第27話その1
学生たちが夏休みの宿題に追われることになるであろう、8月下旬にまで少し時間を巻き戻したい。
何故戻すのか、それには別の理由があるのだが……後程説明しよう。
実際、この辺りで秋葉原の忍者騒動が展開されていた。ガーディアンが表舞台で本格的に動き出したのも、この辺りか?
あの小説版は時系列が意図的に曖昧化されていたのである。もしかすると、ノンフィクションと疑惑を持たれるのを防ぐ狙いがあったのだろうか。
さすがに小説サイトでも実在の事件を題材とすれば作品が削除されるケースも、なかったわけではない。
実際、とある三億円の強盗事件も……その関係で削除されたといってもいいだろう。
彼らにとって、都合の悪いことを削除するという意味ではなく、別の理由で消されたのが有力だが……公式発表はないので、そのまま放置する。
それらを踏まえ、時系列を変えたのは実在の事件と思われないようにするための戦略なのでは、と言われていた。
忍者構文も、そういった疑いをかけられることが想定されたからこそ、意図的にどこかでフィクションを織り交ぜ、拡散され続けていったのだろう。
一方で、それを悪用してアフィリエイトを稼ごうとした勢力が自滅したのは、有名な話だが。
そういったメンバーの1人が、埼玉県でとある物を売りさばこうとした青凪なのかもしれない。
迂闊にフェイクニュースを真実のニュースと思って信じたばかりに、足をすくわれたといってもいいだろう。
青凪がガーディアンに拘束された件も、一部からは陰謀論と言われていた時期もあったが……真相は定かではなく、ソースも不明だ。
「この小説版と言われる記述、本当に原作者本人なのかも疑わしい」
そう呟きながらも『アバターシノビブレイカー』をチェックするのは、ガーディアン新宿支部のメンバーである。
彼は、いわゆる情報班ともいえるメンバーで、彼が支部長に集めた情報を提供していた。
情報を集めていた場所は新宿支部内である。先ほどの冒頭の文章も、小説本編内の記述だ。時系列戻しの一文以外は……だが。
彼を含め、わずか数人規模しか事務所にはいないので、ここもテレワーク主体の場所と言えるかもしれない。
「それを踏まえると、まだテレビアニメ版の方が事実にも若干近い個所がある。小説版を名乗る原作が複数あるのも変な話だが」
似たような現象はブラックバッカラ事件でもあり、どれがテレビアニメの原作なのか……とまとめサイトで話題になったこともある。
タイトルが同じだけで実は違う作品だった、というような事例はゼロではないので、もしかすると……はあるのだろう。
「一体、何が起きているというのか……」
彼に関しては、新宿駅の電車運転見合わせの一件で何かが……と思って検索をした結果、小説版とされる『アバターシノビブレイカー』を発見する。
しかし、この作品には決定的な何かが抜けていた。それを踏まえると、内容的には忍者構文と同じ便乗内容であると判明していく。
『今回は、まさかの西新井に出来たARダンジョンからお届けします!』
西新井のARダンジョンを訪れるダンジョン配信者は様々であり、新人やプロダンジョン配信者と言ったような人物も訪れる。
中には、彼女のようなVTuberも訪れることがあるのだが……どういった原理でダンジョンにVTuberを投影しているのかは謎ともいえるだろうか?
「システムの方は順調のようだな」
株式会社オケアノスのスタッフらしき男性が、各所の中継動画などをチェックし、順調な滑り出しであることに感心する。
他にもスタッフがいそうな気配だが、実は彼以外にはわずか数人で運営しているのだ。そのほとんどをAIがサポートしている形である。
受付や接客担当は数十人配置されている一方で、別の意味でも衝撃的な光景と言えるだろうか。
その証拠に、このチェックルームは広さが学校の教室と同程度であり、それだけサーバールームやダンジョンの方にスペースを割いていた。
サーバールームは、ダンジョンよりも上に配置されており、大雨対策や停電対策も施されている優れモノだ。
これだけのダンジョンを人力で運営するとすれば数十人以上は必要になるかもしれないし、それに加えて様々なバグ修正も同時進行……ある意味でも大変と言える。
「順調ではありますね。あまりにも順調すぎて、別所のダンジョンで発生した忍者の出現もあるのでは……」
AI関係の管理をしている男性スタッフも、順調ではあるのだが何かが起こってもおかしくはない、と思っている様子。
以前にあった忍者騒動、オープン前に発生した秋葉原の忍者騒動……それを踏まえると忍者というワード自体を過剰反応しがちではある。
しかし、ARチャフグレネードの一件を踏まえると、ARダンジョンの営業妨害を考えるリアルダンジョン信者もいるかもしれない。
だからこそ、彼は忍者の出現もあるのでは、と発言したのだろう。
「忍者か。秋葉原のアレはニュースになっていたようだが、テレビでは特に流れていなかったな」
SNS上では忍者の出現が話題になっていた一方、テレビの方は別の話題に差し替えられていたような気配がした。
確かに電車の運転見合わせもあって、そちらは報道していたように見える。その一方で、原因は鉄道会社でも発表していないため、そういう事なのだろう、と。
「なんでしょうか。いずれ、大きな動きがあるとか?」
「動きがあるとすれば、あの事件以来か」
「あの事件?」
「分からなければ、それでいい。世の中には知るべきではないようなことは、山ほどある。知ってから引き返すことができないことだって多いからな」
オケアノスのスタッフは、男性スタッフからあの事件に関して分からないという趣旨の発言を受けて、あえて語るのをやめている。
会社としても、あの事件は売り上げという意味で話題にはなった一方で、別の個所が痛手を受けた。
しかし、その話題は闇に消えたといってもいいほどに言及されていない。ガーディアンの介入もなかったのが理由のひとつだが。
その事件とは、ブラックバッカラ事件の事である。
(やはり、あの事件が与えた影響はいまだに大きいか)
テレビアニメにもなっていたりはするが、それでも実際にあった出来事であることを受け止めるにはよほどのことがない限り……というのが、ブラックバッカラ事件である。
ノンフィクションがフィクションを超えてしまう現象はスポーツ漫画などで見るようなケースだが、最近では将棋ライトノベルでもその現象は起きてしまっていた。
ブラックバッカラ事件、その内容はAIアバターとリアルのプロゲーマーによるARゲームバトルであり、人間がAIに勝利した……。
その詳細を、仮にスポーツ漫画や将棋ライトノベルなどのノンフィクションのフィクション超えを踏まえたとしても、現実を受け止めようとするものはいないだろう。
AIイラストなどのAIに関係した問題もすべて解決したとは言いづらいような、令和の世界でAIが人間にゲームで負けるなんて、という結果を受け入れ拒否しているAI信者もいたからだ。
(今回の事例がフェイクニュースと思われているうちに、炎上が広がらないような状態にするのが……ベストかもしれない)
オケアノスとしても様々なSNS炎上を見てきたし、ライトノベルやWeb小説でもそうした作品を目撃している。
何としても、コンテンツ流通を妨害する存在が現れる現象を解析し、炎上勢力をいち早く対応可能なシステムを確立を急いでいた。




