第60話その1
『皆さん、お待たせしました。VTuberのフェア・リアルですよ』
突如として始まったのは、企業系VTuberでもあるフェア・リアルの配信だった。
彼女の知名度は、所属している事務所内では高い方であり、SNSアカウントも100万フォロワー超えている……と言う話もある。
その外見は妖精を連想するようなドレスに意匠を持った女性VTuberと言えるだろうか?
以前にCMが流れていたかもしれないが、そちらはそちら仕様かもしれない。
もしかすると、アバターモデルのリメイクなどが行われた気配もあるだろう。
何故に彼女の配信が、と思われるがれっきとした理由がある。
『本日は、まさかのロケですよ! 埼玉県某所にある、祈羽忍者博物館からのリモート中継となります』
『ロケと言っても、こちらは博物館からお送りするわけでなく、配信スタジオからの……ですけどね』
しかも、博物館とリモートでつなごうというのだ。まさかの展開と言うべきか?
(まさか、仕事でここへ足を運ぶというか……そういう展開になるとはね)
ちなみに、フェア・リアルは企業VTuberとしてのアバターであり、実は彼女こそがガーディアン草加支部のメンバーの一人でもあった。
メンバーとしての名前はフエアリアルである。読みにくい名前なのだが、意図的な名前ともいえるだろう。
メンバーはこの名前では呼ぶことはないのだが……同業者はフェアリ・アルと認識したり、フェ・アリアルと呼んだりもしている。
一体、どういうことなのか?
この辺りを語ると長くなってしまいそうなので、ご想像にお任せする。
『まさか、博物館として開放しているだけでなく、忍者教室もやっているとは』
「忍者教室は、祈羽一族としても使命と言うか……忍者の存在を忘れてほしくはない、と言う理由で行っています」
フェア・リアルとリモートでつないでいる人物、それは祈羽一族の先代ともいえる人物で、祈羽フウマの父親だった。
祈羽一族は、先代と子供たち数人がおり、子供たちの何人かが忍者教室の指導者もやっている。
『忍者教室という事で、それこそ体験イベントなものをイメージしていましたが……』
「確かに、そういったイベントも実施しておりますが、格闘技の道場のような忍術指導も行っていますよ」
忍者教室の光景も中継で結んではいるのだが、その中に祈羽フウマの姿はない。
フウマも祈羽一族の末裔ではあるのは間違いないのだが……。
ちなみに、この忍術指導は無料で行われている。さらに踏み込んだものだと、有料にはなるだろう。
それでも忍術を学べるという事で、観光客が良く来ることも有名であり、今回の配信もそれがきっかけでオファーを出していた。
事務所としては無理だったら別の配信者の企画に差し替えも……と思っていただけに許可が出るとは思っていなかった様子。
『そういえば、博物館にはアレがあるという事ですが……』
「アレですか? ご覧になりますか?」
フェア・リアルのアレと言う発言を聞き、先代は何かに気づく。彼女の目的も、もしかすると忍者構文の原文……かもしれない。
しかし、事前の台本ではそれは触れていないので、違うものを見せても問題はないだろう……そう先代は認識した。
「おそらく、これは鑑定番組などでもお見せしたこともなく、取材もお断りしている……ある意味で初公開の代物です」
数分後、先代が別の部屋にカメラを持ち込み、それを映し出すのだが……その姿は予想外の物であり、フェア・リアルだけでなく、配信をも視聴している人物も驚く展開となった。
(これってまさか? 忍者ロボット?)
どういう発言をした方が良いのか……フェア・リアルも若干困惑する。表情はアバター経由なので、ある程度はお察しください、と言えるが。
「ちょっと待て! 何故、これがあの屋敷にある?」
この反応をしたのは、自宅でフェア・リアルの配信を視聴していた月坂ハルカである。
下手に口に飲み物を含んでいたら、吹き出す所だったといえるだろう。それ位には驚きを隠せない。
(あれは明らかに……)
その形状はあからさまだった。
忍者ロボットの原点と言う意味で、この博物館に飾られているレベルと思ったら……その形状はハルカにとっても見覚えがある存在だったのである。
間違いなく、その忍者ロボットは蒼影だった。
次のシーンでは、ガーディアン秋葉原本部の本部室に座る……スマホ型の着ぐるみの姿が見える。
秋葉原本部に着ぐるみが置かれている位であれば、小道具で置かれたという気配もするだろう。
しかし、小道具というには明らかにCGで作られているのは、おかしいといえる。何が、あったのか?
『前回の対電忍はーー!!』
まさかともいえるが、この声の主はガンライコウである。
テレビアニメ版は現在休止期間で、再開は来年の1月のはず。
それが、まさかの……である。
ふと考えれば、この対電忍の世界観自体、アニメ版と特撮版が存在するような世界なので、そういう事と割り切ることは可能だが。
とりあえず、アニメ版のこれまでのあらすじの形式で話を進めることにする。
『祈羽一族の隠し玉とも言えるような、ヒャクニチソウが遂に姿を見せるという展開に!』
『そういえば、フウマには姉がいるという話があったような気もするので、その姉が出てきたという気配か? これって、何かデジャブにも思えるような……?』
この場面ではヒャクニチソウの姿が見えるというか、前回のシーンである。
これまでのあらすじなので、当然と言えば当然か。
『更に言えば、ビスマルクと名乗る人物もガーディアンの妨害とまではいかないものの、その動きは明らかに歩調を合わせたものではない様子』
『そういった事情もあって、ガーディアンもビスマルクの動きは警戒していて……非常にガーディアンとしてもまずい雰囲気に』
こちらではビスマルクがなりすましのビスマルクを撃破する場面が映し出されており……。
【本作はフィクションですが、忍者構文は実在します】
このテロップはもしかして……と思えるような展開ではあるが、あの配信を踏まえると忍者構文は実在する、そういえるのだろう。
『どちらにしても、まさかの超展開なのは間違いない……と言うか、対電忍ってフィクションのはず』
『だって、今までもテレビアニメや実写にもなっていますし』
『作者が介入しているようなオチではないのは間違いないですが、この流れは一体……』
ナレーションの方もある意味でメタ発言のオンパレードではあるのだが、なにもおかしいような個所はない。
小説版やコミカライズと若干設定が違っても、対電忍の場合は『忍者構文の解釈が変わった』や『時代背景の変化』というような理由で変更されることはあるだろう。
まさかと思うが、対電忍の正体は忍者構文を題材にした劇中劇では……と予測する読者もいるかもしれない。
『それでは、対電忍の本編続き、どうぞー』
色々と予想外の事は起こっているが、対電忍の本編が始まろうとしていた。
【9月23日】
日時も進み、まさかの残り一週間だ。これは予想外と言うべきなのか?
【フェア・リアルの配信開始、数時間前】
まさかと言えるようなテロップが表示された。
冒頭のフェア・リアルの配信、それは実際の配信映像だったのである。
アニメ本編や実写映像と言うわけでなく『本物の配信』だったという。
「もしもし、祈羽さんですか? こちら、先日メールを出したVTuber事務所の……」
東京都足立区にあるVTuberの芸能事務所、その企画担当の男性がスマホ経由で電話をかけている。
電話をかけているのは埼玉県某所にある祈羽の屋敷。忍者博物館だった。
『祈羽です。先代から話は聞いておりますので、機材の方の持ち込みを含めてメールを確認していただければ』
電話に出たのは、青年の声である。先代に関しては準備のため、電話には出られないとのことだった。
その代わりに出たのが、この青年という。
「機材などに関しても、今メールを確認しましたが……大丈夫ですか、この企画を受けても」
『こちらとしても、あなた方のような大手事務所の所属VTuberの配信で祈羽一族を扱ってくれるのを……』
向こうも何か含みはありそうだが……事務所としても祈羽一族としても意見があったのかもしれない。
『対電忍、それはありとあらゆる炎上を阻止するために存在する、究極の切り札』
『彼らの存在がSNS炎上を阻止し、今のネット環境があるものだと、誰もが錯覚した中で、事件は起きた』
『SNS炎上阻止を目的として動く忍者と、承認欲求などのために炎上を行う勢力との対決を描いた物語』
ナレーションは、まさかのガンライコウ。特撮版のナレーションまでもアニメ版基準で進めていくというのか?
流れているオープニングテーマは、まさかのテレビアニメ版なので……混乱するのは間違いない。
実際、これを考えているであろう人物も……諸事情でこうなるとは、予想もしていなかったのだから。
アニメ版のオープニングテーマは流れているのだが、クレジットの表示形式は特撮版のソレである。
【ビスマルク】
これには、まさかと思う他にない。何と、ビスマルクが出るのだ。
回想シーン限定であれば回想と明言されるが、それはない。
その後はナレーションやシステムボイスと言った部分の担当声優のクレジット。
アニメ版ガンライコウも着ぐるみとしての出演だったので、担当声優の表記のみで顔出し出演はない。
【ヒャクニチソウ】
【デンドロビウム】
例によって一番最後にクレジットされていたのはデンドロビウムなのだが、その手前にはヒャクニチソウがクレジットされていた。
つまり、ヒャクニチソウの立ち位置はデンドロビウムの次に重要なポジション……と明言されているのだろう。
その前にも一部ガーディアン、レインボーローズ及び月坂ハルカの名前もクレジットされている。
まさか……?




