後日談など
おはようございます。加納アヤです。突然ですが、全宇宙にお住まいの皆さんにお知らせします。本日は――なんとなんと、なんとなんと! 私こと加納アヤと山ノ内くんことヨードーちゃんが初デートを決行してしまいます!
いや、普段からいろいろとスキンシップをしている私達なので、こんな言い方をしてしまうと多方面からツッコミを頂戴してしまいそうな感じなのですが、あれは仲の良い女の子同士がするイチャイチャニャンニャンみたいなものなわけでして、私としては今までのはノーカウントと考えて欲しい次第なのです。
というわけで。
本日は問答無用! 正真正銘! の、初デート日として報告してしまいます!
そう、ついに私達は恋人同士になったわけなのでした!
*:鼻血処置中につきしばらくお待ち下さい*
さて季節は夏の終わり。曜日は土曜日。時刻は午前5時(5時!)。ヨードーちゃんとの待ち合わせの時間は10時で、待ち合わせ場所は猫々坂。自宅からは徒歩20分という時空間的に超安全圏にいるというのに、情けないかな、私などは既に今の時点から寝過ごさないようにと緊張でピリピリしているわけなのです。ピリピリの勢いが余ってしまい、私は先ほど大親友であるところの園田美雪ことユキたんに電凸しちゃったわけなのですが、彼女は休日の早朝電話に超絶不機嫌モード。不機嫌過ぎて一周回って上機嫌。不安を打ち明けたところ、なんだか一方的に大笑いされてしまい、とどめに
『いやぁ、初々しいアヤなんてもはやアヤじゃないよね。代わりに私が鼻血とか出しちゃって良いの?』
なんて言われてしまったので、流石に大らかな私も怒って電話を切ってしまったのでした。
ため息をついて寝返り。
そりゃまぁ、学園ではお姉さんキャラとして通っている私ですけど、それでも年相応の恥じらいは持っている乙女なわけです。初デートの不安を打ち明けて腹筋崩壊なんてされたら、いくらユキたん相手でも怒りますとも。
携帯電話が点滅。
なになに。
着信相手は園田ミユキ。ふん。今更ごめんなさいしても今日ばかりは許してあげないのです。等と一人愚痴って中を見る。
宛先:ユキたん
件名:なし
本文:許してねんねこニャー。
「……ねんねこ……ニャー?」
口に出すとヒクリと肩が動いてしまった。むぅ、こんな笑いどころ皆無なメールでニヤついてしまった自分が悔しい。でもそんなぐらいで機嫌は直してあげません。ユキたんには猫耳つけた自撮り写真ぐらい送ってもらわないと、いまの感情には割りに合わないのです。ぷんぷんぷん。と、よく見たらメールには続きがあったのでした。
『明日のルーチェ、私とミキが代わってあげる』
その文面でようやく私は思い出す。そういえば明後日のルーチェでメインイベンターを担当するのは、私と愛するヨードーちゃんなのだった。
え~ややこしい話を抜きにして説明すると、実はいま『桜咲くメイド喫茶ルーチェ』という桜花学園が運営している喫茶店が、ものすご~い赤字を抱えています。理由は……まぁ、みんなが幸せになるために大盤振る舞いをしてしまったから、とお茶を濁しておきましょう。それを解決するために、ルーチェは毎週一回、VRB――仮想戦闘遊戯という出し物をしてお客さんを集めています。
VRB。
簡単にいえば、それは可愛いメイドさん二人による超絶バトルの生中継です。メイドさんがバトル、というのにあんまり違和感を覚えないのは、サブカルチャー発展の賜物というか、ルーチェスタッフのメンバーがメンバーだからというか、ヨードーちゃん可愛いっていうか、まぁその辺りが貢献してるんじゃないかな―と私は妄想しています。ふふふ。うふふ。
*:鼻血処置中につきしばらくお待ち下さい*
「だめ。ユキたんにお礼メール打つ前にティッシュ追加だわ」
ともあれ。
赤字にはなったんだけれどもその御蔭で、副学園長になった早乙女ジュン先生、新たにシスターズとなった期待の新生ミレイちゃん、さらにはそのお兄さんの京一さんとか、あるいは私やシスターズの皆も、ヨードーちゃんも、一緒に楽しく学園生活をエンジョイできるようになったわけなのです。
「……『ありがとうユキたん。それではお言葉に甘えちゃいます。でも機嫌回復まではあと一歩。猫耳自撮り写真プリーズ』っと」
送信。ふふふ、私のメールに赤面しつつ困ってしまうがいいぞ純情少女。でももし本当にユキたんのニャンニャン画像が届いた暁には、初デートを前にして私の方が憤死するという諸刃の剣。素人にはちょっとオススメできません。
時間を確認。
わ。まだ6時にもなってないじゃないですか。
寝返り。
もう少し独り語りなどしつつ、初デート前のストロベリーなシチュを噛み締めちゃいましょう。ん~、ヨードーちゃんはどんな格好してくるのかな。森ガールかな。甘口ロリかな。それとも前に私がリクしてた清楚系の――
「――って、全部女の子じゃないですか。しかしそれがいい!」
溢れるパトスを抑えきれず一人ガッツポーズ。落ち着け、落ち着くのだ私。事ここに至って野獣化するとは何事か。帰ってきなさい初々しい加納アヤ。獣化は本人にあってからいくらでもすればいい。自分の危険思想に気付かない18歳の秋なのです。
と、メールの着信を確認。
差出人は園田ミユキ。
「おやおや、添付ファイルが含まれていますぞ」
ファイル名はニャンニャン。香ばしい単語に眉根を寄せる私。ブラッシング前の髪が一房キュピーンと逆立ちます。強い妖気を感じます。
「開くべきか、開かざるべきか。もしも開いて憤死し、寝過ごしたらアヤルートは終了です。たぶん化けて出る自信さえあるし。でも開いて中をガンミしたい衝動が私を駆り立てて……」
品定めの材料として、ひとまず本文を先に見てみる。
本文:なんてものを送ると思ったのか? それでも見ながら待ち合わせの時間まで腹筋してなさい。
「……ですよねー」
ため息を一つ。思ったより残念がっている私がいることがいっそうに残念です。いや、本当のところは分かってましたとも。ユキたん、基本的にこういうノリにはのっからないというか、根っこはなんといっても生徒会長気質なので。伊達に桜花学園の柔道部部長を務めてないわけです。
「さて、すると彼女はどんな天罰画像を親友に送りつけて来たのでしょうか」
腹筋するつもりはありませんが、それでも反省ぐらいはするつもりです。何と言っても今や恋人持ちの私。それが親友相手に煩悩全開画像を要求するなど、あってはならない背信行為だと思うわけです。そういうのはこれからどんどんヨードーちゃん相手にお願いしたらよろしいわけで。
ポチ、と添付画像を開いてみる。
ロード画面2秒。
そして程なく表示される私への天罰。
「うそ」
現れたのは見紛うことなき抜刀娘。ぱっつん前髪に流れるようなロングヘアー。そして頭部を飾る猫耳カチューシャ。切れ長の目が恥ずかしそうに俯いているのはたぶんコスチュームのせい。正真正銘、言い逃れのきかない猫耳にゃんにゃんエプロンドレス。というか私の作成したユキたん専用ルーチェコスチューム。というかこれを撮影したのが私自身。というかこれを送ったのも私自身。
鼻の奥にマグマのような熱を感じた時にはもう遅い。
「……なんてこと。ルーチェは……ユキたんを……ここまで……変えて……いた、なんて。萌」
あまりにも残念な断末魔。とても初デートを前にした乙女が口ずさんで良いセリフじゃございません。
急速に遠ざかる意識。
鷲掴みにしたティッシュ箱。
ああ、もうダメ。しぬわ。
でもせめてもの救いはこれの撮影者が私であること。なので当社比免疫系数は2倍です。なので2時間程度の失神ですむことでしょう。
「――はぁ、むしろこれで良かったのかも」
そうして私は、再びベッドにバタンと沈むのでありました。
FIN
どうも。常日頃無一文です^^
桜咲くメイド喫茶ルーチェ、読了お疲れ様した!
まず私の素直な気持ちとして、
拙作を最後まで諦めずお読みくださった読者様に
心より感謝を申し上げます。ありがとうございました!
この作品、
ときには更新が年単位で滞り
ときには人称変化で読みにくくなり
ときにはジャンルが変わり
ときには文体が変化し
もう本当に、読みにくいことこの上なかったと思います。
それでもここまでお付き合い下さった読者様、
感謝を申し上げると言いましたが、むしろ言葉もないというのが本心です。
結果的に開始から完結まで5年。
その間に色々なものを公私ともに執筆して、
成長といえるだけのものは、僅かに手にしたつもりでいます。
それを、次回作で発揮シたいと燃えているところです。
今回の未回収部分の回収も含めて、始めたいと思います。
ちらと活動報告でも申し上げましたが、
『集大成』『原点回帰』『最高作』『オールスター』
そんな桜花。
シリーズ五作目。
近日投稿です。
それではまた、次回作でお目にかかりましょう^^
どうもありがとう御座いました!
追伸:投稿しました
http://ncode.syosetu.com/n8582cs/
by 常日頃無一文