第19話その2
一方で、あるイベント会社の男性社員は、自分の作業を黙々と事務所内で進めている。
ダンジョン配信とは別のイベントだが、担当になった以上は……という具合だろう。
その内容は、ARダンジョン関係ではあるが、いわゆる別作品とのコラボイベントである。
「しかし、あのプログラムは何処から……」
彼はプログラムが届いたのをきっかけに、ダンジョン神を生み出した。
その時期は、確か6月ごろである。まだ、ダンジョン配信でさえもWeb小説内の出来事であり、ブラックバッカラ事件も解決はしていない。
ブラックバッカラ事件が解決したのは6月末日か、7月上旬あたりだろうか……ニュースでは報じられていないが、解決したという一報はこの辺りで届いた。
ダンジョン自体を生成し、完成させたのは7月ごろか……その辺り。あの当時はダンジョン配信自体は知る人ぞ知るジャンルだったのである。
一方で、今はリアルダンジョンが衰退し、ARダンジョンが若干広まりつつあった。
実際、自分の会社でもARダンジョンを専門とした事業部の立ち上げが企画されている。
8月ともなれば、ARダンジョンが広まり、ダンジョン配信で人稼ぎしようという配信者も現れるレベルになっていた。
「それを考えても無駄か。今は作業に集中をするか」
そして、彼はイベントの作業工程などの仕様書を制作し、早い段階で提出した。
ダンジョン配信に関しては別の担当が行っている所だが、状況が状況だけに苦戦している格好である。
ARダンジョンの専門事業部の立ち上げも、一連のダンジョン神のダンジョンがピックアップされたりした後で唐突に出たものだ。
ちゃんとした企画を立ててからやるのと、ネットミームが熱いタイミングで立ち上げるのでは準備期間の問題もあるが……それ以外にもいろいろとある。
「真夏のリアルダンジョンも熱中症の関係で、色々と大変だったと聞くが……」
男性がふとブラウザでチェックし始めたのは、リアルダンジョンの傾向だ。
迷惑系配信者の暴走でダンジョン閉鎖などは、それ以前からも若干あったものの、大きなニュースになるようなものは減っている。
むしろ、炎上系や迷惑系配信者による事件が減っているのは、忍者構文の関係もあるのかもしれない。
「さて、これからどうするか……」
一方で、ダンジョン神は細部の調整に追われていた。
一時期は転売ヤーが押し寄せるような状態にはなっていたのだが、今はそうした状況はない。
相変わらずのメット着用で、それを脱ぐことはなかった。
様々な細かい報告はあるものの、直接関与するような案件はなく、現状では平和な方かもしれない。
むしろ、他のリアルダンジョンが一連の動画もあってか、影響を受けていた位だろう。
あの動画自体、炎上狙いで切り抜きされた上に改ざんされており、そのうえで……である。
最終的に、あの動画に関与した炎上勢力はガーディアンが一掃したが。
「開かずの部屋の2つ目が開かれたという情報もあるが、あの中に何が入っていたのかもわからない」
ダンジョン神もモニタリングは続けているのだが、それでもあの部屋にあるものは明らかになっていない。
一方で、あれを蒼影が狙っていることも把握済。しかし、どのような目的で狙っているかは定かではなかった。
「SNS炎上をきっかけに、忍者が現れるという話を聞く。もしかすると……」
ダンジョン神は忍者構文に関しては半分程度しか信用していない。それを鵜呑みにすれば、逆に……というのもあったためである。
(別の場所で発見されたアレも、何とかしないといけないか)
ダンジョン神の耳には、すでに配布予定だったガジェットのパーツに関しても情報が入っていた。
組み立て後にはロボットになるという事で、もしかすると蒼影に関係があるのでは……ともにらんでいる。
しかし、配布直前で転売ヤー対策などの事情で配布中止になった、という報告は受けていたので、思い過ごし……と思っている様子。
「うーむ、これはどうするべきか」
ダンジョン配信を一通り終わらせた雪華ツバキは、自宅の自室でダンジョン神のダンジョンの配信を行っていた。
同時接続数は数千人という事で、配信者時代よりは増えているだろう。
それに加えて、あの時に手に入れたパーツで完成させたロボット……シノビブレイカーでダンジョンを探索している。
アバターでダンジョン探索を行う配信者もいるが、その場合は外見が若干分かりづらい視点で配信されているケースもあるが、ツバキの場合は違っていた。
何と、シノビブレイカーのデュアルアイ経由でダンジョンを見渡せるような仕様になっていたのである。
実際に言えば、シノビブレイカーの全長は5メートル級と言える位には巨大なので、あながち間違いではないのだが……。
その光景は、まるでロボットゲームをプレイしているような感覚で展開されることもあり、ここ数日ではダンジョン神のダンジョンを扱う配信者では上位に入っていた。
……とはいえ、本来の目的を踏まえると寄り道が多いような気配はしていた。
ツバキの目的はSNS炎上をたくらむ勢力を根絶すること。それが忍者VTuberとしてのツバキの目的でもある。
しかし、現状でやっているのは配信の視聴者を増やすための行為がメインであり、本来の目的が達成されていない気配はした。
一方で、他の忍者構文に入っている忍者が討伐しているためか、ツバキが駆けつけるころには遅いオチではあるのだが。
(そういえば、今日はARパルクールの予選があるという話だったな……)
ツバキはパソコンの方で、ARパルクールの情報を仕入れ、その予選会会場をチェックする。
場所は複数あり、その中には草加市の会場もあった。
「ここでも、予選をやっていたのか?」
ふと気になり、ツバキは草加市の予選会場の中継を見ると……。
『さて、ここでまさかの人物が予選に殴り込んできました。あの某アトラクション番組で第3ステージまで到達したプレイヤー、祈羽フウマの登場です!』
ちょうど、中継映像では赤をベースとしたARパルクール用の忍装束にも似たアーマーを装着した祈羽フウマがいたのである。
男性実況の声に聞き覚えがあると思ったら、あの某番組でも実況を担当した男性だった。つまり、この光景はあの時の再現に近い。
『距離は1000メートル、そこに複数の障害物やARギミック、ラストには最難関の壁も存在します。果たして、彼は某番組と同じように軽々と突破してしまうのか?』
フウマの視線は、すでにゴールの方を向いている。直線で1000メートルではなく、途中で右カーブを若干挟むようなコース構成をしていた。
別の意味でもトラック競技の障害物競走を連想させるだろう。さすがに、ARスーツを着用したりはしないと思うが。
(忍者構文の忍者は……自分とは違う。あくまでも自分は祈羽一族の末裔……)
フウマは自分が忍者構文の忍者と同一視されている箇所に関して、未だに考え続けている箇所があった。
しかし、一族の文献を調べても忍者構文は存在していない。更に言えば、祈羽一族は、それこそ300年以上前に存在した忍者でもある。
その文献に存在しない、その意味とは……。




