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7:ん~? いやいや何でお前ココに?

 弓道場で一人、黙々と射を続けていた桃花は耳障りなエンジン音に気付いて部室の窓からグランドを見た。

 そして夕暮れの中をモクモクと砂煙をあげながらグランドの坂道を駆け上がってきたバイクの数々に

「あ、武装のアホたんや。今日はミユキ姉おらんからしらんで~?」

 ニっと笑ってから弓を床におき、両手を頭の後ろに当てていつもの待機モード。

 そのままグランドに展開したバイクを見物していると不良のうちの一人が拡声器(メガホン)を手にバイクから降りて

「あーテステス。よしバッチリじゃねーかこんちくしょう高かったんだぜこれ~」

 校舎に向け何か話し始めた。そして息を吸い込んで

「コラーこの野郎!! 俺は武装高校2年B組のなぁ!! 津根(ツネ)火五郎(ヒゴロー)だ!! キャラ構想時間2秒だこの野郎!!」

 叫んだ。

「今日はなー!! 何回も何回も出てきて、バイク斬られては”ひひー”とか逃げてばっかだからなぁ。いろいろマンネリ化してて作者飽きたっつーか腹が立ったつーかなぁ。だからちょっと趣向変えてノコノコ乗り込んで来たんだコラー!!」

 仲間(バカ)から歓声を浴びるヒゴロー。

「あのー、あれだろお前らコラー。毎回刀でバイクをスクラップにされてるくせになー、なんですぐまたバイク乗って”ギャーギャー”わめきながらここにやって来れんだとか思ってんだろ、内心! こらー! 実は俺もだこの野郎!!」

 ヒゴローは仲間(バカ)に一発叩かれた。

「けどんなもん言い出したらお前。あの今世紀末救世主伝に出てくるあれ。胸に七つ半の傷があるアイツとかどうなんだアイツー!! 毎回キレるたびに

”キサマらに明日を生きる資格はねー!”

 とか言いながら上着ビリーってなってなぁ! で、次回にはガッツリ着てるだろコラー!!」

 もう一発叩かれた。

「でもそういうのを簡単になぁ、ご都合主義だとかフィクションだとか世知辛い冷めた目で見るのやめてなぁ、逆に考えるんだよ逆に。

”どうやってあの上着をいつも調達してるんだ?” 

 って。そしたら見えてくんだろーが」

 ヒゴローは息を吸い込んで

「縫ってんだよケンシチロウは!! 人目につかないトコで裁縫セット取り出して!

”リソ。そこの針を取ってくれないか。さっきニ指真空破で飛ばしちゃったやつ。そう、それそれ。ありがとう” 

 とかやってんだよ!! たぶんそこでも微妙に北都真拳使ってんだよ!

”一子相伝だからまぁいーや”

 みたいなノリでよー!」

 また一発叩かれた。

「常識的に考えればわかんじゃねーか。水と食料奪い合ってる核戦争後の世界にだよ? んなユニクロンみたいな便利な店残ってるわけねーだろ! どんだけ頑丈なんだよユニクロンがよー。 

 で、そこでケンシチロウがレジで

”いつもの頼む。肩に補強入りでな”

 とか1万円ヒラヒラやってるわけねーだろ!」

 桃花は射を再開した。

「だいたいバイクどころかお前、あの顔にアンコつまってるアイツ見てみろアイツ。そうそうあのパン工場で生まれた丸顔のな。アンパン(マン)。あれなんてお前、乗り物どころか顔だよ顔。バイクどころの話じゃねーよ。顔がバインバイン入れ替わってんじゃねーかコラ!!」

 何故かここだけヒゴローは声援をもらった。

「しかも雨に濡れたらすぐに

”顔が濡れて力がでないだっちゃ”

 とかなぁ。お前のパトロールは雨天中止かと。世界平和は小学校の遠足ですかと思うわけですよ。あ、口調間違え」

 仲間(バカ)にまた一発もらった。

「で、とにかくそんな簡単な理由であのジョビーおじさんがだなぁ、

”新しい顔だよニューフェイスカミング”

 とか言ってな。顔投げたらダルマ落としみたいにバチコンって入れ替わって。良く考えたらあれ斬新過ぎだろ、なぁ。気が向いたら自分の顔ムシって”おたべ”っとかなぁ。テイスト変えたらむしろホラーだろ。ハソニバルだろ。羊達の沈没だろ。ジグソーもびっくりだろ。放送枠深夜のレベルだろ。月曜のな。うん。知らんけど。まぁ、何が言いたいのか俺にも良く分からなくなったけどなぁ。とにかく」

「もし」

「小説はあまり細かいこと気にせず楽し」

「もし」

「んだよウッセーな」

 と彼が振り返るとそこには100万ドルの笑顔でマリサがテールの片方を払って

「陸上部のグランドをよくもバイクで荒らしてくれましたわね? 相応の覚悟はおあり?」


 ミユキが今、親友であるアヤと白のテーブルを挟んで談笑している場所は学園から少し離れたドリングバーの店だ。

 そこで桜アイスを楽しんだ二人は今、飲み物を片手にまったりと時間を過ごしていた。

「にしても、ユキたんってほんといつも着物よね?」

 とアヤがメガネの奥の目をマジマジと向ければ

「確かにそうね。私が洋服着るって制服くらいだと思うな~」

 と肩肘つきながらストロベリーシェイクのストローを咥えているミユキは、赤の着物に薄桃色の帯を締めていた。

「うちの神社で手伝いしてるときも小袖に緋袴だしね。寝巻きだって浴衣だし」

 白の小袖に緋袴は典型的な巫女衣装だ。アヤは腕組みしながら

「生徒会長に生活指導員に巫女ね~。おまけに日本刀装備でお姉様キャラ。属性過多なような気もするわ」

「何の話よアヤ?」

「それにネコミミにシッポとなるともはやカオス論的な概念がフフフ」

「だから何の話よ!?」

「んんん。明後日は始業式だなって」

「大嘘でしょそれ」

 ミユキは突っ込みながら空になったシェイクの容器を手にして

「それじゃぁ50本目いっときますか」

「突っ込みたい! すっごく突っ込みたくてかゆい!」

 ニコニコ立ち上がるミユキに思わずアヤが背中を掻いた。ちなみに店員はちょっと涙目だった。


「ただいま~。いや~ミキさん壮絶に可愛くなっててお兄さんビックリだよ~」

 と家の扉を開ければ玄関ではエプロン姿の可愛いツインテールが100万ドルの笑顔で

「おかえりなさいアナタ。お風呂にする? ご飯にする? それともわ」

「すいません間違いました」

 おじぎして退室。やれやれ妖怪の巣を自宅に間違えるなんてらしくないな京太郎君。溜息。

 しかしながらやたら手に馴染んだこのドアノブや家の外観を見る限りやはり自宅には間違いないようだ。

 首を傾げてもう一度オープン。そこにはやっぱり愛くるしい笑みを浮かべるエプロン姿の破壊神@幼馴染が

「おかえりなさい。あ・な・た。お風呂にする? ご飯にする? それとも」

「チェンジで」

 ”ゴス”

「生まれてきてゴメンなさい」

 そしてその隣に可愛い義妹がニパーと現れて

「兄さん帰ってたんですね。おかえりなさ~い」

 

 三人の夕食。言葉を慎重に選びながら俺は

”いつのまにそしてなぜ我が家に妖怪が住み着いたのか”を尋ねた。

「夫婦だからですわ」

「いやいやお前には聞いてないよマリサ。なんでかなーミィちゃん?」

 右目に青あざ作ってる兄の質問にオロオロとしながら

「ご、ごめんなさい兄さん。実は私が姉さんにお願いしたんですマストビー」

 義妹の話をダイジェストに言うと、久しぶりにアオイちゃんと楽しくかつ健やかにオネンネしたミィちゃんはまた一人で寝るのが寂しくなったのだそうだ。マル。

 だからミヤコシスターズの一人をオウチに召喚しようと携帯を取り出して選んでいたら

「お前に白羽の矢が立ったわけね」

 聞けばマリサは青い瞳を俺に向けながらニコニコとして

「ま、ミヤコちゃんのお願いなら断れないし。それに家がお隣だからね。ゴハンとか家事手伝ってあげるからキョウだって助かるでしょ?」

「いや俺はお前が島流しにした俺の親父とお袋を返してくれたら万事解決すると思うんだけど」

 目を細めればマリリンはウィンクして

「何言ってるの。少しくらいお父様とお母様に羽を休めてもらってもいいじゃない?」

「半年以上もフロリダでバカンスやるのは羽休めとは言わないよ」 

 そう突っ込んでもマリサは答えずにニコニコ。ミィちゃんまでニコニコ。やれやれだ。溜息。

 でもまぁ、実際にマリサの料理は文句のつけようがないくらい美味いんだよな。

 今日だって3品目増えてるし、こういうのが毎日とは言わなくても数日単位で食べられるなら

「マリサが家にいてくれると嬉しいと言えば嬉しいのかな~。ふむ」

 例えばこのサーモンマリネとかその辺のレストランより遥かに……って

「どうかなさいました?」

 沈黙に顔をあげれば赤面して目をパチクリとさせているツインテール。そして何かやたら嬉しそうなミィちゃん。何があったというのだ?

「「「……」」」

 何だろうこの妙に気恥ずかしい間は。腕組み。思案。答え出ず。とにかくお食事再開。

「また、一緒のクラスだと良いねキョウ」

 いまだ頬の赤いマリサがそんなことを呟く。そういえば明後日が始業式だから、そうか、もうすぐ2年生か。

 そうだな。俺も顔見知りと一緒のクラスの方が気楽でいい。ミィちゃんの用意してくれた紅茶に口をつけながら

「うん、俺もお前と一緒だと良いな」

 毎日お弁当の心配しなくてもいいしね。ていうかあんなにお昼が豪勢ならそれこそ

「その来年も、それ以後もマリサと一緒だと俺は嬉しいよ」

 本当にね。まぁこればっかは自分でどうこう……って

「どうかなさいました」

 顔がさっき以上に赤いしおまけに目がウルウルしてるし……。なんか今度はミィちゃんまで顔がちょっと赤い。

 もしかして……。俺はお箸を置いて頭を掻きながら

「悪い。なんか俺地雷踏んだっけ?」

 恐る恐る尋ねると、マリサは何が悲しかったのか少しだけ濡れてる自分の目元を指で拭いて

「バカねキョウは」

 でもそれから100万ドルでも買えないような笑顔で

「二人一緒なのは当たり前よ。それより今度からはミヤコちゃんも一緒になれたら、でしょ?」

 ああ。ハイハイ。そういうこと。なのだろうか? 妙に引っかかるものがあるものの、マリサはその晩すごく上機嫌だったし、ミィちゃんもずっと鼻歌歌ってたしOKなんだろう。

 さぁて明日は最後のお休みか。皆でどこかに行こうか? 三人で囲む暖かい夕食。なんとなく家庭的。ってアホか俺。


「よ~し210本目行ってくるねアヤ」

「ユキたんもう閉店閉店!」 

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