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13:ふ~む……ハーブねぇ

「ステビア……ステビア。ははー。これか」

 夕暮れ時。俺がボソボソと呟いてるのは学園図書館の園芸コーナーの本棚。そのすぐ近くにあるテーブルだ。

 アヤ先輩からメールで伝えられた自分のルーチェネームなるものの正体を部活帰りに調べようと図書館に立ち寄り

”シスターズの名前がお菓子繋がりだから俺のステビアもそうだろう”

 と片っ端からスイーツ関連の本を漁っていたら名前が掠りもせず、仕方なく一度図書館の外に出てから文明の利器、携帯を取り出してお料理上手な美月ちゃんにピポパとして

”もしもし美月ちゃん。突然ごめんね”

”んんん良いの。ちょうど電話しようかなと思ってたんだけど……今日はどうしたのかな?”

”えっと質問なんだけど、ステビアってどんなオヤツだっけ?”

 そう聞けば

”ステビア? ステビアって、オヤツじゃなくてハーブの一種よ。キク科の多年草で夏の終わりに可愛い白い花を咲かせるの。すっごく甘いから甘味料でもよく使われるし、紅茶にしても美味しいわ。それより今料理部の部室でクッキー焼いたんだけどどうかな?”

”そうかハーブなんだ。てっきりオシャレなスイーツかなんかの名前だと思ってたよハハハ”

”そういえばキョウ君、アヤ先輩に「ステビア」っていうルーチェネームもらってたよね。それから今部室にクッキーがあるんだけど一緒にどうかな?”

”そうなんだよね~。流石に俺も皆とドレス着て「お帰りなさいませ」とかやるとは思わないけど、かといって料理もできないし何やらされるんだろな~って”

”それなら加納先輩に直接聞いてみたら早いんじゃないかな? あと私の部室にクッキーが今バスケット一杯にあるんだけどどうかな?”

”それが聞いてみたんだけど「土曜日までのお楽しみよハァハァ」っていう怪文書めいた返事しかなくて困ってるんだ。だからヒントが欲しくてステビアってなんだろって調べてたんだけどね”

”そっか。でもキョウ君ならメイドさんやっても可愛らしいと思うけどねフフフ。そうそう。今とっても美味しいクッキーが”

”冗談でしょ俺がメイドさんなんて~ハハハ。あ、それじゃぁ俺外せない用事があるからこれで”

”あ、えっとキョウ君クッキーをその”

”それじゃぁまた!!”

 

 まぁさっきはそんな命のやり取りがあったのだ。で、戦利品として俺はステビアの正体をこうして掴むことが出来たんだけど

「まぁ喫茶だから観葉じゃなくて紅茶としてのステビアなんだろうな。シスターズはスイーツで俺は紅茶か。なんか取り合わせ的な感じがするけど……ふむ」

 と腕組みしてたら携帯が振動。いったいどなたかなと見ればマリリンじゃないか。なになに。

”援軍求む。至急料理部部室に来られたし”

 おーマリサよ美月ちゃんクッキーという魔物を相手に苦戦を強いられてるのだな! ならば俺はその心意気に答えねばなるまい!

”潔く討ち死になされよ”

 返信完了と。さて調べ物調べ物っとまたメールか。今度は……ミィちゃんか。どれどれ?

”に、兄さん助けてマストビー……”

「いますぐいくよミィちゃん!!」

 俺は図書館を飛び出した。


 脱兎の如く桜花ホールの階段を駆け上がって到着した2階の料理部部室! ガラっと扉を開けて威勢よく飛び込み

「後宮京太郎! 妹の知らせを聞いて居ても立っても居られずここに見参!!」

 ビシっと格好良くポーズを決めた! さぁミィちゃんはどこだもう既に電気椅子(クッキー)の刑に処されたのか!? 

 と中を見渡せば目の前にはツインテールが100万ドルの笑顔で

「私とは対応が随分と違いませんこと京太郎さん?」

 と拳をパキパキとならしてるので俺はクールに前髪を払ってから

(いやまさか美月ちゃんのクッキーが振舞われてるなんて思わなかったんだマリサ)

 という大ウソをかまそうとして

「それは二人のバストサイズの違いに関係したりしなかったり」


 なんでこういうとこで脳内のセリフと逆転するんだろうねマジ。


 -しばらくお待ち下さい-


「いやーなんか、ほんとすみませんでした」

 ホッペ腫らしつつ着席してる京太郎君の前にはバスケット、その中には香ばしい黄金色のクッキーがたっぷり。

「別に我が身可愛かったとかそういうアレじゃなくてその、俺も忙しかったっていうかホントすいませんでした」

 向かいの席ではツインテールが組んだ手の上に小顔を乗せてニコニコ。美月ちゃんは可愛いエプロンつけて今オーブンの前で

「もうすぐ二皿目が出来るから一杯食べてね。フフフ」

 死刑宣告。マリサの100万ドルの笑顔も凍てついてます。

「ねーマリリン。ところでうちのミィちゃんは?」

 という問いにチラっとマリサが流し目。その先にはオーブンに一番近いテーブルがあってその上には不吉な空のバスケット。

 そしてそこに着席もとい突っ伏してヒクついてるのは……ああ、見間違えようもない親愛なる我が義妹ではないか。いつもかわゆくミョンと逆立ってるアホ毛もあまりのダメージにクルクルと巻いている。

「し、しりとり。り、リカちゃん」

 ああしかも一人しりとりを始めた挙句に2ターン目にして”ん”がついて早くも撃沈。なんというダメージだこれは確実に腕前(イリョク)を挙げたな美月ちゃん。

 これは俺達だけでは荷が重過ぎる。俺はマリサにアイコンタクト

”援軍呼ぶぜ!”

”任せたわキョウ!”

 俺は素早く携帯を取り出して桃ちゃん、ヒロシ、ミユキ先輩にメールを送信! この三人なら何とかしてくれるはずだ!


 -10分後-


「いや~悪いね京太郎君こんなステキなイベントに呼んでもらってハッハッハ」

 とドッカと隣に腰を降ろして丸太のような腕を俺の肩に回し

「さすが持つべきものは親友(トモ)だよ」

 とかいってる上機嫌なヤツはヒロシ。俺はステキな笑顔で

「いやいや日頃からお世話になってることだしな。やはりこういう運命(シアワセ)は共にしないとだろ?」

 親指を立てる。すれば今度はマリサの隣に座ってる桃ちゃんがこれまた上機嫌に両手を頭に当てながら

「せやけどウチ呼んだらお前らの食べる分なくなるで~? へへへ。悪いなマリィ、エロノミヤ」

 ニコニコしてる関西娘。ほんと持つべきものは親友(バカ)に限りますな。

 そんな俺達の前にはすごく良い匂いがするプレートを手にした美月ちゃんがやってきて

「お待たせみんな。さぁ遠慮なく食べてね」

 ポニーを揺らしながらニッコリ。アツアツのクッキーがバスケットの中を満たすとまずはヒロシがそのクマのような手で

「いただきー!!」

「あ! 紅枝フライングやろ!!」


 -10分後-


 俺の隣ではスカイブルーの顔色でヒクついてるシロクマ、マリリンの隣では瞳がクルクル渦になって突っ伏してる桃ちゃん。

 戦士達よ俺は君達を忘れない。向こうではミィちゃんがまだヒクヒクしながら

「し、しりとり。え、エスカーレーターのあの出っ張り」

 もはやしりとりでない上にあの出っ張りがどの出っ張りか分らなかった。一方で美月ちゃんはスッカリ空になったバスケットを手にハニかみながら

「美味しかった……かな?」

 赤面してるよああ可愛い。俺はともすれば口から幽体を出しかねないヒロシの代わりに

「天にも昇るほど美味しかったらしいよ」

 コメントすれば、今度はマリサがお亡くなりになりかけてる桃ちゃんに代わって

「て、天に昇ったらしいわ」

 それ召されたってこと!? とアイコンタクトで突っ込もうとしたらマリサもガクっとその場に突っ伏した。しまったそうかコイツ俺が図書館に居るときに既にクッキーを! 美月ちゃんはキョトンとして

「あれ? マリリンどうしたの?」

 ヒクついてるツインテールをマジマジ見てるので

「ああ。マリサはお腹一杯になったから眠くなって寝てるだけだよハハハ」

 口が裂けても親友のクッキーで三途の川を越えそうになってるとか言えない。

 ああマリサよツインテールの偉大な戦士よアナタの犠牲は無駄にしない。アナタの勇気ある行動によってこうして一人の少年京太郎君を救うことが出来たのだ。一方で美月ちゃんが申し訳なさそうな顔しながら

「ごめんねキョウ君。じ、実はもう私の材料切らしちゃってキョウ君の分が」

 とか言ってるので俺は実にクールな笑顔で

「いやいや。俺はもう美月ちゃんのその気遣いと思いやりだけでお腹も心も一杯だよ」

 親指を立てれば赤面しつつもクスリと笑ってああ可愛い。

 もうピンチ回避の上にポニーテルーの女神様こと美月ちゃんのこんなステキな笑顔を見られるなんてきっと京太郎君の普段の行いが良過ぎたんだろうね。

 そこで扉がガラっと開いてユキたんが髪をサラサラと腕で流しながら

「材料なら私がタップリ持ってきたぞ美月」

 死刑宣告しても髪はツヤツヤお手入れ万全。俺そんなに普段の行いが悪かったのかな? ねぇ?


 ヨードーとアヤは今日もまた演劇部の部室でテーブルを挟んでいた。話のお題はもちろんルーチェ。

「本気でやるんですか?」

 かつてない鋭いヨードーの眼差しをアヤは真正面から受け止め、腕組みしてから力強く頷き

「部長に二言はないわ」

 言い切った。ヨードーはアヤの決意の固さを読み取り、知らず知らずにその喉をゴクっと鳴らした。

 そしてその全てを物語る手元の”ステビア”と書かれた2枚の写真に目を落とす。

 一枚目にはロングジャケットのフォーマルな執事服、そして二枚目には奇抜なエプロンドレスが写っていた。


「も、もしかしてまた食べさせて欲しいのか京太郎?」

「あ、いえそのミユキ先輩何と言いますかえっとあの」

「仕方ない奴だなお前はフフフ。そら、あーんしろ」



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