第12話その2
雪華ツバキがARフレームと類似したロボットを発見した翌日、改めてカードを渡してくれた男性に改めて話を聞く。
「確かにバラバラになっていたのは、パーツ単位で配布予定だったのはある」
パーツ単位の配布に関しては事実らしい。
しかし、それとは別に装備の販売を実装したので、配布の必要性がなくなった、とも話した。
「使いこなせるかどうかは冒険者次第だが、ダンジョン神が試していた疑惑さえもあるだろう」
「試していた?」
ツバキも別の意味で疑問を持ち始める。ダンジョン神は自分たちと同じ人間なのか、と。
ダンジョン神とは言っても、彼が姿を見せたことは一度もないという。
「向こうは試行錯誤を繰り返している、という話がある。それを踏まえると、転売ヤーの動向を確かめていたのかもしれない。これでいいのか、という意味でも」
企画があったとしても最初から炎上するので中止にする、というような考え方をするようなケースは、近年ではよほどのレアケースとなっている。
それ位には、多少の炎上くらいは、という見切り発車をして炎上商法と呼ばれるようなケースもあるだろうか。
しかし、コンテンツ流通に炎上商法は付きもの、あって当たり前、逆に炎上させて知名度を上げる……のようなコンテンツもあるだろう。
ダンジョン神は何を考え、どういったダンジョンを運営していくのだろうか?
ツバキが集合場所にたどり着いたのは、男性との話を終えた5分後辺りだった。
ちょうど、集合場所にはタケの姿もある。一方で、青凪の姿はない。
「青凪は集合場所ではなく、現地合流になるそうだ」
タケの方も若干の不満そうな表情を見せるが、あの時に知った正体を踏まえると……。
さすがにツバキはそのあたりの事情を知らないので、ネガティブなリアクションはしたくないのだが。
「現地というと、ダンジョン内の該当エリアですか?」
「そうなるだろうな」
ツバキの質問に答えたタケは、二人だけで該当エリアへと向かうことにした。
時計は午前11時を示している頃、該当エリアでは案の定というか炎上系の迷惑配信者がモンスターを容赦なく刈り取っていた。
モンスターといっても、そのデザインはファンタジー要素があるわけではない。どこかSFにも近いようなニュアンスを持っている。
なぜ、このようなデザインになったのか? そのあたりは明らかになっていない。向こうが秘密にしたい、のだろうか?
もしかすると、デザインを行ったのはAIという可能性もあるだろう。
学習内容によっては問題されているAIだが、使い方によっては……というのは、ここでも実証された形だ。
そのダンジョン神の正体も実は……であるのは一部にしか知られていない事実でもある。
「なんだ、あの忍者は?」
モンスターを討伐していた戦士系ベースのアバターの男性は、倒したモンスターの隙間から何かが見えたことに驚く。
しかも、それは忍者だったのである。もしかすると、忍者構文の忍者だろうか?
『申し訳ないんだけど、忍者構文の忍者ではないんだよね、これが』
ボイスチェンジャーで変化した男性声の忍者、その正体は飛天雷皇忍将軍だったのである。
同じ忍者ロボットではあるものの、蒼影がリアルタイプの忍者に対し、あちらはSDチックな忍者ロボットで、明らかにデザインは違っていた。
そして、飛天雷皇忍将軍は問答無用に次々と悪質な転売ヤーを倒していく。
「馬鹿な、冒険者同士ではPKが禁止されているのでは!?」
別の冒険者が叫ぶも、その声は全く届かない。次の瞬間……。
「ここは、いわゆるVRMMOなどのようなゲームではない。ダンジョン神のダンジョンは、あくまでもダンジョン探索だ。PKという概念は初めから、ない!」
その冒険者をあっさりと撃破したのは青凪だった。まさかの現地での合流だったのである。
その後も二人が次々と現れる転売ヤーや悪質配信者を撃破していき、ログアウトした段階でガーディアンが摘発する……という流れを繰り返していた。
当然だが、この一軒に関してニュース番組では取り上げられていないし、SNS上でも拡散はしていない。
ガーディアンが情報統制などをしているわけではなく、単純にニュース番組では視聴率が取れないことで、民法では別のリアルアイドルの話題などを取り上げていた。
SNS上でも忍者構文が拡散しすぎた影響で、これをいわゆる大喜利のネタと扱い、事実と伝えるようなまとめサイトはなかったのである。
ある意味でも拡散した人物が危機感を持って拡散したのではなく、『バズり』や承認欲求目当てに拡散したのが裏目に出たといえるだろう。
「どうやら、先行したメンバーがいるようだ。続くぞ!」
「ほかにも忍者がいるようですが……」
「青凪以外はスルーだ。他はそれぞれの忍者ガイドラインで動いている」
(それぞれのガイドライン……)
タケとツバキが現地に到着すると、すでに数割が撃破された後でもある。
二人はやり取りを早めに切り上げ、青凪の方へと向かい、向こうへ加勢することになった。
『なるほどね。この炎上勢力討伐も……ガーディアンの大規模作戦の一つか』
飛天雷皇忍将軍が青凪の方へ向かうタケとツバキを見て、もしかすると今回の一件はガーディアンが関与していると考える。
実際、彼女がコクピット内で見ているSNSではガーディアンが転売ヤーのアカウントを凍結し、摘発を行っているという話題がトレンドになりかけていた。
忍者構文は時として、偽りやフェイクニュースで片づけられることが多いのだが、今回に限って言えば事実を言っていたのである。
それを今頃知ったとしても、転売ヤーなどにとっては後の祭りだった。
それと類似するタイミングで、月坂ハルカが向かっていたのは、あの時と同じ川口市某所のまとめサイトの事務所だ。
すでにガーディアンも動いており、ここにも強制捜査を理由に数名がやってきている。
ハルカの場合はガーディアン所属ではないので、彼らに気づかれないように潜入するのだが、ある意味でもスパイを思わせるかのように潜入もお手の物だった。
「あなたがまとめサイトを束ね、転売ヤーを先導するインフルエンサーね」
とある部屋にノックもなしに扉を開け、潜入するハルカではあるのだが、向こうには聞こえていないようだ。
それに、彼はパソコンで何かをしているように見える。隙間からはダンジョンらしき映像が見えるのだが……?
「正直に言うと、あなたが転売ヤーや迷惑配信者などを先導し、特定コンテンツを炎上させた元凶とは思いたくない」
ハルカが一歩一歩進み、気が付けば彼の座っているゲーミングチェアの一歩手前まで迫った。
それに加え、彼女はARガジェットではあるが、FPS用のビームブラスターを手にしている。
仮にこの場所でARシステムが起動していれば、パソコンを機能停止にすることも可能だろう。
「あなたが今回の事件の元凶なのね、青凪!」
ゲーミングチェアが半回転し、青凪はハルカの方へと視点を変えた。
「まさか、ブラックバッカラ事件の英雄が、こちらのような些末な事件を手を出すとは……正直に言って予想外だったがね」
次の瞬間、彼はVRグラスと思わしきものを外し、立ち上がり、ゲーミングデスクの下に隠していたARガジェットの刃のない筒を手に取る。
「こちらとしても、迷惑系配信者のリアルダンジョンの事件があって、逆に都合が悪かったのでそれを一掃するために、とあるゲームの青凪を名乗ったのだが、想定外だった」
青凪の正体、それは自分の都合よく動くコンテンツのみを支援し、他を炎上させてオワコンにする……ある意味でも炎上商法を先導するインフルエンサーだったのだ。
「一部勢力からは扇動ともいわれるが、ああいった承認欲求が欲しい個人などとは間違えられるのが許せなかった。自分が行うのは、あくまでも先導だ……」
「だからといって、他のコンテンツを炎上させてまで都合の良い唯一コンテンツを生み出す流れは許せない」
「それ自体、散々言及されているじゃないか。小説サイト、SNS、果ては動画サイト……彼らは何度も警告してきた。忍者構文として」
「忍者構文、まさか?」
青凪の言及したワードに、ハルカは若干驚く。それこそが、忍者構文なのである。
「その通りだ。300年前に一連の事件があった、その技術が影響してありとあらゆる大量破壊兵器が無力化した。わかるだろう? 貴様も、ある人物から聞いているからな」
(まさか……?)
「ブラックバッカラ……考えてみれば、共通点もあったな。忍者構文とブラックバッカラ、まさか……こういったものとは。それは後で知った事実だがな」
(忍者構文も、ブラックバッカラ事件と同じ?)
青凪の話す衝撃事実、それは300年前の事件という共通点を忍者構文とブラックバッカラが持っていたこと。
それに加え、大量破壊兵器が無力化された事件、そこに関与していた技術も同じだったこと。
極めつけて言えば、事件のきっかけになった技術は同じだったということである。
「いずれ、ダンジョン神の正体も暴こうと思ったが、ブラックバッカラ事件に関係したお前たちに知られるのは都合が悪い」
そして、青凪の持っていた筒からビームでできた刃が展開される。どうやら、ARシステムは動いているようだ。
「この部屋がどうして、プロレスのリング規模で広いのか、疑問に思っただろう? 最初から、こちらは察していたのだ」
(察していた? まさか?)
「路線変更がタイムリー事件の影響で起きるのでは、と。それが、こういうことだ」
(パソコンの画像、ダンジョン……?)
ハルカはパソコンに映し出されたものがダンジョンであると、ここで初めて分かった。
近年、ダンジョン配信は思わぬブームを生み出し、企業もARダンジョンを立ち上げる規模ではあったのだが……それを迷惑配信者などが環境を変えてしまっている。
何としてもコンテンツを守るためにも、こうした炎上勢力を除外すること、それが青凪の目的に代わっていた。
「プロゲーマーでありブラックバッカラ事件の英雄、月坂ハルカ! この私の英雄願望……わからないでもないだろう?」
ビームブレードを振り回す青凪に対し、ハルカの方はブラスターを構えたままで動かない。むしろ、動けないというべきか?
「私はありとあらゆる次元の炎上勢力を駆逐する! リアル炎上は形を変えた戦争に過ぎないからだ! そして、私は……」
青凪が数歩踏み出したのち、ハルカは何かを発見し、それに向けてブラスターの引き金を指にかけて……撃った。
「あなたは間違っている! 押しつけのやり方では、コンテンツは変えられない。それは、私たちも……」
ハルカの目には涙がうかびつつも、彼女は冷静にARシステムに向けてブラスターを撃ち、それの機能を停止させた。
その次の瞬間にはビーム刃も消え、フィールドの効果も失われていく。
それは、外で戦っているガーディアンにも影響をしていた。
事実、外で戦っているまとめサイト勢力のガジェットも無力化し、ガーディアンによって拘束されていたからである。
「馬鹿な。炎上すれば、それこそ後戻りはできなくなるのだぞ……」
無力化したビームブレードを見つめ、そのあとにはハルカの方を青凪は向く。
「確かにSNS炎上は許されない出来事。しかし、あなたの考え方では……また新たな炎上勢力を生み出す」
ハルカの方はブラスターを地面に置き、離れた間合いにいる青凪へと近づく。
「炎上したまま終了したコンテンツも数知れず存在する以上、誰かが止めなくてはならない」
青凪が用意したのは、ポケットに入っていたコンパクトライターにも似たような形状のものである。
「だからといって、炎上を止めるのに炎上を起こすのは……もうあってはならないのよ」
ハルカの一言を聞き、青凪もライターに似たもののロックを解除し、それをハルカに投げつけようとするが、瞬時に手に持っていたものを無力化するため、ブラスターを拾う。
「ARシステムが機能していない中、ARウェポンやARガジェットが動くわけがないだろう? これで、私の勝ちだ……」
その勝ちを確信した発言と同時に、負けフラグが立ったことを青凪は気づかなかった。
そして、瞬時にブラスターを拾い、ハルカは再びコンパクトライターのようなARチャフグレネードの最新型を無力化する。




