第57話その2
【あの有名配信者○○○がゲスト出演!】
【果たして、彼の運命は?】
提供の上下にあるスペースでは、上に最初のテロップ、下には次の……と言う具合。
やはりというか、あの配信者は実在する配信者で間違いはなかった。
似たような名前のパロディとしての人物と思ったら、まさかのご本人とは。
『これよりARバトルが展開されます。バトル展開エリア範囲にいるプレイヤー以外の人は、直ちにフィールド外へ避難してください……』
竹ノ塚駅構内に、まさかのアナウンスが流れ、駅を利用していた人がエリア外へと歩いて避難する様子を、電車から降りてきた一人の女性が驚いた表情で、見ている。
何人かは電車のホームの方へ移動している人物もいたのだが、この場合は駅のホーム経由で別の場所へ移動する……と言うのが適切か?
「電車を降りて早々に……これは?」
彼女の名は月坂ハルカ、企業の後任プロゲーマーだった時期もあるが、今はガーディアンと共闘する組織に所属していたりする。
プロゲーマーと言う肩書は間違いないのだが、今は企業所属ではなくてフリーだ。
ハルカとしても、この光景にはどこかで見覚えがあり、それを思い出そうとしている。
電車を降り、改札口へ向かおうとしたときに……デジャブの正体に気づく。
駅の改札口近辺には、男性配信者がいるのだが……彼はフィールドから避難してきた人物である。
「ここは、いったいどうなっている? ARダンジョンを探してここまで来たはずが……」
男性配信者はハルカに助けを求めているのか、それとも状況説明をしてほしいのか……困惑しているのは間違いない。
ARゲームは拡張現実を使用したものではあるが、まさか駅でプレイするようなゲームとは彼も予想していなかっただろう。
ARダンジョンが何なのかは調べたが、その元となったARゲームも調べるべきだったのかもしれない。
「ARダンジョンは確かにあるみたいですが、こことは少し距離がありますね」
その後、ハルカは彼にARダンジョンの場所をガジェット経由で説明し、彼の方はそれを参考に向かう様子。
ただし、先ほどの改札口はフィールドの影響で閉鎖されているので、別の改札口から向かうようだが。
炎上系配信者たちは、明らかに男性配信者の方を目の敵にしていた様子だった。
更に言えば、雪華ツバキ、と。
「まさか、お前が復帰をしていたとはな」
炎上系配信者とは違う場所から、一人の男性が階段を下ってハルカを発見し、改札口へ向かおうとしている彼女を足止めしようと動き出した。
ここまでくると、レインボーローズも明らかなデジャブと思わざるを得なくなっている。
「そこまでデジャブをコピペされると、こちらもやりづらくなるでしょ!」
レインボーローズがARアサルトライフルを展開し、それを片手に乱入してきたプレイヤーから討伐していく。
実際、アバターオチだったようで、銃弾の命中したアバターはポリゴンの塊となって消滅する。
「まさか、貴様は『ハッキングオブウォーゲーム』の……」
炎上系配信者の男性は、目の前に姿を見せていたレインボーローズが何者なのか、それをようやく自覚した。
かつてのブラックバッカラ事件を解決に導いた英雄の一人、それが自称プロゲーマーのレインボーローズだったのである。
彼女の方もARガジェットスーツを展開し、臨戦態勢に入った。先ほどまでの私服とは違い、SF系パワードスーツを意匠とするデザインのものだ。
「あの時の英雄は、すでに引退したと聞いている! 貴様はそれを騙る……」
ARロングソードを持ったプレイヤーが武装したレインボーローズに切りかかろうとした、その時だった。
『まさか、駅ナカでARゲームが出来る……って、普通は思わないでしょ? それが可能なのがARゲームを聖地巡礼化した足立区と草加市……』
レインボーローズの目の前に現れた人物、それはまさかともいえるハルカだった。
彼女もレインボーローズとは若干のカラーリングが異なるが、ARアーマーを装着している。ハルカの方は青がベースだろうか?
SFに出てくるようなパワードスーツを身にまとったその姿は、あの時の……ブラックバッカラ事件の英雄を思わせた。
ゲーミングパソコンのように七色に光りそうなライン、SFでも見ないような形状の特殊なブレード……あの時のデジャブとは、このことか。
【割とデジャブかなぁ、って思ったけど、逆の立場を演じるとはね』
レインボーローズはハルカが駆けつけたことに驚いたのではなく、先ほどまでのデジャブを再現手前まで来ていた中で、こういうフラグブレイカーが起こるとは、と驚いている。
それに加えて、既に複数人のプレイヤーをさっくり片付けているのだ。
レインボーローズとハルカのアクションはモーションキャプチャーなどのアクション吹き替えではなく、演技指導を受けて実際の演者が演じているものである。
ある意味でも『ハッキングオブウォーゲーム』のアニメ版を完全再現一歩手前……と言うようなアクションは、こうして生まれたといえるだろう。
『これだけは言っておこうかな。コンテンツ流通を阻害する炎上勢力の行動に、正義は一切ない! あるのは金を得ようという欲望だけ……その行動は悪そのもの!』
レインボーローズは最後の一人の配信者に対して、こう告げる。
「お前たちの行動の方があくだろう? 雪華ツバキはダンジョン配信を利用してブラックマネーを加勢できるという話がある。だからこそ、奴を消そうと……」
次の瞬間、炎上系配信者の男性は前かがみに倒される。一体、何が起きたのだろうか?
この男性は目の前に何者かがいたのを目撃し、その一撃を食らったようだが……レインボーローズとハルカは、そのスピードを認識できていなかった。
倒れた男性は、そのままログアウトしたかのように消滅……するわけではなく、気絶した様子。
『ARバトルが終了しました。勝利者はレインボーローズ、月坂ハルカペアです』
バトルの結果はレインボーローズとハルカのペアが勝利したことにはなったようだが、オチとしては納得していない。
このアナウンスが流れているという事は、バトルが終了してフィールドの方も解除されている頃だろう。
レインボーローズはラッキーと思っているようだが、ハルカの方は……。
「これは一体どういうことですか?」
ARスーツを解除し、元の姿に戻ったハルカも……目の前の光景には驚きを隠せなかった。
他のギャラリーに混ざって暗殺者でもいたのか、それとも別のプレイヤーがいたのか……と思うが、確認しようにもゲームは既に終了していてログの確認もしようがない。
仮にログを確認したとして、誰がとどめを刺したのかが判明しても、その人物にどのような意図があったのかは本人にしか分からないだろう。
「彼は致命的な認識ミスをしていた。それが、この末路につながった、と言うべきかな」
マント姿にメイド服、どう考えても服装のセンスが……と言うような一人の女性が姿を見せた。
彼女こそが、ガーディアン池袋支部の支部長であるデンドロビウムだ。
「致命的なミスって? 雪華ツバキの事?」
レインボーローズは、ふと彼が何度か言及していた雪華ツバキの名前を出す。
「その通り。雪華ツバキと言う配信者はいない。おそらく、大手のVTuberで似たような名前の人物がいたのを覚え違いしていた……彼の名前は雪華ツバキだ」
デンドロビウムは、もしかして……という事で、言及をする。この人物の目的は、SNSを炎上させてブラックマネーを得ることだ。
そのためには、こういった些細な覚え違いでも炎上させれば勝ちと思っているのだろう。
「やっぱり、どの世界にでもいるんですね……自称正義を騙る炎上系インフルエンサーって」
ハルカは、過去に自分が経験したことも踏まえ、倒れた彼を見つめるのだが……。
「おそらく、在庫処分セールのレベルで、これからは出てくるだろうね」
この男性は後にガーディアンに拘束されず、警察の方へ引き渡されることになった。
少し前に話題となった大手VTuber事務所を炎上させようとテロを起こそうとした、炎上系配信者のサークル、そのメンバーの一人だったからだ。
なお、この炎上系配信者のサークルは対電忍とは無関係であり、何も伏線としては関係ない。
いわゆる、戦隊もので言う今週の怪人枠……と言う認識が正しいだろう。




