第20話その2
久々の配信を行い『バズ』った人物もいれば、初めてのダンジョン配信で『バズ』る人物もいた。
『今回は、何かと話題なダンジョン神のダンジョンへ挑もうと思います』
ある男性配信者の配信で、普段はゲーム配信をメインとしている人物だ。
それに、アバターを使ったVTuberというわけでもなく、声だけの……いわゆる実況者といえる。
類似事例で言えば、雪華ツバキが分かりやすい。
『装備なんですが、ここ最近で実装されたシノビブレイカーを使っています。通常装備もありますが、ARダンジョンなどとは違った体験でもありますし』
配信画面ではロボットの全身というか一部も表示されていないので、視聴者としては『?』と頭の上に表示されるような状態で疑問なのだが……。
『配信画面では、ダンジョンの表示優先という都合上、シノビブレイカーの全身は映せない仕様になっています。後で全身画像は別枠解説しますね』
シノビブレイカー、それはダンジョン神のダンジョンで登場した5メートル級の巨大ロボットである。
名前にこそシノビというワードがあるので忍者ロボットと思われそうだが、実際はそれ以外のものも出回っていた。
更に言えば武器に関しても多数あり、近接系だけでなく遠距離系武器もある。
デザインに関しても多数あり、忍者とは無縁そうなSFベースなデザインの機体さえあった。
ちなみに、この男性配信者が使用しているのはSFベースのシノビブレイカーだ。
本来であれば、これを目撃して入手できたのは雪華ツバキだけのはずだが……どういうことなのだろうか?
実際の所、ツバキが手にしたものは配布予定だった初期バージョン、現状で販売されているのは後期とは違った別バージョンというべきだろう。
むしろ、転売ヤーの懸念がなくなったからこそ実装できた目玉要素、といえるかもしれない。
一方でシノビブレイカーは必須要素ではないので、生身でダンジョンに挑む者もいる。
ガジェットを購入するハードルも高いのかもしれないが、操作が難しいのも理由かもしれない。
「シノビブレイカーの実装は、成功したようだな」
ダンジョン内で1割の冒険者がシノビブレイカーを使用していることに関して、ダンジョン神はほっと一息つく。
当初は転売ヤー問題もあって実装できずにいたが、蒼影の出現などもあって思わぬ所で反響があった。
彼は相変わらず、第5エリアのモニタールームで様子を見ているが、最近はモニタールームにも別のアバターがいるため、単独作業ではないこともある。
別のアバターといっても、AIアバターではあるのだが……。
(しかし、正式実装されてわずか数日でこの反応……何かあるな)
ダンジョン神としても、この状況を両手を挙げて喜ぶことはできなかった。
転売ヤーや迷惑系配信者は確かに減っているが、ゼロになったとは思えない。
転売ヤーも他のジャンルで転売行為を繰り返しているものは、ダンジョン神側のガイドラインでアカウント停止にはできない……という事で裏を突かれている。
迷惑系配信者に関しては、それを追い出すようなガイドラインが機能していることもあって、減ってはいた。
こちらの方も別サイトで類似行為をやっていることもあって……。
数日にわたって、何とかシノビブレイカーを完成させ、ダンジョン内で活動を続けるツバキだったが……それでも疑問に思う個所はある。
SNS炎上勢力を討伐する目的が、今のところ達成できていないのだ。
できたのは、あの時の大規模転売ヤー摘発のみ。アレに関しては青凪が裏で色々と動いていたらしいが。
「シノビブレイカー、一体、これの正体は何なのか」
自室でシノビブレイカーの表示されたパソコンのモニターを見て、ふと思う部分はある。
転売ヤー対策で配布中止になった個体をツバキは手にしたわけだが、それ以外のシノビブレイカーもここ数日で配信されていた。
装備類を完璧にそろえるという意味では、容易に手に入れられるようなレベルではない。
その一方で、素体と一部武器という最低限装備に関しては、購入にそこまでハードルが高くないのだ。
「どこまで増えていくのか……」
ツバキ自身、シノビブレイカーでアドバンテージを持っていると思ってはいないが……他の冒険者よりは突出しているかもしれない。
他の冒険者は、他のバーチャルダンジョンなどでも経験値を上げているだろう。その一方で、ツバキにはそういった経験値がなかった。
突出している箇所がないというわけではないが、それは他の冒険者などと比べられるようなものではない。
果たして、彼は何に突出しているのだろうか?
『忍者とはありとあらゆる炎上を阻止するために存在する、対電脳の刀。忍者とは悪意ある闇の全てを斬る存在でなければならない。彼らが斬るのはあくまでも悪意ある炎上であり、それ以外のものを切り捨ててはならない』
これが、最近になって蒼影の言ったセリフなのではないか、という説が拡散している。
何故に一言もしゃべった形跡のない忍者ロボットが語ったかのようなものになっているのか?
確かに外見がロボットでもしゃべる存在はいるのかもしれないが、最低でも蒼影は無言を貫いているはずなので、こういったフェイクニュースが拡散するのは好ましくないだろう。
「本当に、この忍者は喋らないのかな……」
月坂ハルカはゲーミングパソコンショップの一室でスマホを片手に忍者構文を検索する。
確かに、蒼影は喋らないだろう。ハルカがあの時に見た忍者も、喋っていないのがその証拠だ。
動画で喋っているかのようにアテレコされているものもあるが……たいていがフェイクニュースに利用される。
「さて、そろそろ……」
スマホをカバンに仕舞おうとした、その時……スマホが一瞬だけ光ったような感覚になった。
そして、画面を見たハルカは言葉を失うような光景を目撃する。
(まさか、これって……)
スマホに表示されていたもの、それは蒼影であった。




