第18話その3
『配信を見ている皆様、初めまして。本日は、初見でダンジョン神のダンジョンへ行ってみようという事で……』
ここ数日、ダンジョン神のダンジョンへ挑むという配信者が増えている。この男性配信者の配信などがよい例だろうか?
リアルダンジョンは、それこそ迷惑系配信者の関係で閉鎖、ARダンジョンでは配信ガイドライン的な関係で配信が序盤で終わってしまう事もまれにあった。
それを踏まえると、バーチャル空間のダンジョンで配信を行うという選択肢を選ぶ配信者が増えているというべきか。
それだったら、VRMMOやオンラインゲームでも代用できるのでは……という意見もSNS上で散見されているだろう。
しかし、ゲームでは体験できないようなことをダンジョン配信では可能となっている……のは周囲から見ても明らかだった。
『……すごいフィールドですよね、これは』
男性配信者は別の意味でも驚くしかないだろう。配信としては、配信者の視点がそのまま画面の映像に……という形式である。
この辺りはゲーム配信とは違う、という事かもしれない。
ステータス画面なども配信画面には表示されていないのは、このダンジョンの特色といえるかは……不明だ。そうした表示は非表示設定にしていたかもしれないが。
男性配信者が歩いていると、目の前に何かの影が見えてくる。モンスターかといわれると、そこまでの異形な存在ではない。
目の前に姿を見せたのは、青色をベースとしたカラーリングのロボットである。
更に言えば、そのデザインはロボットともいえるものであり、このダンジョンに存在するモンスターとも明らかに違っていた。
その正体は、何と蒼影だったのである。
これに関しては、視聴者もまさかと言わざるを得ないだろう。
そして、次の瞬間には画面が真っ黒になる事態に。放送事故か何かだろう、と大まかに予想されていたのだが……。
しばらくして配信の方は停止されており、何が起こったのか……と思われていたが、予想の斜め上の事態になっていた。
この男性配信者の正体は、いわゆる炎上系インフルエンサーや迷惑系動画配信者の類ではない。
だからといって、情報リーク系やフライング記事などでバズるタイプの配信者でもなかった。それなのに、蒼影が姿を見せたのには理由がある。
答えはたった一つ、彼がSNS炎上狙いで今回の配信を行ったことが最大の理由だろう。
【やっぱりか】
【予想通りだった】
【まさか、これでも忍者構文のターゲットになるとは】
【このタイプはガーディアンも放置しているというのに】
【忍者構文、彼らは一体何者なのか?】
SNSのタイムライン上では、今回の男性配信者の行動に関しての反応が流れている。
彼の正体は狭い定義での炎上勢力、いわゆるガーディアンの摘発対象であるカテゴリーには属していない。
別のネットミームや二次創作などでアクセス数を稼ぐ系統の勢力、いわゆるまとめサイトに発言などが掲載されてアクセス数を稼ぐ系統の勢力といえる。
それを証拠に、ガーディアンが彼を摘発したというニュースは拡散していない。
それに加え、ダンジョン神もこちらに関しては非干渉というのを踏まえると、そういう事なのかもしれないだろう。
こうした系統のインフルエンサーでも一歩間違えれば忍者構文にとっては、SNS炎上勢力に見えるというわけだ。
『忍者とはありとあらゆる炎上を阻止するために存在する、対電脳の刀。忍者とは悪意ある闇の全てを斬る存在でなければならない。彼らが斬るのはあくまでも悪意ある炎上であり、それ以外のものを切り捨ててはならない』
忍者構文の冒頭でもありとあらゆる炎上を阻止するために存在すると明言されており、彼の行動も忍者構文では悪意ある炎上と認識されたといってもいい。
一方で、悪意ある炎上だったのかといわれると、若干の疑問点も浮上するだろうが……後のタイムラインの流れを踏まえれば、明らかに炎上すると認識されていたのだろう。
まとめサイトでも今回のダンジョン配信が、いわゆる別ゲーム作品のステルスマーケティングを疑われていたからである。
何故、そういう風に認識されていたのかは別の理由があった。それが男性配信者の服装だ。
ダンジョン神のダンジョンも、カテゴリーとしてはバーチャル空間のダンジョンであり、リアルフィールドにあるわけではない。
装備品が自給自足だった時期もあったが、今は装備品をダンジョンの入り口にあるスペースで購入可能である。
しかし、彼が持ち込んだ装備は購入できる装備ではない。その装備の正体こそが……蒼影に狙われる理由だった。
「これは確実にアウトね。レギュレーション以前の問題……」
画像を見た女性は、スマートフォンでニュースサイトのニュースを見ている。
そこにあった画像は明らかに、他作品のコスプレイヤーと言われても文句は言えないだろうか?
「それに、これではイベントでのコスプレイヤーも減ってしまう恐れが……」
とある会場でスマートフォンからサイトの情報を見ていたのは、草加支部の支部長である。
支部に関して言えば、今回は代理に任せて、自分は本来の仕事をしていた。
支部長の服装は、いつもの専用コートなどではない。ARパルクール用の特殊インナースーツにメットを装備している。
ただし、メットに関しては、まだ装着をしていない。システムを起動すれば、メットが展開されるようなギミックのものではあるが。
彼女のいる場所、それは草加市内のARパルクールフィールドである。
オケアノスの近辺にあるフィールドではあるが、広さはオケアノスのパルクールフィールドに匹敵するくらいだろうか?
ガーディアンとは別の理由で足を踏み入れたといってもいい。
本日はARパルクールの公式大会という事もあって、彼女はエントリーを考えていたが……その途中でこのニュースを知った。
フィールドでは既に他の選手がガジェットを用意し、予選のエントリーを済ませている。
彼女の場合、まだ予選の順番は来ない。それは、エントリーをしていないから。
周囲を見回せば、ARパルクールでは公認のギアを装備しているケースが多く、違法パーツの使用者はいない。
探せばいるかもしれないが、せいぜいカラーリング変更とかデカール位か?
(やはり、何かが始まろうとしているというべきなのか?)
周囲のガジェットを見ても、違法なガジェットが使われている形跡もない以上、チートツールなどはリアルからバーチャルの方へ移行されつつあるのだろうか?
そして、別のニュース内で触れられていた竜というワードも気になっている。
(龍ではなく竜で書かれていた意味……)
いわゆる変換ミスも疑うが、どう考えても……単純な誤植の部類と考えるのには難しい個所もある。
一体、ダンジョンで何が起ころうとしているのか?




