第66話その2
すでにガーディアンが全体の8割に近い数の炎上勢力やお気持ち表明勢力、転売ヤーなどを討伐したタイミングで、それは姿を見せる。
その姿は蒼影にも意匠が酷似した忍者ロボットだ。更に言えば、サポートメカが合体した覚醒バージョンに見えなくもない。
この忍者は別のエリアにも姿を見せていたような気配がするが、そちらとも微妙に違う可能性はあった。
「このタイミングで忍者か!?」
「弱音を見せるな! その隙に炎上勢力が何かを仕掛けてくるのは確実だ」
「上空のドローンも気になるが……」
周囲のガーディアンは、上空に飛ぶドローンも気にはなりつつ、炎上勢力等を討伐していく。
しかし、姿を見せた忍者ロボットにも対応しなければいけない。向こうが仕掛けてこなければ……と言うのはあるだろうが。
「まさか、こういう形で配信を行っているとは気づくまい」
埼玉県某所、そこでゲリラ配信を行っていたのは迷惑系配信者の一人だった。
彼がふとハッキングを利用してARゲームの中継用ドローンを利用し、今回の秋葉原決戦を中継していたのである。
当然だが、彼の中継を配信しているチャンネルの登録者数は1時間にも満たない時間で数十万人の登録、スパチャの類も投げられている展開だ。
彼のいる場所、そこはコンビニの近くと言うべきか。漫画喫茶や自宅などで配信を行えば、ガーディアンに阻止されると考えているのだろう。
更に言えば、配信と言っても彼はスマホを片手にチャンネルの配信を見ているにすぎない。
彼は、車の車内で配信しているわけでもなく、チャンネルの配信画面にはコンビニが映り込んでいるような画像もなかった。
この配信を行っている人物の正体、それはAI……人工知能を使用したVTuberなのである。
実例自体は存在するが、成功例かと言われると……疑問は残るだろう。それ位には未知の技術で彼は配信を遠隔で行っていたというからくりだった。
彼もまた、例のデータを手に入れて使用している一人にすぎなかった、と言ってもいい。
「まさか、ハッキングプログラムまでついてくるとは……?」
そして、彼は自分の目の前に近づいてくる人影を発見し、すぐに逃げ出すそぶりを見せる。
その外見が警察官ではないので、おそらくはガーディアンなのは明らかだろう。
しかし、ガーディアンの幹部級は全員出払っている、と言う話だったはず。それが、何故に……?
「なるほどね。そりゃあ、ガーディアンも警戒するわけだ」
彼の目の前に現れた人物、それはガーディアン草加支部のメンバーであるガラハッドだった。
ふとしたことで謎の中継が行われていることを知り、その配信場所を探った結果……先手を取ることができたのである。
「貴様は、忍者構文の……」
迷惑系配信者の男性の方は、ガラハッドの顔も知っていた。むしろ、VTuberでもない配信者だからこそ……か?
「知っている配信者がいたとは、予想外……とでもいうと思ったか?」
ガラハッドの方は、目の前の男性が迷惑系配信者であることは把握済みだ。
顔出し配信を行い、迷惑行為を行っている常連であれば、警察なども賞金首扱いで情報を拡散するのも納得の流れである。
警察もARゲーム関係の事件は非干渉を貫いているが、それ以外に関しては容赦のない取り締まりを行う。
その証拠が賞金首制度と言えるだろうか。その額は様々だが……。
「こっちとしては、特殊詐欺のコンサルタントもやっている迷惑系配信者と聞くと、ある意味でも吐き気が出る」
「こちらとしても、顔出し配信者を迷惑系とピンポイントに決めつけて炎上させるような『バズり』勢力には、うんざりしていた所だ……ガラハッド!」
お互いに色々と言いたいことはあるようだが、かみ合わない箇所がある。
ガラハッドとしては、賞金の金額が数十億まで跳ね上がっている配信者を捕まえたいところだが……。
「ここが日本でなければ、賞金首の記述がデッドオアアライブ……になっている所だ」
そして、ガラハッドは氷を思わせるような刃を持った剣を構え、彼に斬りかかろうとする。
「ふざけるな! 貴様のその氷の剣を……!」
何かを言おうとしていた迷惑系配信者は、全てを言い終わる前に手に持っていたロングソードのARガジェットを落とし、前のめりに倒れた。
反撃を考えていたガラハッドは頭の上に?マークが出ているような状態に近いが、とりあえずは無力化出来たことには一安心している。
「さすがに、それを奪い取ろうとしたらフラグにはなるだろうな」
目の前に姿を見せた人物、ガラハッドには若干の覚えがあった。背広姿であることも、その証明ではあるのだが。
彼もまた、この人物を別の事情で追跡していたのだが……ガラハッドの出現で若干の様子を見て、このタイミングになった。
「スタンバンカー、説明してもらおうか」
その人物の正体、それはガーディアン足立支部の支部長でもあるスタンバンカーだ。
ただし、支部長なのはテレビアニメ版のオリジナル設定で、特撮版やコミカライズでは……。
「お前に説明することなどない。AIVTuberを知っているお前には、尚更だ」
「制作委員会に所属しているお前に、それを言う資格があるのか?」
そう、スタンバンカーが所属している組織、それは制作委員会……つまり、対電忍のメディアミックスに関与している組織だったのだ。
制作委員会の所属メンバーと言う設定は、テレビアニメ版では関与し方が異なるし、特撮版では……そういう事になる。
「言いたいことは分かるが、特撮版もアニメ版も忍者構文の内容自体、若干異なるものだ」
「確かに、その内容は異なるものだ。しかし、共通個所だってある」
「そうだとしても、それを証明できるかな? 今のお前に……」
スタンバンカーのいう事に一理はあるだろう。特撮版とアニメ版、そのほかのメディアミックス版で、忍者構文の解釈は異なる。
実際、祈羽一族の先代も同じようなことを言っていた。歴史によって解釈は異なり、メディアミックスなどで時代考証の変化もあるだろう、と。
『あれが、忍者構文に便乗した勢力の正体……?』
その一方で、蒼影に乗る月坂ハルカも、化けの皮がはがされた目の前の蒼影には驚く。
別の場所に姿を見せていた蒼影と思わしき機体、その正体は思わぬ存在だったのである。
『まさか、ガーディアンではなく……芸能事務所に化けの皮を剥がされるとは』
目の前に姿を見せたのは、蒼影とは似ても似つかないような……それこそB級映画などで登場する劣化コピーだったともいえる。
その一方で、ハルカは目の前の忍者ロボットが言う『化けの皮』の意図に気づかない。
『芸能事務所? 大手事務所が……』
そのハルカの発言に対し、忍者ロボットの方は無言で否定する。
周囲のガーディアンも、そのやり取りに関しては意味不明と思っているようだが、これに関して言えば……。
それとは別の場所、秋葉原のレンタルサーバーを運営しているビル近辺……。
ビルへの侵入後、何かを持って帰ったホワイトクラッカーを突如として襲撃してきた人物とホワイトクラッカーが交戦していた。
何故、このような状況になったのかは分からない。
しかし、彼を襲撃してきた人物はダンジョン神のアバターを使っていた。
「このタイミングで終わってもらっては困るのですよ! コンテンツを売り続けるという意味でも」
彼が天使の羽を思わせるような遠隔平気でホワイトクラッカーに攻撃を加えているが、この様子に警察が介入する様子はない。
警察はARゲーム関係には関与しないのだ。それを逆手にとっての襲撃、かもしれないが。
ダンジョン神のアバターでコンテンツを売り続け、無尽蔵の利益を得ようとするという発言も……色々な意味で皮肉が込められているだろう。
「売れ続けるコンテンツだから、それを終わりのないような日常として売り続けるというのか?」
ホワイトクラッカーは、手持ちのARガジェットでは明らかに火力不足と判断する。
何故かと言うと、手持ちのビームライフルではビームの出力的にダンジョン神のアバターに勝てる保証がなかったのだ。
つまり、ホワイトクラッカーの狙っているのは、第3者の乱入によるフラグの発生で向こうの化けの皮を剥がすことだったのだが。
ここで場面が切り替わり、例のVTuber事務所のビルが映し出され、テロップには【今から数十分前】と書かれている。
つまり、ここで言う芸能事務所の正体とは……フェア・リアルの所属する企業勢VTuberの芸能事務所だった、と言うべきか。
「……構わん。やりたまえ」
社長室に突入し、直談判を行うフェア・リアルに対し、社長が言った一言は意外なものだった。
競合他社にリードするため、と言う意味で彼女の提案を受け入れたわけではないだろう。
それに加えて、社長の口調からも安易に『バズり』狙いで許可したわけではないのも、何となく分かる。
『今から始まるのは、VTuberやプロゲーマーたちの垣根を超えたSNS炎上防止月間の……ヒーローショーです!』
フェア・リアルの別の意味でもゲリラ配信と言うべき配信が始まり、その中で炎上系配信者が生配信中の中継映像を映し出した。
そして、その映像を指して彼女はヒーローショーと宣言したのである。
本来はSNS炎上に秋葉原決戦を利用し、ガーディアンなどの弱体化を狙ったインフルエンサーなども、まさかフェア・リアルがここまでの事をするとは思っていなかっただろう。
個人勢が発言したとしても、フォロワー数的な関係で信じない人物は多い。
しかし、フェア・リアルが行えば……それも違ってくる。彼女は企業系配信者でもあり、SNSのフォロワー数もかなりのものだ。
その彼女が一連の映像をヒーローショーと宣言したのである。確かに言われれば、忍者ロボットをはじめとして、現実離れしているのは言うまでもない。
だからこそ、逆に炎上系配信者の方が安易な『バズり』やアフィリエイト収入などを狙っていた、と断じられれば即座に炎上するのは向こうの方だ。
更に言えばSNS炎上防止月間は、様々な団体が協力して展開しているもので、いわゆる交通安全月間などに近い。
それを踏まえると、ある意味でもフェア・リアルの作戦勝ち……ともいえる光景だった。
これを聞いたガーディアンの支部長も目が点になっているのだが……比喩表現ではなく。
更に言えば、この配信はガーディアンだけでなく他の組織もチェックしており、ある意味でも全世界中がフェア・リアルの配信を見ているといってもいい。
同時接続数、1000万は行くであろう展開に、ガーディアンも言葉も出なかったのだ。
『我々は、悪質な炎上行為に関してはNOと言えるようにしなくてはいけません。それは300年前の忍者構文でも言われているのです!』
フェア・リアルの配信は、まだ続き、これによって、一部のアバターや炎上系配信者は戦意を失っていく。
中には、頭を抱えて自分の行いを公開する炎上系配信者もいた。そうした勢力はガーディアンに拘束されていくのだが。




