第29話その2
先ほどのインフルエンサーは、ホップがガーディアンへ通報し、引き渡しが完了した。
ただし、賞金の方は色々あって渡されることはなかったのだが……ホップがガーディアン春日部支部の支部長という事もあって。
賞金がもらえなかったことに関して不満を述べることはなかった一方、彼女は再び秋葉原へと消える。
彼に関して言えば、忍者構文などには関係ないインフルエンサーであり、特殊詐欺や転売などを商材として売っていた人物だった様子。
それをガーディアンが賞金までかけて指名手配したのかは分からない。その後、警察に引き渡されたようなので、そこから事件の全容は明らかになるだろう。
さすがに警察への引き渡しの様子を中継する事だけは行われなかったようで、映像は秋葉原を離れて東京に護送車が現れたあたりの部分が使われている。
そこから見て取れるのは、日本のマスコミがガーディアンを徹底的に隠していることだろう。
SNS上だとすでに存在することが判明しているのに、マスコミはガーディアンを隠したがる。一体、何の違いがあるのか?
ガーディアンはフィクションであり、実在しない組織だとでも言いたいのだろうか? 真相は謎のままである。
忍者構文は日本でのみネットミームとなっている様子で、海外では皆無と言える位に言及がない。
それも、今回の件と関係があるのは定かではないが……ブラックバッカラ事件との関連性は疑われた。
『素早い行動と言うべきか。渋谷支部長』
「さて、何のことでしょう?」
ガーディアン渋谷支部、そこでは渋谷支部長が別の支部長とテレワークで連絡を取っている。
別の支部長と言っても男性支部長であり、北千住、栃木、茨城、神奈川、千葉ではないだろう。新規支部か?
彼のテーブルに置かれているものを踏まえると、関東エリアの支部長なのは事実かもしれないが……。馬がモチーフのキャラだろうか?
なお、渋谷支部長のいる場所も事務室だが、他にも誰か人が複数人いるわけではない。全員出払っているわけでなく、別の階で作業をしているというべきか。
設置されているテレビに視線を向けている人物もいるが……支部長に興味はなく、彼はそのままテレビの方を見ていた。
『あのインフルエンサーは、警察も追跡していた特殊詐欺グループの主犯格と言う話を聞く。ざっくりと言えば、今まであった事件の特殊詐欺関係の全ての元凶だ』
「そうみたいですね。先ほど、テレビのニュースで速報をやっていましたよ。ガーディアンが確保した、と」
渋谷支部長は、テレワーク用のパソコンで会話をしている中、事務室のテレビで国営のニュースを流しており、そこで特殊詐欺グループのメンバー大量逮捕のニュースが流れていた。
人数単位は言及されていないが、今回の主犯格逮捕で全体の99%の関係者は数日中に逮捕されるとも明言された。
これによって特殊詐欺が日本からなくなる……という流れになるかは不明だが、最低でもこちらでは言及されなくなるだろう。
(おそらく、向こうが言及しているのはあの発見情報を全くガーディアンと無関係の第3者へ通報したことだろう)
渋谷支部長は彼がどのような件で言及したのかは、速攻で分かった。その一方で、何故にその情報が外部に漏れることになったのかが分からない。
ガーディアン専用スマホなどで有ればログで即バレするのだが、そういったスマホなどで通信した記憶は渋谷支部長には一切なかった。
『君も新宿支部のように日本のトータルバランスを崩す気か?』
「何をもってバランスというのでしょうか?」
『その辺りの押し問答をするような時間はないはずだが、渋谷支部長』
「でしょうね。こちらも無駄だと分かっているような世話話をするため、わざわざ回線を通じて話をしているわけでもない……」
まさか、向こうも新宿支部の名前を出してくるとは……。激怒しているような表情ではなく、若干呆れているとも見て取れるだろうか?
彼の反応を見れば、何となくだが今回の連絡内容も察することができるかもしれない。
『特殊詐欺グループに忍び込ませて情報を流しているスパイが一部でいる。そちらの存在をグループに感知されたら、それこそ国外逃亡も……』
「海外の特殊詐欺グループに関しては、ガーディアンの管轄外です。我々は、あくまでも日本の平和を守ること」
『活動範囲は日本のみとする……確かにあの最大のルールを破るつもりはない。しかし、警察も国外逃亡をされると厄介だと思うぞ』
「ガーディアンとARガジェットにかかわった以上、彼らは国外逃亡することはできない。それを海外へ持ち出せば、それこそ産業スパイのレベルで犯罪者となるでしょうからね」
『よく考えられたシステムだと思うよ。日本以外への進出を侵略行為などと言及するような組織は』
「分かっているならば結構。今の話は、聞かなかったことにしましょう」
ガーディアンの管轄エリアは、あくまでも日本と定められており、それを破ることはできない。
支部長の設定できるルールでも、日本以外のエリアへ手を伸ばすことは侵略行為とみなされており、それを設定する事はできない。
『それもやり方を間違えれば、恐怖政治、もしくはディストピアと化すだろう。何事も匙加減は必要なのだ』
「たしかに、匙加減は必要でしょう。塩を入れすぎてしょっぱくなっては、そこから調整するのは難しい」
『新宿支部はガーディアンをコンテンツ化し、日本の炎上勢力を一掃しようとしている。お前は、どうなのだ? 渋谷支部長?』
話をしていく中で、渋谷支部長はうまい具合に色々と流すのだが……それでも流せないような話もある。
ガーディアンの権限の話にまで及ぶと、それは自分でも管轄外で、それこそ秋葉原本部長のテリトリーだろう。
そこで、彼は一呼吸おいて……宣言した。
「炎上勢力の一掃は同じです。しかし、それはガーディアンが為すべきことではない。ブラックバッカラ事件でレインボーローズと月坂ハルカが状況を打開したように、今回の忍者構文もガーディアンとは別勢力が解決するのがふさわしい」
ガーディアンはあくまで主役ではない。渋谷支部にとって、ガーディアンはいわゆる彼らがメインで動けなくなるであろう第3勢力を排除する役割なのだ。
しかし、他のガーディアンは自分たちが主役になるといわんばかりに行動している。それが、渋谷支部にとっては都合が悪かったのかもしれない。
「噂では忍者構文のサポートメカ3体は、蒼影と名乗る忍者が確保したという話。ますます面白いことになっていくじゃないですか……」
その後、いくつかの会話を交わしつつも、支部長とのテレワークを終了した。
(どちらにしても、忍者構文の話題に第3勢力のインフルエンサーが利益を稼ぐために出没する。その状況だけは何とかしなければいけない)
たとえ、それが瞬時に一掃されて存在すら抹消されるような存在で有ろうと、忍者構文というコンテンツを阻害するような存在であれば……という事を渋谷支部長は考える。
新宿支部が何を考えているのかは不明だが、向こうも似たようなことは考えているだろう。手段に関して言えば、明らかに違うのだが。
一方で、春日部支部長のホップはレトロゲームソフトを探すのだが、このあたりだとそこまでレアなソフトがない。
あるにはあるが、その値段は数十万から数百万というものまで……インフレにでも突入したのだろうか?
配信されているタイトルであれば、そこまでして買う必要性があるのか……と言う話になるかもしれない。
場合によってはダウンロード版を取るべきなのだろうが、実機で触れたいので実機のソフトを求める……そんな気配だろう。
中には初期版限定でしか再現できないバグ技、アレンジもされていないオリジナルのBGMやビジュアル、そういった思い出補正もあるかもしれなかった。
しかし、秋葉原のレトロゲームソフト店でこの状態なので、他に行っても同じだろう、と思ってしまいがちである。
(そうか。ここ最近はあの場所が出来たから、逆に秋葉原が穴場になっているのか)
ホップがふと思い出したのは、オケアノスと呼ばれる大規模なゲーム関係のショッピングモールだった。
その場所は草加市であり、草加駅からバスも出ていたりするが、その規模は某舞浜のアミューズメント施設レベルの広さと内容を誇る。
7月及び8月は夏休みを利用し、一泊二日のツアーを企画するような旅行会社がいる位にはオケアノスが有名になっていたのだ。
だからこそ、逆に秋葉原は隠れた穴場という認識をされているのだろう。それでも、オケアノスを知らない海外観光客は秋葉原の方へと向かうだろう。
そのおかげもあってか、ガーディアンが本部を作って活動を広げられるような流れになったし、今の秋葉原の治安はガーディアンが守っているもの、と言われても過言ではない。
電気街としては秋葉原がいまだに強いが、レトロゲームなどの特定ジャンルはオケアノスに譲る……と言う気配か?
それでもアニメ関係は秋葉原が優秀だし、ゲームセンターの活気もいつぞやと比べるとある程度は取り戻しつつある。
オケアノスが草加市にオープンしたとしても、秋葉原が今まで築き上げてきたものすべてが奪われたわけはないのだ。
「ガーディアンが守りたかったもの、か」
ホップは彼女……草加支部長であるアルストロメリアに以前言われていたことを思い出した。
『ガーディアンが守るべきもの、ガーディアンが奪ってはいけないもの。それは、自由。守るべき自由はある。その一方で、奪ってはいけない自由もある』
『忍者構文が拡散している現状でも、それを悪と断じて一掃することは簡単だと思う。しかし、それはガーディアンが一番やってはいけない事』
『ガーディアンの活動エリアを日本に限定していることは、決して悪い事ではない……と思う』
蒼影が竜のサポートメカまで入手した辺りで、ブラックバッカラ事件と関連付けているまとめ記事を発見し、アルストロメリアは、こうも言っていた。
忍者構文の忍者も炎上勢力を一掃することはガーディアンと同じかもしれないが、実際には違っていた。彼らは、自分たちが原因で炎上案件が拡散することを恐れたのだ。
自分たちがきっかけで炎上勢力が自分たちの範囲を離れ、ガーディアンのテリトリーへと進出する……それを恐れているのでは、と。




