第8話その3
その日に寄せられた蒼影の目撃情報、それを元にしてガーディアンが向かったのだが……すでに事件は解決しており、出る幕がないとも。
連絡が運営からあったという話だが、その時には該当部隊が出払っていたので近場の部隊を急行、本隊は別タイミングの合流という形になったという。
「遅かったか」
パワードスーツを装着したガーディアンのリーダーと思わしき女性は、この状況を見て驚くしかなかったのである。
主力部隊は別の転売ヤー騒動へ出動しており、そこから駆けつけたのだが……現場を見る限りでは遅かったかもしれない。
特にダンジョンが荒らされた形跡はなく、けが人もいないという事だった。
今はガーディアンの別部隊が現場を調査しており、ダンジョンの方は一時中断、他のエリアは営業をしているものの……という具合である。
調査によると、ARダンジョンを妨害するであろう例のチャフグレネードが使われた形跡はなく、装置に異常があった訳でもないとリーダーに報告された。
実際に犯人と思わしき人物はダンジョンの運営が保護しており、ガーディアンへ通報したのもダンジョンの運営スタッフだったりする。
では、蒼影が出現したというのはどういうことなのか?
「カメラにも蒼影の画像は残っておらず、犯人が倒される映像のみでした」
「蒼影? それが、例の忍者の名前か?」
「いえ、忍者構文や一部の動画サイトでは蒼影とも呼ばれていますが、蒼影の方が正しいかと」
「明確なソースのない情報を鵜呑みにするわけにはいかないが……謎の忍者では忍者が大量に出没している以上、レポートにも支障がある」
女性リーダーに報告をする男性メンバーも、謎の忍者に関しては色々と手探り状態で、ガーディアンも対応が後手に回っていた。
忍者構文自体、ガーディアンも鵜呑みにしはしておらず、これをソースに行動をしているのはダンジョン探索中のタケ位だろうか。
「では、蒼影という事でレポートを作成します。それと……犯人はどうしましょうか」
「転売ヤーの部署であれば、そちらへ回して我々は調査終了後に、本部へと……」
「実は違います。そのため、確認をしてほしいものが……」
男性メンバーは保護中の犯人をどうするかリーダーに訪ね、転売ヤー部署へ回すように、というのだが……彼は違うと言い出した。
確認してほしい物とは何か? 気になるので、パワードスーツのメットを脱ぎ、保護しているという部屋に案内をしてもらう事に。
運営スタッフに案内してもらったのは、特別な部屋で、テーブルすら置かれておらず、パイプ椅子に一人の男性が座らされている……という風に見える。
周囲は窓があるが、これはガラスではなく特別なプレートを使用しており、台風クラスの風でも耐えるというものだ。
外見を見るに、別ゲームのARスーツを着ており、そのうえでメットを着用しているので異質と言えなくもないが……ガーディアンも似たものなので。
広さは数十人は入られるようなスペースだが、今は誘導したスタッフ、犯人、ガーディアンの女性リーダーの3人しかいない。
(このクラスのARスーツは……ガーディアンからの流出品か?)
女性リーダーは、ふとスーツの形状やメットのデザインを見て、ガーディアンから技術が流出したものでは、と考える。
実際、転売ヤーの使用していた武器類、他のまとめサイト運営者の使用していた武器類やロボットも、どこからか流出したデータを使用していると考えれば、納得がいく。
しかし、その流出させた人物は不明のまま。その中で、ARゲームやAI技術などが爆速で拡散しているのは、もしかすると……。
「聞きたいことがある。そのアーマーはどこで手に入れた?」
『ガーディアンがそれを聞くのか?』
「どういうことだ?」
拘束されているアーマーの男性は迷惑配信者なのは間違いないが、ARメットを脱ぐような様子はない。
意図的な理由で脱げないのか、それとも……。そういった個所もあって、男性の声は自動音声になっていた。
女性リーダーも拘束されている人物の声を聞き、別の意味でも驚くしかない。
『アーマー自体は別の転売ヤーから提供を受けたものだが、その人物はどのルートまでは明言していなかった。こちらが知らないことを、ガーディアンは聞くのか?』
「別の転売ヤー……その人物は何者だ?」
『名前までは……まてよ、その人物は仮の名前として花の名前を使っていたな。確か……』
「その名前は何だ? アーマー以外にも何を手に入れた? チャフグレネードは手にしたのか?」
女性リーダーの方が冷静ではあるのだが、出てくるワードに困惑しているような雰囲気がある。
拘束されているアーマーの男性は、自動音声なのに加え、本来の声も男性ではあるのだが……その声を聞き取ることは出来ない。
どうやら、何者かが遠隔で操り、彼をメッセンジャーとして利用しているのだろう。
『チャフグレネード……ああ、あれか。残念だが、それは手にしていない』
「手にしていない? 使い方が分からないものは捨てた、ではないのか?」
『使い方自体はインターネットを検索すれば、おのずと見つかる。本当に手に入れてないだけだ』
呼応即されているアーマーの男性を、彼女はつかみかかろうとも考えたが、さすがにそれは向こうにとって有利になってしまう。
下手な行動をとれば、それがSNS上で拡散され、炎上することも明らかだったから。
その証拠に、彼のARメットには何かのカメラと思われるものが外部に取り付けられている。小型なので、わかりづらいが……。
『それと、迷惑配信者をブラックリストに追加しているガーディアンがいる。そいつに気を付けろ』
「ブラックリストのレベルであれば、こちらでも追加しているメンバーは何人もいる。それがどうかしたのか?」
『お前たちは何も気が付いていないようだな。ブラックバッカラの一件が解決し、今は……忍者構文だったか』
(忍者構文!? まさか……)
言われたワードにまた反射的な反応をした女性リーダーだったが、今度は忍者構文に反応したのではない。
ブラックバッカラの一件、それは詳細を含めて公式発表もされていない、あの事件の事なのでは……と。
『忍者構文の再現を狙い、迷惑配信者を囮にマッチポンプを、仕掛けているメンバーがいる、という事だ』
『その名は、タ……』
途中まで何かを言おうとしていた瞬間、何かのノイズ音が入ったような音声になり、そこで自動音声は途切れた。
もしかすると、それこそ蒼影の考えているSNSの炎上という事だろうか?
「この人物はどうしますか?」
ダンジョンの運営スタッフの男性は、女性リーダーに話しかける。
タイミングがあったので、今まで口をはさむことはなかったようだったが……。
「迷惑配信者という事であれば、警察にでも引き渡しを」
その後、女性リーダーが警察へ連絡、迷惑配信者は逮捕される流れとなった。
夕方にはニュースとして放送、さすがにトップニュースではなく地方のニュース枠ではあったが、改めてダンジョン配信を行う迷惑配信者がピックアップされる事になる。
この流れを踏まえ、迷惑配信者のブラックリスト共有が加速化、翌日には対応が完了したという。
更に言えば、それはバーチャル空間側も例外ではなく、ダンジョン神のダンジョンでもリスト共有がされていく。
リストの共有化は、思わぬ所でも活用されていた。
それは迷惑配信者の中には転売ヤーも混ざっていたこともあり、埼玉県内における転売ヤー根絶にも一歩前進したことである。
(既に終わった後、なのか)
飛天雷皇忍将軍は、ダンジョン神のダンジョンを見回して迷惑配信者らしき冒険者を発見する。
しかし、その冒険者は既に忍者に倒された後であり、ダンジョンのセキュリティロボに回収されていた。
自分が倒したことにするような手柄の横取りはしないが、先手を取って一掃した忍者というのが気になる。
一体、この集団を一掃したのは誰なのか? 周囲を改めて見回すと、回収しそびれたような手裏剣の1つを発見した。
(もしかして、この形状は……)
手裏剣の刃の部分がビームを展開するような仕組みではなく、これは明らかに実在するような忍者が使用していたような十字の形状である。
自分の使用している物や蒼影の使用しているものは、ビーム刃で展開する手裏剣なので、このタイプは使用していない。
まさか、今回の忍者の正体は……?




