第42話その2
『タケ、と名乗る人物が教えてくれました。タケと言っても、皆様が知っているタケとは異なるでしょう』
ダンジョン配信王決定戦の観戦チケットと一緒に情報を提供してくれた人物、それは何とタケと名乗ったのである。
雪華ツバキの衝撃とも言えるような発言には、視聴者も戸惑いを隠せない様子。
『今回のダンジョン配信王決定戦には、開示されないであろう裏が存在することは明らかでしょう』
『しかし、それもシェアリング炎上を阻止し、新たな事件の被害者を生まないためには必要なことなのです……』
これ以降も配信は続いていると思われるが、ここで映像は途切れている。
むしろ、動画サイトをログアウトしたといってもいいだろうか?
「初代タケではなく、二代目タケ……と言ったところか」
この配信を見ていたのは、ガーディアン新宿支部のシノビ仮面だった。
彼としても、まさか別の意味でガーディアン内部にリークをしている人物がいるのでは……と考えていた中で、この配信だったので驚いていた。
『二代目、ですか』
通話に出ていたのは、ガーディアン北千住支部の支部長である。
彼の方も、思わぬ形でシェアリング炎上に言及されたことに関して、他の支部へたずねようとしていた。
その第1号が、新宿支部だったという。
「どのようなアバターなのか確認できればいいが、ワードだけでは信憑性がない」
『初代タケは、以前に神奈川支部を名乗って事件を起こしていたという話だが』
「その件はすでに解決したらしい。そういう話が流れた事だけだ」
『分からんな。やはり、青凪の一件は、まだ続いているという事か』
「本人自体、行方は知れず。ガーディアンが拘束した以降の情報はない。こちらでも彼の姿を目撃はしていないのだ」
『目撃していない? それは、どういうことだ?』
シノビ仮面の発言を聞き、北千住支部の支部長は疑問を持つ。
ガーディアンが拘束した炎上勢力の人物とされるメンバーは、かなり数がいたはずだ。
それを一括して警察に引き渡した……と考えるのもおかしい。ARゲームの一件に警察が非関与なのは、SNS上でも有名な話だろう。
「そこで考えたのが、SNS炎上を意図的に発生させ、それに便乗した別のまとめサイト管理人やインフルエンサーをピンポイントで逮捕する……そういう流れだ」
「それに加えて、彼らは制作委員会の気づかれないタイミングで……」
何かを話そうとしたシノビ仮面だったが、急にコールが入ってきた。
コールの主の名前を見て、すぐに顔色も変わるレベル。相当な人物なのだろう。
「急なコールが入った。何かわかれば、改めて連絡をしよう」
『分かった。こちらも他の支部に情報があるか尋ねてみよう』
そして、北千住支部との通話が切れた。これに関して、シノビ仮面はほっと一息を入れて、臨時コールの通話を取る。
「まさか、このタイミングでコールをしてくるとは」
『こちらとしても容易に正体をさらしたくない都合がある。下手に動けば、シェアリング炎上の犯人探しにダンジョン配信王を使っていることがバレるのも時間の問題だ』
コール主の正体は、渋谷支部長であるリーガルリリーだった。彼女であれば、北千住支部との通話中に入ってきても問題がないように思えるが……。
ただし、名前はリーガルリリー表記だが、声は明らかに違う男性声だった。
サウンドオンリーには変わりがないので、どちらにしても……だが。
「用件はなんだ? リーガルリリーが緊急案件としてガーディアンの回線使用を許可している以上、そういう事だろうが」
『青凪の一件だ。調べた結果、確かに青凪と言う人物はいた。それは、あくまでもゲームキャラとしてだ』
「その件か。確かに青凪がとあるゲームのキャラクターをベースに作られたアバターなのは、把握している」
『そちらではない。あの時に姿を見せた青凪だ。調べた結果、ある俳優が演じていた人物だというのが判明した』
「初耳だな。詳しく聞かせてもらおう」
青凪の件で訪ねてきたこの人物、実は……。
【アバターシノビブレイカー】
この場面で、まさかのCMに入る。体感時間として、オープニングを含めて10分経過したような気配はするが。
「なるほど。見覚えのある人物だと調べてみたら、そこに当たった……という事か」
『一連の忍者構文に関する事件、それらは全てアニメで放送されている方の撮影、もしくはPR活動と言う扱いになっている』
「シェアリング炎上に関しては、そちらが想定しているものとは思えない」
『そうだろうな。引き続き、こちらでも続行するつもりだ』
「何故にリーガルリリーに回線を借りるという手段に出た? 足立支部の支部長殿?」
『特別権限があるとはいえ、ガーディアンの回線を使うには都合が悪いのだ』
CM明けに渋谷支部へ姿を見せた人物が判明し、この人物の正体はガーディアン足立支部の支部長だった。
何故に特殊権限があるはずの足立支部が、渋谷支部の回線を使う事になったのか?
向こうの表情を見る限りは、足立区の支部から電車経由で渋谷へやってきたという気配かもしれないが。
「ガーディアンの回線……ああ、そういう事か」
『リーガルリリーの特殊回線であれば、ダンジョン神に聞かれることもないだろう』
「そうであれば足立支部長、そろそろこちらにも開示していない本当の事を話していただきたい所」
『話せば協力をしてくれるというのか?』
「メタ的に言えば、足立支部長と声優が同じ段階で察している人はいるでしょうか」
『一人二役、別キャラとは考えないのか?』
「元々、モブキャラ扱いで登場し、後からアニメ版で別の名前を与えられたあなたが、それを?」
彼がここを尋ねた理由、それはガーディアン足立支部の回線でも、ダンジョン神に聞かれる可能性があった、と言う。
そうなると全ての支部がダンジョン神に回線の内容を聞かれていることにもつながるのだが……。
『こちらからも一言だけ言っておこう。足立支部の支部長は、過去にスタンバンカーと対面で会話をしている。足立支部長がスタンバンカーと同一人物と言う説は、声優が同じだけで押し通すにはかなり強引ではないか?』
このままではらちが明かないと考えたリーガルリリーは、シノビ仮面が懸念していることをはっきり言う。
リーガルリリーとしても、ダンジョン神に関しては懸念するべき箇所がある。ブラックバッカラ事件を知っている側からすれば……。
「分かった。今は、そういう事にしておく。追加の要件を聞こう」
シノビ仮面は色々と言いたいことはあるのだが、今はダンジョン配信王決定戦の中止となることの方が危険であると考える。
それもあってか、足立支部支部長の話を聞くことにした。
「……なるほど。そういう事だったのか」
話を聞いたシノビ仮面は、何となくだが色々と把握する。
初代タケの行動もアレだったのだが、様々な箇所で制作委員会が混迷しだし、ざっくりいえば視聴率低迷の打ち切りがあればその所在は何処になるのか……という問題も浮上していた。
それを踏まえ、ダンジョン配信王決定戦を中止させるレベルの妨害行為を行い、大規模な炎上をさせれば……という風に考えている悪意あるリアルのネット廃人がいるに違いない。
ここで指しているリアルのネット廃人とは、いわゆるテレビアニメの視聴者と言うべきだろうか? もしくは、この小説の読者だろうか?
どちらにしても、事態が深刻なのは間違いない。フィクションだけでなく現実でも地球規模のSNS炎上が起きれば……とシノビ仮面は考える。
SNS炎上の規模やレベルも上がっているのを踏まえると、シェアリング炎上も……フィクション上だけのレベルではないという事だけは、事実と言えるだろうか。




