第7話その3
3日の夜には様々な動きがあったかもしれないが、4日の午前中に大きなニュースが拡散された。
【ダンジョン神のダンジョンで装備を購入できるようになりました】
以前から言われていたが、遂にダンジョン神のダンジョンで装備購入が可能になったという話である。
装備に関しては日本円での購入と思われたが、独自の通貨が使われるようだ。
その理由に関しては『転売ヤー対策』というのが有力だろう。
独自通貨自体はダンジョン神のダンジョン以外のバーチャル空間で使用可能な通貨とのことらしい。
もしかすると、ダンジョン神のダンジョン限定の通貨になった可能性もあるが……この辺りはバーチャル空間側に配慮したのだろう。
一方で、この話題を待っていたといわんばかりの勢力も存在する。それが転売ヤー勢力だった。
暴徒化した転売ヤー、まとめサイトなどが関与していた転売ヤー、オークションサイトで暗躍する転売ヤー……様々かもしれない。
しかし、彼らのやっていることは単純に自分が儲けたいからやっているだけに過ぎないだろう。
なお、この世界の埼玉県では転売行為自体が禁止されており、許可を得た事業者でないと中古品の販売は出来ない。
そのため、中古のレトロゲームを集める際は中古ゲーム専門店やオケアノスに立ち寄り、そこで購入するケースが多いのだ。
埼玉以外のエリアにも転売ヤー禁止条例を実装してほしいと願う都道府県も多いが、この辺りは様々な壁というのが存在するのかもしれない。
それでも転売ヤー禁止条例は、いくつかの県で試験的に運用され、好評を得た所では実際に……という流れになっている。
【ついにこの時が来たか】
【他のリアルダンジョンでは土産物屋のようなグッズばかりの場所が多い気配もする】
【しかし、ARダンジョンと違って本格的だ。何故、今までなかったのか?】
【話によると、今までは各自で用意する仕組みだったらしい。いわゆる登山やキャンプみたいなものか】
【値段に関してはどうなのか?】
【まだ決まっていないようだ。しかし、誰の手にも渡るような設定にする、という事は告知されている】
SNS上でも、このようなつぶやきが拡散されているが発言者の名前を見てみると、どれもが転売ヤーの捨てアカウントとも言えるものだ。
一体、彼らは何を考えているのか……と書いても、やることに関してはただ一つだろう。
「いまだに見つかりませんね、アレ」
タケとは別のガーディアンメンバーの男性が、今までに押収したデータなどをパソコンでチェックしている。
彼らが発見しようとしているのは、ARゲームのジャミングなどに使用するチャフグレネード、いわゆるARゲーム用のウイルスだ。
しかし、以前に押収した業者リストを調べても、いくつかはダミー会社だったために収穫が得られていない。
ここまでの事をしている以上は、ガーディアンに情報を探らせないようにしているのは間違いないだろう。
「実物も、あの時に押収で来たサンプルだけ……本当に実用化されているのかも疑わしいレベルですね」
もう一人の眼鏡をかけた男性メンバーも、以前のアレだけではデータが足りなさすぎる、と若干ぼやいている。
確かに、あれがARを使用したギャンブルで悪用されたら、金儲けし放題であり、あのチャフグレネードが1個で1000万円を超えても、元は取れるだろう。
中身も人体に影響がなく、それを踏まえると……アレがARゲームに悪影響を与えると情報を拡散しない限り、増産されるのは時間の問題だ。
「アレが量産化されれば、それこそARゲームの運営が危うくなる。それを踏まえると、危険な兵器であることは間違いないのですが」
まだ完全に分析できたわけではないが、ガーディアンのロボットに使われている装甲を一時的に無効化したのは、脅威とも言えなくもない。
ガーディアンのロボットは軽量化や量産の意味合いもあって、ARゲームで使われたシステムが採用されていた。
それを踏まえると、これによってガーディアンの兵器が無効化され、そこを炎上勢力などに悪用されかねない、という懸念がある。
殺傷能力が皆無であることが、逆にこのチェフグレネードの脅威を強めているのだろう。
「それでも情報が足りない以上は、下手に炎上をあおる危険性さえある。そこは重視しないといけない」
眼鏡をかけた男性は、危険性をアナウンスして「気を付けてほしい」というのと「〇〇はこういった理由で危険なので、見つけたら触れないでほしい」というのではレベルが違うとも語る。
むやみに「気を付けてほしい」だけでは、炎上勢力が逆に魔女狩りなどと言って煽るのは目に見えているし、理由を付けても「それはガーディアンの言い分でしか過ぎない」と炎上させるだろう。
しかし、後者の方であれば理由を付けられずに炎上するよりも、理由を語ったことで一定数の支持は得られるかもしれない。
ガーディアンはあのチャフグレネードにも似たような兵器を拡散させてはいけない、それを最優先にしていたのである。




