第28話その3
ついに獅子、竜、鳳凰のサポートメカが蒼影の手に渡った。
最初に言及したのは、忍者構文の有名どころではない。まさか、別ジャンルのまとめサイトとはだれもが予想しなかったのである。
これに関して予想外のネタバレを見たことで炎上することなく、だからと言ってガーディアンによって閉鎖されたわけでもなく……。
「どういうことだ? あのまとめサイトは忍者構文を扱っていないはずなのに」
その末路は、何と別の忍者によって消されるという展開となった。これに関して言えば、蒼影はノータッチである。
「まとめサイトごと消滅するとは、何かがおかしい。別の案件で訴訟……と言うわけでもなさそうだが」
忍者構文を調べていたガーディアン北千住支部や同じく春日部支部も、この不自然ともいえる消滅には疑問を持たざるを得ない。
特に春日部支部は、調べている案件のデリケートなこともあり、訴訟リスクを抱えて消滅した路線も考えるが、それも違っているだろう。
訴訟を受けて消滅したまとめサイトは他にもあるが、消滅理由は忍者構文を扱ったからではない。
むしろ、彼らはガーディアンとは別の勢力に消されたのが有力ともいえる。
「あのサイトの扱っているものを踏まえると、今回消されたのは忍者構文に便乗……とは考えにくい」
蒼影の偽物、もしくは……と考える春日部支部のメンバーだが、今は別件の手がかりを見つける方が先だ。
しかし、その別件以上に、この件が重要になってくるとは、他のガーディアンも思っていなかっただろう。
「馬鹿な! 我々の計画が、筒抜けだったというのか? 忍者構文に」
とあるバーチャルダンジョン、そこで何かの準備をしていたと思われる炎上勢力は、蒼影の出現に驚いていた。
この計画自体、ガーディアンはもちろん、警察にも知られていないような物である。
警察も地味に調査はしていたようだが、ガーディアンよりも大きく遅れを取っていた……ARゲームに関しては非干渉を決めている事に踏まえ、少し前の転売ヤー事件も再調査をしている位だから。
それが、このような形で見破られていたことには言葉に出来ないほどだったという。
警察に見つからない事がガーディアンに察知されていないとイコールにしていたこと自体、彼らにとってはフラグを立ててしまったのかもしれない。
冒険者の外見を踏まえると、明らかに炎上勢力とはわかりづらいようなカムフラージュもされているのに、それさえも見破るという意味で、蒼影には神の目でもあるのでは……と疑われていた。
そして、相変わらずだが蒼影は何も語らない。たとえ、炎上勢力が何を言おうとも言葉で返すことはない……と思われていた。
『計画? この程度で計画と言っているのは……非常に甘いと言わざるを得ないわね』
まさかの声が聞こえたことに驚くのは、炎上勢力の方だ。
しかも、ボイスチェンジャーを使った形跡もない女性の声、どういうことなのだろうか?
蒼影は喋らないはずでは……というのもSNS上での認識だが、それも過去のものである……と断言されてしまうのか?
「あの忍者は偽者だ! 本来、あの忍者は喋らない」
「そういう事か。他の炎上勢力を襲撃していた方も、喋らない無言の忍者だった。つまり、あれは便乗勢力のなりすまし!」
「やはり、あの便乗忍者は……そういう事か」
周囲の炎上勢力も、同じようなことを思っている。
忍者構文の忍者コスプレが少し前に出回っていたことを踏まえて、アレを利用したと考えている可能性も高いだろう。
だからこそ、周囲も目の前にいるのは偽者である、そう思い込んでいた。
つまり、目の前の忍者は忍者構文に便乗した別存在である、と。
実際、忍者構文コスプレを販売していたメーカーは既にガーディアンが摘発し、流通していたものも回収されているのだが……転売ヤーの情報レベルは遅れていると断言せざるを得ない。
『私は便乗忍者でもなければ、コスプレイヤーでもない。本物の忍者……』
蒼影が喋ること自体、やはりというか周囲には認知されていなかった。SNS上でも忍者構文サイトでも、忍者大喜利でも喋る話題は触れられていないのに。
忍者構文の忍者は喋ると言及し、炎上した発言者がSNSを引退した……というような話題もない以上、忍者構文の忍者である蒼影が喋らない事が当たり前、と言うのもいわゆる同調圧力でそうなったのだろう。
それに加えて、なりすましなどを疑う声もあることから、目の前の蒼影が本物とは認識していない様子。
「本物だと!? ならば、神にも匹敵するようなその力を発揮してみろ!」
やはりというか、本物と信じられない炎上勢力&転売ヤーが目の前の蒼影を煽る。
(忍者構文は神ではない……)
目の前の忍者が実は月坂ハルカであることも、知られていない。
ブラックバッカラ事件を解決させた英雄と、忍者構文の忍者の組み合わせは、別の意味でもチートと言わざるを得ないだろう。
当然ながら、蒼影はいわゆるロボットであり、ハルカはそれに乗り込んでいるわけだが……。
『そこまで言うのであれば、蒼影の力……見せてやろう!』
右手をパチンと鳴らすと、次の瞬間に上空に現れたのは、鳳凰のサポートメカだった。
その形状はフェニックスとも形容されそうな姿をしているが、所々にロボットの腕になりそうな個所などが見えた。
ダンジョンに天井があることを踏まえれば、鳳凰が入ってこられるようなスペースはないのでは……と思われるのだが、現れた次の瞬間にはロボット形態へと変形している。
更に付け加えれば、ロボット形態から、脚部が一部変形及び分離をして大型の翼に変化、腕はさらに変形して大型のアームになり、それが蒼影のバックパックに装着された。
【蒼影・凰翼刃】
この文字が映像化したらテロップで表示されているかのような姿とも言える蒼影、ある意味でも獅子と竜に続く第3の強化形態ともいえる。
手に持っている刀は鳳凰形態で翼となっている部分が刀となっているわけではなく、ロボット形態の脚部が一部分離したパーツがビーム刃の刀になっているというべきか?
その後、放たれた一太刀が全ての転売ヤー勢力をポリゴンの塊へと変化させ、瞬時で一掃することに成功した。
描写節約という意味で転売ヤーは一掃されたのではない。単純に蒼影にとってはかませ犬に過ぎないからである。
(これが別ジャンルの転売ヤーなのは明らかか。それに……)
ハルカは、この転売ヤーが売ろうとしていたものがARチャフグレネードではなかったと知ると、すぐに姿を消した。
あとはガーディアンなどが対応してくれるだろう、と。
一連のバトルが終わった後、ハルカはVRガジェットのログアウトを行い、一休みすることにした。
彼女の場合、VRダンジョンをコントローラーやVRメットを使ってアバターの操作をしたわけではない。
動かした手段は、何とパソコンのキーボードである。さすがにマウス操作でダンジョン探索と言うと、それはブラウザゲームになってしまうだろう。
VRダンジョンに関しては没入感を優先するためか、マウス操作やコントローラーのような部類は使用できない場合がある。
あくまでも使えないケースがあるだけで、禁止されているわけではないのだが。
「これが、VRダンジョン……」
ハルカは改めて、ダンジョン探索の難しさを知ることになった。ダンジョンをフィールドとしたようなゲームとは異なり、様々な部分がゲームと違う。
当然だが、今までプレイしたどのゲームとも挙動やプレイスタイルは異なるだろうか。
さすがに完全な切り替えが必要かと言われると、そうではない。蒼影のフォローが入るのもあるが、それ以上に……。
(まさか、こういう仕掛けがあったとは)
蒼影の操作感覚は、あの時に見たアレと全く同じだったのである。
秋葉原の、あの時と同じ……。
『次のニュースです。不正なチートツールを転売しようとしたとして、少年グループが逮捕されました……』
『この少年グループは闇バイトに応募し、VRダンジョンで使用するアイテムを増やしたりするツールを販売、数兆円の利益を得たと……』
『VRダンジョンでは、不正ツールに対して対策をすでに実行している中で発生した今回の事件を受けて……』
様々なテレビ番組をザッピングしているが、同じニュースばかりで微妙な表情をしていたのは、ゲーミングパソコンショップから草加支部へ帰ってきたばかりのアルストロメリアだった。
ザッピングしたタイミングがタイミングなので、別々のニュース番組なのに、その内容はつながっているようにも見えるだろう。
「闇バイトで数兆円の利益なんて、これをノンフィクションの現実と受け入れる人たちがいるのか……疑わしいわね。自分の言えたことじゃないけど」
ARゲームで使うARウェポンやARガジェットなどに不正ツールのチップを埋め込み、爆発的な性能を持ったプレイヤーとやりあったこともある彼女なので、非現実的な世界には慣れすぎているのだが。
それでも、彼らのやっていることは立派な犯罪であり、下手をすればこの技術が軍事転用される危険性さえあるのだ。
ガーディアンはそれを認識したうえで、ガジェットを使っている現実が存在しているのだが……知っているのは、わずか一握り。




