番外編:彼女がガンマニア
俺は彼女が変人であるという失礼なレッテルを張ったりはしない。バカだからだ。
都内1LDKにてオレと二人暮らししているこいつ――名前はまぁ今はいいか――は
ガンマニアである。戦争オタクである。ミリタリーフリークスである。サバゲーマーである。中毒である。
そして何をおいても
バカである。
「何かを得る為には何かを犠牲にしなければならない」と云うかっこいい等価交換の概念を適用するなら、コイツがガンマンニアとバカの称号を得る為に犠牲にした二つは間違いなく
コイツの人生。
俺の人生。
ふざけんな。
一昨日、久方ぶりにスピルバーグの名作プライベートラ○アンを二人で鑑賞した後、風呂場で一人ノルマンディーやったらしく俺が使う段になって浴室がなかなかステキな惨状になっていたので、その夜は廊下で座禅を組ませた。
バカだから朝までやっていた。
昨晩、久方ぶりにリドリースコットの衝撃作ブラックホークダ○ンを二人で鑑賞した後、脳内で市街戦が展開されたらしく静かな夕餉を頂いてる最中に「RPG! げっだうん!」ちゃぶ台返したので、その夜は廊下で前転をさせた。
バカだから朝まで回っていた。
ちなみにスタイルは抜群だ、否、スタイルが抜群だ。
毎朝飽きずに自衛隊体操をやってるせいで健康そのものの。イコール健康。人が気持ちよく寝てる隣でジャンピング腕立てとかやってる。バカだから。
服はいつも一緒。
迷彩柄のタンクトップに短パン。髪はポニーで頭に黒のキャップ装備。手には指貫の黒い革手袋。子供の頃ちょっと欲しかったでしょ?
で、脇のホルスター(ホルスター!)にはベレッタとか入ってる。
もちろんエアガンだけど対象年齢は10歳以上用のハイパー弱いやつ、のスプリングを半分にしてもっと弱くしたやつ。射程距離5m。仰角45度で。もう飛び道具じゃない。殴ってなんぼの世界。
弾は6mmBB球だけど素材はトウモロコシをベースにした有機的な何か。バイオテックBBっていうヤツで環境に超優しい。8年したら土になるらしい。頑張れバクテリア。
つまり彼女はたまにマンションの窓開けてトウモロコシをパンパン飛ばしてる感じなのだ。近所のオバさんとかがオフトン干しながら微笑ましく見てる。親子ズレのお子様とかは指差してる。しかし。
――しかし侮る無かれ。
そのベレッタ、外装はハーフメタルな上にマウントベースとダットサイトを装備し、レーザーサイト内蔵型の実銃用グリップを装備したお値段何と25万円。
俺はバカの壁を見た。つくづく見た。
ちなみに顔はすごく可愛い、否、顔もすごく可愛い。
トム&ジェリーに出てくるお高く留まってる美人ネコさん、がデレたような感じ。もうすごっく可愛い。でもすっごくバカ。俺が張り替え終えたばかりの障子にトウモロコシを一発打ち込むというイベントをこなしました。今しがた。
バイオエタノールの台頭でお値段高騰してメキシコのアミーゴか「トウモロコシ高くってタコス食えねーよ」って嘆いてる姿も一瞬だけ頭を過ぎったが、それでも俺が張り終えた障子の価値を慮るとトウモロコシの不足どころか絶滅を願わずにいられない。ダーイ・モロコシ。
パツン、ともう一発彼女がトウモロコシで障子を抜いた。これでもう完璧確定。俺の中でトウモロコシが悪魔の食物と化した。魔女とかがサバトで鍋にブチ込んでる怪しげな薬草Aと化した。ついでに彼女はバカと化した、いやこれはもともとか。
「同胞よ。この障子の防弾性能は極めて低いことが現時刻ヒトマルマルマルを以って私により実証された。そこで私は提案する。紙と云う脆弱な素材など使わずケブラーを用いて万一に備えると云うのは?」
突っ込むにしろ順番は決めなくてはならない。ねぇ君、何から行こうか?
彼女は頬をピンクに染めて指をつっつき合わせながら
「閑話休題。私のジュリエッタのことだが」
ジュリエッタ=ベレッタ。
「い、今までグリップだけで我慢していたが溢れるパトスを抑えきれず、ついにダットサイトも本場イタリーから取り寄せてしまった」
突然のカミングアウト。脈絡とか一切ない。
口調が固いのはデフォルト。舌を出した。てへ、である。この辺りから云っておこうか? レッツゴージャスティン。
「お値段四九八だ」
ふざけんな。
「輸送費が。本体は一九八四」
俺は鮮やかに泣き崩れた。何だよその西暦みたいなお値段は。トウモロコシ発射マシンのカスタムで今月の原稿料は見事吹き飛んだ。仰角45度で。
こいつは腰に手を当てるだけでなく頭にハテナマークまで浮かべて
「どうした同胞? まるで大東亜戦争は日本の勝利と信じて止まなかった国民が玉音放送を聞いた時のような顔じゃないか」
え~っと、え~っと。……あ~はいはい。OK想像できた。確かにそんな感じだわ。
「そこに正座しろ」
ちょこんと座ってきょとんとした。吹き荒れろ、粛清の嵐。
両手で頬をしこたま引っ張って
「いたいいたいいたい!」
しこたま引っ張って――
「いたひいたひいたひ!!」
しこたま引っ張って――
「いたひひたひひたひひたひ!」
引っ張って――
「ひたひベルリンの壁崩壊!」
「そうは派生しねーよ!」
涙目の彼女に俺が泣いた。そしてほっぺにちゅーをした。
キスではない、チューである。
驚く無かれ、彼女はカノジョではなく妹である。実妹である。こいつは痛いのか照れ臭いのか赤くなった頬に手を当てて
「何だ同胞もしかしてアレか? 辺境の戦地に送り込まれて禁欲的な生活を強要される兵士達はやがて男に手を出すと云うあれか。恥じることはないぞ。アメリカが唯一敗北を喫したベトナムにおいてそれは珍しくなかった」
誰かコイツのベトナム戦争を終結させてやってくれ。後お前は女だから。ていうかそれ以前に妹だから。
「と私は解釈している」
全部妄想かよ、お前の。
「そう云う訳で性処理と云うなら付き合ってやらんでもない同胞よ。しかしキス等というロマンチシズムは許さないどころかむず痒い」
そっぽ向いた。やだ可愛い。するかバカ。
「て云うかお前の中では「許さない」より「むず痒い」の方が上なのな。キスよりエッチなのな」
「何か不都合があるのか同胞」
「都合付くと一箇所で良いから教えてくれや」
彼女は目を逸らして頬をピンクに――
「子供が出来るとか」
「あー分る分る。それがたぶん一番最悪のシナリオだよね。しかも実の兄妹でありえねーわ」
「あらゆる困難は乗り換える為にあるとハートマン軍曹に習わなかったのか同胞。身体で」
「やだカッコイイ。俺には生身で地雷に突撃するバカにしか見えんわ」
そうだあまりにバカ過ぎて忘れそうになっていた。コイツはバカだった。
さてここでちょっとオレの紹介。
普段着は和服です。
傍目にどう見えてるのか知らないし知ったこっちゃないのですが、俺はこう見えて浄土真宗の開祖であらせられまくる親鸞聖人様を先祖とする由緒も折り目も正しい某巨大寺の跡取りである。
そこを逃げ出してきたのである。
脱走一発目は見事親父に捕まり、朝まで柿の木に吊るされたあげく即身成仏とかを強要された。
がんじがらめに縛られ深く掘った穴に入れられ、断食。
抗議空しく、上からオヤジが柿とかミカンを「これなら食って良いか。あ、これちょっと青いからNG」とか無意味な選別しつつ落として来て、何て云うか――思いやる角度ズレ過ぎだろ、である。
口げんかとか始まった。
「はーげ!」
「お前のかーちゃんデーベソ!」
「テメェの嫁だよ!」
不毛だった。
で、夜。
逃げてきた。
そう簡単に死んでなるものか。あんな寺の養分なぞになってたまるか。
縄も解かずにどうやって逃げたのか? 単純。溢れるほど放り込まれたカキを踏み台にしたら余裕でした。オヤジもなかなかにバカである。間違いなく娘は血を引いてる。
しかしながら、行く宛てはなかった。
放浪した。
衣食住をまとめてゲットするため、最初に見つけた住み込みバイトに土下座でやとってもらうと決めた。
街に出て、ネオンにビビった。
蝋燭とお日様の明りでやっていた俺は負け組みだった。
でも携帯だけは最新のスマートフォン。なにこのギャップ。
でも寺は基本的に電源オフな上に圏外。なにこの無意味。
回想し、笑った。
不安? まさか。
都心にて。
和食料理屋を発見。
暖簾をくぐって事情説明すると、女将さんから「うちはかなり厳しいよ」と腕組みして云われたが、寺の子なめんなと。
仏像の御身拭い、庭の掃き掃除、精進料理の作成(それも釜で!)、井戸水汲んでの食器洗い、風呂支度、広い寺の雑巾掛け、数時間の読経修行。
これらを土日祝日なしで毎朝四時起きでこなしていた俺には余裕も良いとこだった。
毎日がぬるかった。
忙殺されるとかホザいてる同僚を笑ってしまった。
身も心も時間にも余裕があったので仕事する傍ら、書いていた日記めいた小説をケータイ小説新人賞なるものに応募してみたら何と、優秀賞。
座談会で編集員1のコメント
「こんなフザけた坊主が親父なら主人公も逃げたくなるよね。菩提樹で悟り開いたとか云いながら庭のイチョウの木の下でイモ焼いてたんでしょ。ていうか何で寺の娘がM16とフリッツヘルメットで武装してるの」
思い知らされる、うちの常識世間の非常識。
座談会で編集2のコメント
「だけどこの主人公もやりすぎだよね。自宅圏外なのにIフォン4のプラチナプランとか金と人生の使い方間違ってるでしょ全力で」
復讐を誓った。
その後も生い立ちの事や親戚、親父の過去を妙な脚色せずストレートに書きなぐったらそれなりの賞金と印税が入るようになった。
軌道に乗り、調子にも乗った。
そして仕事を止め、今に至る。妹が追ってきた話はもう少し後にしてみる。