エクレア
「のこぎりゴリゴリゴリンゴリ~ン。のこぎりゴリゴリゴリンゴリ~ン」
早朝午前5時。いつもの目覚ましソングで負の感情全開に覚醒した俺、後宮京太郎の目の前でニパっと笑っているのは
「モーニンモーニンです兄さん。お目覚め如何でしょうか?」
京太郎君にロデオよろしくまたがってクリクリとしたウルシ黒の目を向けている同い年の義妹、後宮京。通称はミィちゃん。
ブラウンのミドルヘアが特徴でスタイルはとってもスマート。とりわけ足が長くて比率的にガチでスーパーモデルな美脚の美少女だ。
「おはようミィちゃん。のこぎりで切断されたのが材木であることを切実に願うよ」
お兄ちゃんのお返事に満足したミィちゃんは”よいせ”と降りてから
「朝ごはんもう出来てますから早く身支度整えてくださいね? ハリーハリー」
セーラー服の妹はウィンクしてお部屋を出て行かれました。
二人で囲む食卓。向かいの席に座るミィちゃんがコーヒーポットを手にして
「兄さんは今日もブラックですかメイビー?」
首を傾げてる。たまにセリフに英単つくのはミィちゃん語の特徴ね。
「たまにはミルクもいいかもね」
答えれば”ハイハイ”と俺のカップに熱々のコーヒーとコーヒーフレッシュを入れてくれた。
「明日は学園のお祭りですね」
ニコニコと嬉しそうなミィちゃん。そういえば文化祭の”桜祭り”の準備は今日だ。
「俺達二人とも運動部だから、当日はノンビリ回ろうか?」
食パンにマーガリンを塗りながら答えれば
「はい。姉さん達と一緒に行きましょう」
本当に嬉しそうだった。
普通、文化祭って秋にやるものなんだけど学園では”桜祭り”って名前から察しがつくように春に開催される。
細かく言えば修了式と始業式の間っていう微妙な時期ね。
「祭りが終わったら私達は2年生で、お姉様は3年生ですね」
ミィちゃんの言うお姉様というのはミユキ先輩。あの無敵の生徒会長ね。ちなみに二人の関係は互いに壮絶なシスコンです。
「そうなると後輩も出来るわけだけど、俺達柔道部は部員増えるかな?」
最後のシメに香り豊かなミィちゃん特製ブレンドコーヒーに口をつければ
「私は今のままがいいです。部活は兄さんとお姉様の3人で充分です」
可愛くウィンクするミィちゃん。まぁ別に俺もそれでいいけどね。ていうかこれ以上シスター増えたら覚えられないしブラザー増えたら俺が嫌だしっていうかミィちゃんが俺以外の誰かを兄さんなんて呼んだらソイツを
「間違いなくボコボコ」
「ワッツアップ兄さん?」
「何でもないです」
ここで時間を先送り。
夕暮れ。ミユキ先輩、俺、ミィちゃんの3人が部活を終えたあとのこと。
学園の帰り道を明日の文化祭こと”桜祭り”について話しながら兄妹二人で仲良く下校していると
「お前たちどっちが後宮だ?」
と曲がり角からズラズラと出てきたのは今日のお昼にミユキお姉様にあしらわれた武装高校の皆様50名。
ミィちゃんは彼らに向かって笑顔で
「私達二人とも後宮ですよ?」
そう答えれば指ポッキンやられたあのボスザルさんが
「今日は随分恥をかかせてもらったから、そのお礼参りでもさせてもらおうと思ってな」
学ランの内から出してきたのは太い太いチェーン。もうやりたいことビンビン伝わってくるわ。
俺は足首を回しているミィちゃんに
「自重してね」
と言ってから彼女の前に立って
「うちの主将は確かにちょっとやり過ぎましたね。すみませんどうか勘弁を」
頭を下げてみた。俺の予想。たぶんどつかれる。
「すみませんで済む話ならこんなもの用意しねーよ!」
あーあのチェーンが当たると流石にヤバイな、とか思ってたら聞こえてきたのはムチを振るったかのような鋭い破裂音。
”やっちゃったかミィちゃん”
頭をあげて見れば予想通りの光景。本気で血の気が引いてる武装高校の皆様。数m先で大の字になってるボスザル。コンクリートの側壁に亀裂と共にめり込んでる歪んだチェーン。
「良かったですね? 身代わりのオモチャがあって」
火薬のようにツンとした匂いと煙を放つ足。それをサイドキックの姿勢から静かにおろす妹。
「脳幹狙ってたんですけどね。邪魔されました」
ニパっと笑う可愛いミィちゃん。
彼らが再び蜘蛛の子散らすように逃げたのは言うまでもない。後宮京。今日も音速を超える変則蹴りは健在。
さらに義妹は口から弱酸性の泡を吹いてトリップしているボスザルのもとにチョコチョコと歩み寄ってからしゃがんでその耳元に優しく
「お鍋がグツグツ煮えてきて~。オテテが溶けて~オメメが溶けて~今晩オダシはいい感じ~」
「ううう助けて。手がないよ目が見えないよ熱いよ~ううう」
アフターフォローも完璧だった。いい夢をボスザルさん。