第14話その1
転売ヤー事件も拡散しつつある8月のあるタイミング、もしくは……。
「開かずの部屋に反応が?」
ダンジョン神のダンジョン、第5エリアでモニタリングをしていたダンジョン神もさすがに驚く。
彼はいまだにメットを外すことはなく、その特殊なメットでも情報は仕入れている。
しかし、今回の件はまさに初耳とも言っていいほどだった。今まで反応がなかった場所で反応があったことも驚きだが。
「今まで反応すらなかった場所で変化が……?」
モニタリング自体は何度も行っていた場所で、いったい何が……とダンジョン神は思う。
一方で、この反応はすぐに消えたという報告もあったらしい。
『次のニュースです。本日、〇〇カードゲームのカードを数百万円単位の転売を指南したとして、インフルエンサーが逮捕されました』
反応があった翌日、SNS上では転売ヤーを煽っていたインフルエンサーが逮捕されたニュースが報じられている。
音声に関しては男性の声だが、AIの自動音声を使っているような気配がした。
いわゆるテレビのニュースではなく、動画サイトでアップされたニュースサイトまとめのような動画なのだが……。
『逮捕された人物はすでに数百人規模に転売指南をしており、被害総額は百兆円規模ともいわれているとのことです』
『このインフルエンサーの男性は、数日前にガーディアン経由で拘束された青凪と同系統のインフルエンサーで関連性を調べています』
その人物は青凪と名乗っていた人物とは別人だが、似たような事をやっていたので同業者と認識されている模様。
青凪の方は、仮にこのニュースを見ていたら「同業者ではない」と否定はしただろうが、彼が表舞台に出ることはないだろう。
ニュースが報じられた一方、ニュースにもなっていないような事件も実際に発生していた。
それが開かずの部屋が開かれたことである。
【あの部屋が開かれたらしい】
【どういうことだ? あれは開かないが仕様では?】
【おそらく、時限解禁方式だったのかも】
【だとしたら、それがこのタイミングだったのか?】
早速、SNS上では拡散しているが……開かずの部屋と言われても、どことは認識されていない。
中には他のダンジョンで新規解禁要素が出てきた、というニュース記事を張り付け、更に別のフェイクニュースへ誘うような書き込みもあったようだが。
【とにかく、どこのダンジョンか調べる必要がある】
そして、リアルダンジョンへ向かって迷惑行為を行い、リアルダンジョンが閉鎖される……という事も懸念されてか、リアルダンジョンの半数以上は臨時休業になっていた。
もしくは、午前中のみメンテナンス休業、午後から再開するケースもあるだろうか?
どちらにしても、SNSの発言でダンジョン配信にも危機が迫っているとは、誰が予想できたのか……というレベルである。
しかし、この騒動があっけなく幕を閉じたのは、とあるものが公開されてからである。
『忍者とはありとあらゆる炎上を阻止するために存在する、対電脳の刀。忍者とは悪意ある闇の全てを斬る存在でなければならない。彼らが斬るのはあくまでも悪意ある炎上であり、それ以外のものを切り捨ててはならない』
『ダンジョン神のダンジョン、そこにある開かずの部屋とも禁断の場所ともいわれているエリア、そこの一つがついに開かれた』
『その中にあったのは、獅子をモチーフベースにしたサポートロボット。しかし、その姿を見たものはない』
『それはなぜか? 簡単なことだ。実際、獅子のサポートメカはすでに忍者の手に渡っている』
『どの忍者なのかはわからない。残りのエリアが狙われるのも時間の問題だ』
『しかし、それを下手に騒ぎ立てれば……あとはわかるな?』
更新されたもの、それは忍者構文を解説する動画だった。
そこによれば、ダンジョン神のダンジョンの開かずの部屋が開かれた、と。
その中にあったものがサポートメカであることも判明する。しかし、すでにサポートメカは別の忍者の手に渡ったとも。
「このロボットは、確かシノビブレイカーと言われていたような……」
雪華ツバキは自分の部屋で、ロボットのカスタマイズをパソコンで行っていた。カスタマイズというよりは、組み立てだろうか?
マウスカーソルで該当パーツをクリックして、その後にパーツを組み合わせる……その作業だけでも30分以上は続いている。
そのロボットの名前はシノビブレイカーとマニュアルで判明したが、それ以外の個所は不明なまま。
元々が転売ヤーに渡るのを恐れて配布を中止したものなので、マニュアルが中途半端なのも仕方がない個所ではあるのだが。
何とか人型ロボットを完成させるまでは出来たものの、その先は……若干の手詰まりムードを見せている。
「それでも忍者構文のサポートメカとも別物……。いったい、これは何なのか」
忍者構文の動画でも、サポートメカの一件が触れられていたので、そちらをチェックしたのだが……。
イメージ図画像と、ツバキの手に入れたシノビブレイカーとはかけ離れすぎていた。
どちらかというと蒼影と似ているかもしれないが、要所で形状が違う。
結局、シノビブレイカーと蒼影では忍者ロボットという個所しか共通しない。そもそも、メーカーも不明だ。
「青凪のようなデータを流用したような忍者ロボとも思えないし、さてどうするべきか」
ツバキは忍者ロボットの登場するゲームをいくつか調べたが、シノビブレイカーと類似したロボットは見つからなかった。
検索範囲を平成初期辺りまで広げてはみたが、それでも結果はゼロだったという。
「本当に300年前のロボットなのだろうか?」
ふと、ツバキは300年前というワードが忍者構文で使用されている事実を思い出す。
江戸時代に巨大ロボットがいたなんて事実は、どの歴史の教科書に載っているわけもない。
フィクションの作品で巨大ロボットが大昔にあったという設定もあるかもしれないが、それが偶然300年前というシンクロがあるだろうか?
そうだとしたら、そのアニメかゲームの制作会社が忍者構文を訴えてもおかしくはない。
つまり、そうした動きがない以上は忍者構文の300年以上前というのは……という事になる。
「フィクションとノンフィクションの区別、か」
忍者という題材を使っている以上、フィクションとノンフィクションの区別はつけるべきだろう。
しかし、その一言で片づけられないような規模を誇る……それが忍者構文だ。
どちらにしても、課題は山積みだったのである。




