第56話その1
『久しぶりだね。そうでないという人もいるかもしれないが』
唐突に画面に出てきたのは、春日野タロウだった。シーンも、彼が店長をしているゲーミングパソコンショップだ。
ちなみに、このお店は実写版にも出ている。
彼が唐突に出てきたという事は、このパートの担当は彼という事になるだろう。
実写版でもそこそこの出番があり、レギュラー枠とまではいかないが活躍もしていた
『実写版対電忍の映像を見て、これはまさか……という視聴者もいるかもしれない』
『実際、忍者構文は存在し、そのうえでアニメ版と実写版が放送されている世界……何というメタ構造なのだろう』
『この手の世界観と言うのは、読者的には離れていきそうな題材ではある』
『しかし、テレビアニメ制作現場を題材としたアニメがあったり、特撮作品とその作品の制作現場など……』
タロウの方もアルストロメリアに負けず劣らずとメタ発言の連続である。しかし、向こうとは違って止めることはない。
そこが唯一の違いなのだろうか?
『失礼、横道がそれ過ぎた。まぁ、要するに読者的には対電忍のアニメ版と実写版を視聴している視聴者……と言った方が、例えとしては早いか?』
『実際の忍者構文がどのようなものかは、まだお見せすることはできないが、アニメ版と実写版は若干マイルドになっていたりする』
『登場人物の退場描写自体、原則的にないので……その辺は安心してほしい』
『あの小説自体、いわゆる4コマ漫画雑誌に掲載されている4コマ漫画のように、登場人物がロストするような作風ではなかった』
『ゲーム物であっても、いわゆるデスゲーム要素が絡むものだと登場人物の退場はあるだろう。しかし、対電忍にはそれがなかった』
『それを踏まえれば、そういうことにはなるのだろうな……』
タロウの手元にはフリップがない。つまり、それを使わないで解説……と言う具合か?
一部でメタ発言以上に第四の壁を余裕で突破しているような発言も、ゼロではないのだが……。
『ここに、ある動画を用意した。これは実写版対電忍のメイキング番組である。公式サイトでも無料配信されているものだが……』
『これを丸ごと流して、そのまま解説しようとも考えたが、さすがにそれは許してくれないようだ』
タロウが別枠から持ってきたノートパソコン、そこには実写版対電忍の公式サイトがブラウザ経由で表示されており、そこに動画あったのだが……。
動画の長さは15分ほど……って、次回予告までやったはずなのに予告ブレイカーでもやるつもりか?
前半パートを丸ごとこの動画に使い、後半は実写版の続きをやるにしても……話の密度的には、無理がありすぎるだろう。
さすがに、それは許されないのでスタッフが止める。しばらくお待ちくださいにならないだけ、まだ……と言う気配か?
『この提案をしたのには別の理由があった。なぜなら、今回の実写版の話はアニメ版の話にもつながるのだが……小説的には、かなり致命的なネタバレにも触れてしまう可能性がある』
『それを踏まえて、実写版の方はざっくりとダイジェスト版で流して、こちらの動画を若干挿入するような形にすると、さらに複雑化するだろうね』
タロウとしては、どうしても今回の実写版の話をそのまま流してしまうと、致命的なネタバレを流しかねない、と思っているらしい。
事実、核心部分は劇場版の方へ続くような気配なのだが、文字である小説だと……あまり違いがないのだ。
特にWEB小説では、色々と制約があって、その辺の差別化がしにくい個所もある。だからこその、タロウの……。
『この話はどうしても避けては通れない一方で、ある意味でも打ち切りエンドを連想するのは間違いないわけで……』
『ダンジョン神も想定されていたラストとは若干違う一方で、大まかな部分は一緒というのもあるが。倒されることには、変わりなかったようだ』
『……どうしてもやるというのあれば、こういう折衷案としよう。前半は公式で配信しているダイジェスト版とし、後半パートはメイキングを流すというのは?』
タロウからの提案を受け、審議を行うスタッフ。最終的には、前半をダイジェスト、残り時間はメイキングを可能な範囲で流す、と言う方向にした。
『色々とありましたが、それでは本編の方を……じゃなかったか』
『実写特撮版アバターシノビブレイカー、対電忍の方をお楽しみください』
どう考えても、これはタロウの策略のひとつだろうとは思うが、スタッフの方もどうしても本編は流したいので、この提案を飲む事にする。
例え、劇場版の宣伝とは言われても、この回は流さなければ視聴者というか読者的にも引っ掛かる部分がある……と。
【本作はフィクションですが、忍者構文は実在します】
画面の下のテロップには、毎度の一文が表示されている。しかし、今回は別の意味でも仕様が異なっていた。
映し出されているのは梅島駅近辺のARゲーム施設の屋外フィールドであって、草加市でもなければ西新井でもない。
ギャラリーはそこそこいて、閉鎖危機と言うレベルで人がいないわけでもなかった。
今までの話を踏まえると、別の意味でも衝撃的展開だろう。
それだけでもなく、何と冒頭のナレーションを担当する秋葉原本部長も未登場だ。
一体、どういうことだろうか?
「なるほど。これがARゲームか」
前回のエピソードで登場した、フードを深くかぶって顔を隠した青年、彼がやってきたのは梅島駅近辺のARフィールドだった。
周囲を見ても、明らかにコスプレイヤーな人もいれば、普通の私服で訪れる人物もいる。
ARゲームの盛り上がりは、もはや一部のマニアだけが独占するようなものではなくなっていた。
それこそ、一部の炎上系配信者が私利私欲を求めて安易に炎上すれば、ガーディアンが駆けつけて彼らの存在を抹消する位には……。
ガーディアンとは別に、SNS炎上を阻止するために動く配信者はいる。
中には自称正義マンとして活動する配信者もいて、フードを被った人物に倒された配信者もその一人だった。
「すみません、入場の際はフードを外していただかないと。チェック後は、戻しても構いませんので」
フードの人物がフィールド内に入ろうとしたところを、スタッフに制止されてしまう。
彼の視線には、フルフェイスの人物も入っているように見えており、その人物を無言で指さすのだが……。
「あの人の場合は、ARガジェットのデータで本人を認識しております。不審な人物や偽装した人物であれば、警告アラームが鳴りますので」
警告アラームが鳴っていないので、あの人物はシロなのだろう。ここでもめて警察に捕まったら、それこそ無意味なので、仕方なくフードに彼は手をかけて……。
「これで問題はないか?」
顔を確認する一方で、身分証明書の提示も求められる。顔が一致しない場合はそこで足止めになるのは確実だからだ。
「身分証も確認しました。これで問題はありませんが、提示された身分証はナンバーカードであり、ARライセンスではありませんのでフィールド内でライセンスを作成してから……」
彼が提示した書類は、いわゆる個人のナンバーを記したカードであり、政府公認の身分証ともいえるものだ。
しかし、それでもARゲームフィールドでは意味がない。当然だが、オケアノスでも身分証明はこのカードで十分だが、他の各種サービスはARライセンスが必須だろう。
データをセーブしない、それこそデイリーオンリーのようなプレイは問題ないが、データのセーブやARゲームのランキングなどに参加するには、ARライセンスがいるのである。
(ゲームをプレイするのも、ここまでかかるのか……)
彼がさらに提示したのは、別のゲームフィールドで製作したカードである。
「そのカードで問題はありません。お手数をおかけして申し訳ありませんでした」
彼の見せたゲームフィールドで作ったカード、それがARライセンスだったらしい。そのカードには、ビスマルクと記載されていた。
(全ては、ここから……か)
ビスマルクと言う名のプレイヤーは、こうして梅島のARゲームフィールドへ無事に入場することができた。
しかし、その一方で……。
『対電忍、それはありとあらゆる炎上を阻止するために存在する、究極の切り札』
『彼らの存在がSNS炎上を阻止し、今のネット環境があるものだと、誰もが錯覚した中で、事件は起きた』
『SNS炎上阻止を目的として動く忍者と、承認欲求などのために炎上を行う勢力との対決を描いた……物語』
『それが、アバターシノビブレイカー……後に対電忍として語られる都市伝説、もしくは忍者構文である』
秋葉原本部長によるナレーションが流れ、オープニングテーマも流れる。
ここで、ようやく本部長の声が流れたことになるだろう。一体、今回の仕様はどういうことか?
ナレーションが終わってオープニングの1番が流れる。すこし前は2番の歌詞が流れているパターンだったが、今回は1番に戻っていた。
オープニングには冒頭で脚本担当もクレジットが出てくるのが特撮版の特徴だが、今回は連名である。
しかも、脚本担当と脚本監修の二人がいた。監修は特撮版の脚本担当で、メイン脚本は何とアニメ版の脚本担当者だ。
この人物は特撮でも脚本を担当している作品がいくつかある人物なので、初見では両方とも……と思う人はいるだろう。
そんな中で、気になるキャストクレジットが存在した。先ほどのフードの人物を指すと思われるのだが……。
【ビスマルク】
ここにきて新キャラなのか? SNS炎上勢力の配信者とも挙動は異なっていたし、それを踏まえると……ガンライコウのようなゲスト枠だろう。
しかし、実写版にビスマルクと言う人物はいただろうか? 謎は深まるだろう。
【デンドロビウム】
一番最後は池袋支部支部長のデンドロビウムがクレジットされていた。
特撮の場合、キャストクレジットで一番最後に位置する人物は、かなりの重要ポジションを担う……のだが、今回に限って言えば、色々と別の事情があるだろう。
監督のクレジットも2名表記で、片方は実写版の監督がクレジットされている一方で、総監督と言うクレジットでアニメ版の監督の片方がクレジットされていた。
これが意味するものとは一体……?




