10:ま~よろしくしとけお前ら
「兄さん早く早く! ハリアーップ!」
「いや、ちょマジ脇腹痛いって!」
「も~情けないわね急ぎなさいってば!」
義妹、幼馴染という二人の美少女と共に学園の最寄り駅についた途端、両腕を引っ張られてグランドまで全力疾走ノンストップだった俺は情けないながらも膝に両手をついて息していた。
もうゼーゼーいってまともに話せない京太郎君とは正反対に、ミィちゃんとマリサは校舎前に設置された掲示板で自分達のクラスをソワソワと確認し、自分達の名前を見つけた途端
「やった姉さんと兄さんと一緒です!!」
「良かったわねミヤコちゃん!!」
とか何とか言いながら仲良くハシャイでいた。あ~元気だね君達はホント。こっちは肺の空気全消費してクタクタだっていうのに。
その場に年寄りくさくペタンと腰を落として息を整えていたら差し込んできた影。顔をあげる。そこにはマリサ。
「さ。生徒会役員なんだから今日は所定の位置で待機よ。いきましょ」
手が伸ばされた。ああ、そうか。そうだったな。一人頷いてると
「どうしたのよキョウ?」
キョトンとしているマリサ。俺は首を軽く左右に振って
「いやいや。何でもないよ。よしいきますか」
その手を取った。照れるにしてはあまりに幼馴染すぎるのかな。
4月8日。桜咲くここは桜花学園。満開の染井吉野は学園の名に相応しい華やかさ。
無数の花びらが春の香りに乗せられて舞い、漂い、流れていくグランド。そこで入学式は行われた。俺達はもう2年生。
相変わらずというか予想通りというか。生徒会役員代表として朝礼台にあがったお姉様ことミユキ先輩がマイクを取って
「新入生の皆さん。ようこそ桜花学園へ」
と髪をサラサラと流せば新1年生から男女問わず恍惚の視線を集めて瞬く間にカリスマになったし、俺のお隣でニコニコとしていたツインテールもまた大勢の視線を浴びていて、どうやら”八雲様ファンクラブ”の新会員獲得は間違いなさそうだった。
新しい教室とは言え中がそう変るわけじゃない。上る階段が一つ増えたというだけだ。
1年間新たにお世話になる教室でも去年と同じポジションの席に座れば、その左隣に美月ちゃんがトンとカバンを降ろして
「こんにちわキョウ君。今年も一緒のクラスね」
とニッコリ。
「うん。きっとこれ何かの加護受けてると思うよ俺。それでは今年もお世話になります」
おじぎすれば口元に手を当ててクスリと美月ちゃんああ可愛い。次に右隣にはマリサが
「美月、キョウ。一年またよろしくね」
ウィンク。今年もお昼は至福のヒトトキのようですな。と一人ニヤニヤしてる俺の前には
「ここもらいましたーゲットイッツ!!」
ミィちゃんが後ろ向きにピョンと座ってから突然俺に顔を寄せて目をジーっと見て
「兄さんにらめっこします!!」
なんかが始まりました。まぁ先生来るまでちょっと時間あるみたいだし義妹に付き合ってみようか。同じくじーっとそのクリクリとした真剣な眼を見る。
「むむむ」
ミィちゃんはいたく真剣だ。しかしこうマジマジと見てると我が妹ながら可愛いな~。ホッペはプニプニだしオメメ大きいし唇も桜色で髪もサラサラで良い匂いだしムフフ。
「ムフフフ」
「兄さんの負けですアイムザウィナー」
ニパーと上機嫌な義妹。マリサ(ネエサン)や美月ちゃんと一緒なのが本当に嬉しいんだろうね。あ~しかしマジで可愛いな。鼻の下転落だわ。
「よ~。今回はミヤコちゃんも一緒か。嬉しいね~」
と俺の左後にドッカと座ったのはヒロシ。こいつとも大概腐れ縁だよな。一応振り返って儀礼的にコンと拳を合わせる。
「今年もお前委員長やるの?」
「立候補者いなきゃな。仕事はせいぜい授業前授業後の号令ぐらいしかないし意外に楽なもんだよふぁあ~」
とアクビ。そしてそのままいつものように机に突っ伏して冬眠を始めた。いきなりか。
「……」
こいつ今年も授業は催眠学習で通すつもりだろうか?
「か~。マジかこれ全員集合やん?」
という声に目を向ければ教室にやって来たのは桃介にミキさん。おいおいマジでマジですか全員集合じゃないか。
「桃姉もですか!? 姉々もですか!?」
ミィちゃん立ち上がって大ハシャぎだ。その様子に並んで座ろうとしていた二人は目を見合わせて笑い、ミキさんがミィちゃんの左隣、桃介は右隣に腰を降ろした。
「これから一年宜しゅうなミィミィ」
桃介がミィちゃんの頭を撫でて
「アメが欲しいときはいつでも姉々に言って下さいね」
ミキさんも頭を撫でて
「クッキーが欲しいときは私に言ってねミヤコちゃん」
美月ちゃんも頭を撫でながらちょっと怖いこと言ってた。なんか小動物みたいだねこの子。
見守ってたら俺の方を見て目をパチクリとさせて
「お姉様とアオイちゃんはまだですか?」
「いやいや学年違うから」
そうして皆でガヤガヤと過ごす中、することのない俺は油性マジックで冬眠中のシロクマフェイスにアートを施していた。
そしたら関西娘が振り返って俺の方を見て
「しかしエロノミヤ。奇遇やな~」
俺は”はちみつフェチ”と書きながらも
「そうだねティラミス」
と相槌を打てば瞬間顔を真っ赤にしてグっと顔を寄せて
「その名前をここで言うなや! マジで!」
あーなんか今年一年はすんごい面白そうですね。桃ちゃんイジリが授業中にも出来るなんて最高じゃないですか。ニヤニヤ妄想してたらモモスケが目を細めて
「お前なんかいらんこと考えとるやろ?」
言われたので俺はクールに
「いやいや。このポジションだと後からお前のポニーは引っ張れるし消しゴムちぎって投げられるし輪ゴム飛ばせるしなんかもう熱いパトスがほとばしって」
「めっちゃ陰険なパトスやなお前」
教室の扉が”ガラっ”と開いたとき皆がオシャベリをやめた。タイミング的に担任に間違いがないだろうと見守っていたら入って来たのはもう猫さんみたいに可愛らしい女の子じゃないですか。
なんか
”寝起きです今しがた覚醒しました”
みたいに目をコスリながら
「あ~やばいやばいやばいです眠いです。徹夜明けは辛いですねお前ら」
ロリ全開な声で話し始めました。全員の視線を集める中この子は教卓の前に立って
「ま~あれですねお前らね。いよいよ2年生になったから授業のサボリ方とか早弁の仕方とかいろいろノウハウ心得てらっしゃると思いますが私にはスゴク通用しませんからね。そういうの見つけちゃうと黒板爪でキーキー引っ掻いてスンゴイ音立てますからね。よろしくしとけお前ら」
ロリボイスでそんなこと言いつつ背伸びして黒板に”さおとめじゆん”と書いてこっち向いて
「はいはい担任の早乙女準です。まだここのことよく分りませんがよろしくしとけお前ら」
ビっと親指を立ててウィンク。なんだこの珍獣は!!
全員が固まる中、桜花学園の2年目はスタートした。