第39話その1
最初は黒バックから、9月9日が表示され、そこからカウントされ、9が10に変化する。
そう、9月10日はダンジョン配信王決定戦の当日だ。
「9月10日、遂にダンジョン配信者たちの祭りは幕を開ける」
このカウントの後、ナレーションが挿入された。声はシノビ仮面である。
「しかし、SNS炎上勢力が今回のダンジョン配信王決定戦を妨害するのは目に見えており、前日までに様々な勢力が動いていた」
その後、流れてきた映像は、前回のあらすじともいえるもので、黒い忍者と蒼影のバトルシーンだった。
ガーディアンが把握しているわけではなく、これはあくまでも視聴者向け……と言えるだろう。
「当日までに配信王決定戦に関しての注意喚起もアナウンスされ、これによって炎上勢力が出てこないことを祈るばかりだ」
次のシーンではインターネット上の注意喚起ポスターが現れる。
【自分たちに無関係なものであっても、それを炎上させてなくそうという行為は犯罪です。やめよう、SNS炎上】
このポスター自体は配信王決定戦に合わせて作られたものではないのだが、あえてタイアップとは別にポスターを使う事になった。
SNSを炎上させ、自分の都合の悪いコンテンツを炎上させて終了させる行為自体、様々なジャンルで広まりつつあるので、それらは全て犯罪であると強くアピールしていく必要がある。
何故、それを政府主導でやらないのか……と言うのには理由がある。下手に政治介入させると、尚更コンテンツ流通などの意味でも歪みが発生してしまうからだ。
そうしたディストピアのような世界を、この令和日本は望んでいない。
「完全な成功と言う意味のイベントは、どこにも存在はしないだろう。かならず、わずかな箇所で改善するべきポイントはある」
「それでも、我々が至らずに反省するべき箇所が出てくるイベントはゼロではない。必ず、どこかで……」
シノビ仮面は、何をあのポスターから……伝えようとしているのだろうか?
その後にオープニングが流れる。
対電忍の主人公は誰なのかと言われると、エンディングのキャストクレジットで一番上にいる雪華ツバキか祈羽フウマと思われるが……オープニングだと、ふたりの出番は比較的に少ない。
第1クールオープニングではガーディアンが一部しか出ていないのもあって、相対的に出番は多かった。しかし、一番目立っていたのは忍者構文の忍者でもある蒼影だろう。
第2クールでは、序盤ラストで衝撃デビューをしたレインボーローズと月坂ハルカの2名が登場、その流れで春日野タロウなども登場していた。
しかし、彼女たちの場合は、この作品の前作に当たる『ハッキングオブウォーゲーム』の主人公であり、本作の主人公ではない。
いわゆる前作は本作の続編と言うのをアピールするためのものだ。
ブラックバッカラ事件もさりげなく現実……リアルで起こった出来事をアニメ化したともいわれているため、今回の忍者構文も実は……と疑う声はない。
それでも、一連の事件が100%フィクションと言えるのかと言われると、それも否定できない現実がある。
本編中のエピソード以外にも、WEB小説で掲載されている小説版でも……様々な事件が取り上げられており、これをフィクションと言うには、似たような事例がありすぎたのだ。
つまり、今回の忍者構文、あるいは対電忍に関する事件は、一部ノンフィクションなのではないか、と言う声もSNSで出始めている。
それでも対電忍はあくまでもフィクションであって、それ以上でもなければそれ以下でもない。それがアニメの制作サイドの発表だった。
【該当ダンジョンのシリアルコードをメールで送りましたのでご確認ください。このシリアルコード以外ではダンジョン配信王決定戦へはエントリーできません】
【なお、このシリアルコードはVRダンジョンでのみ有効です。このコードをARダンジョンでのエントリーで入力しても、ARダンジョン側のダンジョン配信王決定戦へはエントリーできません】
雪華ツバキのパソコンに届いたメールは、ダンジョン配信王決定戦のメールである。
届いた時間は、まさかの開催当日の午前10時だった。一方で、予選開催時間は午後1時30分と書かれている。
VRとARでは開催時間にずれがあるのだが、これは一種のサーバーの負荷対策だろう。
VRとAR、どちらもサーバー経由のダンジョンである。投影場所がバーチャル空間か、現実のARゲームフィールドかの違いがあるだけだ。
そこまでサーバーの準備が遅れているのだろうか……と言うのはある。しかし、イベント開催が午後5時だったり、午後7時だったりするケースもまれにあるだろう。
ARフィールドの方は、夜遅い時間になって終電がないというようなケースは避けたいので、早い時間帯ともいえる午後1時開催とあった。
「ARの方は参加者100人、VRの方も同じくらい……合計200人、と言ってもシード枠はノーカウントで、この人数か」
シード枠は有名ダンジョン配信者やプロゲーマーが該当するのだが、現状でシード枠に誰がいるのかは公開されていない。
【シード枠の公開は、予選前半戦が終了する午後5時辺りを目途に公開します】
メールには、シードに関してはこう書かれている。一方で、SNS上ではあの有名プレイヤーがいるのでは……と言うような予想合戦が行われていた。
(一体、どういうことなのか……)
ツバキは、ふと時計を見て午前10時台であることに気づく。そろそろお昼の準備をしなくては、と。
しかし、姉はARパルクールの関係でイベント会場へ向かっており不在、父はスピンオフ作品の撮影、母もイベント関係のアフレコで不在……。
妹は、自室にいる。今日は休日なので、出かけないとのことだが……何かあるのだろうか?
姉はパルクールのプレイヤー、父はアクション俳優、母はソシャゲなどのゲームをメインとした声優をしている。
妹は……学生ではあるのだがネット専門学校の学生で、一般的な学校へは通っていない。
両親の職業を考えれば、学校でも色々と言われるのは明らかなので、ネット専門学校も進化したこの時代なら……と言うのもある様子。
自分は既に別口バイトはあるのだが、基本は忍者VTuberの収益で……と言いたいが、稀にゲーム配信もしているので、そっちの収益が多い。
「時間だから、買い物に行ってくるか」
仕方がないのでツバキは考えるのをやめ、まずは買い物へ行くことにする。自宅から近くのスーパーまで、自転車で一分足らずの距離にあり、ものすごく近い。
買い物と言ってもお昼だけなので、そこまで買ってくるものは少ないだろう。自分と妹の分だけ買ってくれば十分だからである。
(そういえば、そうだったか)
1階の居間に自分の自転車用ヘルメットが置かれていた。
令和になってから、自転車のヘルメット着用は義務化されており、被らなければ自転車に乗れないというレベルになっている。
最初は努力義務だったのだが、事故がその後も増え続けることから半年もたたないようなタイミングで義務化され、自転車用ヘルメットを転売する転売ヤーも続出するほどだった。
この自転車用ヘルメットを転売すれば確実に売れる……というような動画が拡散したことが原因とされており、それを一掃したのがガーディアンと呼ばれる組織だったのである。
今を思えば……この頃からガーディアンは転売ヤーなどのような勢力がSNS上で爆発的に拡散し、コンテンツ流通を妨害するであろうことを予言していたのかもしれない。
そうでなければ、今回のダンジョン配信王決定戦も……って、何故にここでダンジョン配信王決定戦が出てきたのだろうか。
その後、ガーディアンだけでなくSNS炎上勢力の行動なども言及され、いよいよダンジョン配信王決定戦行われる時間に迫ろうとしていた。
この辺りのシーンは……諸事情でカットする。小説的には見せ場と言えるようなものがないのも理由だが。
「予選は終わったし、どうするかな」
ARパルクールの予選は草加市の某所で行われ、そこで軽い昼食を取ろうと考えていたのはガーディアン草加支部の支部長でもあるアルストロメリアだ。
本選進出は、各会場で3名と言う狭き門、それを突破できればランカー決定戦へと進出できる。仮に進出できたとしても、強豪と当たる可能性は絶大だろう。
彼女としても予選通過は信じているが、相手が相手だけに……僅差は避けられない。
『支部長、休暇中申し訳ないとは思いますが、小耳にはさんでおきたい情報が……』
アルストロメリアが落ち着いた所で、唐突な無線が入る。インカム経由なので、ガーディアンからなのだろう。
声の主は支部で留守番中のブラックローズ、彼女もガーディアン草加支部の誇るチートメンバーの一人だが。
「予選が終わった後に、すぐ本戦じゃないから問題ないけど、何があったの?」
『実は、ダンジョン配信王で見覚えのある配信者が参加していると』
「見覚えがある?」
『ええ。少し前に上位配信者の話はしたと思いますが、それ以外で微妙にピックアップされた人がいて……』
(この名前って……まさか?)
ブラックローズが話した配信者の名前を聞き、アルストロメリアが何かを考える。
まさか、彼が参加しているのか……とも。
確かにゲーム配信者をしている話は聞いていたが、それがダンジョン配信だったのか……と言われると疑問だが。
【アバターシノビブレイカー】
このシーンで、まさかのCMに突入した。
アルストロメリアは、ブラックローズから何を聞いたことで驚いたのか?
後半へ続く、のである。




