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16:プロローグ

 午前11時。ルーチェの席の一つにはまだ少し涙目のミィちゃんが、マリサ手作りのローストビーフサンドをハムハムと頬張っていた。

 テーブルに置かれたティーカップとそれを満たしている熱いハーブティーは美月ちゃんが入れたもので、セットで用意されてるエクレアはアオイちゃんが用意。

 ミキさんが紅茶に自前の特性水飴をタップリ垂らせば、桃介がエクレアにミントの葉を添え、さらにミィちゃんの隣に座ったミユキ先輩が

「よしよしいいこだいいこ。ミヤコはいいこだぞ~」

 キュンキュンしながら頭を撫でり撫でり。我が義妹ながら凄まじいまでの妹属性。シスターズ全員がその涙に陥落。まさにハーレム。

 一方で京太郎君もといステビアちゃんはミィちゃんと向かい合わせに座っていて

「しかし皆俺だって分らなかったのにミィちゃん良く気付いてくれたね」

 言えばミィちゃん自信満々に頷いてから

「当然です。私が兄さんを間違えるなんてありえないですマストビー」

 人差し指を立てる。いはやは嬉しいことを言ってくれるじゃないか。しかし後ろからマリサが

「でもどうしてすぐに分ったのミヤコちゃん?」

 と尋ねれば、義妹は振り返ってからこれまた自信満々にウィンクして

「鏡以外に私の顔があったらそれは兄さんですメイビー?」

 言えばシスターズ全員が手を打って

「「「「「なるほど~!!」」」」

「納得したらあかんよ!?」

 突っ込めばミィちゃん、お兄ちゃんに飛び切りの笑顔で

「えへへへ。兄妹はそっくりで当たり前ですマストビー」

 嬉しそうだった。まぁ良いか。ミィちゃんが笑顔なら。いやいやでも……。

「えへへへ」

 やっぱりいいか!!


 とにかくそんな具合に、少し遅めの超リッチな朝食を終える頃にはミィちゃんはスッカリ元気になっていた。アホ毛もミョンと良い感じになっていた。

 それからしばらくしてルーチェに到着したヨードーちゃん、彼にセクシーな切れ長の目をパチクリとされ

「ど、どうしてミヤコ嬢が二人いるんじゃ!?」

「いやいやヨードーちゃん俺だよ俺」

「今時オレオレ詐欺か!?」

「ねーよ!」

 というやりとりがあったものの、ひとまず全員集合と言うことで衣装合わせが始まった。


 ルーチェの8人掛けテーブルに皆が着き、紅茶とクッキーがそれぞれの前に用意された。そんな感じで打ち合わせスタート。

 さてまずは俺なんだけど、お誕生日席に座るアヤ先輩が

「後宮君の衣装はこれでいいでしょうか? 反対の方は?」

 と音頭を取ったので俺はもちろんメイドさん回避のため手を挙げて立ち上がり

「やはり俺は表に出るのではなく、男らしく裏方で力仕事してた方がルーチェにとって良いと思いませんか?」

 クールに決めてみた。実に合理的かつカッコイイ意見じゃないだろうか?

「シスターズで一番力ないのはキョウじゃないかしら?」

 0.5秒で論破されました。アヤ先輩はニコニコしながら

「それじゃぁこの衣装に賛成の方は?」

 俺以外の全員が挙手。ミィちゃんまで。

「それじゃ賛成多数によりステビアちゃんはこれで決定しましたー。拍手」

”パチパチパチ”

 ルーチェが湧いた。ねーねー民主主義って少数意見の弾圧だと思わないかい?

 半泣きになりながらも脱力して椅子に座るとスカートが風であがったので

「わっと」

 両手で押さえる。この格好動きずらいな~とか赤面してたら

「いいよステビアちゃん今のもっかいいっとこうかしら!」

 鼻血出してるアヤ先輩のメガネを割りたい。赤面してるツインテールに喰ってかかりたい。ニヤニヤしてる桃っちのポニーを掴みたい。

 あっちの世界行ってホワホワしてるアオイちゃんをこっちへ連れ戻したい。手をワキワキさせてるユキたんが怖い。

「本当に私みたいになってますマストビー」

 純粋ゆえにミィちゃんの一言が残酷でした。


 次はミィちゃんだ。

「それじゃぁミヤコちゃん、あたしと一緒に来てうふふふふ」

 と義妹がアヤ先輩と共に更衣室に続く廊下へと消えれば、シスターズ達は互いに顔を寄せて議論を始めた。


「ミヤコと言えば妹、妹と言えばミヤコというぐらいだからやはり妹を全面に出した衣装だろうな」

「いえ”京太郎は執事服だろう”という全員の予想をこんな角度で破って来た加納先輩のことです。一筋縄ではいかないでしょう」

 ほんとにどんな角度だよ全く。

「ここはミィミィのルーチェネームから考えてみよか? 絶対ヒントになっとるはずや」

 ステビアと俺の格好の関連性はどうなんだ桃ちゃん。

「え~っとミヤコちゃんは確かエクレアだったかな? エクレア……。ん~シュークリームの一つだけど」

「ホイップクリームとかチョコがヒントになるんじゃろうか?」

「それだと皆と被るの多くないかしら? 大概のスイーツにクリームやチョコが使われてるわよ」

 と皆が意見を交わす中

「ふふふ」

 と不敵な笑みを浮かべる俺に視線が集まった。もちろんその期待を裏切るつもりはない。

 京太郎君は頷いてから

「俺はこう思うんだ」

「なにかなステビアちゃん?」

 美月ちゃんがさりげなく傷つける。でもめげない。

「まずエクレアの語源となったエクレールはフランス語で雷を意味するのは皆様御存じの通り。

 そしてその名を冠した理由には焼きあがった時に生じる表面の割れ目が雷に似ているとか、コーティングするチョコの光り具合が雷のようだとか諸説ある。

 俺は御菓子そのものよりむしろこの語源にヒントがあるんじゃないかと思うんだ」

 言ってシスターズを見渡す。皆真剣な眼差しだ。続けよう。

「さてその説にある”雷”。これがまさにキーワードだ。思い返してほしい。ミィちゃんと言えばその溢れんばかりのキュートさ、妹属性がどうしても目立ってしまう、が、その他にまだ彼女を象徴するものがあるはずだ。それはズバリ」

 俺はそこで一呼吸置く。みんな超真剣だ。よし溜めは充分。

「ズバリ! あの音速を超える蹴り! 雷のような素早さを生みだすあの美脚! それを全面に押し出す衣装に違いない、即ち!」

「お待たせしましたうふふふふふ」

 というアヤ先輩の声に俺を含めた全員の視線が廊下へ集中。

 そしてそこには

「どうかしらこれがあたしのプロデュースするエクレアちゃんよ!」

 ダブル鼻ティッシュ&瞳ハート型なアヤ先輩。そしてその隣には

「初めまして。エクレアことエクレール・オ・ショコラです、メイビー?」

 とまさに俺の答えとも言うべき魅惑の天使がそこでウィンクしていた。

 衣装全体の雰囲気はヴィクトリアンスタイル、つまり白と黒のオーソドックスで上品なメイドさん。なれどやはりというべきか特筆すべきはフリルのミニスカート!

 ミィちゃんの誇るスラっとした美脚をいっそう強調しつつも、しかしそれを全て露にするということはせず、黒のレース付ニーソックスで膝上まではカバーしてる点が非常に憎い上に非常に素晴らしい。

 さらに頭に取り付けられた大きな大きな黒のリボンカチューシャ。一見過剰とも思えるこのサイズが幼さを全面に押し出しており、素材が妹属性MAXなミィちゃんということもあってもはや狂気ならぬ狂喜の沙汰。

 当然の如くこの天使はシスターズ全員に赤面と拍手を持って迎えられた。ダメですこの子可愛過ぎます。

「あ~さすがは私のミヤコだ非の打ち所が無い! さ~今すぐ私の嫁に来い千代に八千代に可愛がってやるぞ!」

「み、ミヤコ先輩はボクが昔から狙ってたからダメです! み、ミヤコ先輩そろそろボクの一途な気持ちに応えて下さい!」

 皆さんこの二人はかわいそうなビョーキなのでスルーして下さいね。

「さぁさぁミヤコ。あんな野獣のように怖い人達なんか構わず姉々と一緒にハチミツよりも甘くまろやかな水飴を二人で楽しみましょうフフフ」

 この人もちょっとおかしいからね。隣では赤面してるツインテールが

「ミ、ミヤコちゃんと、ステビアちゃんがもしあんなことや、こんなことをしたら……それにあんなとこまで……ハ!? いけませんわそんなこと!」

 お前の脳内どんなとこよ!?


 とにかくそんな具合にとびきり可愛いお人形さんのようにシスターズに扱われた後、ミィちゃんはプロデューサーであるアヤ先輩に

「ミヤコちゃんちょっと」

 と何事か耳打ちされると頷き、そして俺の隣に

「ねぇ兄さん」

 チョコンと座って……だめだこの至近距離では心臓がヤバイ。

 ミィちゃんも恥ずかしいのか笑顔だけど頬がピンクなのがいっそうやばい。匂いも良いからやばすぎる。

 俺の心臓がバクバクとなってる一方でミィちゃんも胸に手を当てて

「スーハー」

 深呼吸。そしてやってはならぬ禁断の上目遣いで俺の目を見てハートを一直線に射抜き、しかも赤面してから目を逸らすと言うパンドラの箱を開き、そのまま桜色の唇から紡がれたのはこの言葉。


「……私はあなただけのエクレア。どうか優しく一口一口、身も心もお気に召すままにお召し上がり下さいませ」


 そして一度逸らしたその愛らしい瞳をもう一度俺に向け


「最後の一口まで、あなたの側でお仕え致します」


 そこでニコリと笑ってから


「……ご主人様」


 えっと先人の知恵をお借りして一言言わせて頂きます。我が生涯に一片の悔いなし。


 何という凶器染みた萌えを仕込んでくれたんだアヤ先輩……。もう、もう言葉が出ない。一言も。俺も。シスターズも。一切の静寂が辺りを包んだ。

 そんな中、”エクレール”は少し上気したような顔とかすかに潤んだ瞳を向け、再びその可憐な花のような唇を開いて、そして俺にしか聞こえないような小さな声で


「……このまま私がキスを迫ったら、兄さんは私の気持ちに応えてくれますか?」



”え”


 一気に心拍がハネあがり、一瞬にして顔が火照るのを感じた。しかしそれは俺だけじゃなくて、気付けば吐息がかかるほどにまで顔を寄せてるミィちゃんのその頬も火照っていた。

 それから寝る子が側にでもいるように小さな、でも甘い声でさらに囁いた。


「……私は兄さんが大好きです。兄としても、そして一人の男の子としても」


 何かに頭を打ち付けたかのような衝撃。

 ミィちゃんはその小さな手を胸に当てて切なげに俯きながら


「今までずっと、血の繋がっていないという事実が悲しくて寂しかったです。どうして私たちは本当の兄妹じゃないんだろうって。義理の兄妹という言葉とその意味が、背中にギュっと爪を立てられるように辛くて痛かったです」


 その言葉と声には悲しさと甘さが混じり合っていた。

 けれども再び顔をあげたその表情は


「でも今、この瞬間、私は」


 今まで見てきた何よりも愛らしく


「私は初めてそれはとても幸せなことなんだと思いました。こうして一人の女の子として、大好きな兄さんと向き合えるんだから」


 苦しくなるほどに可愛らしかった。彼女はそのまま無邪気に微笑むも


「私は今から兄さんにキスします。妹してではなく女の子として」


 そのセリフはとても大胆で。


「いやなら拒んで下さい。そしてイヤでなくても私を妹としてしか見られないなら、どうか頬で受け止めてください。でも……」


 不安なのかそこで一呼吸入れる。甘い吐息がくすぐったい。


「でももし、女の子として私を受け止めてくれるなら、どうかそのまま動かないで下さい」


 もう頭が追いつかない。いったいどういうことだ。どうなってるんだこれは。頭はクラクラするし心臓が破れそうだし。鼻に掛かる吐息は甘いし触れる髪が柔らかでくすぐったいし。

 本気で俺、ミィちゃんに告白されてるのか? そうなのか? この場で? こんな可愛い格好してるミィちゃんに? どうして? 

 そんな自答をなんとか許してくれる微かな理性さえも奪うように、ミィちゃんは両手をそっと俺の頬に当てて

「あの、ミヤコ……ちゃん?」

 流石に様子が変だと気付いたマリサがそんな声を漏らす。でもそれは届かない。俺にも。ミィちゃんにも。そしてそのままミィちゃんは顔を寄せてそっとその可憐な唇を近付けてきた。

 ダメだ俺にはこんな誘惑断れない。でもせめて目は閉じないと理性が本当に崩れてしまう。……壊れてしまう。

 

 ……。


「というショートストーリーが今朝兄さんの机の上の本にありましたマストビー」


 ……。


 何か。

 

 とてつもない。 


 死亡旗(フラグ)が。


 ここに。

 

 前触れも無く。


 立てられたのでは。


 なかろうか。


 ないでしょうか。


「……キョウ」


 マリリンの声。どうしよう? 怖くて目が開けられない。落ち着け京太郎君クールダウンだテイクイットイージーだ。


 ああそうさ昨日ついベッド下に隠すのを忘れたあの秘密ブックの一節には違いない。”禁断の義妹編”に違いない。

 しかしまだ誤魔化せる。恋愛小説だと言い逃れれば良いだけじゃないか。何も期待通りに死ぬ必要なんて全くないんだ落ち着け。

 しかし何故こうなったし?


「ふふふ今日私を一人にしてきた仕返しですマストビー」


 義妹の悪戯っぽい声OK状況把握! 俺は慌てて弁解すべく目を開けてから

「いやこれは違……んむ!?」



「「「「「「あ!!」」」」」」


 なんと。いう。ことだ。


 いえません。これ今の事態が言えません。ミィちゃんとの目測を誤ってたとか言えません。口先に触れた感触は壊れないプリンのようだとか言えません。

 

 放心状態の俺の目の前には顔真っ赤にしてそしてそのクリクリの目を大きくパチクリとさせているミィちゃん。目の前と言うこの言葉はいまだかつて無いくらい正しい表現。

 本当に、目の、前、なんです。鼻先と鼻先は触れ合うどころかもはや交差。そして口にいたっては互いに一言も話せない状況。冗談で言うなら仲良く”口封じ”。なんちゃって?

 一瞬の間を置いてからマッハで飛び退いたミィちゃんはいっそう顔真っ赤にして両手をグーにしながら


「兄さん今私にチューしましたマストビーーーー!!!!」


 あーーーー!! 考えうる一番恥ずかしい表現でダイレクトかつ大声で言っちゃいましたよ義妹がーーーー!!

 待て待てこれは不可抗力だ事故だ!! 俺は今のミィちゃんにも勝るインパクトで弁明しないとダメだこれは!!

 京太郎君は大きく息を吸い込んでから


(ごめんミィちゃんワザとじゃなかったんだーーーー!!)

「ゴチになりましたーーーー!!」


 脳内のセリフと入れ替わったーーーー!!


「京太郎さん辞世の句ぐらい詠んでも宜しくてよ?」


 見れば100万ドルの笑顔で握り締めた正拳を一杯一杯に引き絞ってるマリサしんだーーーー!!

 でもこのまま不名誉な最期を遂げてなるものか!! せめて誤解くらい解かせてもらうぞ!! 俺はクールに微笑んでから


(ワザとじゃなかったんだよ本当に!!)

「貧乳はステータス無乳はライセンス」


 どう見てもお約束の展開です本当に有難うございました。


「逝って来なさいな!!」


 というマリリンのお見送りセリフとともにその拳はステビアちゃんにクリーンヒット。

 2年生になって初めて喰らったゲージ3消費技、絶・破城鎚。吹っ飛ばされつつも薄れ行く意識の中で俺が考えたこと。


”あ~ものすごく幸せだったなさっきの瞬間。でも欲張りな俺は皆の衣装見たかったよ。何となくだけど、”彼女”のが一番、ね?”



桜咲くここは桜花学園:第3部「桜咲くメイド喫茶ルーチェ」

プロローグ:「桜咲くここは桜花学園」:完

第1章に続く。 

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