第22話その2
同じタイミングで、雪華ツバキは自宅のテレビでニュースを回しつつ、夕食の準備をしていた。
準備といっても自分で料理を作るわけではなく、コンビニ弁当と冷凍食品の組み合わせだが。
姉も不在で、家にいるのは自分だけというのもある。両親は仕事、妹は買い物に出かけていて不在だ。
『次のニュースです。新宿駅で原因不明のトラブルで全ての電車で運転見合わせが出ております』
男性キャスターが原稿を読み上げるが、そのテンションは慌てているのが分かるだろう。
ツバキはテレビの画面を見ておらず、今の視点は電子レンジに入っている冷凍のコーンクリームコロッケに向けられていた。
「新宿? そういえば、ロケが近くであったような……」
父は中堅どころのアクション俳優で、今日はロケで帰りが遅くなるとも言っていた。
妹も、確か父に同行しているわけではないのだが、買い物で新宿辺りを回ってくる、と言っていた気配もする。
姉に関しては副業としか言っていないので、どこに行ったのかは不明だが……。
『こちら新宿駅です。先ほど、電車の運転は再開したようですが、それでも10分ほどの遅れが出て……』
ツバキがテレビの方に視線を向けると、新宿駅の中継画像に切り替わっており、そこでの中継で運転自体は再開した様子。
それでも遅れが生じているのは事実で、テレビ局の方も取材を続ける。
時間帯が時間帯なので、通勤客に直撃したともいえる状況で、新宿駅では入場制限もかけられていた。
どちらにしても、午後5時か6時位までは混雑を避けられないだろう。
(本当に戻ってこれるだろうか)
妹もだが、家族全体で新宿駅の運転見合わせの直撃を受けたら……という心配はある。
しかし、姉に関しては新宿駅には無縁な場所にいることを、ツバキ本人は知らない。
ツバキが夕食を作っている際、ツバキの姉ことアルストロメリアはガーディアン草加支部へと戻っていた。
「他のメンバーも含めて、特に怪我がないようでなにより」
負傷者が一切いないことに関しては安心している一方で、一部の情報は他の勢力に持ち去られたのでは、と考えている。
「まぁ、その間も自分が留守番でしたけどね」
VTuberをやっている男性メンバーが、事務室に入ってきたアルストロメリアに話しかける。
「誰か留守番がいないと、非常事態になったら困るからね。うちの支部はメンバーは多いけど、副業持ちが一番多いから」
「人のことは言えないでしょう。そういうルールを作ったのは……」
「わかってる、わかってる。そういうルールにしたのは支部長だって言いたいのでしょう?」
「分かればいいんですよ。わかれば。それがガーディアンのルールですから」
男性VTuberとアルストロメリアが会話をしている中、他のメンバーも戻ってくる。
しかし、格闘家の男性メンバーはトレーニングのために離脱、女性アイドルVTuberも大手企業のビルへ向かうために離脱していた。
他のメンバーといっても、副業があるのでそのまま現地へ向かう事が多く、出動していたメンバーで戻ってきたのは、アルストロメリアとホワイトハッカーのみだったのである。
「格闘家の人たちはわかりますが、それ以外の人たちもですか?」
事務所に戻ってきたのがホワイトハッカーだけだったので、留守番をしていた男性VTuberは驚くしかない。
草加支部って、ここまでフリーダムだったのか、という意味でも。
同タイミングで春日部支部、松原団地の会社からから回収したサーバーの分析作業は明日からになるだろうが、一部メンバーは事前チェックを始める。
下手にブービートラップが仕掛けられており、データが消えてしまったら回収した意味がない。
別のサーバーとしては使えるだろうが、そうなるとデータ復元は難しいだろう。
「サーバーに使われているレアメタルだけでもかなりなので、万が一にデータ復元が失敗しても、売れるのでは?」
「冗談はやめてくれないかな。確かにガーディアン動かすのに数百万は予算が必要かもしれないけど」
半分冗談で男性メンバーが支部長のホップに話しかけるが、ホップは若干呆れかえっている。
「もしかして、失敗前提でしたか?」
「さすがにそれはないよ。フラグじゃあるまいし」
二人で話を続ける中、この空気に春日野タロウは入ってもいいのか、若干問いかけようともしたが、離脱することにする。
捕まえた男性スタッフの方も春日部支部で治療を行っているらしいし、自分の出る幕は終わっただろう。
「はい、新宿支部……」
新宿駅で電車の運転見合わせが発生し、そちらへ人員が割かれているのは新宿支部だった。
その中で、ある人物からの連絡が支部長のもとへ……。
『松原団地の件は、まさかの組織が一枚かんでいたらしい。おおよその見当はついているだろうが』
スマホの電話主は、今回派遣したガーディアンメンバーの男性だ。
結局、出番はなかった……との事らしい。
「足立区のガーディアン辺りがちょっかいを出している可能性を疑ったが、そうではないのか」
『確かに彼らも動いていたようだが、新宿駅の方へ人員を割かれていて、それどころではなかったようだ』
「ところで、草加支部の戦力はどうだ?」
『強さの桁が違う。おそらく、全ガーディアンの中で最強の戦力が揃っているのは、間違いなく草加支部だ』
「その話が聞けただけで、送り込んだことの意味があった」
『渋谷支部も新兵器を持ち込んでいたみたいだが、不発に終わったようだ』
報告で渋谷支部というワードが出てきた瞬間、新宿支部長は何かの疑問を持つことになる。
他の支部でも所持していないような新兵器が渋谷支部やこちらへ流れることがあるのだろうか、と。
もしかしなくても、足立区のガーディアンで試験運用中のものを渋谷支部が何らかの形でレンタル……もゼロではない。
「渋谷支部の件は、こちらでも調べよう。おそらく、こちらも無関係ではない」
『無関係である、と祈りたいな。そして……』
通話は、ここで切れることになった。通話を彼が切ったわけではなく、切られたわけでもない。
通話を切ったのは、新宿支部の支部長である。
「盗み聞きとは、ガーディアンのやっていい事ではないと思うが……」
新宿支部長の支部長室をノックなしで入ってきた人物、それはガーディアンの制服こそ着ているが、ガーディアンのメンバーではない。
特殊なARメットをかぶっており、その素顔は全く見えないといってもいいだろう。
『ガーディアン所属ではない以上、盗み聞きというのも……違うと思うがな』
その人物はボイスチェンジャーで男性声を出していたのだが、実際はガーディアンの制服も着ていたものではなく、ARスーツによるデータ出力されたものに過ぎなかった。




