、足立支部もサウンドオンリーで会議にはログインしているかもしれないが、反応は全くない。
それを踏まえて、彼らの正体を探るなら今、と判断したのだろう。
「やはり、あなたもですか……魔女と呼ばれたAI、その正体を探ろうというのは」
渋谷支部長は、北千住支部の行動を踏まえ、何かを考えているようにも見えるが……。
『ブラックバッカラは未知数かもしれないが、あの時に発見されたアレは魔女とは程遠い』
北千住支部の言うあの時とは、昨日一昨日のようなタイミングではなく、それ以前に回収されたと報告されたAIである。
忍者コスプレの一件とともに違法配布されていたAI、それを他の支部に探られることなく解析を行い、その結果として魔女とも関連性が薄いと北千住支部は判断した。
最終的に、あれが足立支部の手でハンゾウとして運用されたのは、もっと別の話にはなるが……。
「忍者コスプレの件で発見されたAIは、それこそ市販品に違法プログラム……チートと言った方が分かりやすいでしょうか。それを付与したものに過ぎない」
「そんなものを一般人が扱おうとすれば、どうなるかはすでに秋葉原の一件で体験済み、ですよね……足立支部長?」
この話の流れを聞いていた足立支部長にとっては、ぐうの音も出ない。
チートツールだったのかは不明だが、扱いづらいシステムだったのは事実であるのに加え、その結果もお察しの通りだ。
足立支部としては、あの時にコントロールが別人に移行した際に使用されたデータを探しているが……いまだ発見に至っていない。




