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3:あれ? ちょっとその役譲ったよね? いやちょマリ(ry

 ルーチェまでの道中、通りでとある姿を見つけた俺はヒロシの袖をグイと引っ張って噴水の陰に隠れた。

「な、どうしたキョウ」

 と当然の反応をしてるシロクマの口を塞ぐ。

「もう口では充分に注意しましたよ? これが最後です」

 優雅さの中に毒のような鋭さを忍ばせた声。これは間違いない。二人でそっと覗けば

「ミキさんじゃないか。何でココに」

 ルーチェの前、部活帰りにそのまま来たようで彼女はセーラー服姿のままだった。そして気だるそうにその真紅の瞳を細めて

「もう神条の名前を語るのは止めなさい? さもないと辛い目にあいますよ」

 やばいこれはキレる寸前だ。そしてその兆候なんかを全く知らないであろう彼女の前に立っている数人のチンピラは、ダラシなく着崩したセビロをこれ見よがしに見せながら

「この神条のバッジが見えないのかお嬢ちゃん? あんまり調子乗ってると」

 瞬間、彼の両足には強制的に第3関節が追加された。つまり折られたのだ。

 彼女の放ったそれは見た目に空手の下段回し蹴りと呼ばれるものだが、効能的にそれは人間業どころか離れ業ですらなかった。

 感じたことのない激痛に悲鳴をあげようとしたその口が今度は万力のような力で締め上げられる。

「辛いですよね?」

 抑揚のない声。

「私はウソが好きではありません。だから脅しやハッタリをかけるようなマネはしません。やると言う言葉はやるためのみに存在します」

 彼女は淡々と続けた。握力という物理的な縛り、恐怖という心理的な縛りで口は一言も発せない。 


  以前、ミユキ先輩は部活の帰りにミキさんについてこんな話をしてくれた。

「例えるならそうだな。練磨では決して超えることの出来ない天性の壁とか、あるいは型にハマらない我流ゆえの予測不可能性とか。そういうものがあるとしたらミキはそれら全てを備えた特別なやつだ」

 学園の坂を下りて正門に向かいながらさらに続けて

「しかしミキはその上で自己鍛錬を怠らず業に磨きをかけている。謙虚な天才は実に恐ろしいが、それ以上に恐ろしいものをミキは持ってるんだ。何か分るか?」

 首を傾げる俺にお姉様は

「純粋な”暴力”だ」

 そう答えた。

「人がどれだけ技を磨いて力を鍛えても人が人である限り人の域は出ない。あらゆる格闘技においてその王者が、例えナマケモノであっても虎やライオンに勝てない理由は何だ?」

「力の差ですか?」

 聞けば頷いて

「つまり、ミキが強いのはそういうことなんだ」

 ……。


 ミキさんは片手で大の大人を掲げながら

「返答次第ではこのまま頬骨を砕きます。いいですね?」

 さらに目を細め

「これ以上、神条の名を語るのを止めなさい。そして私の妹達とこの店に関わるのも止めなさい」

 ”ん?”と返事を促がすように首をかしげて

「イエスなら瞬き一つ。ノーなら瞬き二つ」

 そしてノーに備えているのか、ミキさんは空いた左手からクルミでも砕いたかのような音を発しながら拳を作った。結果は分りきっていた。


 10分後。何もせぬまま事件は解決。というかこれ以上俺達に出来ることはない。

 ということで俺とヒロシはミキさんが立ち去るまで背景の人と背景のクマになろうとしていたのだが

「こんなところで何をしてるんですか? キョウタロウ」

 ニッコリと見つかってしまった。名前を呼ばれていないヒロシはいまだ背景のシロクマに徹して木陰にて不動。

 俺は必死に言い訳を考えて

「ちょっと部活の後で小腹すいててさ、この辺りでアイスクリームでも買おうかなーなんて」

 と目を逸らしてるとツンと鼻を指で突かれて

「ウソはいけませんよ」

 やっぱりバレてましたか? 覗いてたの。ヒヤヒヤしてる俺にミキさんは穏やかな笑顔で

「久しぶりに私の料理でも食べたくなったんでしょ」

 フフっと艶っぽく微笑んだ。あーやばいドキっと来るんだよなミキさんの笑顔って。でもすごい誤解してるんだけど今はこれがありがたい。

「ええそうなんです。だから良かったら今晩うちに来てくれないかな? ミィちゃん喜ぶと思うし」

 という流れに持っていくことに成功。彼女は頷いて

「それでは可愛い妹のために、”姉々(ネェネェ)”が腕を振るいましょうか」

 うまくいったぞ。そうそう。ちなみに姉々(ネェネェ)というのはミィちゃんがミキさんを呼ぶときの呼称ね。

「ではまず水飴とクラッシュキャンディを調達し」

「なくて結構です」

 ここはいくら彼女がションボリとしても譲るわけにはいかなかった。

 そこでかなりクリアな悪寒がしたので振り返ると鬼の形相というか鬼すらも逃げ出さんばかりのマリリンが俺達に気付かず横を通過してヒロシの隠れているところで

「このど変態!! 私のフィアンセに何てマネを!!」

 渾身の破城槌が炸裂して地響き。そして奇声。

「や、八雲さんなんかひどいゴひゃぶ!」

「誤解もへったくれもありませんわ! この(ワタクシ)ですらまだ数回しか見たことないっていうのによくもマグロだの寝技だの受けだの攻めだのこのドヘンタイグマ何さらして(ry」

 なんかとんでもないこと言いながらツインテールの破壊神が木陰でリミットブレイク連発してるんですけど。

 俺はその様子を冷や汗たらたらミキさんキョトンで見守りながら

「あれはマリサでしょうか? 何だか妙に荒れてるような」

「いえいえツインテールの空似です」

「それにあそこで手を伸ばして助けを求めてるボロ雑巾はまるで京太郎のクラスの委員長の」

「いえいえクマの空似です。ささ行きましょう行きましょう」

 自滅型救世主ヒロシ。今日も健在。でも無意味な犠牲のような気もする。


 ミキさんと共に家に到着。インターフォン押せば扉を開けて出てきたのは

「「おかえりなさい」」

 ミィちゃんとアオイちゃんだった。そして義妹はミキさんを見つけるなり満面の笑みで

「姉々遊びに来てくれたんですか!」

 飛び込んでいった。それをしっかり受け止めて

「はい。今日は姉々が御馳走を作りますよ。楽しみにしてて下さいね」

 ミキさんもミィちゃんの頭を撫でながらすごく上機嫌だった。ほんと、この人は怒ってるときとそうでないときは別人なんだよな。

 俺は一方でなんかお人形さん取られたような顔しつつ指くわえてるアオイちゃんの方を向いて

「アオイちゃん。お手」

 手を差し出せばキョトンとしながらも

「わん?」

 ポンと手を置いてきた。ノリが宜しい。そして今日の戦利品をその手に握らせた。さっそく確認する後輩。

「鍵……。ですか?」

「いえす。ついてるタグを見てみそ」

 もちろんそこに書かれているのは”LUCE(ルーチェ)”。アオイちゃんは顔をあげて

「こ、これ! いったいどうして……」

 ショックなのか嬉しいのか感極まってその瞳をユラユラさせてるアオイちゃんに

「ま、今日はもう遅いからウチでもう一泊だけしていきなよ。でも明日からは安心してそこで寝泊りしたら良いと思うよ」

 言えばミキさんがミィちゃんの頭を撫でながら

「念のため。明日は私も付き添うことにします。桃花(イモウト)のバイト先というのも気になってましたし」

 これは心強い。すごく。俺はまだショック状態のアオイちゃんに向けてクールに

「お礼は出世払いでよろしく。俺お菓子大好きだから」

 親指を立てた。つっても何もしてないけどね俺。とか言おうとしたら急に胸に飛び込んできてアオイちゃんが

「ありがとうございます先輩!!」

 おお何と言う柔らかさと温かさと心地よさか素晴らしいですね。

「ってアオイちゃんちょ!!」

「キョウタロウ」

 言われて目を向ければミキさんがウィンク。

”そういうとき先輩は突き放すもんじゃないですよ? 特に相手が女の子なら”

 でも、流石にその。よし。でもそういう大義名分なら。ひとまず頭をよしよしと撫でて

「まぁその。良かったね。うん」

 だめだまともなセリフが言えない。しかしもう本当に最近の子は発育が宜しいといいますかとても後輩とは思えないですねアオイちゃん。

 もうそのバストとかバストとかうちの幼馴染のマリリンの絶壁プラスとは大違いですよほんとマリサの1・5倍というかマリサの1.75倍というか

「マリサ違うんだ。俺の話を聞いて欲しい」

 いつの間にか玄関前で殺意の波動をまとっているツインテールの破壊神。そういえばこの子お隣同士だったねハハハ。

 いやもう自滅型救世主の役柄は全部ヒロシにお譲りしたはずなんですけどねホント。 

 俺はワナワナしてる幼馴染にクールに微笑みながら

「マリリン話し合いの場を持つ気は……」

「節操なしかオノレはー!!!」

 ゲージ3消費技”絶・破城槌(ガード不能技)”をモロに喰らったキョウタロウは意識とともにオウチの中に吹っ飛ばされました。はいはいお約束お約束。でも一応ハッピーエンドなんだろうねこれ。

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