第11話その2
タケ、青凪、雪華ツバキはダンジョン神のダンジョンで、まさかの遭遇をする。
その後、とある話に発展し、一時期的に手を組むという形となった。
「転売ヤーのアカウントを調べてみたのだが、やはりというかある共通点を発見してね。その転売ヤーがダンジョンへ来るという話だ」
タケの発言を聞き、青凪の方がタケから視線を若干そらす。
転売ヤーのアカウントと共通点、そのワードを聞き、彼は完全に一致したと考えざるを得なかった。
(まさか、あのガーディアンに占拠されたというまとめサイトの施設……そういうことか)
まとめサイトの施設からはARウイルスの一部と関係資料が押収されたというのはニュースで把握している。
その関係資料というのは、関係会社のリストであるというのはニュースで言及されているが、詳細までは触れられていない。
政治的な思惑で言及されなかったというよりは、言及しても理解されないの方が正しいだろう。
押収された資料がまとめサイトと関係している迷惑系配信者のリストであれば……。
青凪の考えている事が仮に真実であれば、タケの正体は……ということになる。
「あの時の転売ヤーは……」
ツバキは、あの時に遭遇した転売ヤーもタケの言う転売ヤーなのでは、と思う。
しかし、タケは首を横に振って無言で否定。
あちらはダンジョン神のダンジョン人気に便乗した勢力、いわゆる『バズり』や承認欲求を求めているのだろう、と。
「残念ながら、あちらは転売ヤーのレベルが違う。人気商品を倍額以上で売りさばければ……という単純思考の転売ヤーだ」
「じゃあ、タケの探している転売ヤーというのは?」
「ある意味でもインフルエンサーを兼ねて、経済を混乱させようという転売ヤーになる。あれは放置してはいけない」
「警察に相談すれば早いのでは?」
ツバキが警察に相談して転売ヤーを逮捕した方が早いのでは、と発言するが、それを聞いたタケの反応が変わった。
明らかに『警察に相談するべきではない』というような反応で、別の意味でも地雷を踏んでしまったのか、と思う。
「警察はARゲームに関係した事件は完全スルーを決めている。技術的にも警察ではどうしようもないのでお手上げ、という事情もあるが」
「その警察に代わって個人組織として立ち上げられたのが、現在のガーディアンと言えるだろう」
タケに代わって発言したのは青凪の方だった。
警察に代わってSNSやARゲーム関係の不正行為などを取り締まる組織として誕生したのが、ガーディアンという存在である、と。
「一方で、ガーディアンの行き過ぎた行動の影響もあって、過激派となったような迷惑配信者がガーディアンに対して反撃をしている噂もあるが……」
「迷惑配信者の一件は初耳ね。どこのソースかな?」
続けて発言した青凪だったが、他にも話そうとしたことを遮ったのはタケの方である。
この反応を受けて、青凪は他に話そうと思った話を止めた。
ツバキの方は、このやり取りを見て疑問に思っていたが……それを突っ込むのも止める。
(この反応は、まさか?)
話を続けつつも、数分は歩き続けると、ツバキの持っていたカードが一瞬だが光ったように見えた。
この反応はツバキにしかわからないようで、タケと青凪はカードが光ったことにさえ気づいていない。
「少し時間が迫っているので、ここで一旦抜けます」
そう言ったツバキは、そのままログアウトをする。時計に関しても、よく見れば午後6時台になろうとしていた。
ツバキが抜けた後、タケの方もスケジュール的な関係で離脱、青凪もログアウトしたようだが。
(反応があったエリア、明日にでも調べてみるか)
ログアウト後、夕食を準備しようと考えていたツバキは、ふとダンジョンのことを考える。
何があるのかはわからないが、カードが反応を示した以上、そこには間違いなく……。
「そういえば、あの青凪という人物、どこかで……」
ログアウトしたタケ……ガーディアンメンバーの男性は、青凪に若干覚えがあったのか、データを調べ始める。
ガーディアンのデータベースにも転売ヤーだったり、炎上行為に加担した迷惑系配信者のブラックリストはあるが。
結局は発見できなかったこともあり、捜索をあきらめて帰宅しようとした矢先に……。
「少し気になる配信者のリストがあったので、これを見てほしいのですが」
別の支部から帰還したガーディアンの男性メンバーが、いくつかの市販ファイルにノートのような紙を挟んだような束を持ってきた。
ファイルの表紙にはシールが貼られており、そのシールには『持ち出し厳禁』や『社外持ち出し不可』というような文字が並ぶ。
「どこから持ってきた?」
「先日、川口市某所でドンパチがあって、それの鎮圧にガーディアンが向かった際、偶然ですが発見したものです」
「偶然? 盗んだものでは?」
「盗んでいません。これはガーディアンが正式な手続きで押収したものです。残念ながら、あのチャフグレネードは別の勢力に奪われた後ですが」
タケの方も困惑はするが、男性の方は正式な続きで手に入れたものと言及する。
チャフグレネードを回収できなかった、というのは逆に気になるが、その内容をチェックすると……。
(まとめサイトのキャプションコピーなのか?)
その内容は、いくつかのまとめサイトをキャプションし、それをカラーコピーしたものだった。
文章メインなのだが、そのいくつかは迷惑配信者の行動、ダンジョンでの迷惑行為、転売リストまで。
特に転売リストはリアルダンジョンのものが多く、その額は数十万円からものによっては数百万が付いている。
出品説明には『日本国外輸出はできないため、日本国内で運用する方限定でお譲りします』と書かれているが、十中八九で転売ヤーだろう。
ARガジェットなどの類は、海外輸出が一切禁止されており、これを破ると逮捕レベルといわれている。
しかし、実際の逮捕事例がニュースで報道されていないので、どういう罪になるのかはいまだに不明だ。
「これは、まさか……?」
タケの発見したもの、それはまさかといえるような記事だった。
書かれていることは、とある映画に関してのレビューに見えるのだが……?
その実態は忍者構文に関する考察で、公開中の映画作品のネタバレと見せかけての忍者構文考察で『バズり』を稼ぐ、それが彼のやり方だったのである。
(これが、青凪の正体……)
まとめサイトの管理人であり、転売ヤーの先導を行うインフルエンサー、それ以外にもARチャフグレネードの転売ルート確保……。
やっていることは第1章のラスボスといってもふさわしいような悪事の数々を行っていたのだ。
忍者構文を正しい意味で広めるためにも、この人物を放置することを、タケは絶対に許せなかったのである。




