第11話その3
雪華ツバキは、夕食後に再びダンジョン神のダンジョンへログインした。
今回は配信せず、カードが光った該当エリアへと向かう。目的は、そのエリアの正体を確かめることだ。
該当エリアへ向かうのは、いわゆるセーブポイントを利用してあっさりと到着。そこまで時間はかかっていない。
(このあたりのはずだ)
ツバキが周囲を見回すと、右手側に光る扉のようなものがあった。
あの時にカードが光った際は、無反応だったのに……。
周囲に他の人がいないのを確認し、ツバキはその光る扉に触れると、自動ドアのように開き……ツバキは奥のエリアへと進む。
無言で歩き続けること5分が経過し、長い通路を歩いたと思えば、目の前には扉が再び現れる。
扉の大きさは、自分の身長以上なので……そういうことなのだろう。
考えてみれば、天井までの高さを踏まえれば明らかか?
その扉には、セキュリティキーで開くカギが存在し、その模様もカードのものと酷似していた。
(これを使えばいいのか)
そして、ツバキはカードをセキュリティキーの挿入口に入れると、扉は無音で開いたのである。
その扉の奥にあったのは、まさかのものだったのだが……。
「巨大、ロボット?」
それを見て、ツバキは言葉にしようと思ったが、これが限界ともいえた。
デザインは忍者と程遠く、それこそ蒼影と比べても忍者のイメージはわかない。
だからと言って、セキュリティとして運用しているロボともデザインは異なり、明らかに放置された格好だ。
全長は3メートル位、装備も肩に特殊シールド、背中のブースターユニットもミリタリー色が強い。
色はホワイトなのだが、彩色前提でベースの色という意味でホワイトにした訳ではなく、最初からホワイトで固定されているようでもあった。
頭部はデュアルアイ、コクピットハッチがあるわけでなく、上半身の一部個所が開くような形で乗り込むようだ。
デザインを踏まえると、ロボットというよりは、何かと合体するようなパワードスーツにも見える。
まるで、蒼影と関係があるかのような技術が使われているのかもしれない。
(このカードは確か……)
ツバキは、カードを渡した男性が転売ヤー対策にカードの配布を中止したことを思い出す。
これだけのロボットであれば、転売ヤーが動き出してもおかしくはないだろう。
やはり、あのタイミングで配布中止は正しかったのか……と装備解禁時の騒動を思い出していた。
「このほかにも……?」
ロボットは、ツバキの目の前にある1体しか置かれていなかった。周囲には様々な武器がむき出しで放置されていたりするのに、である。
厳密にいえば、ここには最初から目の前にあった1体しかロボットは存在しない。
組み立て前のパーツが入ったコンテナはあるのだが、その部品を組み合わせて追加で1体作れるとは思えなかった。
コンテナの数を踏まえると、組み合わせで作るのは困難だからだ。
いわゆるパーツ不足ではなく、もしかするとカードを入手して手に入るのはパーツ単位、ロボットに完成させるためには他の冒険者と組む必要性があったのだろう。
そうだった場合、組み立て済の1体がここにあるのもおかしな話。
何故、1体だけ組み立て済で放置されたのか? 完成図としたとしても、それは実際のものではなく設計図のようなもので配布すれば早い話である。
そこからはじき出される結論は、配布中止の関係であわてて組み立てたというべきか。もしくは、組み立ててからの解体中に方針転換で放置された……。
どちらにしても、プロジェクトは転売ヤーの介入で中止、もしくは後からトラブルが発生しての中止の方が有力かもしれない。
その一方で、タケの読んでいる書類は、まさかの内容を含んでいたのである。
(これが、青凪の正体……)
まとめサイトの管理人であり、転売ヤーの先導を行うインフルエンサー、それ以外にも様々なブラック企業とも変わらないような行為の数々……。
それほどの悪行を青凪が行っているという事実、まさかの証拠を発見したことでタケは別の意味でも言葉を失っている。
「このデータ、どうやって手に入れた?」
「さっきも、川口市某所でドンパチがあって、それの鎮圧にガーディアンが向かった際、発見した、といったじゃないですか」
「偶然とも言っていたが、本当に偶然か? 意図してガーディアンに提供されたものでは?」
「本当に偶然です。司法取引や交換条件があったわけじゃないです」
「鎮圧といったな? ガーディアン以外で第3者でもいたのか?」
「ARパルクールのガジェットと思わしきパワードスーツは見ましたが、それは別件でしょう。ガーディアンはノータッチです」
あくまでもデータを持ってきたガーディアンメンバーは、偶然を強調し、司法取引などは完全否定する。
その一方で、ARパルクールのガジェットと思わしきものを目撃はした、と発言はした。
「ARパルクール? あのパワードスーツは基本的にスポンサーマークがあったはず。画像を出せるか?」
「あの周辺の監視カメラや無人の中継用ドローン画像は、拾ってるとは思いますが……解析に時間はかかりますよ」
「それでもかまわない。転売ヤー連中の手に入れようとしているものが分かれば、そちらも行動はしやすくなる」
「確かに、それは一理あります。転売ヤーのやっていることはインサイダー取引と同類、規制すべき分野ではあるのです」
「ならば、その乱入してきたARパルクールのガジェットの画像を……」
「しかし、それとこれとは話が違います。ARパルクールは別の部署が担当していて……」
ガーディアンメンバーの方は、タケに対してデータの提供はできるが時間がかかる、と忠告はする。
それが何故に忠告だったのかはわからないが、タケがガーディアンの中でもイレギュラー要素が多いためにデータを提供できない、という可能性もあった。
無人の中継用ドローンの画像を持ってくるにも、何段階かの許可などは必要だし、色々と複雑な権利関係だってあるだろう。
更に言えば、自分たちはARパルクールに関して言えば管轄外で、画像を用意するのは難しいとも。
(こうしている間にも青凪が例のアレを転売すれば、億単位の損失では済まないぞ)
タケとしては、何としても転売ヤーが悪意ある転売で稼ぐことに関して根絶する必要性を考えている。
転売ヤーの行動は、インサイダー取引と変わりない犯罪行為であり、明確に禁止にするべき、と。
中古品販売もオークションではなく専門ショップのみに限定し、そこでの売買に限るという法律が必要なのだ、と。
タケは何かを焦っている可能性がある。それが、一連のダンジョン神のダンジョン関係の調査にも出ているのだ。
転売ヤーがARガジェットなどで武装して、それこそガーディアンと対立でもすれば、それこそ一部インフルエンサーの思うツボ……そう考えている節もあった。




