第42話その1
『承認欲求や自己満足での炎上はやめましょう』
放送前のCMは、いわゆるスポンサーが入らなかった際の穴埋め宣伝などと言う意味で入ったものではない。
スポンサーがなく、穴埋めされるCMとは毛色の異なるCMなのは明らかだったからだ。
その内容は、様々な企業で炎上を行い、それで個人が承認欲求を満たそうという事件が多発している事に対しての広告である。
そこでは様々な事例を挙げ、そこで承認欲求や自己満足、ストレス発散などの意味で炎上を行うケースが増加していることを訴えていた。
事情はあれど、営業妨害などに該当するような炎上は明らかに犯罪である、とCMでは伝えている。
『止めよう、シェアリング炎上』
最後のナレーションのワード、それは明らかに何かを訴えようとしているメッセージだった。
CMの場面でもシェアリング炎上と言うワードがあり、そういった意味ではこのワードを広めて、一刻も早く根絶したいという思いが強いのだろう。
実際、令和日本ではSNS炎上で損害を受ける会社が数多い。一方で、一度の炎上が理由で倒産したような会社も存在していた。
個人間でモノやサービスなどを共有すること、それをシェアリングと言う。
様々なジャンルでシェアリングが注目され、ARゲーム用のARガジェットも買い切りケースはあるものの、それを持ち歩くのは難しい人向けにシェアリングサービスも存在していた。
もちろん、レンタルガジェットと言うのも存在し、それとは分けられている現状もあるのだが……まぁ、そういうものだと思ってほしい。
その中で出てきたシェアリング炎上、どのような意味を持つのか?
おそらくは、ある作品に出てきた別のシェアリングと類似したような案件であるとも思われる。それがなぜ、令和日本で問題になっているのか?
それから2分ほどはテレビドラマやバラエティー番組の宣伝が入り、対電忍の始まる時刻となった。
『DX合体、蒼影・転星大将軍!! 堂々発売!』
放送直前のCM枠は、蒼影のDX玩具のCMだった。
発売日の記載は……と思ったら、すでに電機店や玩具専門店がつぶやきで発売中だという宣伝をしていたのである。
まさか、こういう展開になるとは、予想もしていなかったのだろう。
時間になり、早速姿を見せたのは何と蒼影である。
無言でVRダンジョンに現れた炎上勢力を次々となぎ倒す姿は、先ほどのCMの延長と考えてしまう視聴者もいるだろう。
敵の忍者は明らかにSNS炎上勢力のそれであり、ある意味でも数分前に流れたシェアリング炎上のCMが再現されているのでは……と思う視聴者もいるかもしれない。
敵の忍者も確かに素早く、他の忍者では苦戦するのは間違いないだろう。しかし、蒼影は忍者構文の忍者では最上位に位置する存在で、公式チートと言っても問題はないレベルである。
つまり、敵は相手にする忍者を間違えたのだ。それに加え、向こうは相手のレベルなどを考慮している余裕がない。
敵を倒し、その『敵を倒した』という実績を彼らは欲しがったのである。いくらシェアリング炎上で情報を共有していたとしても……というのはあるのだろう。
なお、この蒼影に関しては無人で起動しているため、喋らない。蒼影自体はAI操作モードに関して言えば、喋ることは一切ないのだ。
【ダンジョン神のダンジョン、攻略寸前か?】
この記事を見て、やはりまとめサイトによるPV稼ぎと思ったのは様々な勢力も一緒だ。
しかし、それ以外にも思惑があると考えていたのは……。
(なるほど。そういう方向へと……)
この記事をキサラギの資料室経由で見ていたのはスタンバンカーである。
何故、彼が資料室で見ていたのかには、別の理由もあるのだが。
記事に存在した動画の一部には、先ほどの蒼影の動画もある。
向こうのスピードが速すぎる関係で、敵が無抵抗に倒されていくような光景にしか見えない。
それでもいくつかの文章を追加していけば、あっという間に炎上に誘導できるような記事の出来上がりだ。
そして、オープニングテーマが流れ始め、オープニングアニメーションが通常通りに流れ始めた。
【9月13日。ダンジョン配信王決定戦、4日目】
暗転後に9月12日の表示が現れ、12から13にカウントされた。
場所と言うよりは、その場面はまさかの動画だったのである。
『まさか、こういう展開になるとは予想もしていませんでした』
動画に出ている人物、それは雪華ツバキである。
彼としても、最終的に観戦チケットは入手できた。それを使い、ダンジョン配信王決定戦の様子は確認している。
しかし、肝心の参加者枠に関しては驚くべき結果が待っていた。
『運営からの答えは、すでに同名人物がエントリーしていて、確認した結果、その人物が本物であり、自分はなりすましアカウントではないか、と……』
何と、ツバキよりも一足先にエントリーしていた人物が本物のツバキと判定され、自分はなりすましとして判定されてしまったのである。
これに関して言えば、なりすましチェックにAIを使用しており、かなりの数が弾き飛ばされたのだ。
『100万人のフォロワーを持つダンジョン配信者、ソロプレイヤーで有名なダンジョン配信者……その辺りのなりすましはかなりの数がいて、全て弾き飛ばせたという話でした』
『しかし、自分の場合は違っていた。有名と言っても、条件クリアできるかギリギリのラインで協議した結果……こういう流れになったのです』
その後も説明は続くが、ここでざっくりと解説を行う。
ツバキに関して言えば、配信実績に関してはクリアできていた。しかし、フォロワー数という壁で推薦枠は失格の扱いになっていたのである。
わずかに足りなかったといっても、その数は数百ではない。数万の差はあったのだ。
そのため、ツバキは推薦枠ではなく一般予選枠で出場しようと考えたのである。
ところが、推薦枠で落ちたはずのツバキが再度推薦枠を使い、通過していたという事実が判明した。
確かに再推薦に関しての書類申請は可能であり、それが通れば推薦枠に入れる。つまり、運営側の手違いで落とされたとき用の対策と言うべきか。
その推薦枠を受けたのが、ツバキの名前を騙ったなりすましインフルエンサーだったのだ。
まさか、再申請したのがなりすましとは、AIでも予測できなかったのである。
『フォロワー数もクリアし、推薦枠に入ったツバキを名乗る人物は……思わぬ形で不正と言う事で失格処分を受けました』
『まさか、なりすましが読み仮名を間違えるなんて……別の意味でも驚きですよね』
『自分の本来の読み仮名はゆきはな、であって……せっかではないのです』
なりすましのユーザーが間違えた致命的なミス、それはツバキの読み仮名を雪華ではなく、雪華としてしまったことだ。
これが決定的ななりすましと判定され、該当ユーザーのアカウントは凍結され、ガーディアンに拘束されることとなったのである。
雪華ツバキという人物名は、とあるWEB小説の登場人物であり、版権キャラのなりきりアカウントと認識されてしまったことだ。
実際、せっかという読み仮名を持つ漢字を使う配信者は多数おり、もしかするとなりすましした人物も漢字を見てゆきはなとは読まないだろう……と思いこんだのだ。
『極めつけは、これらの情報を提供してくれたのはガーディアンの人物ではありません。まとめサイトなどでもなく……』
この情報提供は、観戦チケットを提供してくれた人物によるものだったのである。
配信王に参加できないのは残念には思うが、裏事情などを踏まえると、仕方のない事なのかもしれない。
逆に言えば、この配信王には超が付くような有名配信者の協力が不可欠、ともいえる状況だったのだ。
ツバキはそこそこ有名ではあるが、それこそなりすましが複数人出てくるようなレベルの有名人ではない。
それを踏まえると、選考落ちした段階でそういう事だったのか、と何となくは察していた。
その人物は、まさかの名前を名乗ったのである。
『タケ、と名乗る人物が教えてくれました。タケと言っても、皆様が知っているタケとは異なるでしょう』
チケットと一緒に情報を提供してくれた人物、それは何とタケだった。
しかし、ツバキは別のタケであると言及する。おそらく、視聴者が認識しているのは過去にガーディアンを炎上させたこともある、初代タケだろう。




