第31話その2
※2025年7月23日付
TALES版移植を受けた誤植修正。
一報→一方
「何という事だ。何故、動かなくなった」
ガーディアン足立支部、その地下格納庫では数メートルの巨大ロボットが若干放置の状態で置かれていた。
秋葉原の騒動で実験を行い、その後は修復中だった忍者ロボットのハンゾウである。
他のメンバーが再起動を行おうとしても、反応が全くないので、搭乗したメンバーもこの反応になっている。
パーツ交換などは行っており、装甲の傷もARアーマーという事もあるので若干のメンテナンスフリーな一面もあったが……それでも動かない。
あの時は緊急と言うか唐突に動かしたという理由もあるので、もしかするとその時に無理が生じて……と言う可能性もゼロではなかった。
「あの時に動かした人物、何かを持っていたような気もするが……」
足立支部の男性支部長が、ふと何かを思い出したかのようにつぶやく。
(パーツに関しても、例の回収騒動もあってか確保できた数は限られている。時間は残されていないというのに)
足立支部長もタイムリミットが一か月であることは把握している様子。
つまり、ガーディアンで慌てているのは一部支部に限った話ではなかったのである。
制作委員会、いったい何者なのか?
(何としてもこれを動くようにして、あのシノビ仮面に一泡ふかせてやる)
新宿支部、と言うよりもシノビ仮面の件はこちらの耳にも入っている。
彼らのやることに異論はないのだが、炎上勢力を根絶させるという意味でも手ぬるいと考えていた。
だからこそ、彼らは新宿支部に対して異議を唱えたのである。その証拠が、あの時に出したものだった。
(新宿支部、全てがお前たちの掌にあるものと思うなよ……)
足立支部は炎上勢力を一掃するという個所は同意するが、彼らのやり方は手ぬるい。
独自権限が与えられている足立支部だからこそ、できる芸当と言うのもあるが……ゴリ押しでは制作委員会に対して反応は悪いだろう。
しかし、Web小説サイトで流行のジャンルを取り入れ、それをリアルで再現しようというやり方にも賛同はしかねる。
だからこそのシノビ仮面とは違う手段を……と言う考えに至った。その点では新宿支部とは違う手段をとる、という事だ。
「やはり、そういう理由だったのか」
一方のキサラギのデスクで資料整理を行うスタンバンカーは、ある事実に気づく。
あの時にハンゾウを動かせた理由、あの時にブラックバッカラが出現した理由、あの時に青凪が狙撃されて退場した理由……。
すべてが制作委員会の意向に沿ったものではないか、という事だった。
それでも空振りした個所が存在し、そこは軌道修正がされているようにも見える。一連の騒動で、ピックアップされずに放置され、スルーされた案件だ。
結局、制作委員会が失敗したという要素は実写版で放置はされつつも、テレビアニメ版では修正されている。
テレビアニメ版自体、フィクションと言う事である程度は内容が変わっていたりはするものだが……。
(しかし、あのハンゾウと言う忍者ロボットは一体……)
テレビアニメ版では秋葉原騒動はない……と言うよりも、放送タイミング的にそこは触れられていない。
週刊漫画のアニメ化で掲載分を追い抜いてしまう現象はあるが、現状でそういった展開はなかった。
むしろ、制作委員会としてはアニメオリジナルでつなごうという気配は一切ない。あくまでも一連の事件は……と言う意味でも。
アニメの方はガーディアンが動き出し、主人公がダンジョン神のダンジョンへ挑み配信を行うところである。
ここで言う主人公は彼ではなく、テレビアニメ独自のオリジナルキャラ……にはなっているが。
この流れで、実はハンゾウと言うロボットは敵勢力のメカとして登場していた。いわゆるアニメオリジナルともいえる展開で。
ただし、現段階ではテレビで放送はされておらず、配信サイトの先行配信と言う形ではあるのだが……。
(アニメの方を見る限りでは、ハンゾウは蒼影のライバルメカとして何度か戦っていたりもするが……)
蒼影に関して言えば、SNS炎上勢力と戦っている印象であり、アニメのようにハンゾウのようなSNSと無関係に見える敵とは戦っていない。
おそらく、この辺りの仕様は制作委員会のシナリオ変更、もしくは改悪なのでは……とも思えなくはないが、真相は不明である。
「果たして、忍者構文はどのように動くか……この先が見ものだな」
色々と思う個所はあるが、下手に炎上させて制作委員会がリアルの修正に入るのはスタンバンカーが望む結末ではない。
制作委員会が政治介入したり、神の領域さえも改変するという展開は、あってはならないのだ。
(だが、タイムリミットが1か月を切ろうとしているのは事実だ。ここからどうするべきなのか)
スタンバンカーもタイムリミットは自覚している。それまでに決着しなければ、打ち切りと言うのはあるからだ。
打ち切りと言うのが、どういった意味なのかは分からない。制作委員会も打ち切りにならないように、様々な策を考えているのはわかるだろう。
SNS炎上勢力を一掃し、真のエンディングを迎えるためにも、これ以上の遅延は許されない。
炎上勢力こそは減っているが、その減り方はあまり関心出来るような規模ではないのは明白だ。
彼らの次の一手次第では、炎上勢力も本腰を上げるのは間違いない。
炎上勢力も、生き残るためにはここで抵抗を続行しなければ終わる、と言うのを自覚しているからだ。
一方で、ARパルクールの予備予選は順調に進んでいく。
特に妨害があるわけでもなく、順調に進みすぎているのは逆にフラグを予感させるといってもいい。
『以上で、予備予選を全プログラムが終了しました』
午後4時、まさかの順調すぎるような展開で予備予選が終了した。
これには周囲も驚いているが、大きな騒動にならなかっただけよかったのかもしれない。
逆に他のエリアではガーディアンが動くような案件があったようだが、ニュースで取り上げられるような事件はなかった。
以前のような電車の運転見合わせもなかったため、ニュース番組では今回のARパルクールの件をトップニュースで報道するのだが。
『今回の予備予選で予選通過ラインを突破したのは、20名でした』
最終的に予備予選は30名程が参戦し、そこから約10名が予選落ちとなった。
予選落ちとはいっても、通過ラインぎりぎり……わずか数秒の差だったのである。
別の予選だと通過できるラインでも、予備予選では有名どころのプロパルクールプレイヤーも数人いたため、そういった意味でも差が出た形だ。
(やはり、こういう差が出るか)
観戦していた祈羽フウマは、今回の予備予選は参加していない。すでに予選は通過していた、と言うのはあるのだが。
その一方で、ライバルの動向を見るために予備予選会場にやってきたのだが……その内容は自分の想像を凌駕していた。
下手をすれば、自分でも予備予選に参加していたら、通過できるような自身はない。それ位の熾烈を極めた予選だったのである。
予選と言う皮をかぶった本戦トーナメント、と言っても差し支えないだろう。
「本戦にもあるステージが導入されている以上、ここでこのタイムだったら……」
ARパルクールは、スピードレースと言う意味合いを持つコースとスコアを稼ぐ方が大きいようなコースと複数が存在する。
今回はどちらかと言うとスピードとスコアの両方をバランスよく導入したようには見えるが……。




