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8:ん~? 意外に寝坊? ていうか今日はその休みっていうか

 アオイの朝は休みでも早い。午前5時には身支度は整えて髪もセットしていたし、午前6時にはルーチェの掃除を終えて窓全部を開けて換気を済ませていた。

 一方で平常は早いものの、低血圧なミキにとって休日は昼前から始まるというのが当たり前だった。

 だからアオイにせがまれてルーチェに一泊していたとは言えまさかスヤスヤと寝ている午前8時に寝室の扉を開けられて

「おはようございますミキ先輩ゴハンできましたキャー!!」

「キャー!!」

 お互いに叫ぶハメになるとは思わなかった。


 幸い女同士ということもあってさっきの気まずさは朝食を食べる頃にはスッカリと消えていたものの、アオイはやっぱり

「でもミキ先輩って寒くないんですか? あんな格好で寝てて」

 生まれたままの姿でシーツを抱き枕のようにしてスヤスヤとしていた彼女に、そう尋ねずにはいられなかった。

 ミキは焼きたてのクロワッサンに自前の水飴をタップリとかけながら

「流石に秋の終わりや冬は何か着ますけど、春や夏はあんな感じです。なぜか寝るときは落ち着かなくて。あ、食べます? 朝の糖分、頭に抜群」

「ボクはマーガリン派なので」


 一方で園田家の朝は神社だから毎日が早い。その中でも特に趣味で花の世話をしている美月は寝るのも起きるのも一番だった。

 自分の寝室に飾った鉢、庭の温室、玄関や本殿裏の花壇の手入れをし、そして朝の支度をしようかと午前5時ごろにキッチンに向かえば姉がまな板の上に大根を乗せていて

「おはよう美月。今日の朝食は私が作るよ。まずは味噌汁だな」

「ありがとう姉さん。でもそれ包丁じゃなくて安綱ね」

 と寝ぼけているミユキの背中をシャワー室まで押してから朝食の支度を始める。そしてミユキが立てるシャワーの音と美月の作る味噌汁の匂いに目を覚ますのが桃花だった。

 学園長である母は現在、抱えている副業の事務処理に追われて学園の仮眠室で寝泊し、有名かつ高名らしい神主である父もまた園田家の三女、美花を連れて神社から神社へと渡り歩いて後輩の指導に当たっている。

 そういうことで今ここに暮らしているのは長女の美雪、次女の美月、従姉の桃花の3人だった。

「すまないな美月。明日からはちゃんと私が作るからな」

 と焼き鮭をつついてる姉に

「気にしないで。平日はいつも姉さんが作ってくれてるんだから」

 と答え、それに桃花が

「なんかウチは食べてばっかで悪いなぁ。へへへ」

 と笑えば二人の姉妹は口を揃えてこう言うのだ。

「「適材適所よ」だな」

 嬉しいような凹むような。複雑な桃花の乙女心。


「”し、しまった~ぞ! 斬る位置が下過ぎた~ぞ!” とお爺さんは竹やぶの中で頭を抱えたとさ。おしま~い」

「そんな悲しいカグヤ姫いけないよミィちゃん。モーニンモーニン」

 さて後宮家の朝はいつも通りにこんな感じ。負の感情全開で目を開けたらミィちゃんが上に乗っかってるのもいつも通り。

 ただいつもと違うのは


「おはようマリサ。相変わらず早いね」

「おはようキョウ、それじゃぁ頂きましょうかミヤコちゃん」

「はい。それじゃぁ……」

 と手を合わせ

「「「いただきます」」」

 こんな風にまたまた食卓を囲う人数が俺、マリサ、ミィちゃんの3人になったということだ。

 

 静かで平和で美味しい朝食を頂きながらも、俺は昨晩にアヤ先輩から届いた一通のメールが気になっていた。それは

”今日は後宮君もルーチェに付き合ってね? 本番で戸惑わないようにうふふふ”

 この文面に何か怪文書にも似た悪寒を覚えるのはきっと気のせいだと信じてやまない。とくに”本番”というこの単語。

「キョウ。風邪でもひいたの? なんか具合悪そうだけど?」

 と幼馴染が首を傾げてるので

「いやいや心配ないよ。それより今日ってミヤコシスターズ&アヤ先輩にヨードーちゃんだけで良いんだよね?」

 尋ねれば

「そうよ。でもキョウも付き合ってよ。どうせヒマなんでしょ?」

 なんて可愛く笑ってるところを見るに、どうやら俺がアヤ先輩に呼び出しを受けていることをマリサは知らないようだ。

 

 とにもかくにも俺達がルーチェに揃ったのは午前10時頃だ。

 一番ノリだった俺、マリサ、ミィちゃんの3人が木製の扉をノックすれば、それを”リンリン”というベル音とともに開けて迎えてくれたのは

「いらっしゃいませ! ルーチェにようこそ!」

 と元気いっぱいのアオイちゃん。そして

「おはようございますキョウ、マリサ、ミヤコ」

 とスッカリ女の子らしい格好になって、でもいつものように艶っぽく微笑むミキさんだった。

 そうそう。ちなみにだけどミィちゃんの要望でアオイちゃんがシスターズに入りました。言い方かえるとミィちゃんに義妹が出来ました。でもどっちが姉か見た目には逆です。


 カフェの中は既に木の床がツヤツヤに磨かれていて、マリサが調達してきた一見慎ましく、でも見る人が見れば腰を抜かすようなテーブルセットには真っ白なテーブルクロスがかけられていた。

 新たに飾られた食器棚、置時計、展示用のお皿といった調度品も上品で落ち着きがあって、何というかもう開店準備万端という感じだ。

 そんな風に店内を見回していたらテーブルの一つへとアオイちゃんが案内し、イスまで引いてくれたのでお礼を言いつつ三人は着席。

 マリサが嬉しそうに二階へと続く階段に青い瞳を向けて

「上にはコンサードグランドも置いてるのよ。後で弾いてあげよっか?」

 ニコニコとしていた。なるほど、マリサが店に案内したがるわけだ。

 そこでまた”リンリン”とベル音がなったので玄関を見れば

「こんにちわ~」

 と元気な挨拶をしてきたのは今日もキャミソールで女の子全開なヨードーちゃんと

「お邪魔しま~すってちょっとミキちゃん何その確変!!」

 と鼻からバラ色のジェットを噴出しているアヤ先輩。扉を開けて迎えたミキさんはガッシと両肩を掴まれて赤面かつテンパりながら

「あ、アヤ先輩そのこれはえっとですね! 私がその選んだんじゃなくて」

「来年演劇部決定よミキちゃん! ヨードーちゃんとまとめてお姉ちゃんが面倒みてあげるから!」

 アオイちゃんは額に青線落としながらも

「なんかボクの選んだ服ってアヤ先輩には刺激が強かったみたいですね」

「アヤ先輩には良くあることですマストビー」

 でもすぐにミィちゃんのウィンクにホワホワと癒されていた。

 

 ヨードーちゃんに鼻ティッシュ装填してもらって正常モードになったアヤ先輩と超めずらしく怯えてる可愛いミキさんを微笑ましく見守ってると、再びベルは”リンリン”と来客を告げた。

「ちーっす。久しぶりやな~ここ来たんわ」

 まずは今日も元気一杯な桃介。続いて

「お邪魔します」

 キチンと頭を下げて大きなリボンとポニーを揺らしているのは美月ちゃん。

 そして最後に入って来たのは史上最強の生徒会長、園田美雪。彼女はクールに髪を腕でサラサラと流しながら

「京太郎が斬れると聞いて来ました」

「お帰り下さい」


 全員が揃ったところでアヤ先輩@貧血が配り始めたのは分厚いルーチェのマニュアルだ。ぶっちゃけ電話帳の半分くらいはある。

 とは言ってもミヤコシスターズが覚えるべき内容はその20分の1程度の内容で、それらは商品メニューのだいたいの名前とその価格、接客方法、レジやキッチンなどの設備の基本的な使用方法だ。

 後はホールかキッチンを担当するかで覚える内容は少しずつ異なり、さらにそれ以外については

「……取引先業者さんに関することや光熱水道費とか、事務的なとこだから皆は気にしないで良いです。それじゃぁ今日の本題はと言うと」

 そこでアヤ先輩は区切ってから全員の顔を見回して

「接客の練習をします」

 全員が顔を見合わせた。


 俺を含めたミヤコシスターズはホールにて横一列に並び、アヤ先輩はまるで映画監督よろしく少し離れた位置でイスに腰かけ、膝の上にノートを広げてメガホンを手にしていた。

 そして彼女たちを見回してから

「それじゃぁまずはお手本ということもあって。桃花ちゃんお願い」

 と言われて桃ちゃんてっきり恥ずかしがると思いきや、頭をポリポリとかきつつ

「あいよ。ほな。デフォルトからいこか」

 あっさり了承。そして数歩前に出て自身の髪留めを外してオーバーポニーを解除。すると長い髪がサラサラと肩を滑ってそれに

”おお”

 とか気を取られてるとクルリと向き直った。そこにはいままで見たこともないほど上品で愛らしい笑みを浮かべる桃介がいたので絶句してると

「お帰りなさいませご主人様。お仕事どうもお疲れ様でした」

 包み込むような穏やかな声にそのまま硬直。それから両手を体の前でキチンと組み、目を閉じてから丁寧に深々とおじぎ。

 それからゆったりと身体を起こしてから目を開け、首を少しだけ傾げて優しく微笑み

「それではご案内致します。こちらでごゆるりと御くつろぎ下さいませ」

 一連の動作は完璧でまさに優雅の一言。おいマジか死ぬほど可愛いんですけど誰ですかこのハイパーメイドは。しかもあろうことかコイツはそのままの表情で俺の目を見て

「いかがないさましたかご主人様? お体の御様子が優れないようですが?」

 ニッコリ。やばい死ねるぞ顔から火がボーボーとかテンパってたら

「あははははは」

 急にお腹を抱えて笑い出すモモスケ。

「な~に赤うなっとるんやエロノミヤあはははは」

 こいつマジで許さん俺のピュアハートをもてあそびやがってううう!

 とか一人報復を決意していたらひとしきり笑った桃介は顔をあげ、そしてシスターズの目を見て

「ま、こんな感じな。これが基本。アレンジとか個性は後回しで、まずは今のをしっかり出来るようにな」

 と頷く桃ちゃんには惜しみない拍手が送られた。そんな中でまた俺に目を向けて

「ウチに惚れんなよ」

 ニーと悪戯っぽく笑う桃介。

「ありえんな」

 言い切る。ありえてたまるか。たまるか。たまるか。くそー……可愛い。しかし俺はまだコイツの本気を知らなかった。

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