第47話その3
『本当に作ったのは自分じゃないよ。それこそ、出演者としては関与したが、制作には関与していない』
「制作非関与だと? それは、一体どういうことだ?」
『そのままの意味。ブラックバッカラ事件自体、起きたことにはなっているけど……ハッキングオブウォーゲーム内で言及されている箇所とは違う』
「違う? それは歴史的な意味か、それとも……」
『歴史修正主義とか、そういった部類ではないよ。ブラックバッカラ事件自体、確かにあったけど、それはあくまでも……』
「あくまでも、なんだ?」
『……さすがにタイアップみたいだから、ここまでにしておいて。いずれ、来るべき時に話すわ』
「そういう風に話をはぐらかすのは、一種の敗北フラグだぞ」
『大丈夫。観測者が観測を続けている世界線では、まず……あり得ないから』
ここでガンライコウは通信を切る。
浜松町支部長でもあり秋葉原本部長でもあるガンライコウ、彼女がシノビ仮面と通話をしていたのは、何と草加駅前だった。
「あなたがここにいる以上は、そういう風にしておくけど……どういう要件かな。ブラックローズ……。いいえ、ガーベラ?」
『どの段階で分かった?』
「ネットガーディアンの解体、ブラックバッカラ事件の責任を取っての解体と言う【カバーストーリー】だったのは明らかだったし。同様事例は、他にもあった」
『不正破壊者の我侭姫、パルクール・サバイバー、ヴァーチャルレインボーファンタジー……探せば、同様事例はいくらでもあるわね』
「サブカルチャーを炎上させ、コンテンツ流通を妨害しようという炎上勢力はいくらでもいる。彼らは自分たちの推し以外は推しの経験値扱い、もしくはかませ犬と思っているだろう」
『シェアリング炎上、何というパワーワードを生み出したというか……それこそ、アーカーシャチャンネルの観測外ね。その最終段階がAIを利用した戦争なんて言われているけど』
「あの人物の望む炎上勢力の完全根絶は、それこそ夢物語かもしれない。むしろ、SNS炎上をゲーム感覚で行うような連中は根絶するのが当然というべきか」
何と、ブラックローズの正体はネットガーディアンの幹部でもあったガーベラだったのである。
ある意味でも約束された『ハッキングオブウォーゲーム』からのサプライズゲストと言えるだろう。
『ネットガーディアンは、どこぞの財団とは違う存在のはず……』
ガーベラと発覚した段階で、もはや正体を隠す必要性はないだろう。そう判断したブラックローズはARメットの耳辺りにあるボタンを押す。
「ただ、認識はそういう事になっているかもしれないけどね」
ガーベラとしては、ようやく復活宣言をできることに安堵していた。
全てはシェアリング炎上を行う勢力を根絶するために。ブラックバッカラ事件でも暗躍した存在を……。
その後、VRダンジョンにおいていくつかのバトルシーンが挿入され、そこには飛天雷皇忍将軍の姿もあった。
アクションシーン的に描写が難しそうだが、それでもSDという個所を逆手に取ったアクションを見せてくれている。
「こうなったら、切り札を使うしかないか」
月城アサギは、コクピットのあるボタンを軽く拳で叩くと、飛天雷皇忍将軍のキャノン砲とウイングが分離した。
その後に姿を見せたのは、まさかの大鷲の意匠を持つサポートメカだったのである。
そのサポートメカが変形すると同時に、飛天雷皇忍将軍と合体し、まさかのリアル形態に姿を変えた。
全長は蒼影のサポートメカ合体時とほぼ似たような物であり、ある意味でもSNSのフェイク画像で使われた形状と似ている箇所もある。
『なんだあれは、あの形態は聞いていないぞ!』
VRダンジョンで炎上工作を行っていた忍者ロボットが、飛天雷皇忍将軍の姿を見て驚いている。
彼らが驚くのも無理はないだろう。かつて、自分たちで捏造した画像のデザインと、今回姿を見せた飛天雷皇忍将軍のリアルモードは、ほぼ同じだったのだから。
ある意味でも意趣返しをされた、と言えるかもしれない。
彼らにとっては、窓外の出来事に炎上して承認欲求を得る程度に考えていた存在に、クリティカルのカウンターを受ける羽目になったのだから。
「シェアリング炎上の隠れ蓑として悪用される忍者構文……悪しき流れは、ここで裁つ!」
飛天雷皇忍将軍の持つ刀、それは七つの水晶が合体したような刀だったのである。
その刀が放った光は、瞬時にして忍者軍団をポリゴンの塊以前に……完全消滅させた。
「……何だと? それは本当か?」
都内某所、ある男性は何処かと連絡を取っていた。彼がいるのは、上野の喫茶店ではあるのだが……いわゆるフラグなのは明らかか。
その喫茶店とは、以前に……これをここで言うとネタバレをあっさり言及することになるので、ここでは控えよう。
すでにエンディングテーマが流れており、スタッフ及びキャストクレジットも流れているタイミングだ。
『事実です。すでにVRダンジョンで工作をしていたメンバーが壊滅したと』
「忍者構文を作ったのは制作委員会だぞ。その意向に逆らうというのか?」
『逆らうといっても、彼らは『バズり』や承認欲求を欲しがるような烏合の衆。壊滅したとしても替えはあります』
通話している人物は若干のボイスチェンジャーで声を変えているが男性声である。
緊急通信が入ったという事で、この男性はスマートフォンに入った着信に出たわけだが……。
「確かに替えはあるかもしれない。しかし、熟練度の低い炎上勢力の工作兵ほど、厄介な物はない。安易に炎上させただけで喜ぶような連中は不要だ」
『そうでしょうか? あまりにも内部事情や詳細を知りすぎるような人物が中にいれば、自壊するのでは?』
「青凪のようなインフルエンサーが炎上に失敗したのは、彼なりに美学を持ちすぎたからだ。特撮ドラマのようなシナリオ通りに進められるはずなど……」
『それも一理あるでしょう。実際、彼を撃ったとされるタケも後に失敗しましたからね』
「なら、どうしてそれを聞いた?」
話の流れに違和感があると思った男性は、電話の主に質問をする。
何故、青凪の件を聞くようなことをしたのか、と。
『聞いた理由、教えましょうか?』
次の瞬間、この人物はボイスチェンジャーの電源を切り、正体を現す。
「その声はまさか、アヤネだと?」
まさかの正体を口走ることになった男性、彼はすぐに通話を切り、喫茶店を足早に出ていく。
もちろん、お代は支払った。電子マネーではあるのだが。
近年は現金を持ち歩くよりも電子マネーと言うケースが多く、彼もスマホに電子マネーのアプリを入れている。
彼が出ていったシーンで、脚本担当と演出担当のクレジット表示となった。
まさかと思うが、あの通話に出た段階でフラグは確定していたのである。
「お前たちは、まさか……」
喫茶店を少し出た辺りで、周囲の変化に驚くが、それには言葉も出なかった。
言葉が出たのは、そのフィールド変化後に姿を見せた二人が……。
「まさか、あなたが黒幕とは予想外だったけどね。ブラックバッカラ事件で、学ばなかったのか……それとも、トラウマの植え付け度合いが少なかったのか」
目の前にいた人物、それはまさかのレインボーローズと月坂ハルカの二人である。
彼にとって、この2人と遭遇するのは数か月ぶりともいえるだろう。ブラックバッカラ事件では、最終局面に移行する前に彼は二人と戦っていたのだから。
しかし、その時はあっさりと敗北している。スキル不足と言うわけではなく、準備不足だったのもあるだろう。
「貴様ら、まさか……?」
準備も万全な状態でシェアリング炎上を行い、それで数兆円規模のアフィリエイト収益などを得ようとしていたのは明白だ。
しかし、SNS炎上、それも悪意を持ったコンテンツ炎上を行おうとした段階で、彼の末路は既に決まっていたのである。
「コンテンツ炎上をしようとする勢力は、誰であろうと容赦はしない。あの時に、そういいましたよね?」
ハルカの方はレインボーローズとは違い、彼に銃口を向けてはいない。
持っている武器は両者ともにARガジェットではあるのだが。
「さぁて、ここからが……ハイライトね」
ビーム音、それとともに黒バックの画面に変化していた。
その後、そのままCMに入る。
『いでよ、新たなる忍者……飛天の力を引き継ぐ力よ!』
アサギのセリフとともに現れたのは、飛天雷皇忍将軍だった。
まさかの、こちらもDX版が出るというのか?
「サポートメカ、大目牙ファントムと融合し、今こそ目覚めよ!」
本編でも登場した大鷲のサポートメカが大目牙ファントムと判明し、やはりというか同じような変形を再現する。
おそらくはこの辺のギミックも考慮してのDX化なのかもしれない。
『新たな力、それは飛天雷皇忍将軍・巨神形態!』
あの時に見せたのは、いわゆるリアルモードであると判明する。つまり、そういう事だ。
『DX飛天雷皇忍将軍、堂々リリース!』
値段表示はなかったものの、SNS上では1万円台となっていた。
一般販売なしでネット限定になるよりは……と言う気配もしないでもないが。
『次回、アバターシノビブレイカー、対電忍。炎上の裏で、暗躍する存在』
CM明けに次回予告のロゴが表示される。フォントも一部エピソードのような特殊フォントではなく、今まで使われていたものに戻った。
今回もシェアリング炎上と言うワードが出てきた関係で、次回予告のサブタイが色々な意味でも不穏に思える。
果たして、この謎がどう暴かれていくのか……気になる所だ。
バック画像はなし。まさかの黒バックに白文字のような表示形式である。
ネタバレ配慮なのか、それともネタ切れなのかは定かではい一方で、前者の可能性は高いだろう。
ナレーション担当は、まさかと言うか……予想外のガンライコウである。
ここでレインボーローズとハルカが担当していたら、次回予告担当回数でも多くなるような展開だっただけに……。
相変わらずだが、お約束なので真剣に予告ナレーションをするが。
今回のエンドカードは、ガンライコウの単独である。
服装は私服姿なのだが、ロケ地はまさかの草加駅内のフードコートだった。
彼女が椅子に座って口にしていたもの、それは鮭おにぎりである。朝食と言うよりは、昼食の可能性はあるのだが。
何故に鮭おにぎりなのかは分からないが、とあるネットミームで【クリスマスにはシャケ】と言うものがあり、それを……と言う路線だろう。
かの有名なお役所でも【クリスマスにはシャケ】を広めており、もはや特定の作品にこだわることなくシャケのブームは拡散している。
実際、これによってシャケの売り上げが上がったという話もあるので、油断はできないところだ。
そうした流れですら根絶させようとするシェアリング炎上を、何としても阻止しようとする動きは様々なところで見られる。
果たして、その真相とは、どこにあるのだろうか?
エンドカード担当は『不正破壊者の我侭姫』のコミカライズ版の作画担当をしている人物で、今までと違ってのゲスト寄稿に戻っている。
このエンドカードをきっかけに翌日、もしくは夕方からスーパーでシャケが売れる……とは限らないが、その辺りはSNS実況勢が報告してくれるだろう。
【次回をお楽しみに】




