第23話その1
ブラックバッカラと名乗った人物は、その後にガーディアン新宿支部を後にする。
そして、新宿支部を出てから駅へ向かおうと裏道から行こうとした矢先、ある人物が目の前に立ちふさがった。
「お前が、何故にここにいる!?」
制服を見る限り、ガーディアンのメンバーだろう。肩のマーキングなどを踏まえると、北千住支部か。
複数ではなく、彼が単独で姿を見せた以上、そういうことかもしれないが。
持っているARガジェットのロングソードも若干震えている所から、素顔の見えないこの人物に関して正体を間違えている可能性もゼロではなかった。
『一つ勘違いしていないか?』
「勘違いだと? お前がブラックバッカラ事件を引き起こした張本人じゃ……」
ブラックバッカラを名乗っていた人物は、右手の指をパチンと鳴らし、それと同時に彼の背後には全長3メートル位の正方形コンテナが出現する。
更に言えば、そのコンテナが開いたと同時に姿を見せたのは……白い忍者を連想させるロボットだった。
忍者ロボットと言えば、蒼影のイメージがある。
しかし、この忍者ロボットは白をベースとし、ヘッドのデュアルアイ以外は忍者というには何かが違う。
もしかすると海外の忍者ものであるような意匠が細部にあったのだ。
『それに、君たちが複数人ということも分かっている。その手の震えが、動かぬ証拠だ』
ブラックバッカラと別人らしい人物は、メットのセンサーなどを利用し、待ち伏せされていたこと、複数人でいること、ガーディアンを偽装していることも見破った。
『ガーディアンの抗争を偽装しようとしても無駄だ。ガーディアン同士で抗争を行う事が禁止されている……それを知らないとは。にわかにもほどがある』
ブラックバッカラとは明らかに別人な人物は、メットのボタンを左手で押したと同時に、背後にある忍者ロボットのコクピットハッチ部分が開き、そこに飛び乗った。
その後にハッチ部分が閉じたと同時にロボットが起動し、瞬間的にコンテナから姿を消す。
「起動までに1分もかからずに動かせるロボットなんて、フィクションの世界じゃないんだぞ!」
他のガーディアンに偽装していたメンバーも現れ、忍者ロボットを探すが発見できない。
やはりというか、彼らの正体は暴露系迷惑配信者で、独自でガーディアンの特ダネをつかみ、配信で暴露しようとしていたらしい。
しかし、そうした考えを持った段階で、この作品では……瞬間的にかませ犬と化す。
一方、新宿支部と接触した本物のブラックバッカラはどうなったのかというと、無事に新宿駅へたどり着いていた。
どのタイミングで入れ替わったというわけではない。これは単純に暴露系迷惑配信者がフェイク情報に引っかかったためである。
フェイク情報を拡散したのは、他でもない新宿支部だ。目的は当然ながら、ブラックバッカラとの接触を隠すため。
当初としては、他のガーディアンの動向をかく乱するために拡散していた情報だったが、まさかの炎上系配信者を一掃に利用できたとは。
『まさか、ガーディアン側もフェイクを流していたとは』
ブラックバッカラは周囲を見回しつつ、ARメットに手をかける。
この時は、まだボイスチェンジャーのスイッチはONなので、設定している男性声だった。
さすがに新宿駅内ではARメットをかぶっていると、別の意味でも犯罪者と間違われる可能性があるだろう。
それに、新宿駅ではARカメラや投影装置はない可能性がある。秋葉原駅には常設されていたようだが。
「フェイクニュースにはフェイクニュースで、とは言いたくないが……」
メットに手をかけると、次の瞬間にはメットが折りたたまれる状態となり、そこから見えたのは……草加支部のVTuber女性配信者だった。
まさかの正体というべきだが、彼女は松原団地の方には向かっていないメンバーの一人でもある。
違いで言えば、松原団地へ向かっていたのは大手のVTuberであり、彼女は個人勢という違いだ。
個人勢なのと、配信はアバターを用いているので素顔を見たとしてもすぐに分かる人はいないだろう。
さすがに顔バレしているVTuberがガーディアン所属だったら、逆の意味でも炎上しかねない。ガーディアン所属という意味で。
「まさか、向こうもARメットに細工をしていたなんて……思わないよね」
彼女が使用したARメットにはちょっとした細工があり、新宿支部のあるシステムにも干渉していたのだ。
それもあって、アポイントメント以外は全てシステム干渉したシナリオ通りに、話が進んでいたのである。
なお、ブラックバッカラのAIデータをARメットにインストールしていたのは事実であり、そこは嘘ではない。
「さて、新宿支部の狙いも分かった以上、次は渋谷か、足立支部か……」
『その必要はありませんよー。そこまでやる必要性がなくなったからです』
唐突にインカムから聞こえてきた、甲高いようなテンション高い声は、商業大手VTuberの声でもあった。
そういえば、彼女も草加支部のガーディアンメンバーだった、と思い出しつつも反論は避ける。
『新宿支部から、これ以上の探りを入れる必要性はないという連絡が来ました。タケの一件とか、あるかもしれませんが』
「タケの一件? あれも偽装ガーディアンの仕業という風には聞いているけど」
『偽装ガーディアンは否定しませんが、今回現れた非公式の不正手段で得たようなコスチュームでの裏バイト的な奴と一緒にするのは、向こうに迷惑だと思います』
(??)
『青凪を襲撃した偽装ガーディアンは、公式コスプレなのです。正規ルートで流通している』
(正規流通? ますます謎の世界ね)
『まぁ、VTuberでも裏で違法なアバターで運用している人もゼロではないと思いますが……。例えば、とある違法アバターツールで運用されているアバターとか』
(アバターのツール? それは初耳ね)
反論はするだけ無駄なのだが、偽装ガーディアンに関しては思う部分もある。
それを踏まえて質問しても、その回答は彼女の思考領域を超えていた。明らかに理解できない領域なので、聞き流す。
『噂によると、そのツールを使えばAIを使用したVTuberも容易に作れるって話ですけどね。自分は、テストしましたが……』
「もしかして、商業VTuberでアバターが流用なの? あなたが?」
『それが発覚したら、即引退だけでなく逮捕は確実でしょう。噂ですよ、噂……』
「炎上系や暴露系配信者が動いていたのは、それも理由?」
『どうでしょうねー。自分にはさっぱり』
(これだけ言っておいて、しらを切るつもり!?)
話が若干かみ合わないのは両者ともに自覚はしているが、電車の時間もあるので通話も適当に終わらせ、彼女の方は草加へ戻るために電車に乗る。
ARメットは被っているとアウトだが、スーツに関しては問題視されない。
実際、ARスーツの着替えブースがあるようなARゲームエリアは限られているからだ。




