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第1話その3

 拡張現実ゲームで使用するようなスーツを着た人物、祈羽(おりはね)フウマは視点をある場所に合わせていた。


 それは、ゴール地点の前、最終エリアにある壁である。そこへ一瞬合わせた後、スタートの合図とともに走り出した。


『最初のハードルエリアは、難なくクリア!』


 実況の熱もヒートアップする位に、フウマはあっさりとハードルエリアをクリアする。


 タイミングさえ合えば、彼にとってはこの程度の難関は問題ないのだろう。


 動きに関しても、他の苦戦しつつ飛び越えた選手と比べても、明らかに手馴れている。


 本当に、彼は初出場の選手なのか?


「第2エリアもクリアしたみたいね。あのルート選びは手馴れている」


 姉は第2エリアもあっさりクリアしたフウマを見て、事前に過去大会の映像をチェックしたのでは、と思い始めた。


 ここ数年の大会と第1ステージに変更点はない。リニューアルしたとしても、第1エリアのハードルの配置間隔程度である。


「問題は、あの壁か」


 再びコーラを飲み始める姉、その姉でも壁に関しては苦戦していた。


 ロープを取り付けて登る、あの壁は今までにも多くの参加者を時間切れ、もしくは失格に追い込んでいるほどに難関の壁だ。


 しかし、フウマはロープを取り付けはしたものの、何と……。


「壁を、走っている?」


 錯覚している可能性は否定できないが、彼は壁を足につけたと思ったら、まさかの走るという行為に出た。


 ロープを取り付けているので失格にはならないだろうが、明らかに他の参加者からすれば衝撃の連続だろう。


 ある意味でも忍者の末裔は嘘ではない、と言える。この壁を走る行為に関して、姉は驚くしかなかったのだ。


 自分が苦戦したエリアを簡単にクリアされた、という意味でも。



 その後、姉の知り合いは第1ステージを難なくクリアし、その後のレジェンド枠もほぼ全員がクリアした。


 参加者100人中、50人ほどが第2ステージへ進む事になった。初出場でクリアしたのは、フウマを含めてごく少数だが……。


「これは、長丁場になるかな」


 姉と一緒に同じ番組を見ていた(ゆき)ツバキは、ふと居間の時計を見始める。


 時計は午後8時を指していた。全100人といっても、一部はダイジェストになっていたので、そこまで時間は……というオチなのだが。


(別のゲーム配信、どうするべきか)


 ツバキは、これから配信をするか悩んでいる。


 別のゲームタイトルを探すが、あのゲームをそのままプレイするか。悩む個所は多いだろう。


 テレビの方も、フウマは気になるが……見続けていたら、午後10時台になる可能性も高い。


(予定している配信は既に終わっているし、もう少し付き合うか)


 結局はスケジュールを立てていた配信は終わっている関係で、もう少し事の流れを確かめることとなった。



 その後、第2ステージでは名だたるレジェンドも脱落する中で、フウマは第3ステージまで残ることとなる。


 これに関していえば、姉は「想定外すぎる。まるでワイルドカードね」という位なので、余程だろう。


 第2ステージも3エリア構成だが、すべてのエリアがリニューアルされており、最後の逆走するベルトコンベアーの上を走る50メートルロングランが少し手直しされた位だ。


「第3ステージまで残ったのが、20人あたりまで減るとは。やはり、過去大会より難易度が上がっているわね」

 

 自分が参加していた当時と比べると、それぞれのエリアの難易度が上がっているのは明らかであり、ある意味でもガチの参加者以外はふるいに落とされる。


 それこそ、この競技に人生をかけているといってもいいほどに。


 なお、第2ステージに関してはクリア報酬があり、賞金として20万円が贈られる。第1ステージクリア報酬はなく、称号だけとなるが。


 その称号もたまっていけば、レジェンド枠になる可能性もあるため、参加者が増え続けているといってもいいだろうか?


 ある意味でも、この競技も忍者伝説、と言えるのかもしれない。あくまで『忍者構文』的な意味で、だが。



 最終的にフウマは第3ステージの途中で脱落する。第3ステージも3エリア構成だが、すべてがスピードを求められるものだ。


 1エリアクリア毎に休憩スペースがあり、30秒休憩できるのだが、30秒経過後には次のエリアへ向かわなければ失格となってしまう。


 30秒使わなくても次のエリアまで到達すれば、使わなかった時間プラス30秒で休憩は可能だ。


 それでも、すべてのエリアをクリアできるのは一握りでしかない。


 番組開始当初、第3ステージはパワー主体のコースだったがスピードコース主体へと切り替えられた。


 その理由としてはパワー系アスリート専門の派生番組も誕生し、そこと区別するためとは言われている。


 それ以上に、スピード競技を求められたのには理由があるのだろうが。


「スピード競技で、この結果……かなりのスキルが必要なのか」


 フウマは第3ステージで脱落後、インタビューで「まだまだ、実力が足りない」と言及した。


 しかし、初出場で第3ステージ到達というのは姉の記録を大きく塗り替えるものであり、誇ってもいいだろう。


 最低でも、ツバキはそう思っていた。


「スピード競技×3は、正直に言って厳しいといっていいだろうね。それでも、クリアできる者はいる。そういう世界なのよ、これは」


 姉のいう事も一理ある。フウマ脱落後に流れを変えるために出てきたのは、レジェンド枠の宅配便アルバイトの男性だ。出場回数は連続5回を誇る。


 第2ステージでの動きを見れば、忍者の末裔であるフウマに後れを取らないような実力者なのは間違いない。


 その彼がギリギリではあるものの第3ステージを突破し、ファイナルステージへと駒を進めた。


「拡張現実のパルクールも、同じようなものだったり?」


 ツバキはふと、姉に質問をしていた。この質問に対し、姉は数秒ほどの間を置く。


「それこそ、色々な競技にプロというものは存在する」


 これを聞いて、ふと自分はプロゲーマーの事を思い出した。


 埼玉県草加市ではプロゲーマー制度が存在し、公に職業としても認められている。


 配信者を始めて、ある程度のスパチャなどを得ているが、プロゲーマーとなれば安定した収入も得られるだろう。


 それでも自分が名乗れるほどのスキルを持っているかは、この番組のフウマを見れば……何となくわかっている。


 下手に名乗ったとしても、逆に何が起こるのか、それを別のケースで知っているから。



 番組の方はレジェンド枠の数人がファイナルステージへ進むものの、結局は誰一人としてゴールにたどり着けなかった。


 内容は200メートルの障害物ありのロングラン。制限時間は120秒、つまり2分だ。


 落とし穴のようなものはないが、障害物をかわしつつゴールにたどり着くのは、残り体力的にも厳しいものがある。


「あのファイナルステージ、もしかすると拡張現実パルクールを参考にした可能性は……否定できないけどね」


 姉は落ち着いた口調でファイナルステージを分析するが、これと似たようなコースで1000メートルという距離を拡張現実パルクールでは走る。


 パワードスーツを使うタイプのものや更に長距離化しているものもあるかもしれないが……。


「果たして、次はどのような参加者が来るだろうねぇ、と」


 姉がテレビを見終わり、別のチャンネルに変えたタイミングで父と母は帰ってきた。時計も午後11時を回っているかもしれない。


 2階の自分の部屋にいた妹は、もう眠っているだろうか?


(祈羽フウマ、か)


 ツバキはフウマに少し興味を持つが、住む世界が違いすぎて、比較対象には到底できそうにない。


 しかし、彼のようなチャレンジスピリットは持つべきだろう、とは思った。



 そして、祈羽フウマを巡って思わぬ動きが発生するのは、このテレビ番組が放送されてから翌日の話となる。


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