第8話その1
『忍者とはありとあらゆる炎上を阻止するために存在する、対電脳の刀。忍者とは悪意ある闇の全てを斬る存在でなければならない。彼らが斬るのはあくまでも悪意ある炎上であり、それ以外のものを切り捨ててはならない』
『リアルでは、大手企業の拡張現実技術を使用したARダンジョンが拡散しつつあり、個人などの運営していたリアルダンジョンは迷惑配信者の存在もあって消えつつあった』
『その中で、人々は願った。コンテンツ流通を妨害する迷惑配信者や『バズり』勢力を根絶する存在を。そして、彼は現れた。それが忍者と呼ばれる存在である』
『一方で、その想像以上の力は今までSNS炎上を阻止してきたガーディアンさえも警戒するようになり、行き過ぎた力は周囲に不安を呼び込むことも証明された』
『共通する敵は同じであるにもかかわらず、忍者とガーディアンは交錯し、時には敵として戦う事もあったという』
『ダンジョン配信というブルーオーシャン状態のコンテンツを、どのように変化させていくのかは……配信者だけでなく、それを見る側のオーディエンスにも責任が伴うのだ』
『果たして、コンテンツ業界を変えることができるのか……』
『これが、今のダンジョン配信の状況なのです』
ダンジョン配信の考察を行う数十万単位の再生数を誇る自動音声解説による動画、それにも忍者構文や対電忍の影響が出ている。
それほどにダンジョン配信を取り扱えば、再生数を期待できるという状況になっているのだろう。
今やバーチャル配信者もダンジョン配信と言えばダンジョン神のダンジョン、という認識である。
リアルダンジョンでは顔バレなどの可能性もあるし、ARダンジョンでは配信可能エリアが限定されているなどもあって、ダンジョン神のダンジョンで行うケースが多かった。
最近ではダンジョン神のダンジョンの影響を受け、新規でバーチャル空間でダンジョンを作ろうという動きがあり、それもまとめサイトで取り上げられているレベルである。
ダンジョン配信フィーバー……とは誰が言ったのだろうか?
別の作業も終わり、自宅へ帰ってきた一人の女性、服装はカジュアルブランド系の服で、あまり露出をするようなものを着ていない。
髪型はロングヘア―だが、前髪がメカクレよろしく、少し隠れているのが特徴でもある。
自宅へ戻り、荷物を自室へ置き、作業スペースのゲーミングチェアに座り、その後にスマホをチェックした。
「やはり、あれは若干やりすぎたかな」
スマホの検索結果を見て、自分でも若干の反省はしている。
しかし、それでも向こう側が行ったこと自体がアウトなのだ。ガーディアンに身柄を引き渡されたかどうかまでは、把握していないが。
「どちらにしても、まずは……」
パソコンには電源を入れていない、というよりもこれから電源を入れるつもりだった。
彼女の目的は、ダンジョン神のダンジョン。その理由は簡単だ。彼女もまた、忍者だからである。
(まさか、あのサイズのロボットを運用できるダンジョンがあるなんて……)
リアルダンジョンでは論外かもしれないが、彼女はバーチャル空間でロボットを運用できそうなダンジョンを探していた。
さすがに今回のプラモに関していえば、プラモバトルには使用するという事はない。どちらかというと、個人的に動かしたいだけなのだ。
その中でダンジョン神のダンジョンを発見し、そこで運用することにしたのである。
その一方で、迷惑配信者の件は彼女も把握しており、これに関しては自分のいるジャンル以外でも存在するのか、と改めて思い知ることとなった。
彼女がパソコンに電源を入れて、早速見たのは一連の忍者騒動の動画だった。
最初に炎上系配信者を確保した際は無言だったわけだが、それでは蒼影のコピペになってしまう。
そうなっては、逆に向こうの方が炎上する可能性が高い。
忍者構文の忍者がどちらなのかは特定されていないので、炎上を気にするよりは丸ごとコピペを懸念するべきか。
動画をチェックして分かったのは、青凪という忍者も確認されたのだが、こちらは何処かで似たような忍者を見た覚えがある。
さすがに、こちらも丸ごとコピペではないのだが、場合によってはバーチャルコスプレイヤーと認識されるだろう。
「こっちはその心配はないんだけどね」
彼女がバーチャル空間に持ち込んだ忍者ロボット、その正体は自身が製作した改造プラモデルだった。
それをトレースし、バーチャル空間に持ち込めるようにしたものである。
トレース用のスキャナーはプラモバトルで使用しているものがあるので、それを使えばいいだけの話だ。
実際、そのまま使えたので別の意味でも驚くしかなかったのだが……。
「頼むわよ、飛天雷皇忍将軍」
飛天雷皇忍将軍、それが彼女の登場する忍者ロボットの名だった。
全てはSNS炎上勢力や迷惑配信者を根絶するため、彼女はダンジョン神のダンジョンへと向かう。
飛天雷皇忍将軍に搭乗する彼女は、コクピットスペースに座って操縦を行っている。
実際はプラモバトル用のコントローラーを使用し、それで操作をしているのだが……。
アバターの外見もくノ一を思わせる一方、ロボットから降りるようなことが今までないので姿を他人に見せたことはない。
彼女自身もダンジョン配信を過去に行ったことは何度かあり、その辺りのノウハウも知っている。
しかし、ダンジョン神のダンジョンへ向かわなかったのには別の理由もあった。それは、やはりというか炎上の危険性。
他のダンジョンでもダンジョン神のダンジョンの名前を利用した炎上行為がエスカレートしているのが、その証拠と言えるだろう。
飛天雷皇忍将軍の完成度に関しても、まだ80%位であり、ある程度の動作ができる範囲で使用していると言ってもいい。
武器に関しては何とか形にはなっているが、まだ一部の機能が使用不能状態である。
特に変形機構は、未完成状態ではどのようなリスクがあるのかわからないので、この段階では実装していないのだ。
それ位に、彼女にとってはSNS炎上や迷惑配信者などの存在を放置できなかったといえる。
今回の事を後押ししたのは、間違いなく蒼影だろう、と。




