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アバターシノビブレイカー_対電忍【小説家になろう版】  作者: 桜崎あかり
第21話『龍の咆哮! 蒼影・龍双砲』

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第21話その3

 ガーディアンが松原団地の会社で強制突入をしているのと同時刻、とあるダンジョンでは一つの動きがあった。


(まさか、このダンジョンでも……)


 ダンジョンに潜入した雪華(ゆきはな)ツバキは、周囲を見て別の意味でも驚いた。


 ここはダンジョン(しん)のダンジョンではない。とある会社が運営しているVR空間のダンジョンなのだが、そこに予想外の来客があったのだ。


 ツバキは来客に気づかれないように、彼らから見つかることのないような距離から様子を見ることにする。


 距離としては数百メートルだが、仮に巨大ロボットが姿を見せれば、この距離でもすぐにわかるだろう。


「あれは確か、わずかな時期に有名になった配信者か……ダンジョン配信でもゲーム配信でもないから、気づかなかったが」


 それが迷惑系配信者の本人と信者による勢力で、ダンジョン無双をしていた。


 元々のジャンルは違う人で、何故にダンジョンへやってきたのかはツバキにも分からずじまい。


 しかし、状況が変わったのは、機械系のモンスターをいくつか討伐した後の行動であり……。



『ここのダンジョンでは、まさかの裏取引が行われています。それが……』


 転売ヤーが何かを転売している光景を生配信していたのである。


 その転売していたものは、過去に大規模に転売ヤーが一掃されたはずのトレーディングカードゲームだった。


 デジタルカードではないトレーディングカードをどうやってVR空間で取引をするのだろう……と思われたが、実際はそれに似せただけの偽物である。


 つまり、本物を転売していると見せかけて、ダンジョンで裏取引が行われる現場を生配信し、それで『バズり』を狙っていたのだ。


『ダンジョンはやはり、転売ヤーにとっても便利な環境だったのです。今こそ転売ヤーを一掃するためにも、ダンジョンを閉鎖するべきです』


『我々の人気を奪い取るコンテンツは、こうして……』


 何かを言おうとした配信者だったが、すぐにジャミングの影響で配信画面が真っ黒になる。


「今、リアルの方と連絡を取りましたが画面が真っ暗で配信されていない、と」


 他の信者と思わしき冒険者がリアルの方で配信の様子を見ている人物と連絡を取ったが、配信されていないことをここで彼は知った。


「何故だ。この配信も、いわゆる迷惑系配信者と同じというレッテルを貼るというのか」


 配信者本人が、この発言をしている中で、次々と他の冒険者……というより配信者の信者も倒されていく。


 ポリゴンの塊となって消滅していくという状況下、彼だけが何も知らなかったというべきか。


(あれは……!?)


 遠目で見ていたツバキでも、あのSDテイストのデザインをしたロボットは見た目で速攻判別ができる。


 目撃事例が少なかった飛天雷皇忍将軍ひてんらいおうしのびしょうぐんを、まさかのタイミングで目撃するとは。


 SDという見た目に反し、その装備は他の忍者構文で知られる忍者にも後れを取らない、それどころか……頂点に近いともいわれるレベルだ。


 実際、種子島型のライフルから放たれるビームやビーム刃の忍者刀の威力は、一撃で冒険者をポリゴンの塊にするほどには高いといえる。



「まさか、このタイミングで共闘になるとは」


 飛天雷皇忍将軍とともに迷惑配信者の信者を討伐していたのは、祈羽(おりはね)フウマである。


 ダンジョン配信自体は、これより若干前から始めていたのだが、まさかのこのタイミングで同業者に遭遇するとは……という驚きもあった。


「噂のルーキー配信者と、こういう形で共闘とは、ね」


 フウマに続いて別の配信者を討伐したのは、休業中だったアヤネである。


 ふとしたことでフウマと共闘することになり、今回の転売ヤー討伐となった。


「貴様たちが噂の忍者構文の……」


 右手の指をパチンと鳴らし、次々と冒険者を召喚してくる彼のやり方には、別の意味でも驚きしかない。


 まるで、自分のチャンネル配信者を何かの条件を付けたうえで操っているようにも見えた。


「忍者構文関係なしに、お前のやっていることは間違っている!」


 フウマが次々と冒険者を手持ちの刀で真っ二つにしていき、真っ二つにされた冒険者はポリゴンの塊となって消滅していく。


 自分の配信だけに注目し、他は自分のチャンネル宣伝に利用するための材料に過ぎない……その考え方を、フウマは許せなかった。


「自分は青凪(あおなぎ)のようなインフルエンサーとは違う。あちらは無駄な野望を持ったために自滅した。自分は自分のチャンネルの配信だけを見る信者のみを救うのだ!」


「それが、間違っているといっているだろう!」


 配信者の話を聞くだけ無駄なのは間違いないが、ああいった思考の持ち主が暴走し、今回のような行為を繰り返す。


 SNSが今の形である限り、炎上は繰り返されていくのか……ガーディアンと炎上勢力の抗争と同じように。


 そして、フウマはそのまま直線距離で配信者との距離を詰めていき……わずか数メートルとなった矢先に、思わぬ事態が起こる。


「確かに、自分のチャンネルだけ見ていて思考がゆがみ、それこそ犯罪に手を染める……というのは避けねばならないだろう。だが……」


 配信者の右手にはアサルトライフルが握られている。この武器は本来であれば、別のFPSゲームの武器であり、ダンジョンへは持ち込めない。


 それだけではなく、この武器はいわゆる不正ツールを使用したものでもあった。


「勝てば正義なのだ。負ければ……」 


 何かの発言を続けようとした配信者だが、背後から何かの殺気を感じ、フウマとの距離を取る。


 フウマの方も何かを察して距離を取ったので、一歩間違えれば致命傷だった展開は避けられた。 



(あれは、蒼影!?)


 外見からは想像もつかないが、配信者の背後から姿を見せたのは、蒼影(そうえい)である。


 両肩に大型のキャノン砲を装備し、更に言えばパワードスーツを装着しているような体型なのだが……カラーリングで蒼影とツバキには分かった。


 距離的に直接見ている部類の飛天雷皇忍将軍とフウマ、アヤネはデュアルアイのヘッドを見て、ようやく分かったという気配だが。


「まさか、噂の忍者構文の忍者が、直接現れるとは……これを倒せば、俺が構文化して世界を支配する配信者にも……」


 この発言とともに、配信者は蒼影の両肩に装備された大型キャノン、蒼影(そうえい)龍双砲(りゅうそうほう)の放った粒子砲にも似た極大ビームの直撃を受けて消滅した。


 しかも、あれだけの大型キャノン砲による粒子ビームなのだが、蒼影への反動は全くない。


 それだけでなく、特に脚部固定や照準を定めたりするようなモーションは確認されていなかった。まさかの展開ではあるのだが。


 蒼影が姿を見せたと同時に、ほぼ何もさせずにあっさりと倒されるのは……ある一定の法則を持っているがために起きた、いわゆる負けフラグである。


 なお、蒼影は無言で放っており、明らかに降伏勧告などは行っていない。


 蒼影の定義する悪とは、やはり炎上を引き起こす存在、なのだろうか?



 一方、松原団地の会社、ここではガーディアンが強行突入をしている最中だった。


 その最中に今回のダンジョンにおける騒動も同時発生していたのである。


 会社内のサーバールームにいたスタッフは、一連の事態は把握していたようだが、すでにガーディアンが抑えた後なので、その報告を行うべき人物が……という状態だ。


 別の部屋経由でガーディアンに拘束された男性数人が、それに該当するのかもしれない。


「サーバールームを占拠。セキュリティも、こちらが全部掌握済みです。わずか1分足らず、えらいっ!」


 明らかにVTuberが現実に現れたかのような等身大女性アイドルロボットを思わせる外見、草加支部のガーディアンに所属する女性VTuberが状況報告を支部長に行う。


 ちなみに、このアイドルロボットの外見は通常時の配信で使っているアバターのデザインとは異なり、そこから身バレすることはない。


 今回は、同じ事務所所属の企業VTuberが配信スケジュールの関係で参加できないため、自分がガーディアンの作戦に参加したのだろう。


 草加支部には個人VTuberもいるが、中には企業所属のVTuberもガーディアンに在籍していた。


 下手に炎上すれば、大惨事になるかもしれないが……そんなことは彼女には無縁かもしれない。



『もうそこまで。あとは話に聞くチートツールを流しているダンジョンのサーバー、それにアクセスできれば完璧だけど』


「ダンジョンサーバーはあるけど、どうも目当てとは違うみたい。なんだか、セクシー女優のソシャゲサーバーはいくつかあるけどね」


『そっちにも何かブービートラップがありそうだから、それもついでに抑えちゃって』


「りょーかいっ!」


『あと、メンバーリストを確認したけど、春日部支部経由で所属不明メンバーが【紛れている】みたい。首謀者を消すために送り込んだ暗殺者、もしくはスパイ疑惑もあるから別の人に向かわせて』


「そっちは別の人がやっているはずだから、こっちはこっちで作業を続けるね」


 通話の相手は、草加支部の女性支部長である。


 まさか、こういう展開になるとは……両者とも想定はしていないだろう。


「別の人といっても、大丈夫かな。数人、プロ格闘家の人とかブラックバッカラ事件のネットガーディアン経由の人もいたけど。手加減するかね、あの人たち」


 VTuberの彼女としては、今回の草加支部が組んだメンバーにも若干の不安がある。


 プロ格闘家数人、プロゲーマー数人、ホワイトハッカー1人、VTuberの自分を含めても少数精鋭だ。


 逆に他の支部から人員を借りているともいえるのだが……実際は、借りなくても単独制圧は容易なほどにスペックはけた違いだった。



「馬鹿な……こんなことがあってたまるか!」


 蒼影に秒で撃破されたに等しい配信者、その正体は何とこの会社の男性スタッフだった。


 炎上系配信者を演じて自分たちのメーカーのダンジョンを盛り上げようとした……ざっくりいうと、この会社はマッチポンプを行っていたのである。


 まさか、ガーディアンの強行突入だけでなく、忍者構文で有名となった蒼影が同時に来ることになるとは予想していなかったのだ。


 こういう時に限って、新宿駅で電車の運転見合わせでマスコミが来なかったことは、不幸中の幸いとするべきなのか……。


 彼のいる特別ルームもサーバールームではあるが、ここは一部のダンジョンゲーム専用サーバーが置かれている。


 つまり、ここにあるのはチートツール専用サーバーなのに加え、ここでチートツールを拡散し、他のダンジョンへ持ち込むことも……という事になるだろう。



「まさか、あなたの会社でこういうことが行われていたとは、ね」


 特別ルームの入り口でもある自動ドアが開き、そこから姿を見せたのは学生服を着た一人の女性、月坂(つきさか)ハルカ。


 彼女は、何とガーディアンの強行突入に紛れ込み、ここまでやってきたのである。部屋に入る前、すでにARウェポンであるアサルトライフルを構えていた。


 彼女の目的はARチャフグレネードの流通ルートを破壊するためだ。しかも、ガーディアンに潜り込んで。


 もちろん、男性スタッフはガーディアンに強行突入されたことは知っているため、何とかデータを転送しようともあがいたのだが……それも失敗している。


 ある意味でも、麻雀で言うリーチで自分の捨て牌がロンにならないかを祈るレベルだ。


「貴様は、ブラックバッカラ事件の……」


「ご名答」


「何故だ。ガーディアンだけでなく、忍者構文、更にはブラックバッカラ事件に関係したメンバー……まさかのスリーセブンじゃないか」


「あなたの会社でARチャフグレネードが流通しているという噂を入手して、ここまで来たけど、まさか……」


「こちらとしても、お前たちまでくるとは計算外だった。青凪の一件も解決し、それこそ他の勢力はおとなしくしていると思ったがな」


「青凪、あなたが彼を操って……」


「操ったわけではない。こちらの提案に、向こうが便乗しただけだ」


「だからと言って、タケを差し向けて直接消すという手段に出るなんて」


 ハルカのいる場所から出ないと脱出はほぼ不可能、非常口も男性スタッフの近くにはあるのだが、このセキュリティロックはガーディアンが抑えているので開くことはないだろう。


 部屋の広さは会議を行える規模なので、百人位は収容できる広さだ。うまい具合に立ち回れば、逃亡は可能かもしれない。


 実際、この場所を映画の撮影で使用しようと考えられていたようだが、企業機密を理由に許可は下りなかったという。


「タケの件は管轄外だよ。ガーディアンが下手に動いた結果、ああなったというべきか」


 男性スタッフの方もARガジェットを持っており、そちらの方はロケットランチャーである。


 あれだけの武器であれば本来であれば重いはずなのに、ARガジェットなので重量が数キロもない。


 ハルカがアサルトライフルで応戦したとしても、銃弾をあっさりと避けられてしまうのだ。


「そして、仮にルートを知っていたとして、教えると思うか? ブラックバッカラ事件の真相を知るお前たちに」


 男性スタッフは、ダンジョンサーバーの電源を落とそうと、独自のブレーカーのある所まで駆け足で向かう。


 距離もわずか数メートル、それこそ手の届く範囲まで近づいた、それに即座に反応したのは……。



「馬鹿な……そう、えい、だと?」


 手に持った忍者刀で男性スタッフを切り落としたのは人ではなかった。何と、忍者である蒼影だったのだ。


 ここにもしれっとだがARシステムが存在し、それを利用して具現化したとも言えるかもしれないが……。


 切り落としたといっても、男性スタッフは気絶しているのみである。ARガジェットに殺傷能力はない。


 実際、部屋の床に血の海が出来ていないし、彼が持っていたロケットランチャーが消滅したのみである。


(蒼影? まさか、この展開って……)


 ここでハルカは自分のスマホに蒼影が現れたことを思い出した。


 自分は蒼影に選ばれたかどうかまではわからない。しかし、蒼影はハルカに興味を持っているような視線を向けている。


『ハルカ、タイムアップだ。スノードロップとフウマの方も成功している。これ以上の長居は無用だ』


 ハルカのスマホから聞こえた声は春日野(かすがの)タロウの声である。


 どうやら、フウマがダンジョンで暴れていた一件も、いわゆる誘導作戦だったらしい。


「わかりました。後はガーディアンに……いえ、パルクールプレイヤーのアルストロメリアに」


 ハルカは、何かを察したかのように、この場を離れた。



 鍵のかかった扉は開き、その中にあったのは本当に絶望なのか? それとも……。


 全てはダンジョン神の掌の上なのか?


 ダンジョン配信を取り巻く環境は、次のステージへと進む。

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